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メインエピソード1【汚名返上、名誉挽回、雪冤晴恥】⑤

不明点をまとめたあと、俺は酷い頭痛を抱えながら、場末の酒場に移動する。答え合わせの一つを行うためだ。

酒場は喧騒としており、そこかしこで杯を交わせる酔客が見える。

忙しそうに皿と杯を運び回る給仕の娘を捕まえる。給仕の娘は眉間に皺を寄せて振り向くが、俺だと気付くと苦笑いに変わる。

「レオンさん、あたしゃ忙しんだけど。石パンならカウンターに言って直接頼んでくれないかい?」

そういうと、周囲は途端に笑い出す。

「おいおい、そりゃ可哀想だろう!」

「レオンだって、石パン以外を食べることはあるさ!」

「あのレオンが?ないない」

酔っ払いの戯言を無視し、給仕の娘にそっと耳打ちする。

給仕の娘は一瞬真剣な表情を浮かべるが、すぐに笑みに切替え、奥の席に視線を向けた。

俺は奥の席に向かうと、座って杯を傾けていた男に声をかける。

「お待たせして、申し訳ありません。経理課主任補佐のレオン・クラークと申します」

待たせていた相手は、別の部下の一人にアポイントメントを取らせておいた男だった。

男は睨むような、しかし僅かな鬱屈を込めた視線をこちらに向けてくる。

「わざわざ呼び出して、何のようだい。まぁこちらはおたくらと違って『物置』なんで、暇なんですがね」

自部署を『物置』と言って自嘲する男は、資材管理部の主任である。

部下のツテを使い、部下の同僚が所属している、資材管理部の役職者と話をする機会を設けてもらっていた。

資材管理部の主業務は以下となる。

冒険者から納品された素材などを点検・管理し、指定業者に受け渡すこと。

冒険者から要求がある回復ポーションなどの各種ポーションや、簡易携帯糧食などの管理・販売をすること。

この男が今回の件について絡んでいるかを見極めて、不明点の裏取りを行い、答え合わせをする必要がある。

落ち着け。焦るな。選択を誤る訳には行かない。

俺は慎重に言葉を選び、男と対峙した。


「そっちの言い分はわかった。結論から言おう。俺は関わって居ない。だが、俺の上はほぼ黒だ」

男は悔しさを交えた口調で吐き出す。

「資材管理部が何故『物置』って言われてるか、お前なら知ってるよな。ここは物を置くだけじゃなく、ギルド、いや、自分たちの都合の悪い者たちを押し込めておく場所にされてるんだよ」

男は俯きながら、とつとつと話し出す。

「素材の横流しや冒険者からの納品物の数量改竄なんか、ちょいちょいヤッてるみたいだぜ。素材でやってりゃ、回復ポーションだってやってるだろ」

俺は裏取り出来た喜びもあったが、男の態度が解せなかった。この悔しさが滲む態度は何だ?

「真面目に仕事してりゃ、違和感に気付くさ。それを上に問い質せば、諭され握りつぶされる。もっと上に告発しようとすれば、脅迫、恫喝、なんでもござれ。ゆっくり腐っていくしかない現状に燻る毎日だよ」

そこまで言って、瞼を閉じる。

「捨て身でギルド長まで告発したとしても、ギルド長が大ナタを振るって膿を出し切れるとは期待出来ない。俺にも家族は居るからな。クビになって収入を絶たれる訳には行かないんだよ」

悔し涙を浮かべて、男は杯を傾ける。

今回の件は、経理課だけのことじゃなかった。俺が思うより根が深いようだ。だが、だからと言って俺が諦める理由にはならない。

俺は男に向かって、静かに問い掛ける。

「今回の件、私は引く気はありません。そもそも向こうは切り捨てる気で動いていますからね。逆に考えれば。出し切れる訳ではありませんが、ある程度の膿を出してしまう機会でもあります」

男は瞼を開き、視線を俺に合わせる。

「私にも大切なものがあります。ありもしない罪を着せられて、職を失うことになれば。収入を失うだけでは無く、私の誇りも失うことになります」

拳を握り、力を込める。

「私は、経理課です。冒険者たちに『事務屋』と(さげす)まれることもあります。ですが、それでも公正な判断を導き出すために、数字と戦っています。」

視線を合わせて来た男に、俺も真っ直ぐ視線を合わす。負ける訳には行かない。俺自身の誇りのためにも。信頼を寄せてくれた、課内の仲間たちのためにも。何より、俺が守ると誓った、何よりも大切な者たちのためにも。

男は気圧されたのか、喉を数回鳴らす。

「…勝算はあるのか?意地と勢いだけなら、潰されて終わりだぞ」

男は探る視線を隠そうとせずに問い掛けてくる。

「現時点まで、と言う条件ならば、七割程」

俺はそういうと、会議室に保管されていた資料の不明点をまとめたメモを見せた。

男は黙ってメモを見る。ニ、三回瞬きをすると、目をこすり、もう一度見返した。

「おい、これはなんだ。俺が把握している黒と思われる出来事が網羅されてるぞ。何日かけてこれを纏めたんだ。いや、それは今は関係無いか…」

男はメモを返し、ぶつぶつと呟く。

「これだけ揃っていればいけるか?いや、これは不正の状況証拠で、指示した人間やリターンを受けた人間が明確にならない限り、逃げられてしまう…」

男は、俺に他にネタは無いのかと興奮気味で問いかけてくる。長い月日により、(しぼ)んでいた使命感や、上に対する反骨心、そして折れそうだった正義感が蘇ってきたのであろう。

「この資料に加えて、資材管理課の資料も確認させてもらいたいと思います」

俺は静かに、だが男の期待に応えるかのように、力強く、己の考えを口にする。

「奴らは証拠を捏造しています。このメモの元になっている資料だけ見れば、数字は正しく、私が横領したように映るでしょう」

男の目を見続けたまま、続ける。

「しかし、奴らの仕掛けた捏造には穴がある。そもそも、在庫数や納品物の管理は現時点の数量だけを管理すればいい訳じゃない。」

俺は瞳の色を緑に変える。

「いつ、だれが、何の用途で、どれくらいの価格で、どれくらいの数量で、受け取ったのか、受け渡したか。それにより、在庫がどれくらいになっているかを管理する。私が受け取った、そして受け渡したと改竄しているが、逆に言えばそこまでしか改竄出来ていない」

日付や、対象者まで改竄しようとすれば、呆気なく捏造と判明してしまうから。

「対象者のデータを確認させてもらいたいです。アタリをつけた日付より、対象者を絞り込み、裏取りします。恐らく冒険者で常習でしょう。やらない人間は一生やりませんが、やる人間は欲に負けた人間です。そして、欲に負けた人間は、一度味を占めれば、二回三回と繰り返します。それに、管理側であるギルドの人間に唆されたとあれば、リスクが低くリターンが高いと思い込み、疑うことはしなかったでしょう」

男は腕組みをして、考えを整理する素振りを見せる。俺はしばらく待った後、さらに続ける。

「資材管理部でのデータでは、冒険者に対する支給物の管理と、冒険者からの納品物の管理も行っていますよね?それを、確認させて下さい」

男は覚悟を決めて、頷いた。

「わかった。明日、朝イチで対応しよう。しかし、こんなことを言っては何だが、冒険者はギルド側からの提案を受けただけだ、と言い逃れをすると思うが?口裏は勿論合わせていると思うぞ?」

男は懸念したことを述べる。勿論そこは考慮済みだ。

「口裏を合わせていても、不正の証拠となる受け取り、受け渡しの事実が判明すれば良いんですよ。あるべき姿は全てを公正に期す、ですが、今回は残念ながら時間がありません。まずは管理課の三人、そして資材管理課において黒と思われる人物に絞ります」

男は俺の言葉を聞くと、頷き立ち上がる。そして、俺も立ち上がり、固く手を取り合う。

やろう。どちらともなく、言葉にする。

時間は残り僅かだが、心強い味方が出来た。

俺は襲い掛かってくる強い頭痛に、歯を食いしばって耐えながら、闘志を滾らせていた。

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