メインエピソード2【盤上の改革、監査チーム発足】⑧
「レオンさん、助力は惜しまないが、期限が三日、実質あと二日しかない中で、どうやって対応するつもりだ?」
協力者である資材管理部のビリーの元に向かった俺は、当人を捕まえて概要を掻い摘んで説明した。
当然ビリーは困惑するが、今は一分一秒が惜しい。浮かんでいるアイディアと、高利貸しのマルコに対しても協力を願い出ている旨を伝える。
ビリーは目を見開き、体を強張らせる。俺が取った行動が、理解の範疇を超えていたからであろう。
「レオンさん、貴方は何故そこまで…」
続けようとするビリーに手のひらを向け、言葉を遮る。そして胸の内を吐露する。
「私は、公正でありたいのです。かけたコストに対し、正しくリターンが行われる環境が、 あるべき姿であると考えます」
「正論だけで物事が成り立つべき、という青臭い理想を振りかざすつもりはありませんが、他人の成果を掠め取って己の成果にする、ということは納得出来ませんし、理解もしたくありません」
「自身の行動が報われず、失意のままに冒険者ギルドを去る人達を、何人も見送っています。 怠慢や傲慢により去った者もいましたが、中には運悪く、という者もいたことでしょう」
「その、運悪く冒険者ギルドを去った者の中で、ギルド内の不正に巻き込まれた者はどれくらい居たのでしょうか?」
「努力した者がすべて報われるとは限りません。しかし、その努力を踏みにじろうとすることを、許すことは出来ません。私は、私の矜持を持って、正当な努力に対し、公正な報いを行いたいと思います。今回の件が、第一歩です」
「私だけの問題ではありません。ギルド職員になり給与を得る者、冒険者となり報酬を得る者。今居る者達だけではなく、後に続く者達を含めた全員が、公正に報われる為に、私は、 今、拭うのです」
「…以前、私にも大切なものがある、と話したと思います。私は、私の大切な彼ら、彼女らの行く先に、希望を見せたいのです。結果を出し得る努力ならば、必ず報われるという希望を」
長く、長く語り終えた。
ビリーは、黙って聞いてくれていた。自身にも響くことがあったのだろう。資材管理部に左遷され、燻っていた毎日を思い出していたのだろうか。
「熱意は受け取った。俺は何をすれば良い?」
ビリーの瞳に迷いは無かった。強張っていた身体には気力が漲り、抱いていた不安や恐れを吹き飛ばしていた。
「貴方にとって大切なものがあるのと同じように、俺にも大切なものがあるからな」
ビリーと向き合い、軽く拳をぶつけ合う。そして、どちらともなく吹き出し合うのだった。
「まずは不正が行われていた、という帳簿上の不明点を洗い出す必要があります。先日における、私に対する冤罪の件もありますが、不正は長期に渡って行われている認識です。洗い出した不明点より、不正内容の傾向を見極め、別件で依頼している証拠と突き付け合いましょう」
こちらに引き込むターゲットとなるのは、ビリーの上司となる資材管理部の部長だ。
彼がクロであることは、以前の調査時にほぼ裏付けられている。
しかし、当時は時間が無く、彼自身が関与していたという明確な資料を見出すことが出来なかった。
今回も、直接的な関与を示す資料の発見は、恐らく難しいだろう。
だが、それで良い。直接的な関与が無いということは、逆に言えば資材管理部の部長が同じ穴の狢か、弱みを握った山羊に指示していることになる。
資材管理部の資料室にて、俺は瞳を青に染め、不明点がある資料の対応者を列記していく。
ビリーは前もってアタリをつけておいてくれた資料を運んでくれているが、運んだ資料を貪るように読み進め、紙に書き出す俺を見て唖然としていた。
「アタリをつけていた資料はこれで全部だ。漁ればまだ見つかるかもしれないが…」
「いえ、十分です。全点検は、監査チームが正式発足してからにしましょう」
力不足を謝ろうとするビリーを遮り、石パンを齧りながら、用意された資料を読み進める。
担当者氏名の書き出しは、用紙数枚にも及ぶことになった。資材管理部において、ピックアップしたものだけで、不明点が残る資料が多数ある。
資材管理部全体、ひいてはギルド全体を考えればどれほどになるのか、頭が痛くなる。
用意された資料の確認が済み、瞳を黒に戻して時刻を確認すると、既に定時を回っていた。
「今日は此処までにしましょう。明日、朝イチで書き出した担当者氏名より、傾向を見極めます。ビリーさんは通常業務をこなしながら、資料室に他の者が立ち入らないよう、気を配ってください。それと、今日の作業超過分は、しっかりと残業申請しておいて下さいね」
呆気に取られるビリーを他所に、俺は次の目的地へと足早に向かう。今は一分一秒が惜しいのだから。




