メインエピソード2【盤上の改革、監査チーム発足】⑦
自席に戻った俺は、石パンを大きく噛み千切り、瞳を青に染め上げ、カロリーコンバータ・ライトを起動する。
高速思考・演算により、僅かな離席時間の間に積み上げられた書類を捌きながら、先の部長との面談内容を纏める。
監査チーム発足に賛同しなかった3人の部長のうち、誰をこちら側に引き込むか。期限まで三日しかない。手札が多いに越したことはないが、今は一つに絞るべきだろう。
賛同しなかった3人の部長が所属する部署は、依頼管理部、冒険者管理部、そして資材管理部となる。
まず、依頼管理部。
業務内容は、依頼人からの依頼受付、難易度ランクと報酬額の設定、依頼の掲示・仲介、達成報告の受理、経理部への報酬支払いの指示などになる。
考えられる不正は、「報酬操作」だろう。 依頼人から受け取った報酬の一部を水増し/水増しを隠蔽し、差額を着服する。難易度ランクを意図的に高く/低く設定し、特定の冒険者に報奨金を不当に多く流す、またはキックバックを受け取る、が挙げられるだろう。
次に冒険者管理部。
業務内容は、冒険者の登録・ランク審査・身分証発行、活動実績の記録、規約違反者の懲罰審議、パーティー斡旋などになる。
考えられる不正は、「資格の売買」だろう。ランクアップ試験の結果を不正に操作し、賄賂と引き換えに実力不足の冒険者に上級ランクを付与する。または、特定の冒険者の不都合な記録を抹消し、有利に働くよう計らう、が挙げられるだろう。
最後に資材管理部
業務内容は、冒険者からの採取・討伐素材の鑑定と査定、納品された素材・アイテムの在庫管理、市場への売却、ポーションや装備品などの消耗品の仕入れなどになる。
考えられる不正は、「鑑定操作・横流し」だろう。
冒険者が納品した高価な素材の鑑定結果を意図的に低く査定し、安く買い叩く。その差額分の利益を外部に売却して着服する。または、在庫から希少な素材を盗み出し、裏ルートで密売する、が挙げられるだろう。
どの部署も、こちら側に引き入れるのには、一筋縄ではいかない。
石パンをもう一齧りし、案を練ろうとしたところで、部下より声がかけられたため、一旦思考を中断する。
「レオン主任、316番の件で、お客様が会議室でお待ちになっております」
もう来たか。伝えてくれた部下に礼を言い、確認・処理済みとなった書類と、記載不備を指摘し、再提出が必要な書類を部下に渡す。
そして、いずれかの部長をこちら側に引き入れるための協力者にアポイントメントを取るよう、指示を出しておく。
神妙な顔で頷いた部下の背中を見送り、引き出しよりあるものを取り出し、俺は316番を済ませるため、会議室へ向かっていった。
「今月分、確かに受け取りました。毎度有難うございます」
316番の件で、会議室で待っていた男、高利貸しのマルコは袋に収められた金額を確認すると、ニコニコと笑顔を浮かべる。
その笑顔に対し、俺は仏頂面を浮かべる。仕方ないこと、納得済みのこととはいえ、やはり給与の大半が右から左に流れていくことは気持ち良いものではない。
そんな俺の内心を見透かしたのか、マルコはニコニコ顔のまま問い掛けてくる。
「おや、どうなさいましたか?主任に昇格し、給与も増えたのでは?返済も以前よりは楽になっているとお見受けしますが?」
「お困りごとがございますか? 当方で何か見繕いましょうか?もちろん代金は頂きますが」
「あぁ、レオンさんの場合は、元金に上乗せさせていただきますので、利息返済額を上乗せするだけでも良いですよ」
しれっと借金を増やそうとするマルコの口上に、やや眉を認める。
ニコニコ顔の裏側は、獲物を生かさず殺さず、搾取し続けようとする狡猾な顔であることを忘れてはいけない。
だが、マルコが有能であることは実証済みだ。
孤児院の債権を一本化させようとした際、渋る同業者に有無を言わせず合意させたことや、 孤児院復興のための各種資材を瞬く間に調達することなど、計り知れない。
次回の定例会議までの期限が短い中、正攻法で進めようとした場合、間に合わない公算が大きい。こちら側に引き込もうとする話を一つに絞るとしても、不正箇所の洗い出しと、対象となる不正の証拠を掴むまでに、ある程度の時間がかかることは目に見えている。
協力者の能力を見込んでいるとはいえ、期限の三日間で全てを揃えることは難しいであろう。だが、目の前の男、マルコに協力を依頼すれば?
マルコに直接申し込んでいなくても、同業者に対して申し込んでいたとすれば?
横の繋がりで何か分かるのではないか?
瞳を青に染め、メリットとデメリットを素早く計算する。
メリットとしては、こちらが探し出すよりも早く確実に不正の痕跡を確保することが出来ること。
デメリットとしては、依頼する際の費用がかかるということ。
…あぁ、全で解決することか。自分の考えに自嘲する。
経費として精算出来るのか、それともポケットマネーとして処理すべきなのか。余計な所にも考えが及びそうになったため、一度頭を振って考えを確める。
一つは、俺と協力者で愚直に証拠集めをする。
もう一つは、時間短縮を狙い、証拠集めをマルコに協力依頼する。
時間と全、どちらを取るか、ということだ。本来ならばコストや時間をかけずにパフォーマンスを得る手段を考えるべきなのだが、今回ばかりは個人で賄える内容ではない。
俺は大きく溜息を吐き、マルコに概要を説明し、協力依頼を切り出した。
マルコはいったん真顔になると、何かを考えこむように口元に手を添えて、何かを呟く。おそらく依頼内容に対し、十分な成果を挙げられるかを計算しているのであろう。
しばらくすると、先までのニコニコを上回る笑顔を浮かべ、合意を示すように、手を差し伸べてきた。
手を握り返すことで、借金が増えることが確定するが、背に腹は代えられない。 内心の言慮を面に出さないよう、必死に作り笑いを浮かべて握手をするのだった。
要件は済んだと席を立つマルコを見送り、瞳の色を黒に戻す。
証拠集めはマルコに任せるとして、協力者と不正箇所を洗い出す必要があるからだ。本来は不正随所に対し、裏付けとなる証拠を集めるべきとなるが、悠長なことをしている時間が無い。
マルコには証拠集め、つまり引き込もうとする部長に対する借金の有無や、不明献金などの履歴を洗い出してもらう。
その履歴の中で、洗い出そうとしている不正が一つでも結び付けば、不正の証拠となり、 こちら側へと引き込む材料に成り得る。逆に言えば、不正を見つけられなければ、 履歴が有っても証拠には成り得ない。
あとは時間との勝負だ。不正を洗い出すため、協力者の元へと足早に向かうのだった。




