メインエピソード2【盤上の改革、監査チーム発足】⑤
史料編纂室を出た俺は、経理課に戻り自席で考えを巡らせていた。
元主任には俺と接触があったことは、口外しないよう言い含めておいた。元主任も就労斡旋される立場なのだから、弁えているだろう。
元係長、元課長に伝わり、行政出向派に対して漏洩するとやっかいなことになりそうだからな。
元係長と元課長は行政出向派で、元主任は当地出身派だという。元主任も、元係長たちからの誘惑に乗ってしまい、ズルズルと不正を続けてしまっていたらしい。
史料編纂室を後にしようとする俺に対し、向けられた言葉が頭の中で蘇る。
「謝って済む問題ではないが、謝らせてほしい。数字を扱う人間が行うことではなかった。お前のように、毅然とした態度で断るべきだった。迷惑をかけて済まなかった」
俺は元主任の言葉に返事をせず、史料編纂室を離れた。元主任の行動を許すことは出来ないが、一つの区切りとして心の整理をすることが出来た。
石バンを齧り、瞳を青に染めてカロリーコンバータ・ライトを起動する。そして元主任から得た情報を精査する。
監査により不正が明るみになることで、行政出向派に対してダメージが入る。
そのダメージにより、自身たちが行政に帰任するタイミングが遅くなる、もしくは出来なくなる。
行政出向派で影響を受ける者が大多数に及ぶ為、監査を行わない、または範囲を狭めさせて御座なりにさせる。
ギルド長、部長は当地出身派だが、行政出向派の勢力が当地出身派よりも大きいため、業務ボイコットなどを盾に、草案を骨抜きにせざるを得なかった。
これが裏付けにより明らかになった骨抜きの真相だ。
冒険者ギルドの開に踏み込んでしまった。これは、もう監査チーム発足で収まる話ではないのではないか?そうなると監査チーム発足は白紙?買ったボーナスはどうなる?あれは労として貰ったのだから、白紙になっても返却義務は無い?代替業務を過剰に割り当てられる?
思考が横道に入り、堂々巡りしそうな中で、ふと閃くものがあった。
そも、監査をさせないのは、不正が明るみにでることで自分たちがダメージを負うから。そのダメージを未然に防ぐために、業務ボイコットを盾に監査を行わせないようにする。
理屈としては正しい。だが、逆に考えれば。
業務ボイコットをされても、業務が回るような体制を作り込んでしまえば?多人数で行っていた業務を少人数で回るように業務改善し、業務ボイコットされても影響の出ないようにすれば?
行政出向流の強みは多数派ということになる。少数派で業務が回るような仕組みになれば、 ボイコットにより自身たちへの給与支払いが行われなくなるようになるため、行政出向派でも当地出身派に協力してくる者も出てくるだろう。
そのうえで、監査チームが活動することが出来れば、不正を防止し、健全な運営が行えるようになるのではないか?
いや、危険だ。行政出向派が当地出身派に協力するとは限らないし、協力する状況になったとしても、その時期が読めない。それに加えて、協力してもらうようになるまでの当地出身派の労働コストが高くなりすぎる。
少人数で業務を回るよう、業務改善を行ったとしても、人的資源は限られている。業務過多により、過労で倒れることになっては意味が無い。
では、当地出身派となる人材を大量登用するべきか?いや、それも難しい。大量登用することにより、当地出身派と行政出向派の人数の壁は乗り越えることが出来るが、登用人材に対する業務導入教育の初期コストと、業務慣熟までのランニングコストが膨大になる。さらに行政出向派との間に、排斥の雰囲気を感じさせ、不要な軋轢が生じることになる。
認識を誤るな。行政出向派が悪いのではなく、行政出向派内で横行している不正が悪いのだ。
視点を変えよう。敵を作るのではなく、歩み寄りを見せるのは?
監査チームの役割は何か?それは業務プロセスが適切に機能しているかと、不正が行われていない。つまりは財政が正確かを監視することになる。
今回の監査では、業務プロセスが適切に機能出来ているかを目的とし、不備(という名の下正)があったとしても、改善指導で済ませるようにすればどうか?改善指導に従わない場合は、厳粛な罰則を設けるとして。
過去の不備については目を瞑るが、今後は許さないぞ、という言わば歩み寄りを行政出向派に対して示す。向こうの言い分も聞くことになるので、行政出向派の面子も立つことになる。
過去の不正に目を瞑ることで、罰則徴収によるマイナス分の補填は出来ないが、今後発生し得るかもしれないマイナス分を防止出来るようになるだけでも、ギルドとしてはプラス面が大きくなるだろう。
行政出向派は、今後行政側に早期帰任が出来なくなるが、もともと一定期間を労務することで帰任できるのだから、そこは諦めてもらおう。賄賂ありきの早期帰任など、もともと不正なのだから。
石バンを再度齧り、思いついた内容を報告書として纏め上げる。
少し、ほんの少しだが、監査チーム発足の兆しが見えた。
咀嚼した石パンは、いつもより少しだけ柔らかい気がした。




