表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/23

サブエピソード1【足長レオンの孤児院奮闘記1:オンボロ孤児院、兵站(家計)から立て直します】②

レオンは石パンを齧り、青の瞳のまま、借金の貸元整理、利息計算を始めます。

貸元は複数有り、それぞれで利息や返済期日が異なります。

悔しいことに、借用書に記載されている利率はとても大きいのですが、違法にはなっておらず、レオンは僅かに顔を歪めます。

院長先生が返済に追われている利息は膨大で、元金返済の目処がついておりません。

行政の補助が減らされて収入が減る一方、利息返済による支出が増えていれば、食費や被服費、修繕費には手が回らないのは明らかです。

借用書の中には、返済が出来ないと判断された場合、孤児院の敷地を貰い受ける旨の記述が記載されているものもありました。

石パンを咀嚼し、アイディアを練ります。

単純に完済しようとも、原資が無い為、出来ません。

何かを担保にして、返済を待つようにするにも、価値ある担保が無い為、出来ません。

ならば、と他の案を考えようとした際、比較的利息の利率が低かった借用書に目が留まりました。

利率が低い為、借用額も低かったのですが、注目したのは貸元の名前でした。

その貸元は、レオンも飲食費の借金をしている高利貸しのマルコでした。

レオンは閃きます。と同時に青褪めます。

思い浮かんだアイディアが通れば、返済状況は大きく好転します。

その代わり、とてつもないリスクを負うことも目に見えていたからです。

レオンは数回かぶりを振ります。論理的では無いと。自分のアイディアを必死に否定しようとします。

しかし、そのアイディア以外に、現実的に孤児院を救うことは出来ない、ということも否定出来ません。

レオンは瞼を閉じ、再度石パンを齧ります。

齧った石パンをゆっくりと咀嚼し、飲み込み、思考を巡らせます。

そして、瞼を開いた時、レオンの瞳は緑に染まっていました。

外出する旨をレイチェルに伝えると、レオンは借用書に記載された住所に向かいました。


外出先は、裏通りにある怪しげなお店でした。

レオンは大きく鼻息を鳴らし、気合いを入れるとお店に入りました。

店の中には、煙草を吹かして、書類を眺める男が見えます。

「おや、レオンさん。今月の飲食費の返済はまだ先だよ。わざわざ前払いに来たのかい?それとも、まさか全額返済かい?」

眺めていた書類から目を離し、吹かしていた煙草を灰皿に収め、ニコニコ顔を浮かべながら、思ってもいないであろうことを並べます。

そうです。この男こそが、レオンも借金している高利貸しのマルコだったのです。

レオンは別件であり、マルコが持つ、別の借金の件であることを伝えます。

そして、極力表情を表さないよう、しかし瞳の色を黒から青に変化させ、身振り手振りを加えながら自身の返済アイディアを伝えます。

「ふぅむ…債務の一本化ねぇ…」

そうです。レオンのアイディアとは、複数の借金を一本化し、比較的利率が低い貸元に纏め上げようとすることでした。

皮肉にも、一番利率が低い貸主が、レオンの飲食費の借金に対する貸主だったのでした。

このことにより、レオン側のメリットとして、

貸主が減ることにより、回収者の来訪が減り、子供達に対する精神的な負荷が減ること。

利率が低いことにより返済利息も減り、元金を返しやすく出来ること、を伝えました。

貸主であるマルコ側のメリットとして、

今までよりも遥かに大きな利息が入ってくる見込みがあること、を伝えました。

「なるほど…こりゃあ…」

マルコは何度も顎をさすり、考えます。

債務を一本化することで、マルコに対する利息は増えますが、その分帰って来ない場合のリスクが大きいからです。

孤児院が担保になっているからとはいえ、今の段階では活用する為の用途を見出すことが出来ていませんでした。

マルコはしばらく黙り込み、

「レオンさん、ちょっと待っていてくださいな」

そう言うと店の奥に消えていきました。

レオンは逸る気持ちを抑え、また石パンを少し齧りました。

どれくらい経ったでしょう。薄暗い店の中では、時間の感覚が曖昧になります。

「お待たせしましたねレオンさん。債務の一本化についてですが、了承するにはこちらからも条件を出させてください」

店の奥からマルコが現れ、レオンに条件を伝えました。

マルコの声は僅かに掠れ、まるで誰かと話をした直後のようでした。

曰く、借主を院長先生からレオンに変更すること。

曰く、今ある飲食の借金に、孤児院の借金を上乗せするが、利率は飲食の借金と同率にすること。

曰く、給料日における支出は、本借金を最優先とすること。

曰く、今後類似する用途の借金が必要な場合は、本借金に上乗せすること。

レオンの無表情の仮面に亀裂が走ります。

一つ目、三つ目、四つ目の条件はまだ分かります。レオンも、それは当然という覚悟でした。

しかし、二つ目の条件が頂けません。本来借金は用途により利率が異なり、飲食や賭博などの遊興費に対する借金に関しては利率が高くなり、事業運転や困窮者支援などにおける借金に対してはそこまで高くない、というのが相場でした。

青の瞳のまま、レオンは瞬時に計算します。

この条件を飲んでも、破綻が先延ばしになるだけで、根本的な解決手段にならないことが分かります。

石パンをさらに齧り、瞳の色を青から緑に変化させたレオンは、マルコと向き合い、以下を提案し始めました。

二つ目の条件を合意すると、監査が入った時に、そちらの不明により借金が帳消しになる恐れがあること。

困窮者支援用の利率ではそちらも旨味は少ないだろうが、監査に入られた時のリスクを取るより、長期的に利息を得られる、細く長いリターンを得てはどうかと。

遊興費用の利率までとはいかないが、困窮者支援用の利率より少し上げることで、手打ちに出来ないかと。

息つく暇なく申し出るレオンに、マルコは圧倒されます。

レオンの言う通り、遊興費としての利率が高いのは、貸し出せる金額の上限が設けられているからになります。

これは、過去に遊興費として借りるだけ借りて、派手に散財した挙げ句、死んでしまった男がおり、回収することが出来なくなったことにより、法律により用途に応じた上限を設けられた為となります。

この法律は、国中に周知されており、裏社会、表社会に関わらず、遵守すべきルールとなっており、違反が見つかった場合は借金の帳消しのみならず、借主、貸主共に大きなペナルティがあると恐れられていました。

もちろん、遵守しようとしない人間は何処にでもいます。レオンの目の前にいるマルコも、その一人です。

しかし、マルコはレオンを相手にして法の場で争った時、勝てる見込みを見出すことが出来ませんでした。

つまり、勝算とコストを計算した時、天秤が勝算に傾くとは、思えなかったのです。

マルコは腕を長く組み、難しい顔をして考えます。

目の前にある、リスク(ペナルティ)とリターン(利息)を秤にかけて、損益分岐点を見出そうとしているようでした。

「…わかりました」

重く、深い声でした。

「レオンさんの提案に乗りましょう」

リターンを取ったのでしょう。

マルコは難しい顔から一転ニコニコ顔に変化し、借用書を作成してくると言って、再び店の奥に消えていきました。

瞳の色を黒に戻したレオンは安堵の息を吐き、また石パンを齧りました。

まだ気を抜くことは出来ません。借金の一本化の目処がついただけで、他の貸主との交渉や、生活必需品の用意、困窮環境の対策など、問題は山積みだからです。

再び姿を見せたマルコと、借用書の細部を詰めようとすると、マルコが申し出てきました。

債務の一本化に伴う、他の貸主との交渉は、全てマルコ側が代理すること。

衣服や当座食料、及び医薬品の手配、そして建築物の補強についても、マルコ側で代理すること。

驚くレオンに、マルコは借用書に記載されている四つ目の条件を指差し、ニコニコ笑いながら言いました。

「こちらは借金に含めていますよ。あ、債務一本化はサービスですがね」

マルコの物言いと、借用書に記載された金額に、レオンは憮然とした表情を浮かべるほかありませんでした。


そこからは話が早かったです。

マルコは宣言通り、当日中に同業者を全て周り、借金精算を行って債務一本化を図ります。

渋った同業者もいましたかだ、マルコがニコニコ顔のまま、耳元で何かを囁くと、顔を青くさせたり白くさせたりして、最終的には精算に合意していました。

並行してマルコは部下に衣服や食料、建材などを集めさせ、孤児院に届けさせました。

強面の男達に届けられた各種資材に、院長先生や子供達は目を丸くします。

強面の男達と言えば、自分達から奪っていく悪意の象徴であり、届け物をしてくれる存在ではなかったからです。

届けられた資材を確認すると、男達は矢継ぎ早に建物の修理に向かいます。

呆気に取られて、動けなくなった院長先生達に、遅れてやってきたレオンが声をかけました。もう大丈夫だと。心配いらないと。

涙を流しながらレオンに縋り付く院長先生に、爛漫な笑顔を浮かべて感謝を述べるレイチェル。

その様子を見ていた子供達は、恐る恐るレオンに近づいてきました。

レオンはしゃがみ込み、近づいてきた子供達一人一人と視線を合わせます。

もう大丈夫だぞ。これからは俺も一緒だぞと。優しく、しかし力強く声をかけます。

ボロボロの服で、寒くなることはもうありません。

お腹が空いても、食べるものが無く、ガリガリに痩せ細ることはもうありません。

隙間風や雨漏りにより、眠ることが出来ないことはもうありません。

レオンの献身により、孤児院の皆は救われたのです。


建物の補強が終わり、帰っていく男達を皆が手を振って見送ります。

そして、着替えと食事が済んだ子供達を集めると、レオンは静かに語りました。

これからは自分も一緒だ。だけど、いつも一緒にいれる訳ではないと。

子供達は笑顔から一転して不安気な表情になります。

レオンは続けます。

だから、皆一人一人が、自分の出来ることを探して、助け合うんだと。

一人ではやれることに限界がある。だけどそれが二人でなら?三人でなら?と。

困っている時、そっと助けてあげられたら?その輪がずっと続いていたら?と。

レオンは続けます。

食べ物にも。服にも。薬にも。生きる為にはお金が必要だと。

お金を稼ぐことは容易ではない。だから、誰かに任せるのではなく、自分達で稼げるよう、皆で頑張ろう。自分がその手助けをするからと。

小さい子はよく分からなかったようで、首を傾げていましたが、レイチェルを含めた年長組は、しっかりと頷いていました。


不安もあります。恐怖もあります。けれど、絶望はありません。

レオンという、優しくも、厳しい灯火を得た子供達は、逞しく育っていくことになるでしょう。


これは、レオンが足長レオンとして、弟や妹を支え、共に生きていこうと決意を新たにするお話です。

成長していく子供達の巻き起こす騒動や、それに振り回されるレオンの奮闘は、また別のお話となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ