サブエピソード1【足長レオンの孤児院奮闘記1:オンボロ孤児院、兵站(家計)から立て直します】①
足長レオンは、弟、妹たちの教育に労を惜しみません。
これは、レオンが弟、妹たちと共に成長しようとしていくお話です。
横領を捏造しようとした、三人の上司との対決より数年前、まだレオンが過去の飲み食いによる借金の返済が終わっていない時のお話です。
ある日レオンは、仕送り先の孤児院の様子が気になりだし、様子を伺いにいきました。
すると、そこにあったのは、朽ち欠けた屋根に今にも崩れ落ちそうな壁、そしてボロボロの服を纏い、ガリガリに痩せ細った子供達がうずくまっていました。
どうしたことでしょう。レオンは驚いて固まってしまいました。
数年前、自分が孤児院で過ごしていた時より格段に環境が悪くなっています。
レオンは敷地内の子供に達声をかけ、ことの顛末を確認しようとしました。
「ひっ!」
レオンが声をかけると、子供達は一斉に頭を抱え、蹲ってガタガタと震えだしました。
これはいったい、とレオンは困惑します。
明らかに暴力と恐怖による防衛本能が働いています。
驚いているレオンに、成人前と思われる女の子が声をかけてきました。
「レオンお兄ちゃん…?」
不安気な表情を浮かべ、か細い声で話しかけてきたのは、面影に見覚えのある女の子でした。
レオンは記録を手繰ると、女の子の名前はレイチェルだということがわかりました。
「やっぱり、レオンお兄ちゃんだ!」
レイチェルは、レオンだと気付くと、走り寄ってきました。
「あのね…」
レオンがこの惨状の理由を問い合わせると、俯きながら答えてくれました。
レオンが退所してしばらくしてから、院長先生の具合が悪くなっていったこと。
怖い大人が頻繁に訪れるようになり、子供達が怯えるようになってしまったこと。
ご飯の量も減り、新しい服の用意も出来なくなってしまったこと。
怖い大人が乱暴にする所為で、建物がボロボロになってしまっていること。
子供達が体調を崩しても、病気になっても、医者に診てもらうことが出来ないこと。
レオンは顔を青褪め、子供達と同じような頭を抱え蹲ります。
「レオンお兄ちゃん?」
ぶつぶつと何かを呟いているレオンの顔を、レイチェルが覗き込みます。
レオンは顔を青褪めたまま、レイチェルと共に院長先生を訪ねました。
院長先生はベットに横たわっていました。
極度の疲労と咳き込む体をおして起き上がり、レオンを笑顔で迎えてくれました。
その笑顔に、レオンは「俺」であった時の、亡き妻の笑顔が重なります。
院長先生は、レイチェルを退室させると、疲れたように話し出しました。
成人前のレイチェルから聞いた話に加え、
行政からの補助が減額していること。
生活のために借り入れた借金の利息が大きく、子供達に回せないこと。
レオン達ほか、退所した者からの仕送りも、利息返済で回収されてしまっていること。
そのため、困窮状態が続いているとのことです。
「私も長くないかもしれないね…」
窓の外で、蹲っている子供達を見つめ、院長先生は深いため息をつきました。
そのため息には、今の現状を何とかしたいのに、何もできない悔しさと怒りと諦めが綯い交ぜになっていました。
レオンは顔を青褪めたまま、先生を寝かしつけて退室すると、部屋の外で不安気に待っていたレイチェルに、借金の書類や財務表等があるかを訪ねました。
「全部先生がやっているから、よくわからないけど…」
レイチェルはそういいながら、関連すると思われる書類が置かれている部屋に案内してくれました。
案内された部屋は乱雑に散らかっております。
そこかしこに、借用書や請求書が散らばっています。
レオンは大きな深呼吸を数回し、懐にしまっていた石パンを取り出し、一齧りしました。
レイチェルは、レオンが何をするのか?と横顔を見ると、先程まで黒だった瞳が青に変わっていることに気が付きました。
そして、瞳が青に変わったレオンは驚くような速さで、乱雑に散らかっていた書類を一瞥し、複数の束にまとめ上げて行きました。
なんということでしょう。
それほど時間が経っていないにも関わらず、書類が散らばり、乱雑だった部屋は、驚くほどに整理されていました。
あっけに取られるレイチェルに、院長先生の所に行くよう、レオンは言いました。
レイチェルは圧倒され、何度も首を縦に振りながらレオンの後について行きました。
再度訪れたレオンに、院長先生は怪訝な表情を浮かべます。
レオンは請求書や借用書、その他孤児院運営に関わる各種書類を確認したことを院長先生に伝え、自分に任せてほしい旨を言いました。
驚く院長先生は、仕送りをしてもらっているだけで十分だよ、と弱々しく断ります。
しかし、その言葉の裏には、本当は助けて欲しいが、これ以上レオンに負担をかける訳にはいかない、という意思が見えるようでした。
レオンは決意します。
もう、命を取りこぼさない、と。
レオンが「俺」であった時、妻を亡くした時に刻まれた悲哀を。絶望を。失望を。無力感を。
自分の「親」である院長先生や、「弟」や「妹」である子供達に、これ以上味わわせる訳には行かないと。
レオンは、レイチェルの頭に手を置き、優しく撫でた後、院長先生に力強く言いました。自分の仕事は経理なのだから。数字には強いのだと。
院長先生は驚いた表情を浮かべた後、涙を流しながら嗚咽を漏らしました。
命の灯火が燃え尽きようとする中、残される子供達が心残りだったのでしょう。
不安と恐怖に押し潰されそうでも、他に頼れる人がおらず、一人で立ち続けなければならなかったのでしょう。
そんな中、力になってくれるというレオンの姿が眩しかったのでしょう。
退所した子供達で、仕送りをしてくれる子は極少数で、様子を伺いに来てくれる子は皆無でした。
その仕送りも、一回か二回されれば良い方で、長く続けてくれる子は稀でした。
レオンは、その稀の中でも高額な仕送りを続けてくれる子だったのです。
(レオンにしてみれば、額は大きいが、大金という程ではない、という感覚でした。)
院長先生は、弱った手でレオンの手を握りしめます。
何度も感謝の言葉を向けると、泣き疲れたのか眠ってしまいました。
その寝顔には、先程までの不安や絶望は薄れ、僅かにですが希望が浮かんでいました。
「レオンお兄ちゃん…これからどうするの?」
レイチェルが涙を浮かべて呟きます。話が難しかったようで、十分に理解は出来なかったようですが、レオンが何かしようとしていることは伝わっていました。
レオンはレイチェルに向かって微笑み、伝えます。自分に任せなさいと。
なんといっても、自分は「古今無双の金庫番」なのですから、と。




