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メインエピソード1【汚名返上、名誉挽回、雪冤晴恥】⑧

積み上げられた資料と相対する。三人は先ほどまでの怒りによる興奮の赤ら顔を一転させ、 勝ち誇った笑みを浮かべている。経理課に属している人間なのだから、資料に纏められた数字に自負があるのだろう。例えそれが捏造であろうとも。

確認した内容は先日、隠密で確認した時と比して差分は無かった。資料を保管した会議室に鍵を掛けており、鍵自体も持ち歩いていたのであろうから、事前確認、情報修正は出来ないと踏んでいたのだろう。

「なるほど。確かに」

新たな改竄、捏造の跡が有ればまた違ったが、差分が無いのであれば問題ない。 用意されている資料を確認し、横領の証が確かに示されていたため、仕方なしに納得した素振りを見せ付ける。

ほれ見たことか、と。証拠は揃っているんだぞ、と。言葉と行動には責任を持て、と。

自分たちの不正を棚に上げ、捏造した俺の横領を弾劾する。なおも言葉を重ねる三人を無視し、部長とギルド長に向き直る。

「こちらの書類を確認された、という認識で間違い無いですか?」

部長とギルド長は首育する。今更何を言っているのかと僅かに困惑が見える。

「御三方に確認致します。この書類により、私、レオン・クラークが横領を働いたことが明白である。並びに、ギルドに対する損失に加え、職員、及び冒険者たちへ不信感を植え付ける結果になる。 そのため、私自身に責任を取らせよう、という言い分に相違ありませんね?」

我が意を得たり、と言わんばかりに鷹揚に頷く。

ようやく理解したのか、と。勿体ぶっても大して変わらん、と。足いても結果は変わらんぞ、と。

三人の眼には、多少知恵が回るようだが所詮は使い捨ての道具、として映っているのだろう。 そうやって、何度も何度も、何人も何人も、磨り潰して来たのだろう。前途ある者を、自分たちの都合によって。

俺は大きく息を吸い、吐き出す。そして石パンを齧る。

頭痛は酷くなる一方だが、今更泣き言を言うわけにはいかない。

思い知れ。報いを受けろ。殴っていいのは、殴り返される覚悟のある奴だけだ。覚悟はいいか?俺は出来ている。


「私が横領を働いた、という証拠についてですが。なるほど、こちらに集められた書類だけを見れば、確かに私が横領したように見えるでしょう」

「回復ポーションの不正支給、素材買取額の虚偽提示。これらの指示については、確かに私の名前が記載されていますね」

「おや、おかしいですね。私の役職は主任補佐であり、このような指示を出す立場に就いていない、と認識しているのですが」

「いつのまにギルドでは主任補佐にこのような権限を付与するようになったのでしょうか?それならば溜まっている承認待ちの書類整理が捗るのですが」

「そもそも、私が作成した書類に対しては、御三方の承認を示す押印を頂くようにしております。これら書類からはその押印が見受けられませんが、この書類は正式な書類なのでしょうか?」

「仮にこれらの書類が正式な物だとしたら、御三方の承認を得られていない指示を無断で行った、ということになります。その場合、責任は私だけではなく、承認する義務を行った貴方たち三人に対しても塁が及ぶことになりますね」

「おや?よくよく見れば、これらの書類、日付に対する通し番号が重複されておりますね。 処理済みの番号がなぜ採番されているのでしょうか?」

「記載フォーマットも、旧フォーマットで起こされているものばかりです。旧フォーマットは内容が分かりにくくなり、手続きが煩雑になる為、数年前にギルド内で一斉に改めた記憶がありますが、私の記憶違いでしょうか?」

書類上の不備をあげつらう。命令系統の不履行及び不整備、管理者の未手続及び未承認、書類フォーマットの不適切な使用。などなど。挙げればキリがない。

反論されたことが想定外なのか、三人は浮足立つ。

そんなことは知らない、と。お前がやったんだろう、と。揚げ足をとって自分の責任逃れをする気か、と。

額に汗を浮かべ、慌てふためきながらも、責任は俺にあると言い放つ。

よくもまあそこまで言えるものだ。足掻こうとする気概だけは認めないでもないが、容赦はしない。

石パンを齧り、俺はさらに続ける。


「不正支給に虚偽提示、どちらも深刻な問題ですが、こちらについて何故その場で判明しなかったのでしょうか?」

「申請されていない回復ポーションが支給される、素材の買取額が期待値と異なる、ということになれば、冒険者たち側からのクレームがあると思いますが、この書類に記載されている日付を見る限り、クレームは発生していないようですね」

「一度や二度ならばヒューマンエラーも考えられますが、こう何度も不備が発生しており、 クレームが発生していないのは何故でしょうか?」

「おや、よく見れば、書類に記載されている冒険者名が偏っていますね。持定の冒険者に対する配慮、ということでしょうか?」

「いえいえ、御三方が加担している、とは一言も言っていませんよ。書類上の記載内容から導き出される事実を、一つ一つ並べているだけですので」

「空気が宜しくないようですね。暑いせいか汗が止まらないようで。体も震えているようですし、少し換気しましょうか?」

「そうそう、件の冒険者には、事前に聴取を行いました。なんでもギルド内でも立場のある方々より、とある斡旋をされたとか。とある斡旋の内容ですが、指名依頼とは違うようですね」

「リスクが少なく、リターンが大きい内容、と言っていましたが、御三方は御存知でしょうか?」

「え?知る訳が無い?そうでしたか。それは失礼しました。私が聴取した冒険者たちからは、 御三方の名前が出ていたのですが、冒険者たちの誤りでしょうか?」

「そうなるとおかしいですね。御三方が私の横領だと言って並べたこと書類では、不正取引の内容が記載されていて。取引相手への聴取ではギルド側からの斡旋が行われたとあって。そして斡旋元とされた貴方たちはそんな事実はないという。いったい何が間違っているのでしょうか?」

「おや?冒険者たちを信用するのかですって?所詮は底辺、と?言い逃れや擦り付けを平然に行う、と?」

「冒険者を蔑視する発言は控えることをお勧めします。私たち内勤者は、冒険者たちが命がけで集めてきた素材を管理、売却することで利益を生み出し、その利益をもって生活しています。冒険者も、内勤者も、どちらが上などということはありません。対等で公正な関係であるべきです」

「私の冒険者たちに対する態度は、公正な判断に基づいた対応です。貴方たちと等しい行為を行っていると思われていたことに強い嫌悪を抱きます」

「件の冒険者たちは、既に拘束済です。なんなら直接聴取することもできますが、いかがですか?」

怒りを滲ませ、本筋から離れてしまう。守ると誓った者たちの姿が脳をよぎったからだ。 三人は俺の怒気に怯む。冒険者たちへの裏取りが行われていたとは考えてもいなかったのだろうし、冒険者たちに対する擁護が行われると思ってもいなかったのだろう。

冒険者たちだけの証言では私たちが指示したという証拠にはならないだろう、と。不正支給や虚偽提示での不当利益を私たちが得たのであればそれを示す証拠はあるのか、と。すべて推測だ、と。証拠を出せ、と。

口々に証拠、証拠と連呼する。

論理的な反論を行うのではなく、言い訳がましく証拠、証拠と口にする三人を、部長やギルド長は無感情に見つめる。それはまるで汚物を見る目に似ていた。

既に趨勢は決しているように思えるが、何も言ってこない。

クロならば多少擁護が入ると思っていたが、何も言わない処を見ると、グレーでもクロ寄りではなく、シロ寄りなのかもしれない。油断は出来ないが。

証拠、証拠、となおも言い続ける三人に辟易しながら、そこまで言うのであればと、俺は求められていた決定的なものを突き付けることにした。


「さて、証拠ですか。これは困りましたね」

「ギルド内で起きた内容でしたので、ギルド内の資料だけでいいと思っていたのですが」

「そうそう、冒険者への聴取では、不正によって発生した金額は現金により受け渡しが行われていた、と聞いております。帳簿に乗せられない金額となりますから、直接受け渡しとしていたのでしょうか?」

「そうなると、即三方の懐にも現金が渡っている、ということになりますが、どうでしょうか?」

「えぇそうでしょう。そんな現金は存在していないでしょう。自宅や自室に保管、あるいは口座に入金していれば、今回のように調査された際に履歴を辿られて不正が発覚してしまうのですから」

「受け取っていない?あぁ、大丈夫です。今の私の発言は、冒険者たちの発言が真であることを前提とした内容ですので。冒険者たちの発言が真である証明が出来れば、偽である証明、 つまり現金を受け取っていないという貴方たちの言い分を聞く必要は無くなりますから」

「貴方たちを納得させるために、話をする必要は無いのですよ。私と貴方たち、双方の論拠と証拠に基づき、決断を下す部長とギルド長に対して、判断材料となる話をしているのです」

「失礼。話が逸れました。続けます」

「降って湧く現金を、預けられず、保管も出来ない。となればどうすべきか?まあ道楽に費やすのが相場でしょう。飲む、打つ、買う、を行った形跡が無いかを事前に調査させて頂きました」

「随分と派手に遊ばれていますね。こちらの娼館はずいぶん金額が張ると記憶しておりますが、こう頻繁に来館出来るほど、役職者への手当は充実されていたのでしょうか?」

「高額な食事やアルコールも(たしな)んでいらっしゃる。(あやか)りたいものですな。私などは万年金欠で、常に石パンを齧る有様ですよ」

「おやおや、賭博にも理解があるようで。違法賭博ではないようですが、この回数と金額には眉を(ひそ)めざるを得ませんね。一体どこから捻出されたのでしょうか?」

「さて、このような内容が借用書として多々存在しているのですが、これはどういうことでしょうか? 借用書の日付を見れば、私が横領を行ったとする書類の日付と一致している物が大半なのですが」

「迂闊なことを言うのはお勧め致しません」

「これはギルド内の書類ではありません。こちらの借用書の貸主は表稼業の方となりますが、後ろ暗い所が全くない、とは言えませんよ」

「貴方たちがこの証拠を否定することにより、借用書が無効であると騒ぎ立てれば。面子を潰されたと判断し、どのような手段を用いても回収に向かうでしょう。それが借金取り、という者たちです」

俺の言葉に三人は蒼褪めて震える。反論どころか、もはや言い訳を並べる気力も無いように見える。


「数字は嘘をつきません」

俺は静かに言葉を紡ぐ。

「貴方たちが示した書類が正しいのであれば、私が示した冒険者の証言や各種借用書も正しいことになります」

「貴方たちは不正の穴埋めとして書類を改竄、捏造し、帳尻を合わせて正しく見せかけました。ですが、それによって生じた他の数字を誤魔化すことは出来ませんでした」

「数字が嘘をついたのではなく、貴方たちが数字を裏切り、嘘をついたのです」

「経理は公正であるべきです。事務屋として(さげす)まされても、私は公正であることを誇りに思っています」

「それを、その誇りを、私欲により(ないがし)ろにする貴方たちを、私は経理として認めない」

三人から視線を切り、再度石パンに齧りつく。

頭痛により途切れそうになる意識を必死に繋ぎ止め、部長、ギルド長に向き合う。

「以上が私の言い分です。御三方の言い分と併せ、精査比較頂き、公正な判断を下して頂けることを切に望みます」

部長とギルド長の頷く姿を確認し、瞳を黒に戻した俺はついに限界を迎え、意識を手放したのだった。

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