メインエピソード1【汚名返上、名誉挽回、雪冤晴恥】⑦
酷い頭痛に顔を顰める。既に主任、係長、課長の三人は席を外している。
いつものように出勤後、三人は浮かれながら部長、ギルド長に対する報告に向かった。いずれ俺に対する呼び出しが行われるだろう。
やれることはすべてやった。用意された資料の捏造箇所の洗い出し、捏造の裏付けとしての冒険者たちの証言や借用書。
あとは如何にあの三人を追い詰めるか。通常業務を熟しながら、逸る心を鎮めようとしていた。
「レオン主任補佐。ギルド長がお呼びです」
遂に呼び出しがかかる。俺は齧りかけの石パンを全て口に含み、水で流し込む。
いよいよだ。遂にこの時が来た。
俺を。俺たちを。
冒険者を。内動者を。
命を。誇りを。
汚し、貶め、蔑ろにしてきた報いを受けさせてやる!
俺は大きく深呼吸をし、席を立ち呼び出しに応じる。周囲は不安げな視線を俺に向けてくる。
これは俺への一方的な死刑宣告じゃない。俺と奴らの決闘の知らせだ。
絶対に負けない。負けられない。絶対に勝つ。勝つんだ!
己を鼓舞し、数字と論理で争う戦場へと向かっていった。
指定された会議室に向かい。閉ざされた扉と向き合う。
三日前、突然突き付けられた冤罪。
必ず思い知らせてやる、報いを受けさせてやると言った相手が、この扉の向こうにいる。
俺の心よ、萎えるな、震えるな、恐れるな。
俺の心よ、滾れ、漲れ。迸れ。
瞳を緑色に染め上げ、俺は扉を力強く開け取った。
「レオン・クラークです」
入室し、儀礼的に軽く自己紹介する。正面にはギルド長と部長が着席しており、左側には主任、係長、課長の3人が着席していた。
ギルド長は短く頷くと、右側の空席に着席するよう促してきた。
着席すると共に、部長が発声する。
「さて、レオン君。君が此処に呼ばれた理由は把握しているかね?」
部長とギルド長もクロなのか、それともシロなのか、はたまたグレーなのか。この言葉だけでは判断出来ない。
裏取りの段階で、広範囲に渡ってクロである人物の目星はついていたが、この二人については、確定的な証拠は勿論、疑念を持たせる材料も見受けられなかった。
だからと言って、シロであると思い込むことは危険だ。
誰が、何処まで加担しているか、調べきる時間が無かったのだから。
俺は元より用意していた回答を口にする。
「いえ、全く把握しておりません。先日私の向かいに座る御三方より、戯言を言い付かりましたが、検討違いと判断し、記憶から除外しておりました。まさかその件でしょうか?」
俺は煽るように三人に向き直る。
「お手数をお掛けしますが、もう一度お話頂けますでしょうか?何分忙しい毎日を過ごしておりますので、無駄なリソースを割く余裕が無いものでして」
こちらを見縊り、見下していた三人は顔を真っ赤にし、唾を飛ばすような激しい口調で、会議室で俺に宣告した内容を突き付けてきた。
「あぁ、思い出してきました。私が横領に加担した、とか言う訳のわからない主張でしたね。いえ、加担ではなくて主導でしたか?」
一言一句忘れていないが、たった今思い出したような素振りを見せる。
三人は赤い顔のまま、勢いよく立ち上がり、自分たちの机の前に積み上がった資料を指差す。
これが横領の証拠だ、と。言い逃れは出来ないぞ、と。数字を司る人間が横領とは恥をしれ、と。
それをお前らが俺に言うか?何より真摯に数字と向かい合ってきた俺に言うのか?
守るべきものを守り、戦うべきものと戦ってきた、俺にそれを言うのか?
熱くなりそうな心を鎮めるため、石パンを懐から取り出し、三人に見せ付けるように齧る。
「失礼しました。脳が理解するために、多量のカロリーを要求してきましたので」
普段は行わない、ハンカチで口元を拭う仕草までを見せ付ける。お前たちの下らない主張を理解するためには、不味い石パンを食べなくてはならないのだぞ、と暗に示す。
「横領の証拠と言われましても、私自身は確認していませんから。御三方の発言のみで正、と言われるのであれば、ギルドは永久黒字で安泰ですな」
部長やギルド長に視線を向ける。暗に三人の証言だけで判断するのか?そこまで愚物なのか?と軽く煽る。
「君は私の発言を覚えているか?」
部長は軽くため息をつく。怒りなのか、呆れなのか。年の功か表情からは判断出来ない。
「勿論。此処に呼ばれた理由を把握しているのか、だったと記憶しております」
俺は慇懃な態度を装う。
「その通りだ。この三人から一通りの報告を受けているが、私達は君が横領に関係していると判断している訳ではない。事実関係を把握するために君を呼んだのだが、ね」
そう言うと、部長は積み上げられた資料に視線を向ける。
「君が内容を把握していないため、この三人の言い分を許容出来ないというのならば、今すぐ確認して事実を明らかにしてもらいたい。出来ないとは言わないよね?」
探るような目で、こちらを睨めつけてくる。クロとは言わないが、限りなくグレーだな。
今回の件には直接関わっていないが、他の件で手を汚している可能性は十分ある。
「確認させて頂けるのであれば」
他の件のことは、後で考えよう。今は部長が当面の敵ではないことがわかっただけでよしとしよう。
「それでは、確認させて頂きます」
瞳を緑色に染め続け、俺は書類の束に向かっていった。




