第七麺A:「静寂の山と、揺れる魂」
カルボナラ山脈・聖なる峠
冷たい風が吹き抜ける、雪の残る峠道。
ヌードル卿とペスカトーレ将軍は、少数の側近とともに、白銀の山道を踏みしめていた。
ペスカトーレ:「この山には、軽々しく踏み入るべきではありませんぞ。
カルボ隊の目は、雲より高く、風より鋭い」
ヌードル卿は黙して進む。
彼の目的はただ一つ――カルボナーラ修道士。
父ファルファッレの腹心であり、元カルボ隊の団長。
今は教団から距離を置き、山に隠棲しているとされる男だ。
山上の修道院
やがて彼らは、風雪に隠れた石造りの修道院へとたどり着く。
待っていたのは、白き僧衣に身を包み、銀の髭をたたえた壮年の男。
カルボナーラ修道士:「……その面、見覚えがあるな。
ファルファッレ王に、よく似ている」
ヌードル卿:「……俺は、あの王の子だ。名を、ヌードル・アルデンテという」
カルボナーラの目が細くなる。
カルボナーラ:「……やはり、“生きていた”か。
あの時、私のもとへも“赤子は死んだ”と、教団が告げてきた……だが」
ペスカトーレ:「この者は、麺神の痣を持つ正統の血統にして、
ガストロが隠蔽した“真なる王子”」
カルボナーラはしばし沈黙し、やがて深く息を吐いた。
カルボナーラ:「王子……いや、新しき“王”よ。
そなたに問う。お主の剣は、“復讐”か、それとも“救済”か」
ヌードル卿:「どちらでもない。俺は、正しさに飢えている。
教団の偽りを暴き、麺の流れを取り戻すために、力を借りたい」
静かなる試練
カルボナーラは山の奥へ彼を案内する。
そこには、かつてのカルボ隊の訓練場――白き石の円形闘技場があった。
カルボナーラ:「この地は、真にふさわしき者にのみ、我らの力を与える場所。
王子、そなたの“芯”を見せてみよ」
その言葉と共に、カルボナーラが静かに構えを取る。
ヌードル卿もまた、剣を引き抜いた。
激突する剣と拳。
互いに致命の刃は交えず、技と精神のぶつかり合い。
やがて――カルボナーラが刃を引いた。
カルボナーラ:「……王子の中にあるのは、確かに“怒り”だ。
だがその奥底に、“麺の温もり”がある……父に似て、いや、それ以上かもしれん」
白の誓い
その夜、修道院の奥にて、三人は膝を交えて火を囲む。
カルボナーラ:「ペスカトーレ、アラビアータ、そして私――
これで“三麺”が揃った。残るは……」
ヌードル卿:「ジェノベーゼ。翠の策略家……正体も所在も、未だ霧の中」
カルボナーラ:「緑の力を司る者……それは希望か、混沌か。
いずれにせよ、教団に立ち向かうには四麺を揃えるしかあるまい」
ヌードル卿はうなずく。
ヌードル卿:「ガストロの手の中で踊るつもりはない。
四麺の力で、俺は麺神の国を取り戻す」
白き誓約、雪に刻まれる
こうして、ヌードル卿は三人目の“四麺”――
白の守人・カルボナーラ修道士を味方に加えた。
次なる地は、緑の迷宮か、それとも――麺の彼方。
冷たい雪の中、熱き想いは蒸気のように、空へと昇っていく。