第六麺B:「夜を駆ける、茹で上がらぬ想い」
王都・アルデンティーナ 王宮地下通路
静まり返った王都の裏手を、三つの影が駆けていく。
リゾ・アルデンテ。
王子にして、国王ファルファッレの遺児。
父の死をその眼で見届け、今はただ――逃げるのみ。
その隣を進むのは、妹のルーチェ・アルデンテ。
緑のローブをまとった聡明な少女。
そして、護衛騎士にして幼なじみ、ヴェルデ・トルテリーニ。
ルーチェ:「リゾ……父上は“事故”なんかじゃない。
誰かの意志で、あの刃が向けられたのよ」
リゾ:「……知ってたのか?」
ルーチェ:「気づいてた。教団との対立が限界にきていたことも、
父上がずっと、何かを隠していたことも……でも、まさか、あんな形で……」
言葉を詰まらせるルーチェ。
ルーチェ:「このままだと、次は私たち。
王位継承者は、“王政の安定”の名のもとに処分される」
ヴェルデ:「“粛清”ってやつだな。
いや~俺、姫様の騎士やってるけど処分はご免だわ」
ヴェルデは軽口を叩きながらも剣の柄を手に取る。
追っ手、迫る
地下通路の先、古い排水門から外に出ようとした瞬間、
黒衣の教団騎士たちが姿を現した。
黒衣の騎士:「ルーチェ王女、リゾ殿下。
新王の御命により、貴殿らは保護――もとい粛清の対象です」
リゾ「……保護とはよく言う。
殺意を包んだスープを“献上”と呼ぶつもりか!」
王子と騎士と風の魔術師
石畳の上で激しく交錯する剣と剣。
リゾは不安定ながらも、父から受け継いだ剣術で防ぎ、
ヴェルデは躊躇なく敵を打ち倒す。
ヴェルデ:「カルボ隊の訓練、思い出すな……でもあいつらの方がまだ洒落が効いてた」
(敵の兜を吹き飛ばしながら)
ルーチェ:「風よ、裂け目となって導きなさい――!」
ルーチェの魔術が敵の足を絡め取り、リゾが切り伏せる。
リゾ:「俺は逃げるだけじゃない。
守りたい人がいる……立ち止まっていられないんだ!」
脱出と決意
戦闘を終えた三人は王都アルデンティーナを脱し、アル・デン通りに足を踏み入れる。
かつては巡礼と交易で賑わった道も、今は月光の下に沈黙していた。
ルーチェ:「カルボナラ山脈――アルデンテ教の総本山を目指すの。
あそこなら、ガストロのような人間に支配されてはいないはず……」
リゾ:「生命のスープが干上がった理由、教団が父を憎んだ理由……
すべて、そこで分かる気がする」
ヴェルデ:「旅の鍋、煮え始めたな。さて、何が茹だってくるか……」
茹でる前の旅路
三人の影が夜道を駆ける。
その行き先に、まだ見ぬ真実と、煮詰まる世界の核心が待っている。
だが今はまだ、希望という名の火種が、消えずに揺れていた。