第六麺A:「炎の麺柱、目覚める」
ここからはヌードル卿サイドとリゾサイドを交互に展開します。
トマティア盆地・灼熱の台地にて
かつては豊かな実りと太陽に恵まれていたトマティア盆地。
だが今は赤い土煙が舞い、乾いた風が畑を焼いていた。
民は飢え、作物は育たず。
唯一、熱を増すのは――怒りだった。
そんな土地に、一陣の黒衣の騎兵が到着する。
その中心にいるのは、深紅のマントを翻す新王――ヌードル卿。
ヌードル卿(心の声)
「ここが“炎の麺柱”の根城か。
教団の支配を嫌い、王にすら膝を屈さぬ男……
だが、力が欲しいならば――我が釜の中に落ちてもらう」
アラビアータの牙城
盆地の奥地に築かれた砦「ピカンテ要塞」。
そこは今、反教団勢力の拠点となっていた。
砦の上から現れたのは、真紅のローブに身を包み、
炎を纏う魔力をその身体に宿した男――
アラビアータ伯爵である。
アラビアータ:「貴様が“新王”だと? 笑わせるな、ヌードル卿。
アルデンテ教は“病死”などとほざいているが……
ファルファッレ王を殺したのは――貴様だろう?」
炎が地を舐めるように広がる。
アラビアータ:「王も教団も腐っていた。だが“お前”が正す資格などあるのか?
今度は何を茹で上げる? 民か? 麺か? それとも――この国そのものか?」
彼の背後に控える、数十の炎使い。
彼らはアラビアータの激情に呼応するように、周囲の空気を焦がしていた。
対峙と宣言
ヌードル卿は一歩も退かず、静かに言葉を投げかける。
ヌードル卿:「俺は、お前の王になりたいのではない。
共に、“腐った教団”を焼き尽くす力を貸してほしいだけだ」
アラビアータ:「お前に命令される筋合いはない! ファルファッレも、ガストロも、
この国はみな腐っていた……! 俺は、俺の炎で清める!」
その怒りは正義か、憎悪か。
だが、ヌードル卿は炎の中に――同じ空虚を見た。
ヌードル卿:「……ならば、力で決めよう。
勝った方が、この国の“味”を決める。それでいいか?」
ペスカトーレが一歩踏み出す。
ペスカトーレ:「伯爵。貴公の怒りは理解するが、剣を交えるなら――この私が」
だが、ヌードル卿は静かに右手を挙げ、制する。
ヌードル卿:「……剣は俺が振るう。これは、王としての試練だ」
アラビアータは薄く笑った。
アラビアータ:「火傷しても知らんぞ、“王様”」
一騎討ち――紅蓮の鍋闘
要塞の中庭で、二人の魔力がぶつかり合う。
アラビアータは炎の鞭と火球を自在に操り、戦場を灼熱に変える。
ヌードル卿は影のような構えから、鋭く、無駄のない斬撃を繰り出す。
観衆の兵士たち:「なんだ……この剣……! まるで、熱湯のような……無慈悲な力……!」
アラビアータの髪が燃え上がると同時に、ヌードル卿の剣がそのマントを斬り裂く。
やがて、地面に膝をついたのは――アラビアータの方だった。
忠誠、あるいは共闘
ヌードル卿は剣を収める。
ヌードル卿:「まだ燃やしたいものがあるなら、俺の釜に入れ。
お前の怒りは――教団を焼く火種になる」
アラビアータは肩で息をしながら、やがて顔を上げた。
アラビアータ:「ふん……その目、気に食わんが……
……悪くない。いいだろう、“王”。俺の火を、お前に貸す」
「ただし……裏切れば、その骨まで炭にしてやる」
二柱目、炎と共に立つ
その夜、トマティア盆地には新たな旗が掲げられた。
王ヌードル卿の軍に、“炎の四麺”アラビアータ伯爵が加わった。
炎は、民を焼くか、道を照らすか。
いまはまだ、それを知る者はいない。