第四麺:「呪われし血、忠義の剣」
王都ズッパ・セントラーレ、即位式から数日後。
新たな王に即位したヌードル卿は、広間でひとりの男を迎えていた。
その巨体には塩風を受けた青錆の鎧。背には巨大なホタテ型の盾。
深い海のような声で口を開いたのは、オリーバ諸島の英雄――
ペスカトーレ将軍であった。
ペスカトーレ:「……ヌードル陛下、御即位、心よりお祝い申し上げます。
旧王ファルファッレ陛下には、武の機会に恵まれぬまま従ってまいりましたが……
貴方様の剣は、あの海嘯の如き一閃。臣として、その御前に跪く覚悟にございます」
ヌードル卿:「……貴殿ほどの者が、父に忠義を誓いながら、私に仕える理由は?」
ペスカトーレ:「……武は、誇るべき器に捧げてこそ光る。
陛下こそ、真に“アルデンテの血”にふさわしい。……否、“アルデンテの呪い”を宿す者として――」
ヌードル卿は、初めて耳にした言葉に目を細める。
ヌードル卿:「……アルデンテの“呪い”?」
ペスカトーレは低く頷く。
ペスカトーレ:「貴方の首元の痣――“アルデンテの印”は、本来なら王家の祝福の証として崇められるはずでした。
しかし教団はそれを“呪い”と呼び、存在を隠した。
それは……貴方様が生まれたとき、ガストロが命じたのです。『麺神の怒りを背負った子』として」
ヌードル卿:「つまり、私は“死んだこと”にされた。……父の意志ではなく、ガストロの判断で」
ペスカトーレ:「ファルファッレ陛下は、貴方が死んだという教団の言葉を疑い、
それが王と教会の決定的な亀裂となりました。
……だが陛下は戦を避けた。貴方様は、政治と信仰の狭間に捨てられたのです」
ヌードル卿の胸の奥で、微かな感情が揺れ始める。
憎しみ。空虚。疑念。そして――
ヌードル卿(心の声):「父は……俺を……本当に捨てたのか?
それとも、ガストロの嘘に、ただ飲まれただけなのか……?」
「ガストロ……貴様の力はまだ必要だ。
だが、いつか――」
「その首を、“茹で上げて”やる」
ペスカトーレはヌードル卿の沈黙を見つめながら、ゆっくりと頭を下げる。
ペスカトーレ:「陛下が、麺神の呪いを背負う者であろうとも――
私は、貴方の剣となり、盾となります」
ヌードル卿:「……ならば、我が旗の下に集え。
“味の支配者”となる覚悟はあるか?」
ペスカトーレ:「海に誓って」
新王ヌードル卿のもとに、最初の“四麺“が集う。
その陰で、静かに始まる王と教団の綱引き――やがて訪れる“茹で過ぎた夜”の前触れであった。