表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/29

最終麺「アルデンテの夜明け」

――その茹で加減いのち、最後まで熱く在れ。


夜明け前の王都


王都アルデンティーナの空は、まだ重たく沈んでいた。

だがその雲の切れ間から、確かに“朝”が差し始めていた。


倒れ伏したヌードル卿は、もはや動かない。

だが、その顔は不思議なほど安らかだった。


リゾ(膝をついて):「兄さん……俺は、最後まであなたのことを兄だと思ってた」


ルーチェ(涙):「あなたは、いつだってアルデンテの名にふさわしかった……」


王都の城門が、ゆっくりと開かれる。

ガストロの神殿は崩れ落ち、グルテン教の象徴は完全に消えた。


それぞれの“夜明け”


●王妃パスタリア


玉座に戻ってきた彼女は、そのまま神殿跡に膝をつき、祈りを捧げていた。


パスタリア:「ファルファッレ、あなたの子は、よく戦いました……私たちはまだ、この国を守れるでしょうか」


彼女の静かな祈りに、民衆が一人、また一人と頭を垂れる。


パスタリアの威厳と慈愛は、今や国家の柱となっていた。


●アラビアータの墓前にて


穀倉地帯の復興を託されたアラビアータは、王都に届いた報せによってすでに“伝説”となっていた。


ルーチェ(手を合わせ):「あなたが遺した火は、必ず私たちが受け継ぎます……燃やすのではなく、灯すために」


●ペスカトーレとスコルダリア


オリーバ諸島に帰還したペスカトーレ将軍は、海辺でスコルダリアと並んで座っていた。


スコルダリア:「あんたに斬られるかと思ったけどな。命拾いだ」

ペスカトーレ:「老いた剣には、手加減もできるんだ」


かつて敵同士だった二人が、今では国を憂う友となっていた。



●ボルチーニとカルボナーラ修道士


カルボナーラ修道士は山に戻り、かつての本拠を守るための祈りに戻った。


カルボナーラ:「若い団長に全部を託せるなら、私もようやく……麺でも打つかな」


ボルチーニは黙って礼をし、新たなカルボ隊の陣営に歩いていった。


●ジェノベーゼとリゾ


王城の高台、かつて王が政を司った“スープの間”にて。


ジェノベーゼ:「あなたが私を庇ったあの日から、運命が動き出した気がするわ」

リゾ:「あの時、助けたかったのは姫だけじゃない。俺の、生き方だったんだと思う」


ジェノベーゼ(微笑して):「じゃあ今度は私が、あなたを守る番ね。リゾ・アルデンテ」


手を取るふたりに、アルデンティーナの夜明けが差し込んだ。


エピローグ:スープの再生


数日後――

かつて枯れ果てていた生命のスープの泉が、ほんのわずかに湧き始めたという報せが届く。


それは微細な泡立ちだったが、確かに温かく、希望の味がした。


「世界を満たしていたスープが失われ、麺魔が甦り、兄弟が刃を交えた」

「けれど、世界はまた煮え立ち、味を取り戻そうとしている」

「それはきっと、“ちょうど良い茹で加減”を見つけるまで続くんだ――」


そして、ある日民の前に立ったリゾ・アルデンテが言った。


リゾ:「麺神アルデンテは“均衡”を望んだ。俺たちはもう、誰か一人に世界を託さない。皆で、このスープを守ろう」


それは、王ではなく、ひとりの人間の言葉だった。


その瞬間、誰もが確かに思った――

新しい時代が始まったのだと。


『アルデンテの黄昏』


― 完 ―


場所は王都アルデンティーナの再建も進み、ようやく平穏を取り戻した頃。

ルーチェは城下の丘で、ぼんやりと遠くを見ていた。


そこに、草をかき分けていつもの調子でやってくる男が一人。


ヴェルデ:「おやおや、姫さまが黄昏てるとは珍しい。何か悩みでも?」


ルーチェ(すかさずツッコむ):「悩みの9割はあなたのせいよ。残りの1割はあなたの寝癖」


ヴェルデ:「え?そんなに俺のことで思ってくれてたのか……って、ん? それ告白?」


ルーチェ(呆れたようにため息):「はあ……だからそういうとこよ」


すると、ヴェルデは珍しくまじめな顔になり、剣を腰に差し直して、ルーチェの前に跪いた。


ヴェルデ:「姫……いや、ルーチェ。俺はずっと君を守ってきた。それは命令でも、任務でも、ましてや麺でもなく――」


ルーチェ(笑いそうになる):「“麺”って何よ」


ヴェルデ(真剣に続ける):「……愛だよ」


一瞬の静寂。風が草をなで、ルーチェの緑のマントが揺れる。


ヴェルデ:「君の風魔法で髪をボサボサにされても、君に“バカ”って言われても、君が王女だろうと、麺神の転生だろうと……俺は、君が笑ってる世界を守りたいんだ」


ルーチェ(頬を赤らめて):「……なんでこんなときだけ、かっこいいのよ」


ヴェルデ:「だって俺、普段ふざけてるのは、こういうときのギャップでモテようと思ってたからな」


ルーチェ:「……最低。で、でも……ずっと、ありがとう。あなたがいたから、私はここまで来れたの」


ルーチェはそっと手を差し出した。ヴェルデはその手を、騎士のように優しく取る。


ヴェルデ:「あーあ、これからはもう“姫”じゃなくて、“彼女”って呼んでいいんだよな?」


ルーチェ(にやりと笑って):「“ルーチェ様”って呼ばせてあげる」


ヴェルデ:「ははっ、付き合っても主従関係かよ……でも、それが君らしい」


二人は並んで座り、夕日を見つめながら笑い合った。

それは、長い戦いの果てに得た、ひとさじの幸福の味だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ