第十八麺「最後の兄弟」
――それでも、あなたを止めなければならない。
正気に戻ったヌードル卿
アルデンテの剣が麺魔グルテンの瘴気を裂き、神殿に静寂が戻った。
玉座に崩れ落ちた男――ヌードル卿は、確かに**“兄”としての意識**を取り戻していた。
ヌードル卿(低く):「……目覚めた途端、地獄とはな」
「正気に戻っても、俺がしてきたことが変わるわけじゃない。もはや退く道など、どこにもない」
リゾ:「それでも、兄さんを――!」
ヌードル卿はその言葉を遮るように立ち上がる。
闇が抜けた瞳に、かつての意志と、それ以上の覚悟が宿っていた。
ヌードル卿:「アルデンテの血を継ぐ者として、俺は最後まで抗う。お前の剣で終わらせられるほど、俺は弱くない」
その姿は、まさに「王国最強」と称されるにふさわしい――いや、麺魔に選ばれた器すら凌駕する“本来の彼”だった。
兄弟の激突
覚醒したリゾの剣――《アルデンテのソースブレード》と、
ヌードル卿の漆黒の刃がぶつかり合う。
魔力と剣技、精神と血統が交錯する壮絶な一騎打ち。
だが――
ジェノベーゼ(後方から魔法陣を展開しながら):「フレーバ・トルネード――」
ヌードル卿はその術式にわずかに眉をひそめる。
ヌードル卿:「……鬱陶しいな」
次の瞬間、彼はリゾではなくジェノベーゼへと踏み込み、剣を突き出す。
ジェノベーゼ:「!? ……まさか――っ」
──刹那、リゾが身体を投げ出した。
鋼の閃きが、リゾの胸を斬り裂く。
リゾ:「……っ! 姫を……守れたのなら、いいさ……」
ジェノベーゼ(震える声で):「どうして……どうしてそこまで……」
リゾ:「……姫さんに、初めて会ったときから……惚れてたんだ」
血が滲む笑み。
麺神の末裔が、ただひとりの人間として告げた恋の告白だった。
最終決戦
ルーチェ:「兄さま……!! もうやめてッ!!」
ヴェルデ:「下がれ、ルーチェ。今のこいつは、本気の“剣”だ……!」
ルーチェの風魔法が戦場を制御し、ヴェルデの神速の太刀がヌードル卿に斬りかかる。
だが――ヴェルデですら、その剣に押されていた。
ヌードル卿:「……悪いな。俺が“王”である限り、その覚悟も、お前らの正義も……すべて叩き潰す」
神剣 vs 王剣。
アルデンテの魂と、失われた兄の誇りが火花を散らす。
そのとき――
リゾ(血だらけで):「……まだだ……俺の、最後のアルデンテを……見せてやる!!」
アルデンテの力が再び光を放ち、リゾの剣がヌードル卿の肩口を斬り裂いた。
王の剣が地に落ちる。
静寂と決着
ヌードル卿:「見事だ……リゾ」
リゾ:「兄さんを……取り戻したかっただけだ……」
兄弟の瞳が、ようやく真正面から重なる。
ヌードル卿:「……そうか。だが、俺には……償うには、遅すぎたんだろうな……」
静かに膝をついたヌードル卿。
ルーチェが、泣きながら兄へ歩み寄ろうとするが――
その肩を、ヴェルデがそっと押さえた。
王国最強の男の沈黙が、すべてを物語っていた。