第十六麺B:「器たちの対話 ――兄と弟と、世界のスープ」
夢か現か、虚空の対話
深い夜。
王都に迫る2つの勢力が、今まさに交差しようとしていたその刻――
リゾ・アルデンテは、静かに目を閉じていた。
心の中に、微かに呼ばれる声があった。
???:「……お前か……リゾ……」
気がつけば彼は、暗く深い空間に立っていた。
スープのようにゆらめく空。
空気は重く、しかしどこか懐かしい。
そこに立っていたのは、かつてのヌードル卿――否、兄アルデンテの顔をした影だった。
兄弟の再会と断絶
リゾ:「……兄さん……?あなたが……ヌードル卿……?」
ヌードル卿:「そう呼ばれたのはもう昔だ。今の俺は“器”にすぎん。
だが……お前は俺の名を知っているのか……」
リゾ:「母上が……教えてくれた。俺には、兄がいたって……!」
沈黙。
やがてヌードル卿は苦く笑う。
ヌードル卿:「俺は、お前の顔も知らなかった。父に捨てられ、名も持たず、ただ“呪い”として育った……!」
リゾ:「それは違う!父上は……兄さんの死を疑っていた。何度も……!」
ヌードル卿:「……遅すぎたんだよ。俺はもう、“人”じゃない」
影のヌードル卿の体が、黒く泡立ち始める。
麺魔グルテン・ネロの気配が、そこに滲み出す。
魂と魂の衝突
グルテンの声:「兄弟よ、争え。血を分けたからこそ、深く裂ける。
憎しみこそが力となり、混沌こそが均衡だ……!」
リゾが剣を抜く。
ヌードル卿もまた影の剣を構える。
だが――
リゾ:「……俺は、兄さんを斬るために来たんじゃない。
兄さんを、“取り戻す”ために来たんだ!」
ヌードル卿の手が震える。
ヌードル卿:「……戻れるものか……!こんなに深く……飲み込まれた俺が……!」
リゾ:「なら、一緒に抗おう。グルテンの声に、負けるな!兄さんは、アルデンテの血を継ぐ者だ!」
共鳴と覚醒の兆し
影の世界に、柔らかなスープの光が差す。
二人の“器”が共鳴し、世界に亀裂が入る。
グルテンの声:「……フフ……その情熱、その意志……
よかろう。では最後の審判を与えよう。
器たちよ、我を封ずるに足るかどうか――“現実”の戦場で決着をつけよ!」
視界が砕け、リゾは意識を現実へと引き戻された。
夜明け前。
リゾは深く息を吐きながら目を開ける。
ジェノベーゼ姫:「……見えたのね、彼の内側が」
リゾ:「あれはもう、兄なんかじゃなかった……でも……まだ、届く気がした」
拳を握るリゾの目には迷いはなかった。