第十一麺B:「器なる王、焦げゆく世界」
玉座の孤独、ぬるく笑う民
王都アルデンティーナの民衆は飢えから解放され、新たな王の即位を歓呼で迎えた。
だがその祭壇に立つ男は、血のように濃い赤衣を纏い、目の奥に「他者の光」を宿していた。
民衆の声:「ヌードル王万歳……!」
民衆の声2:「ついに教団から解放された……!」
ヌードル卿(心中):「……違う、これは俺の声じゃない。だが……これが……俺の望んだ“力”だったのか?」
麺神の解体、スープの崩壊
アルデンテ教は正式に解体され、ガストロの遺した思想に沿って、グルテン教が国教に制定される。
新たな神は「力による均衡」を掲げ、スープの恵みではなく「煮え滾る力」こそが世界を支配するとされた。
ヌードル卿:「神とは甘やかす存在ではない。
苦く、熱く、口の中を焼くほどに“力強い”味を残す――それが神だ」
だが、世界はその“味”に適応できなかった。
各地で大地が裂け、泉が狂い、空は突然の煮沸雨を降らせた。
生命のスープは、今度は“氾濫”を始めたのだ。
揺れる三柱、疑念の兆し
玉座に集う、かつての“四麺”たち。
ペスカトーレ将軍、アラビアータ伯爵、カルボナーラ修道士は、それぞれに“王”の異変を感じ取っていた。
アラビアータ:「……お前、何かが変わったな。前はもっと……熱かったが、今は焦げ臭ぇ」
カルボナーラ:「あのときの剣筋……まるで別人のようだった」
ペスカトーレ(静かに):「……陛下、貴方は“ヌードル卿”ではない何かに、取り込まれていませんか?」
ヌードル卿は玉座の前に立ち、ゆっくりと立ち上がる。
その笑みは、鍋の底でこびりついた“過熱された真実”だった。
ヌードル卿:「……余計なことを言うな、ペスカトーレ。
俺は今、“真に麺神を超えた王”なのだ」
沈黙。
彼らはそれ以上問えなかった――王の目に映るのが、もはや“王”ではなかったから。
濁る空、沈みゆく味覚
大地を満たした“スープ”は、もはや滋味ではない。
それは、濁り、煮立ち、泡立つ災厄――
そして世界は思い出すだろう。
かつて“煮すぎ”によって滅びた、もう一つの時代があったことを。
ヌードル卿(内心):「リゾ……ルーチェ……
……お前たちが正しかったのか……? でも、今さら……もう、戻れないんだ」