第十一麺A:「開かれし神殿、煮え立つ器」
飢える都、開かれた門
アルデンティーナの街には、もはやパンの香りもスープの音もなかった。
王都の住民は、日に日にやつれ、商店の棚は空っぽになり、子供たちの泣き声すら力を失っていた。
民衆の声:「このままじゃ……もう、持たない……開門しか……ないんだ……」
そしてついに、城門がきしむ音と共に、外界へと開かれた。
“王”として迎え入れられたのは、黒きマントをはためかせる、かの者――
ヌードル卿:「……この城を、解放する」
神殿への進軍、対決の刻
アルデンテ教大聖堂――かつて神と王が並び祈りを捧げた場所。
その奥の最奥、禁域の神域へと、ヌードル卿と彼の軍勢は雪崩れ込む。
ガストロは玉座のように腰掛けた石壇の上で、静かに待っていた。
ガストロ:「来たか、王にして器よ。
麺神の名を借りて王を討ち、神をも超えんとする、その傲慢……
まこと、我が理想の“食材”だ」
ヌードル卿:「もうお前の麺には、出汁(意味)がない。黙れ」
剣閃が走る。
聖堂の柱が砕け、空間が歪む。
ペスカトーレとカルボナーラが教団兵を抑える中、ヌードル卿はついにガストロの胸に刃を突き立てる。
煮立つ器、グルテン・ネロ降臨
血を吐きながらも、ガストロは口の端を笑みに歪めた。
ガストロ:「器は満ちた。……ならば、火を入れるだけよ」
彼が最後に唱えたのは、古代語で構成された禁呪――
ガストロ:「《Pasta Malitia… Gruten・Nero, Descende》」
その瞬間、ヌードル卿の痣が赤黒く発光し、彼の身体に激痛が走る。
ヌードル卿(呻き声):「が……ッ……な、にを……!」
彼の背から立ち上る黒煙――それはかつて生命のスープを枯らした、麺魔グルテン・ネロの影。
ガストロ:「麺魔よ、この器に宿りたまえ。そして我が魂と一つになり、新たな神となるのだ……!」
光が、闇が、崩れゆく聖堂を呑み込む――
王は器と化し、司祭は魔となる。
スープは煮えたか、悪夢の開宴
そして、王都の空が赤く染まった。
世界は、再び“煮えすぎ”という名の災厄を迎えようとしていた。
――この世のスープは、いま、焦げ始めた。