第十麺A:「三つの麺の影、煮詰まる都」
暗き祭壇、報告の影
王都アルデンティーナ――かつて黄金の穀物とスープが香ったこの都は、今や教団の手により、沈黙と監視の霧に包まれていた。
アルデンテ教の聖堂地下。赤き灯に照らされた祭壇で、ガストロ・サヴォーリオは祈るふりをしながら、闇の報告を待っていた。
そこへ現れたのは、教団暗殺部隊の長――
スコルダリア(黒ずくめの女):「報告致します。
ヌードル卿率いる西軍がカルボナラ山脈を越えて進軍。
南からはアラビアータ伯爵がトマティア盆地を完全制圧。
さらに東方のオリーバ諸島より、ペスカトーレ将軍の海軍が港を封鎖中」
ガストロの指が、握っていた銀の杯をわずかに砕いた。
ガストロ(低く):「……この“麺冠の小僧”が、我に逆らうとは。
玉座を授けてやったというのに……」
揺れる王都、ざわめく民
街には静かな混乱が走っていた。
民衆は、教団から「麺神の選びし新王」として讃えられたヌードル卿が、今やその教団を討とうとしていることに、困惑と動揺を隠せない。
老商人:「ヌードル王が攻めてくる……? いや、でもあの方は……“祝福の痣”を持つお方では……?」
若い母親:「もう誰を信じればいいのか……。
麺神も、教団も、皆がバラバラに煮えてる……」
街の空気は澱み、スープの香りの代わりに、焦げた不安が立ち込めていた。
煮詰める作戦、焦らぬ王子
場面は変わって、ヌードル卿本陣。
乾いた風が吹く丘の上、彼は地図を前に部将たちと作戦を練っていた。
ヌードル卿:「王都は巨大な鍋だ。だが蓋をされては味が逃げない。
ならば我ら三方から火を入れ、じっくり煮込む。いずれ、中から崩れる」
ペスカトーレ:「トマティア盆地を抑えたアラビアータの軍は穀物の流通を断っている。
港は我らが制圧。王都は“食の息の根”を絶たれたも同然」
カルボナーラ修道士:「あとは耐えきれず門を開くのを待つのみ……。
それまで、奴らがどんな悪あがきを見せるか――」
ヌードル卿は冷たく笑う。
ヌードル卿:「焦がさぬように、じっくりとな。
ガストロ……その偽りの冠を、俺の手で“塩に還す”」
煮え立つ前の静けさ
王都アルデンティーナを包囲する三つの軍勢――
しかし、都の中心にいるガストロもまた、ただの老司祭ではなかった。
――この鍋の底には、まだ誰も知らぬ“焦げ”がある。