第九麺B:「塩の涙、焦げつく心」
追われる旅路
リゾたちはモルト村を発った直後、村に貼られた手配書の影響で、村人たちに囲まれる。
誰もが飢えており、「教団の褒賞金」のために情報を売ろうとしていた。
農夫の男:「あの娘……ルーチェ様だろ? 王妃の血だ。捕まえれば、きっと干し肉にありつける……!」
老婆:「裏切り者め! スープを干上がらせた罪人じゃろう!」
投石、罵声、鋤を振るう手。
リゾたちは応戦しつつも、民を傷つけることを避けながら、森の奥へと必死に逃げ込んでいく。
夜の焚き火、疲れ果てた姫
森の小さな空き地。焚き火もせず、干からびたパンの欠片を分け合う三人。
ルーチェはぐったりと地面に座り込み、背中を丸めてうずくまる。
足には傷、服は泥にまみれ、肌は冷たい風に晒されていた。
ルーチェ:「……もう、いいのよ。
私が王女じゃなかったら、あの人たちに憎まれずに済んだのかしら……」
ふと、ポツリと呟く。
ルーチェ:「父上も……いつか、こんな風に泣いたことがあったのかな……」
その目から、一筋の涙がこぼれる。
沈黙の慰め
いつもなら軽口を叩くヴェルデは、このときだけは何も言わず、ルーチェの隣に座る。
手にしていた外套をそっと肩にかけ、優しく彼女の頭に触れた。
ヴェルデ:「……俺は、お前が王女だろうが、泥まみれだろうが関係ない。
お前が前を向いてる限り、俺はその前を歩いて斬ってやるよ。どんな敵でもな」
静かな声。だが、それはどんな騎士の誓いよりも力強かった。
ルーチェは涙を拭い、そっとヴェルデの横顔を見る。
(……この人、いつからこんなに、大きくなったの?)
その心に芽生えたのは、まだ言葉にならない、けれど確かな熱だった。
焦げついた心にも、味がある
夜が明けるころ、空には薄曇りがかかっていた。
それでも、三人は歩き出す。
乾いた旅路を、黙々と、そして確かに。
スープが干上がっても――
彼らの心には、まだ芯が残っていた。