第八麺B:「乾いた村と、温もりの嘘」
乾ききった風、最初の村
アル・デン通り沿いに広がる、かつて豊かな水と麦に恵まれた村――モルト村。
そこは今、風だけが吹き抜ける荒涼とした地になっていた。
畑は枯れ、井戸は干上がり、人々の顔には疲労と諦めが刻まれている。
リゾ、ルーチェ、ヴェルデの三人は外套を羽織り、村へと足を踏み入れる。
ルーチェ:「……ここまで荒れているなんて。
まるで、“スープの循環”が止まってしまったみたい……」
ヴェルデ(顔をしかめ):「空気が悪い。水の魔力の流れが、断たれてるな。
カルボナラ山脈に近づくにつれて、もっと酷くなるかもしれない」
老人と干上がった鍋
小さな教会跡に足を運ぶと、そこには一人の老人がいた。
鍋を抱え、火も水もないのにスープを煮ているふりをしている。
老人:「アルデンテ様は……きっと戻ってくる……。
王様が死んだのは、教団が嘘をついてるから……。
……ワシは、もう味も思い出せんがの……」
リゾはその姿を見て、拳を握る。
リゾ(心中):「父上……あなたが守ろうとしたこの国は、今、こんなにも……」
ルーチェ:「……私たち、やっぱり急がないといけないわ。
総本山なら、この異常の本当の理由が分かるかもしれない」
教団の刻印と村の沈黙
村の中心部には、朽ちた教会の壁に赤い魔法印が刻まれていた。
ルーチェ:「この魔方印……“供犠の印”。
信仰と引き換えに、“スープの祝福”を授けると教団が広めた儀式……。
実際には、魔力を“吸い取る”仕組みよ」
ヴェルデ:「つまりこの村は、“食われてる”側ってわけか」
ルーチェは教団によって設置された布告書を読み上げる。
「《告》 本村はアルデンテ教の保護下にあり。背信の者は、乾麺刑に処す――教団司祭局」
リゾ(低く):「……父の国が、ここまで腐っていたのか」
見えない支配と、確かな飢え
空は晴れているのに、風は冷たく、村には“味”がなかった。
誰も声を荒げない。誰も逆らわない。
ただ、ゆっくりと“煮詰まって”いくだけだ。
この国の希望が、最後の一滴になる前に――
リゾたちは進む。命のスープが、まだ温かいうちに。