第七麺B:「母の沈黙、教団の影」
旅路の朝、子の想い
カルボナラ山脈を目指し、夜を越えたリゾたちは、古びた村の外れに腰を下ろしていた。
焚き火の煙が静かに上る中、ルーチェがふと空を見上げる。
ルーチェ:「……母上、無事でいてくれるかしら」
リゾ:「パスタリア様が簡単に倒れるような人なら、王妃なんてやってないさ」
「民は母上を麺神アルデンテの妻“アマトリーチェの再来”とまで言っていた」
ヴェルデ(横になりながら):「その美貌と威厳。俺が子供のころからずっと憧れてたからな~。
……あ、ルーチェには言ってないから」
ルーチェ(小さく微笑んで):「母は……父上とはまた違った“強さ”を持ってる。
あの人だけは、ガストロの思い通りにはならない……そう信じたい」
王都・アルデンティーナ 王宮 奥の間
場所は変わり、王宮最奥の謁見室。
香の匂いが漂う中、王妃パスタリア・アルデンテは、白絹のローブをまとい、静かに玉座の傍らに立っていた。
彼女の顔には化粧すら浮かばず、それでもその気品は群衆を魅了する。
入室してくるのは、教団最高司祭――ガストロ・サヴォーリオ。
ガストロ:「麗しき王妃よ……亡き陛下の魂に、我らが祈りを捧げましょうぞ」
(深々と頭を下げながら)
パスタリア:「祈りだけで足りるなら、王は死ななかったでしょう」
ガストロの表情が一瞬だけ強張る。
ガストロ:「この国を導く使命を、我が教団と新たな王子が引き継ぎます。
パスタリア様も、変化の時代に協調を――」
パスタリア(扇を開きながら):「私の使命は、“ただの王妃”として祈ることだけ。
貴方が語る未来に私が必要かどうかは……貴方では決められませんわ」
その微笑みは、剣より鋭かった。
ガストロ(内心):「この女……やはり“アマトリーチェの血”が流れておる……」
地下礼拝堂・暗殺部隊
同じ頃、王宮地下。
光の届かぬ空間にて、黒衣の者がガストロに膝をつく。
それは、教団直属の影――暗殺部隊隊長、コードネーム《スコルダリア》。
スコルダリア:「報告。ヌードル卿、トマティア盆地にてアラビアータ伯爵と接触。
既に協力関係にあるものと推定されます」
ガストロ:「……やはり動いたか。次はカルボナーラかジェノベーゼか……」
スコルダリア:「四麺がすべて敵に回れば、王権は教団の手から離れます。
指示を」
ガストロの目が静かに光る。
ガストロ:「“王子”には少々、冷ましていただかねばならぬな。
麺は、茹ですぎれば崩れる。……今が、“茹で頃”だ」
見えざる糸
王宮の静けさの裏で、火種は再びくすぶり始めていた。
母は沈黙のままに睨み、教団は刃を研ぎ、
王子と王女は、それぞれの道を歩む。
その運命の糸は、やがて交わり、ひとつの“茹で鍋”の中に落ちるだろう――