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エピローグ:「干上がるスープ」
――静寂。
それは異変の始まりだった。
パスタリウム大陸の中心、神殿都市ズッパ・セントラーレ。
その最奥にある「生命のスープの泉」が、突如として干上がった。
泉の底に残ったのは、一滴の魔力も持たない“焦げたスープの跡”。
これは千年続いた魔力の循環の、完全な断絶を意味していた。
神殿内、香草の香り漂う大広間に、重い声が響く。
「……生命のスープが干上がるなど、聞いたこともない……」
祭服を纏った老いた男が立ち上がる。
額に刻まれた五芒星の刻印。アルデンテ教、至高の祭司――ガストロ・サヴォーリオである。
「これは……麺神アルデンテの裁きだ。国王ファルファッレが、食の調和を壊した報いだ」
彼の視線の先に、黒きローブの男が立っていた。
その瞳には、煮詰めた怒りと冷めた覚悟が宿る。
「ヌードル卿よ。王を討て。これは神の意志だ――茹ですぎた時代を、茹で直すのだ」