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『騎士団長は幼女に甘い(読み切りの短編連作)シリーズ』はここ♡

騎士団長は幼女に甘い〜団長の絶対領域〜

作者: 美咲アリス

※これだけで読める短編ですが、『お姉様の推しの騎士団長の壁ドンを見に行ったの』をお読み頂くと効果倍増でございます!

↑↑タイトルの上のシリーズリンクから行けます^ ^

「あら? 王都令嬢新聞にジェラルド騎士団長の記事が載ってるわ!」

「はやく読んで!!」


「タイトルは『騎士団長の絶対領域』よ。『絶対領域とはファンの心を鷲掴みにする絶対的効力を示す場所のことである』って説明してあるわ」

「まあ⋯⋯」


「『騎士団長が白いシャツのボタンを三つお外しになった時、チラリと見える胸筋と腹筋に私たちはひれ伏す。それが絶対領域だ』ですって!」


「腹筋⋯⋯!」

「胸筋⋯⋯!」

「間違いなくひれ伏すわ!!」


 ここはウィンザー侯爵家のとっても居心地のいいリビングルーム。

 穏やかな午後の昼下がり、金髪に青い目の美しい五人姉妹が集まっている。


 三女が新聞を声を出して読むのを長女と次女と四女が白い頬をポッとピンク色に染めて熱心に聞いている。

 末っ子のリリアンだけは違った。

 リリアンはお茶会の準備に忙しいのだ。

 今日きょうはお天気がいいのでお友達を呼んで庭でティーパーティをするのだ。


「ジェラルド騎士団長様の絶対領域を見たいわ!」

「胸筋と腹筋は魅惑的よ!」

「危険だわぁ⋯⋯」


 ——騎士団長の体の魅惑的で危険な場所?

 それっていったいなんだろう?

 リリアンはクレヨンで描いていたお茶会の招待状から目をあげた。


「ねえ、お姉様、『絶対領域』ってなあに?」

「あなたには早いわリリアン。まだ六歳じゃないの」


 ほーらまた始まった!


 まだ六歳じゃないの⋯⋯って言葉を何回聞いたことだろう。

 このままだときっと来年には「まだ七歳じゃないの」と言われ再来年には「まだ八歳じゃないの」と言われいつかは「まだ百歳じゃないの」と言われるに決まってる。


「ねえ、リリアン、そろそろお茶会を始めたら? お友達が待っているんじゃないの?」

 一番上の姉がそう言ったのでリリアンは気持ちをパッと切り替えた。


 そうだわ!

 今日は楽しいお茶会をする日だわ!


 ワクワク気分で庭に行く。


 庭にはピンクの薔薇が咲いている。とってもきれいだ。うっとりだ。


 白いテーブルクロスがかかった丸テーブルに可愛い花模様のカップが六つ。五人のお客様はみんなリリアンの仲良しだ。


 銀製のポットはちょっと重いけれど紅茶を注ぐのは主催する淑女しゅくじょの仕事と決まっているので「よいしょ」と頑張って注ぐ。

 六つのカップすべてに紅茶を注ぎ終わると、さあお茶会の始まりだ!


「お姉様たちったら本当にひどいのよ。⋯⋯まあ、あなたのお姉様も同じなの? 私たちがもう大人だってわかっていないのね、困った人たちね」


 おしゃべりの話題は姉たちへの不満からスタートした。

 そして次は王都のイケメンたちの話題に移る。令嬢たちのおしゃべりに欠かせないものはイケメンの話題だということは姉たちを見てちゃんと知っているのだ。


「私のお姉様たちの推しはジェラルド騎士団長なのよ」

 と言いながら、リリアンはふとさっきの話題を思い出した。


「ねえ、『絶対領域』って知ってる?」


 誰も知らないようだ。


「そうだわ! 私、これから騎士団長の絶対領域を調べに行くわ、一緒に来る?」


 というわけで、ウィンザー侯爵家の末っ子令嬢のリリアンは、『騎士団長の絶対領域』を調べに行くことにしたのだった。


**


 一緒に行ってくれるお友達は子爵令嬢のマリアンヌだ。

 黒髪に大きな黒い目のとっても可愛いマリアンヌの小さな手をギュッと握って、リリアンはそーっと屋敷を抜け出した。


「見つかったら叱られるの、だから静かにね!」

 なんとか誰にも見つからずに屋敷を出ることができた。


 買ってもらったばかりの大きなピンクのお帽子をかぶっている。リボンがついたお気に入りのお帽子だ。

 マリアンヌもピンクのお帽子をかぶっている。


「私たち、姉妹みたいね!」


 ご機嫌で道をどんどん進んでいきながらマリアンヌに騎士団長のことを説明した。


「ジェラルド騎士団長様はすごくハンサムなのよ。あなたは恥ずかしがり屋さんだからきっとお話しはできないわね! でも大丈夫、騎士団長様はとてもお優しいから。だけど手品は下手なのよ」


 おしゃべりしていると騎士団の陣営に着いた。


 どうやら今日きょうは剣の練習をしているようだ。威勢いせいのいい声が聞こえてくる。

 門兵はリリアンを見ると、「どうぞお入りください」とニコニコと案内してくれた。


 陣営の中に広い練習場があってそこにたくさんの騎士たちがいる。

 剣の練習はとっても激しそうだ。

 そんな激しい練習の中心にいるのはジェラルド騎士団長。誰よりも背が高く誰よりも剣の腕が強い。


 騎士服の黒い上着は脱いでいる。真っ白なリネンのシャツ姿だ。ボタンをいくつか外しているのでたくましい胸元が見えている。

 背中に流れ落ちた絹糸のように美しい金色の長髪が太陽の光にキラキラと光ってすごくきれいだ。

 そして切れ長の目と空の色と同じ澄んだ青い瞳⋯⋯。


「ねえ、マリアンヌ、ハンサムでしょう?」

 それにとってもたくましいわ⋯⋯とちょっと思ってしまって恥ずかしくなった。


 すると——。

「ん? リリアン様ではありませんか」

 リリアンに気がついた騎士団長はすぐに剣を置いて走ってそばに来てくれた。


 リリアンはぴょこんと膝を曲げて挨拶をする。

 ——お辞儀がとっても上手にできたわ!

 すごく嬉しい。カーテシーと呼ばれるお辞儀は難しいのだ。その難しいお辞儀が上手にできて嬉しいので、ぴょこんぴょこんと何度も繰り返した。


「もうそれ以上は結構ですよ。とてもお上手なお辞儀ですね」

 騎士団長が優しく笑った。


「ご機嫌いかがですか、騎士団長様」

 お辞儀の次は右手を差し出す。これが淑女の礼儀作法だということを知っている自分がすごく誇らしい。


「元気にしております。リリアン様はいかがですか?」

 騎士団長は軽く背を曲げてリリアンの手の甲に触れるか触れないぐらいの距離で唇をそっとつけた。

 姉たちによると『唇をベッタリつける男は最低』らしい。騎士団長は合格だ。


「騎士団長様もとってもお上手な挨拶ですわ」

「それはどうも⋯⋯、おそれいります」

 騎士団長はまた笑った。

 整いすぎて彫像のようだけど笑うと一気に人間味が加わって暖かい表情になる。


 リリアンはマリアンヌをグイッと前に押し出した。

「こちらは子爵令嬢のマリアンヌ嬢ですわ。私のお友達なの」

「そうでしたか⋯⋯。どうぞよろしく、マリアンヌ様」

 騎士団長はマリアンヌの手もとって丁寧に挨拶をしてくれた。


「おふたりとも喉が乾きませんか? 今日はとてもいい天気ですし、歩いていらっしゃったのでしょう?」

 練習場の横にはテーブルが並んでいて騎士たちはビールを飲んでいた。


「今日は休みなのです」

「お休みでも剣の練習をなさるのですか?」

「みんな剣の練習が好きですからね。他に趣味もないのです」


 リリアンとマリアンヌにはエルダーフラワー水を用意してくれた。可愛い形のクッキーもある。

 とっても美味おいしくてしばらく食べるのに夢中になってしまったが、

 ——あら? 私、どうしてここに来たのかしら?

 目的を忘れそうになっていたことに気がついてハッとした。


 ——えっと⋯⋯? ああ、そうだわ! 


「騎士団長様?」

「はい?」

「お聞きしたいことがあるのですが」

「なんでしょう、リリアン様?」

「絶対⋯⋯」

 あれ? なんだっけ?

「絶対?」

「えっと⋯⋯。ああ、そうですわ! 思い出しましたわ! 『絶対に大事な場所』をお聞きするために来たんですの。ねえ、マリアンヌ? そうよね?」

 恥ずかしがり屋のマリアンヌは黙ったままだ。


 リリアンは姉たちの会話を思い出しながら話を続けた。

「姉たちが言っていましたの。騎士団長様にとって絶対に大事な場所があって、そこがとても危険なんですって。私、今日はそれを調べにここに来ましたのよ」


「お姉様たちがですか? 絶対に大事で危険な場所? それはもしかして軍事に関係することでしょうか? まさか敵国の武器庫か何かの情報を得られたのですか?」

 騎士団長のハンサムな顔が真剣になっていく。


「ええっと⋯⋯」

「もしそうなら王都の安全に関わる問題です。すぐにお姉様たちのところへ行きましょう」


 というわけで、リリアンは騎士団長と一緒に屋敷に戻ることになった。


 ——あら? 何か違うような気がするけれど⋯⋯。

 と思いながら⋯⋯。


**


「リリアン様とマリアンヌ様、お二人で手を繋いで歩くのは大変でしょう」

 騎士団長が白馬を連れてきてくれた。


「わあー!」

 白馬の上はとっても見晴らしがいい。

「ねえ、マリアンヌ! すごいわね!」

 マリアンヌも嬉しそうだ。


「お気に召していただけて嬉しいです。お嬢様たち、怖くないですか?」

「ちっとも怖くありませんわ!」


 騎士団長がゆっくりと馬を歩かせてくれるのでぜんぜん怖くなかった。

 マリアンヌが一番前、その後ろにリリアン、そしてそのまた後ろに騎士団長が乗っていてしっかりとリリアンたちが馬上から落ちないように支えてくれている。


 近い距離にいるとジェラルド騎士団長はとってもいい匂いがした。姉たちの香水よりもいい匂いだ。


 屋敷に着くと庭から賑やかなおしゃべりが聞こえてきた。

 どうやら姉たちはリリアンのお茶会のテーブルに座っているようだ。


「騎士団長様、こちらですわ!」


 侍女たちが案内しようとするのを断って騎士団長とふたりで庭へ向かう。

 姉たちの会話がはっきりと聞こえだした。


「推しは推せる時に推せ——よ、お姉様!」

 男前に言い切った声の主は三番目の姉だ。


 リリアンは騎士団長を見上げて説明してやった。

「推しっていうのは騎士団長のさまのことですのよ」

「⋯⋯」


 次に聞こえてきたのは四番目の姉の声。

「だから騎士団長様の絶対領域をどうやって覗き見ることができるかが問題なのよ」


 それを聞いた騎士団長が「ん? 俺の領域?」と首をかしげた。


 二番目の姉の声が続く。

「シャツ一枚になられたら時がチャンスよ。隙間から見事な胸筋と腹筋が拝めるわ! 危険だわ! 魅惑的だわ!」


 リリアンは騎士団長を見上げた。

 騎士団長は今白いシャツ一枚。

 とっても戸惑った表情をしている⋯⋯。


 ——そうだわ、思い出したわ! 絶対領域よ!!


 じーっと騎士団長の体を見つめながらリリアンはマリアンヌの手をぎゅっと強く握った。


 それがいけなかった。

 強く握りすぎたのだ。


「あっ! マリアンヌの手が取れちゃった!」


 マリアンヌは姉たちのお下がりの人形でかなり古いので壊れやすいのだ。


「マリアンヌ、ごめんね」

 リリアンは泣きたくなった。


 大事なお友達の手を取っちゃったなんて⋯⋯。もっと大事にしてあげればよかった。


「大丈夫ですよ、リリアン様」

 ジェラルド騎士団長が優しく言ってリリアンの前に膝をつきポケットから小さな薬を出した。


「これは騎士団の秘薬です。素晴らしい薬ですからマリアンヌ様の手の怪我もすぐに治りますよ。さあ、マリアンヌ様、手をこちらへ」


 騎士団長はマリアンヌの手を取って薬を塗ってくれた。それから手をキュキュッと回して手首に戻してくれた。


「ありがとうございます! よかったわね、マリアンヌ!」

 リリアンはマリアンヌをギュッと抱きしめる。


 その時——。


「まあ、騎士団長様の絶対領域が見えるわ⋯⋯」

「なんて眼福がんぷくなの⋯⋯」


 いつの間にか姉たちがそばにいるではないか!


 ——絶対領域が見えるの?


「私も絶対領域が見たいですわ!」

 リリアンは騎士団長の体をじーっと見た。


 姉たちがものすごく興奮しているのだからきっとものすごいものだろうと思った。


 ——騎士団長様の体がキラキラ光ったりピカピカ輝いたりするのかしら!?


「絶対領域ってどこですの?」

「いや、あの⋯⋯」

 騎士団長はゆっくりと白シャツのボタンを全部留めた。

「私も見たいですわ!」

「⋯⋯」

「見たいですわ!」


 必死で言うと、「まいったな⋯⋯」と呟いたあとで騎士団長はこう言った。


「十年後にお見せします⋯⋯」


〜終わり〜

 というわけで十年後の約束が増えてしまいました(汗)十年後の二人も必ず書きます!!

 末っ子令嬢と六歳児に振り回される騎士団長やら姉たちやらを、ちょっとだけ続けようかな、と思い始めたところです、どこからでも読める短編連作です。

 ↓↓下の★★★★★とブクマの評価でご感想を教えて頂けると次作の参考や励みになってすごく嬉しいです!

 お読み頂き本当にありがとうございました^ ^


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― 新着の感想 ―
騎士団員の前で絶対領域の単語が出なくて良かったですね笑 酒の肴になりそうなのが目に浮かびます。
えーーー! えーーー! えーーー! って、10年後増えてるし?! カモンっ! 10年後!
ワチャワチャして可愛いなぁもう
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