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第8話:魔力はある。才能はない

 月日が流れ、俺は七歳になった。


 相変わらず勉強や体づくりの運動、礼儀作法の習得なんかに追われる毎日だけど、充実しているとも言える。そんな俺だが、七歳になると新たな訓練が始まることとなった。それはなんと、魔法の訓練である。


 ――魔法。


 実在するかは別として、前世でも広く知られた言葉であり概念だ。ゲームで、漫画で、アニメで、小説で。様々な媒体で様々な形として描かれるソレは、童心をくすぐる代物だろう。


 『花コン』では女性主人公だと習得しやすく、魔法に特化させると作中でも上位の魔法使いになる。ある程度自由に育成できるため男性主人公でも頑張れば魔法特化で育てられるが、そのあたりはプレイヤーの腕次第かつ好みの問題といったところか。


 ちなみに、俺が魔法の存在を知りつつもこれまで習得に手を出さなかった理由は簡単である。ミナトの魔法の才能が非常に乏しかったからだ。


 『花コン』では各キャラクターに才能値という数値が設定されており、この数値が高いとレベルアップした際に能力値が伸びやすかったり、訓練等で得た経験値で能力値をアップさせる際に必要となるポイントが低くなったりする。


 才能値は1から10の十段階で、数字が大きいほどその分野の才能があることになる。


 たとえば魔法攻撃力の才能値が10あれば攻撃魔法の天才。逆に1なら覚えるだけ無駄ってレベルで才能がない。魔法を覚えられないことはないものの、他の分野を鍛えた方が良いだろう。


 その情報を前提にミナトの魔法の才能値を語るなら、主要キャラの中でもぶっちぎりの最低値である。記憶が正確なら魔法攻撃力1、魔法防御力2だったはずだ。魔法を使うために必要なMPまりょくはそれなりにあるのに、肝心の魔法を使う才能がないのである。


 ミナトは物理特化のため仕方がない――と言えたら良かったんだけど、他の物理特化のキャラと比べても魔法の才能値が低い。それならば物理関連の才能値が高いかといえばそうでもなかった。攻撃力が6、防御力が4となんともいえない数値である。 


 そんなわけで手を出してこなかった魔法の訓練が始まるわけだが、これでも訓練を始める時期としては通常よりも早いらしい。


 魔法は武器と違い、無手の状態でいきなり撃てる。そのため物心がつき、善悪の区別ができ、ある程度一般常識などを覚え、感情の制御ができるようになってから習得するものなのだ。

 いくら天才児で魔法の才能も破格な幼児がいたとして、下手すると数十、数百単位で人を殺めかねない危険物まほうを教えるわけにはいかないということだろう。才能が皆無なミナトには無意味な心配だけどね。


 『花コン』に登場する魔法の属性は七つ。五行思想の木火土金水に光と闇の七つだ。


 ただし木属性に雷の魔法や風の魔法が含まれていたり、水属性に回復魔法が含まれていたりと覚えるのが面倒だったりする。


 木属性は雷や風を使った攻撃や、樹木、草花を操ったり成長を促進したりする。


 火属性はその名の通り火を操った攻撃に特化している。


 土属性は局地的な地震や地割れを起こしたり、地面を操ったり、礫を発射したりする。


 金属性は能力を向上させるバフや相手の能力を下げるデバフなど、補助に特化している。


 水属性は肉体だけでなく状態異常を回復したり、水や氷を操ったりできる。ただし、回復魔法の使い手は割と希少で水や氷を操れるのに回復魔法は使えない者も多い。


 それぞれの属性で特化しているものがあるが、全ての属性の中にバフやデバフの魔法も含まれているため、他の属性が不得意だから攻撃魔法一辺倒になる、みたいなことは起こりにくい。


 それと光属性と闇属性に関しては割と単純だ。ゲームの主人公と隠しキャラの一人が光属性で、『魔王』とそれに属するもの、あとは一部のモンスターが闇属性である。メインヒロインであるお姫様もルートによっては光属性だって判明するけど、この世界だとどうなるか。


 主人公は他の属性魔法も覚えられるけど、光魔法でビームみたいな光線を発射したり、バリアで闇属性の攻撃を防いだりと()()()()()魔法を覚えられる。


 闇属性は攻撃とデバフが主体で、中には確率で即死させる魔法もあったりする。いかにも悪役が使う魔法をイメージすれば大体合っているだろう。


 魔法は属性以外にも等級として下級、中級、上級、最上級の四つでわけられている。中級魔法が使えれば魔法使いとしては一人前だが、中級以上の魔法を覚えるには才能が必須になるようだ。


 ちなみに俺――ミナトが得意な魔法の属性はわからない。


 『花コン』だとルートによっては『魔王』側に取り込まれて闇属性になるけど、その時でさえ魔法を使わなかった。通常時も物理攻撃だけで得意な魔法の属性がわからなかったし、設定すらされていなかったのかもしれない。考察サイトでは性格的に火属性だろうと考えられていたけども。


 さて、そんなわけで俺はナズナと一緒に朝から屋敷裏手の練兵場に向かい、講師となる魔法使いの男性と向き合っていた。うちの騎士団の中でも魔法の扱いに長けた魔法使いである。


「魔法を極めようと思えば才能が必須ですが、修練を重ねればどんな人間でも下級魔法を習得できます。そのため少しずつ魔法の扱いに慣れ、同時にその危険性も学んでいきましょう」


 丈が長いローブに長い杖、そして眼鏡をかけた優男に見える魔法の先生は最初にそんな訓示を述べた。魔法を教えるだけでなく、その危険性に関しても述べるあたりしっかりとした考えを持つ人なのだろう。いや、子どもに教えるんだから当然っちゃ当然なのか?


「どんな人間でもということは、いつ、どこで凄腕の魔法使いと遭遇するかわからないのか」


 学ぶ前にそんなことを尋ねてみる。他者を外見で侮るつもりはないが、その辺の道を歩いているお爺さんが卓越した魔法使いだった、なんてこともあり得ると考えれば怖い。


「可能性はゼロではありません。しかし、あくまで修練を重ねればの話ですから」

「……え、っと? それなら練習すればいいのでは?」


 ナズナが不思議そうに尋ねる。


 今日は一緒の訓練ということでやる気満々な様子だったが、俺と一緒に勉強する機会が多いナズナならではの反応に思わず苦笑してしまう。


「ナズナ、俺達みたいに学ぶこと自体が仕事の一環という境遇の者は少ないんだ。多くの人はその日の糧を得るために働き、自らの手で料理や掃除、洗濯などの家事を行う。残った時間で修練に励むとしても短い時間になるだろう」


 長時間訓練できるとすれば俺達と同じように貴族か、裕福な商人の子か、仕事として体を鍛える兵士か、幼い頃から優れた魔法の才能を見込まれて養育される天才児か。魔法使いの名門みたいな存在がいれば朝から晩まで徹底的に鍛えていそうだけど、精々それらぐらいだろう。


 子どもでもある程度動けるようになったら家業の手伝いをしたり働きに出たりするから、生活の糧を稼ぎつつ魔法の訓練を行うっていうのは厳しそうだ。


「正解です若様。付け加えるなら独学では限界がありますからね。教えられる者がいないと危険ですし、覚えも悪くなります」


 中には勝手に育つような天才れいがいもいますが、と付け足す魔法の先生。それを聞いた俺はなるほどなぁ、と頷く。


「たしかに教える者がいなければ非効率だな。盲点だった。教えに感謝する」

「いえいえ。そういったものも込みで教えるのが師というものですから」


 そう言ってニコニコと微笑んでくるが、おそらくは他人に教えるのが好きな性格なのだろう。


「それでは若様、それにナズナ嬢。今の話を聞いて問題となることはわかりますか?」

「問題、か」

「えっ? えー……えっと……」


 隣に立つナズナへ視線を向けると、目をグルグルとさせながら必死に考えている。それでもチラチラとこっちを見てくるため思わず苦笑してしまった。


「ナズナはまだしも、俺は魔法の修練だけに時間を割くわけにもいかん。つまり、魔法を覚える上で必須となる『修練を重ねる』ことに限界があるな」


 今はまだ()()()と運動の範疇を超えないが、魔法の修練以外にもやるべきこと、学ぶべきことがたくさんある。コハクとモモカにも構いたいし。むしろ向こうから突撃してくるし。


「それと、修練の時間を短縮できるだけの才能があるかも不明だ」


 ミナトにはないんだけどね? 中身は別人だけど、肉体はミナトのものだから才能がないってわかってるんだけどね? それでもすっとぼけるようにして言うと、ナズナが小さく首を傾げた。


「……それって練習する意味? ってあるんですか?」


 才能がない、あるかわからないのなら訓練に励む意味はあるのか? そんなナズナの疑問はある意味当然のものといえるだろう。


「若様はどう思われますか? 魔法を学ぶ意味、あると思いますか?」


 そして何故か俺に振ってくる魔法の先生。父親であるレオンさんといい、俺を試すように質問を頻繁に投げてくるのは何故なんだろう……地味にプレッシャーなんだけど。


「もちろんだ。仮に才能がなくても魔法に関して学べば大いに役立つだろう。どんな魔法があり、どんなことができ、魔法使いとはどんな存在で、どんな長所や短所があるのか……それらを知識と実践で学ぶ意義は大きいと思う」


 とりあえずペラ回してそれっぽいことを言ってみる。


 広く浅くって言うと節操なしに聞こえるかもしれないけど、何事も知らないよりは知っている方が良いだろう。生兵法は大怪我の基だから『知っていること』を過信するのは駄目だけどね。


 それと俺の立場上、魔法の才能がないのは仕方がないとして、知識もないってなるとサンデューク辺境伯家ではどんな教育をしているんだって馬鹿にされかねん。


 貴族っていうのは面子商売だから、馬鹿にされたら黙っているわけにもいかない。もちろん辺境伯家の人間相手に真正面から馬鹿にする度胸がある者は早々いないだろうけど、『花コン』だと落ち目になったミナトは周囲から馬鹿にされていた。

 学園って建前上、貴族出身でも()()()()()()になるからヘマをやらかしすぎると風評が大変なことになってしまうのだ。


 そういうわけで俺が魔法に関して学ぶのは最早義務に近い。できるなら知識だけでなく、最低限でも良いから魔法が使えるようになっておきたい。

 魔法の修練だけに時間は割けないが、学ぶための環境と時間が年単位で用意されているのだ。


 そうなると、『努力したけど駄目でした』で評価される立場ではない。苦手分野だけど努力して最低限、できれば人並みに使えるようになるのがスタートラインだろう。


(ふふふ……考えるべきこと、やるべきこと、覚えることが多すぎてお腹痛くなりそうだわ)


 澄まし顔をしているけど、内心では冷や汗ダラダラだ。胃壁に汗を掻きそう。


「若様の仰る通りです。知識というのは一種の力であり、持ち運びができる財産ですからね。魔法を使いこなせるに越したことはないですが、まずは知らなければ何事も始まりません」


 魔法の先生はそう言うと、表情を真剣なものに変えて俺とナズナを見る。


「それでは早速訓練を始めたいと思います。魔法を扱うための最初のステップ……まずは魔力を感じ取るところから始めましょう」


 表情と同じく真剣な声でそう告げられ、魔法の訓練が始まった。






 始まった……けど。


「両足を軽く開き、顔を正面に向けて体を真っすぐにしながら立ってください。姿勢を保つ時は筋肉に頼らずバランスを意識して脱力して……そう、自然体を保ってください」


 ここまでは良かった。自然体で立つっていうのも、大体のニュアンスは伝わってくる。


「いいですよ若様、その調子です。そしてそのままグッと腹に、丹田に力を入れてください。グッとですよ、グッと」


 この段階で俺は内心首を傾げていた。子ども相手だから擬音を使うのはわかるけど、ちょっとアバウト過ぎない? って。


「その状態でいると腹の底からぶわっと魔力が出てきます。それを感じ取ってください」

「…………」

「人によっては腹ではなく全身……体の周りに湯気が漂っているように感じることもあります。モワーッとです。はい、意識を集中して、普段と違う感覚を探してください。グググっと!」


 横目でナズナを見ると、真剣な様子で集中している。その素直さは子どもの特権だろう。俺? 今の時点で集中力がもたない。


(か、感覚的過ぎて参考にならねぇ……本当にこれでいいのか?)


 教える者が必要って言ってたけど、コレ本当にいる? 勝手に育つ天才っていうのは擬音で会話できる人のことなの? もしくは子ども相手だから擬音を多くしている?


 そんな考えが浮かんだものの、とりあえず続けてみる。何事も挑戦だ。ツッコミどころ満載でもまずはやってみて、それから文句の一つも言うべきだろう。

 『花コン』の世界なら魔力はあるよね、という認識のもと意識を集中する。魔力はある、あるのだ。意識すれば知覚できる、できるのだ、なんて自分に言い聞かせる。


(意識を集中して……魔力という存在があると信じて……普段と違う何かを感じ……ん?)


 そうしていると、なんとも形容しがたい違和感があった。意識を集中すれば手のひらの熱気を感じ取れるように、『何か』の存在を知覚する。


(あれ? もしかしてコレが魔力か? ミナトって魔法が苦手だったよな? それとも魔力ってこんなに簡単に感じ取れるものなのか?)


 腹の底でも全身でもないが、たしかに違和感があった。擬音混じりで半信半疑な説明だったが、実は最適な説明だったのか。世の中には不思議が溢れている。


 そんなことを考えながら意識を集中させていると、不意に手の中にズシッと、何かが出現した感触が伝わってくる。そのため視線を向けてみると、右手に一冊の本が現れていた。


 え? なにこれ、本? なんで? え、なんで? 怖い。


 『花コン』の世界で本っていうと『想書』が真っ先に思い浮かぶ俺だけど、明らかに見た目が違う。手の中に現れた本は全体が黒色、そこに金色の模様という派手な装丁がされており、何より手に馴染む感じがした。


「こっ……れが魔法……か?」

「……いいえ、それは『召喚器』……かと」


 思わず口から飛び出しそうになった悲鳴を飲み込み、数秒経って絞り出すようにして尋ねてみると、これまた数秒かけて絞り出すようにして返答があった。


 ああうん、そっか。魔法じゃなくて『召喚器』か。なるほどなー。


 ――『召喚器』。


 それは『花コン』に登場するキャラクター達が扱う特殊な道具だ。


 形状は様々で、剣や弓、槍や銃といった武器。鎧や盾、手甲や脚甲といった防具。中には旗や太鼓、ビーカーに入った薬なんて特殊な形状の物もあったりする。本型の『召喚器』もゲームで登場するが、少なくともミナトが扱うものではなかった。


(あれぇ……ミナトの『召喚器』って剣だったよな? 本……本? なんで本?)


 記憶違いか。いや、ミナトが使っていたのは間違いなく剣の『召喚器』だ。剣の『召喚器』を構える立ち絵があったし、主人公に『召喚器』を粉砕されるCGがあったし、間違いない。


(これどう見ても剣じゃなくて本……『召喚器』が違う? なんで? 実はこの形状で剣? ペンは剣よりも強し? これペンじゃなくて本だけど……あっ、角で殴る?)


 混乱しつつ本を両手で持ってフルスイング。ブン、と鈍い音が鳴ったものの、やっぱりこれって本だよねって結論に落ち着く。


「す、すごいですわかさまっ! しょーかんきはふつう、もっと大きくなってからしか使えないってお父様が言ってました!」

「え、うん……うん。ありがとう、ナズナ」


 ナズナが興奮した様子でヨイショしてくれるけど、まったくもって嬉しくない。


(えぇ……『召喚器』が違うってことはゲームとは違うのか? 『魔王』が世界を滅ぼさない? もしくは俺はミナトじゃなかった? いや、俺はミナトじゃなかったわ。だからか?)


 ()()が違うから『召喚器』も違う物になった、と考えれば納得はできる。俺としては『花コン』のように『魔王』が発生せず、世界が滅ぶようなこともなければそれで万々歳なんだけど。


「…………」


 ふと、魔法の先生が険しい顔で俺の『召喚器』を見ていることに気付く。無言で睨むようにして、考え込むようにして。


「……どうした?」


 雰囲気が一変したことに内心でビビりつつ、疑問をぶつける。すると魔法の先生はハッとしたように表情を和らげると、膝を折って俺と目線の高さを合わせた。


「若様、その『召喚器』を使用することはできますか?」

「え? 使用って……どうやって?」


 魔法の先生の言葉に俺は首を傾げる。


 『召喚器』は特殊な能力を持っている物が多い。というか、『花コン』の登場人物が使う『召喚器』は全部が全部、特殊な能力があった。

 しかしながら『召喚器』を発現させたからといって即座に能力が使えるわけではなく、ある程度の慣れだったり切っ掛けだったりが必要だったはずだ。


 『花コン』では『召喚器』を発現させる『召喚』、ある程度『召喚器』の能力を使える『活性』、『召喚器』の能力を全て引き出せる『掌握』、そして俗に言う必殺技が使える『顕現』の四段階に分けられていた。


 『花コン』のミナトの『召喚器』は斬りつけた相手にデバフを与える――能力値を一時的にダウンさせる能力があった。この本型の『召喚器』をフルスイングして頭を殴れば脳震盪という名のデバフを与えられそうだが、それは特殊能力ではなくただの物理攻撃だろう。


 ちなみに『召喚器』には名前があり、四字熟語を元にしているというゲーム開発者のコメントがあったりする。ミナトの『召喚器』は『陰我押法いんがおうほう』という名前だ。


(本の『召喚器』っていうと隠しキャラがそうだったけど、アレとは見た目が違うしな……本だから読めばいいのかな?)


 とりあえず疑問を棚上げして本を開いてみる、が――中は真っ白だった。


「…………?」


 ページをめくってみるものの、文字が書かれていることもなければ絵が描かれていることもない。百ページほどの白紙が綴じられた、ただの本である。中身が真っ白という点では『想書』と変わらないだろう。


 『召喚器』である以上、何かしらの効果や能力があるはずだが――。


「コレ、どうやって使うんだ?」


 わからん。皆目見当もつかん。


 『召喚器』は外見と能力が割と連動していて、剣なら斬ると何かしらの効果があったり、剣から炎やらビームやらが出たり、鎧なら滅茶苦茶頑丈だったり、使用者の体力を回復したりする。


 武器なら攻撃、防具なら防御、杖なら魔法、その他の形状は何かしら特殊な能力を持っていることが多かったはずだが。


(となると、コレも特殊なタイプの『召喚器』か? 本型なら魔法系もあり得るけど……本として使うと何かしらの効果があるとか? 書くことで何か起きるとか、そんな感じか?)


 とりあえず練兵場の端で控えていたメイドさんに筆記用具を持ってきてもらう。万年筆や羽ペン、鉛筆にチョークと様々だ。そしていざ実践……ん?


「あれ……何も書けないな」


 物は試しと書き込もうとするが、どの筆記用具でも文字を書くことができなかった。ペン先が表面を滑るというか、インク自体がつかないというか。もしやと思って『想書』に付属している羽ペンを使ってみても、何も書くことができない。


(えぇ……なにこれ、怖っ。どういうことなの……)


 インク壺から直接インクを垂らしてみても紙面から滑り落ちるだけで汚れすらしない。手触りは前世で使っていたノートの用紙を上等にした感じで、何も異常はなかった。


「若様、どうしたんですか?」

「いや、これがな……ちょっと手伝ってくれるか?」


 ナズナが不思議そうな顔で俺の『召喚器』を覗き込んできたため、万年筆を渡して何か書かせてみようとするが結果は変わらず。


 まさか破って使うのかと力を込めてみるが、手触りや外見に反して破れる気配はなかった。


 なんだこりゃ、ケツを拭く紙にすらならねえ。まさか服の下に仕込んで防具にでもしろっていうのか。いや、この頑丈さなら武器になるか。本の角で殴れば立派な鈍器だ。


(待て待て、待とう俺。リーチが短すぎるし絶対違うって。ミナトの『召喚器』も剣なのに能力はデバフ付与だったし、別の使い方がある……といいなぁ)


 あるとすれば、魔法を強化するとか。あるいは形が違うだけで相手にデバフを付与するとか。


「若様、講義の途中ですが至急報告しなければならないことができました。少々席を外します」


 俺が頭を悩ませていると、そんなことを言って魔法の先生が立ち去る。有無を言わさず、といった様子で俺もナズナも反応が遅れてしまう。


「……若様、これからどうしますか?」

「どうしようか……」


 いっそのこと燃やしてみるか。燃え尽きてもまた召喚すればいいし、丁度秋の季節だから美味しい焼き芋でも焼こう。屋敷裏手の畑でお願いすれば芋の一本か二本ぐらいくれるだろ。


 なお、俺の『召喚器』は火に放り込んでも燃えなかった。

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― 新着の感想 ―
燃やすなよwwww
燃やすんかい。 最近ブリーチ一気読みしたので四文字熟語の召喚器バトル楽しみですな。
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