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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第4章

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第86話:東の大規模ダンジョンへ その1

 今の体に生まれ変わり、幼い頃から剣を学んできて一つ、気付いたことがある。


 それは訓練は訓練でしかなく、実戦は別物だということだ。


 当然ながら訓練も大切だ。肉体を作り、基礎を固め、基本的な技を修め、型を体に馴染ませ、実戦に備える。個人差があるんだろうけど、実戦でどれだけ動けるかは訓練をどれだけ積んできたかっていうのが大きい。

 俺が初陣で野盗の頭目を斬れたのも、訓練で身についた動きが自然と出たからだ。


 それらから考えてもなお、訓練と実戦はつながりこそあるものの別物だと俺は思う。いくら長い間厳しい訓練を積んだとしても、実戦で動けない者は動けないのだ。実戦でいきなり活躍できるかは()()()()()()()が物を言うんじゃないか、と若輩ながら思うわけで。


 俺の場合はランドウ先生に叩き込まれてきたスギイシ流の動きが実戦を可能としたが、世の中には素人だろうと才能だけで戦えるような化け物がいるのだろう。いや、素人だからこそ実戦に放り込まれても向こう見ずに戦えるのかもしれないが。


 そんなわけで、ランドウ先生が口にした一生を懸けて少しずつ強くなっていくというのは、日々の訓練の積み重ねによるものになる。

 既に実戦を乗り越え、ある程度の水準に達したからこそ基本に立ち返り、紙を一枚一枚重ねていくようにして強くなっていく。


 逆に、強くなるための時間を短縮できる()()()()()というのは、実戦を主体としたものになるのだろう。それが人間相手ではなく、大規模ダンジョンに潜っての鍛錬となると驚いたが。

 ランドウ先生のことだから、野盗を探して狩るか、ぐらいのノリで対人戦の実戦を経験させてくるかと思ったんだが……こんなことならわざわざ呼ばず、手紙を出してこっちからランドウ先生の方に行けば良かったか。二日程度の道程とはいえ、こっちに来てもらって申し訳ないわ。


「ランドウ……たしかにお前を呼んだのは俺だが、大規模ダンジョンにミナトを連れていく? 本気か?」


 さすがに俺の一存では判断できないと考え、レオンさんに話をしにいったら当然ともいえることを言われてしまった。

 そんなレオンさんに対し、ランドウ先生は気安く肩を竦めてみせる。


「正気か、とは尋ねないんだな?」

「俺だって剣を学んできた身だ。何人も斬っているし、ダンジョンにも挑んだことがある。その経験から言えば、ダンジョンに挑むのは手っ取り早く経験を積むのに向いているだろうさ……それが大規模ダンジョンでなければな」


 レオンさんは頭痛を堪えるように眉間を揉み解しながらそんなことを言うが、ダンジョンに挑むこと自体は止めないらしい。我が父ながら、案外やんちゃなところがあるからだろうか。


「中規模ダンジョンに潜ってボスモンスターを見つけて戦わせてもいいんだが、探すのが手間だ。それなら最初からミナトの訓練になる強さのモンスターとぶつけた方が早いだろ」

「……お前の目から見て、ミナトは()()()()に在ると?」 

「今はギリギリってところだが、経験を積ませていけばすぐに慣れるだろ。俺の弟子だぞ?」


 とりあえず二人の会話に嘴を挟むわけにもいかず黙っていたけど、なんか、ランドウ先生からの評価が高い気がする……嬉しいけどやめてほしい。プレッシャーですよ先生。これで醜態を晒したらと思うと胃が痛いですよ先生。


「ふぅ……ミナト、お前はどうしたい?」


 レオンさんは判断を俺に任せることにしたのか、話を振ってくる。俺としては挑むとしても中規模ダンジョンが適正だと思っていたが――。


「ランドウ先生がこう仰ってくださっているんです。後学のためにも大規模ダンジョンに挑んでみたいと思います」


 ランドウ先生がここまで言うのだ。多分、ギリギリだけどなんとかなるんだろう。さすがに俺単独で放り込まれるわけじゃないだろうしな。


「でも一応聞いておきますけど、俺を一人で大規模ダンジョンに放り込むわけじゃないですよね?」

「当たり前だろ。なんだ? 一人で挑んでみたかったのか? 入ってすぐの浅いところなら問題はないだろうから、お前が挑んでみたいっていうのならそれでも構わんが……」

「いえ、確認してみただけです。お願いですから同行してください。本当、お願いですから」


 さすがにこの世界でもトップクラスの危険地帯に単独で挑むのは自殺行為だ。いやでも、『王国北部ダンジョン異常成長事件』の経験からいえば、単独か少人数で気配を隠しながら移動し続ける方がかえって安全かもしれないけどさ。


(気配の殺し方はランドウ先生に習ってるけど、大規模ダンジョンにいるモンスター……最低でも中級のモンスターに通じるか? リッチが相手なら色々やって誤魔化せたけどさ……)


 大規模ダンジョンは最低でも中級、下手すると上級のモンスターが出てくる魔境だ。俺が回復ポーションを使ってなんとか倒したデュラハン並のモンスターが群れを成している場所、そう思えばどれだけの危険地帯か。


 いや、さすがにあのデュラハンクラスのモンスターは少ないかな? 『花コン』を基準とするならボスモンスターとしてステータスが盛られていただろうし、中規模と思しき異常成長したダンジョンのボスモンスターだから上級モンスターの中でも強めぐらいのはずだ。


(さすがに群れでいるってことはないか? 『花コン』だといくら大規模ダンジョンっていっても中級のモンスターが基本だったし、そこに強い雑魚敵として上級の……それこそドラゴンがいたりしたけど……十分ヤバいか)


 大規模ダンジョンはやっぱりヤバい。俺がそんな結論に着地していると、複雑そうな顔をしたレオンさんが頭痛を堪えるようにして言う。


「……まあ、強くなりたいけど危険な目に遭いたくないっていうのは虫が良すぎるか。今以上に強くならないと将来が不安っていうミナトの心配もわかるしな……」


 そう言いつつ、レオンさんは執務用の机の引き出しを開けて何やら漁り出す。そうして取り出したのは一通の手紙で、俺に向かって差し出してきたため首を傾げながら受け取った。


「お前も知っているだろうが、大規模ダンジョンの近くには有事に備えていくつか城塞都市を築いてある。その内の一つ、カールソンにフェリクスが魔法部隊を率いて駐屯しているから、大規模ダンジョンに挑むならモンスターの間引きもしてきてくれ」


 レオンさんが口にしたフェリクスというのは、俺が幼い頃に魔法を教わった先生である。


 丈が長いローブに長い杖、顔は眼鏡をかけた優男風と魔法使いらしい外見だが、俺の魔法の才能がなさすぎることから教師として留め置くのは勿体なさ過ぎるということで解任。今は騎士団の魔法使いを集めた魔法部隊の隊長を務めている。


 騎士団の中でも数少ない上級魔法の使い手で、モンスターの間引きやダンジョンを破壊する際は駆り出されて重用されていた。


「わかりました。渡しておきます」

「うん、あとは無事に……ランドウがいるから死ぬことはないだろうけど、五体満足で帰って来なさい。それと定期的に顔を見せに来ること。いいね?」


 そういって大規模ダンジョンに挑む許可をくれたレオンさんに、俺は大きく頷いて返すのだった。






 そして、ランドウ先生の休養と諸々の準備、それに加えて対人戦の訓練としてランドウ先生相手に斬りかかる日々を一週間ほど送ってから屋敷を出発し、愛馬を操りラレーテの町から東へ二日。


 せっかく屋敷に帰ってきたのにすぐに旅立とうとする俺を見て、泣きそうな顔で引き留めるモモカをなだめるのに苦労したが、それでもなんとか出発した俺は城塞都市カールソンへ到着した。


 馬を潰すぐらい飛ばせば一日で到着する距離だったが、そこまでする必要もなかったため少数での旅に慣れるべく二日かけて移動し、到着した城塞都市カールソンを見て感嘆の声を上げる。


「おお……こりゃまた立派な……」


 王都も高くて分厚い城門や城壁があったが、カールソンは城塞都市の名に相応しく、王都にも負けないぐらい立派な城門や城壁を備えていた。

 それでいて王都のどことなく見栄えを意識した造りとは異なり、外見より性能重視、頑丈で質実剛健といわんばかりにガッチリとした造りになっている。


 仮に大規模ダンジョンからモンスターが溢れ出しても防衛戦をできるよう、ラレーテと同じく星型要塞として造られ、城壁の傍には水堀まで設けられた防衛力の高い城塞都市だ。

 もっとも、王国の最東端は複数の隣国とも接するため、大規模ダンジョンだけではなく隣国の侵攻にも備えているからこそ、ここまで防衛設備が整っているのだろう。


(初陣の時は歩兵がいたから時間がかかったけど、馬に乗って移動すればこんなに早く移動できるんだなぁ……)


 初陣では大規模ダンジョンの近く、国境線の傍まで来たが、その時は歩兵もいたため移動だけで六日間ほどかかった。


 今回は俺、ランドウ先生、そして大規模ダンジョンだろうとついていくと言って本当についてきたナズナの三人で、全員馬に乗って移動してきたため時間の短縮ができたわけである。


 初陣の時はナズナを俺の馬に相乗りさせたが、さすがに今回は長距離をそれなりの速度で移動するため個別に乗馬することとなった。初日の早朝に発ち、夕方に町に寄って一泊。翌日早朝に出発して夕方にはカールソンへ到着だ。


 ちなみにランドウ先生は単独なら馬を走らせ、馬が疲れたら降りて併走し、馬が回復したら再び乗ってと今回以上の速度で移動できるらしい……が、俺はそこまで人間を辞めていないため素直に馬に頼らせてもらった。


(そういえば……今更だけど、こんな少人数で行動するのって今の人生だと滅多になかったな。いや、むしろ初めてか?)


 カールソンの城門へと向かいながら、ふと、そんなことを思う。


 幼い頃からどこへ行くにも護衛がいたし、それはある程度成長してからも変わらない。サンデュークの屋敷の中だろうと常に兵士がいたからこうして少人数での旅は新鮮だった。

 比較的安全な王都でさえ少数とはいえ護衛を連れて歩いていたほどである。うん、安全なはずなのに『魔王の影』と遭遇したし、どんな技を使われたのか護衛を担当していたゲラルド達とも引き離されたけどさ。


 ちなみにゲラルドは来年に王立学園への入学が控えているし、ナズナが俺の傍付きに復帰したため実家へと戻っている。別れる際、ナズナを微妙な表情で見ていたのが印象的だったが……。


(以前言ってたけど、俺がナズナを振り回すと思ってるのかね?)


 俺の傍付きを務めるのは大変らしい。まったく、どこが大変なんだ……なんて思ったけど、大規模ダンジョンに挑みに来た現状を振り返ってみれば普通に大変だったわ。


「とりあえず、明日から挑むとしてまずはこの町で食料を買い込むぞ。俺一人ならダンジョン内で仕留めたモンスターを焼いて食うんだが、成長期のお前らは栄養にも気を遣わないといけないからな」

「ありがとうございます、先生」


 さすがは年単位でダンジョンに潜っていた人だ。平然とモンスターを食べるとは……まあ、ドラゴンの肉とかなら俺も食べてみたいけどさ。


 そんなわけで城門へと到着し、順番を待って門兵に家紋入りの短剣とレオンさんが用意してくれた書状を見せる。軍役の時みたいに家紋入りの馬車に乗っているわけでもないし、今回のために用意した俺の身分証だ。


「えっ……サンデュークの若様!?」


 門兵が書状と俺の顔を見比べ、本物かと疑うように目を見開く。ラレーテの町なら俺の顔も知られているから疑われないんだけど、さすがに初めて来た町だとそうもいかないようだ。


「俺が保証する。それでいいだろ?」


 だが、疑う門兵にランドウ先生がそう告げると門兵が背筋を正した。初陣の時に野盗でさえ知っていたが、大規模ダンジョンに繰り返し挑んでいるランドウ先生ともなると門兵も顔と名前を憶えているらしい。


「なるほど、スギイシ殿は若様に剣を教えた方でしたな。貴方以上の保証は早々ないでしょう。そちらの女性は……」

「ウィリアムの娘だ。俺の従者として同行している」

「騎士団長閣下の……わかりました。お通り下さい」


 しっかりと身分を照会してから門を通す門兵に、国境線が近いと警戒も厳重だなと感心する。兵士一人ひとりの練度が高く、技量だけではなく職務への熱心さも垣間見えた。


(それでも、『魔王』が発生するとこの町も()()()()んだよな……)


 『花コン』を基準にし過ぎるとまずいかもしれないが、ルートによっては東の大規模ダンジョンで魔王が発生する。その際、津波のように押し寄せるモンスター達に王国東部が蹂躙され、大きな被害をもたらすのだ。


 ナズナルートでも東の大規模ダンジョンで『魔王』が発生するが、その時に主人公達が駆け付けるまでの時間を稼いだのが『名前のない英雄』――すなわちウィリアムになる。


 しかしウィリアムでも時間稼ぎが精いっぱいで、主人公達が駆け付ける時間を稼ぎ出すものの配下の騎士や兵士含めて文字通り全滅することとなる。

 つまり、東の大規模ダンジョンで『魔王』が発生すればこのカールソンの町も灰燼と化すわけで。


(…………むぅ)


 首の裏あたりがざわめくような、冷や汗が浮かぶような、嫌な感覚があった。


 『魔王』が発生するのが東の大規模ダンジョンで確定しているわけではない。だが、特定のルート以外なら破壊されていない東西南北の大規模ダンジョンのいずれか、ランダムで『魔王』が発生するため最低でも四分の一の確率で発生することとなる。

 これを絞るには一ヵ所だけ大規模ダンジョンを残す、なんて選択肢もあるにはあるのだが。


(グランドエンドのルートに入るには大規模ダンジョンを全て破壊する必要がある……でも、破壊できるか?)


 大規模とつくだけあって、大規模ダンジョンは本当に広い。異常成長した中規模相当のダンジョンでさえ滅茶苦茶広かったが、比較するのもおこがましいほどの広さがあるのだ。


 どれぐらい広いかというと、この世界の測量技術では正確な広さがわからないほど広い。東の大規模ダンジョンは複数の国家、複数の国境線にまたがるほど広大で、総面積は一国に相当するとも言われている。


 つまり最低でも中級、下手すると上級のモンスターと遭遇する危険地帯に長期間潜り続け、ボスモンスターを探し出して倒す必要があるわけだ。


 これが『王国北部ダンジョン異常成長事件』の時みたいに、ボスモンスターの方から襲ってきてくれるならまだ楽かもしれない。軍を率いて遠距離から魔法で削りつつ、腕自慢を率いて近接戦闘を仕掛ければ勝ち目があるだろう。

 だが、あのデュラハンは例外だと俺は思っている。『花コン』でも大規模ダンジョンを攻略しようと思えばダンジョンの最奥まで進み、大規模ダンジョン固有のボスモンスターを倒す必要があった。


 それがこの世界だとどうなっているか。


(……まあ、そのあたりは実際に挑んでみればわかるか)


 大規模ダンジョンは城塞都市カールソンから馬で一時間とかからない場所にある。また、ダンジョンのすぐ傍に()()()()としてちょっとした宿泊施設や商店、騎士団の駐屯地も用意されていたはずだ。


 大規模ダンジョンに挑むのは明日からになるが、一体どれほどの危険が待ち構えているのかと俺は密かに身震いをするのだった。

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― 新着の感想 ―
ナズナの扱いがわからない。 強制的にそば付きからはずされたのに自分の意思で復帰できるの?外した人間が問題なしと判断して初めて戻れるのが普通では?
ウィリアムが100人いてもリンネ1人すら何とか出来るイメージがわかないのですが。どうやって魔王を1日も足止めしたんだろう。 ミナトは修行だから1人はわかるけど、ナズナには護衛付けようよ。レオンさんや…
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