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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第2章

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第43話:救出作戦 その2

 モリオンが示した方向へ進むこと三十分少々。 


 ダンジョン化した影響で木々が生えて進路が遮られ、モンスターも襲ってくるため五百メートル程度の道のりが遠く思えたが、それでも目的の場所まで辿り着くことができた。土属性魔法で作ったと思しき壁が見えたのだ。


 高さ二メートルほどの分厚い土の壁の上で兵士達が槍や剣を振るい、飛び掛かってくるモンスター達を必死に迎撃しているのが見えた。

 だが、兵士の数はそこまで多くない。十人に満たない数で懸命にモンスターを防いでいる。


「っ! 若様、モンスターがこちらに気付いた模様! 一部がこちらへ!」

「迎撃用意! 『召喚器』を使える者は使え! 魔法も火属性以外なら構わん! 撃て! 援軍の存在を知らせろ!」


 土の壁の周囲には息絶えたモンスターが何体も転がっているが、それに構わず攻め立てていたモンスターの一部が向かってくる。そのため即座に命令を下し、俺は周囲に視線を走らせた。


(モンスターの数は……全部で十と少し。獣系ばっかりだが厄介そうなのは……っ!?)


 指揮官として周囲の警戒をしていたのが功を奏したのだろう。木々に潜むようにして()()がいるのに気付いた俺は即座に剣を抜く。


 そこにいたのは、黒いボロボロのローブを羽織った骸骨。そうとしか形容できないモンスターだった。


「リッチが潜んでるぞ! 総員、魔法に警戒しろ!」


 俺が気付いたことに反応したのか、リッチの周囲が黒く染まる。


 『花コン』においてリッチは中級の死霊系モンスターであり、魔法特化の存在だ。中規模ダンジョンならエンカウントしてもおかしくない存在ではある――が。


(なんで死霊系モンスターまで出るんだよ!?)


 ダンジョンに出現するモンスターは多少なりとも法則性があるはずだった。獣系に軟体系、亜人系は共存し得るとしても、死霊系まで出てくるダンジョンは『花コン』にもなかったのである。


 そしてリッチを含めた死霊系モンスターが厄介なのは、闇属性の魔法を用いる点だ。これが非常にまずくて危険だった。 


 闇属性魔法の何が危険か? それは、下級の闇属性魔法でさえ確率で即死することだ。


「――ああくそっ! こっちを向けよ骸骨野郎!」


 リッチの気を引くように叫び、馬の背から跳ぶ。彼我の距離は二十メートル程度。一息に詰められる距離じゃないし、他のモンスターの対処をしている味方に魔法を撃たれるとまずい。


 そのためのおれだ。


 リッチは俺の行動を見て馬鹿にするように笑った気配がした。そりゃあそうだろう。指揮官が囮になるなんて、やるべきことじゃない。それはわかっているが。

 飛んできた闇属性の下級魔法、『黒弾こくだん』を斬って無効化するのはこの場では俺しかできない。


 スギイシ流――『一の払い』。


 空中で使ったことはなかったが、落下する勢いを乗せて魔力を込めながら剣を振り下ろせば存外なんとかなった。闇の塊という実体がなさそうな魔法だというのに手応えを感じつつ、『黒弾』を両断して霧散させる。


『ッ!?』


 リッチが驚愕するように気配を乱れさせた。そしてその隙を突くようにゲラルドが槍を構え、一直線に駆けていく。


「あああああああああああああぁぁっ!」


 気合いの声、と呼ぶには恐怖が滲んでいた。それでもゲラルドはリッチに向かってまっすぐに突っ込み、踏み込み、槍を一直線に繰り出す。

 だが、リッチはローブを羽織っているが中身は骸骨だ。ゲラルドが繰り出した槍はリッチの肋骨を削りこそしたもののそのまま突き抜け、背後の木へと突き刺さる。


「よくやった! そのまま逃がすな!」


 着地した俺が一気に距離を詰めるのを見たリッチは慌てた様子で距離を取ろうとするが、肋骨を通って木に突き刺さった槍がそれを邪魔する。


 その場からロクに動けず、それならば迎撃の魔法を――と考えたのだろうが、遅い。


 リッチが右手を向けてきたが、距離を詰めた俺は剣に魔力を乗せたままで瞬時に右腕を斬り飛ばす。そして返す刃で剣を横薙ぎに振るうと、リッチの首を両断した。


「若様! あまり無茶をしないでください!」


 地面に落ちたリッチの頭を踏み砕いてとどめをさしていると、慌てた様子で兵士が声をかけてくる。それを聞いた俺は傍で固まっているゲラルドの肩を叩きつつ、苦笑を浮かべた。


「すまない。だが、リッチに中級魔法を撃たせるわけにはいかなくてな」


 俺が囮になったことで『黒弾』を使ってきたが、リッチはより強力な闇属性魔法である『暗殺唱あんさつしょう』を使うことができる。


 『黒弾』は敵単体にダメージに与えつつ、確率5%で即死させる。『暗殺唱』はダメージはないが()()()()20%の確率で即死させるという、下手すると一発で全滅しかねない魔法だ。


 即死する確率はそこまで高くないが、こっちは三十人だから単純計算で六人が死んでいただろう。運が悪ければもっとだ。


(『花コン』なら確率でも、現実だとどうなるかわからないしな)


 もしかすると確率なんて関係なく、当たれば即死することもあり得た。こればかりは実験するわけにもいかず、高速で飛んでくる魔法に対して魔法で相殺を狙うのも難しかったため、『一の払い』で斬ることを選んだ俺だった。


「若様、周囲のモンスターの掃討が完了しました。負傷者は軽傷が四名、重傷が二名です」

「軽傷者には薬で手当を行え。重傷者には回復魔法を使って構わん」


 ダンジョンで何日間防衛すれば良いかわからないため、重傷者はともかく軽傷者には普通の治療で勘弁してもらう。普通の治療といってもポーションより効果が低い上に即効性がないものの、多少の傷なら早く治せる軟膏を塗って包帯を巻くだけだが。


「何故救助対象が動かないのか不思議でしたが、疑問が解けました。あの場所から出るとリッチに襲われるからだったんですね」


 兵士を魔法で援護していたモリオンが納得した様子でそんなことを言ってくる。それを聞いた俺はなるほど、と頷いた。


 『花コン』を基準にして考えすぎるのは危険だが、『黒弾』はダメージこそあるが物理的な破壊は伴わなかったはずだ。当たると滅茶苦茶痛いが骨が折れたりはしない感じだろうか。『暗殺唱』も物理的な効果はなく、土の壁を築いて隠れれば防ぐことができると思われた。

 もしもリッチが魔法を撃ってくれば壁の中へと逃げ込めば良い。リッチもMPが無尽蔵にあるわけではなく、他のモンスターが土の壁を破壊するのを待っていたのだろう。


(そこに俺達が来たから標的を変えたって感じか? もしも見落としていたら……)


 単純なダメージではなく、即死効果がある魔法が飛んでくるとなると洒落にならない。救助対象を発見したことで索敵の兵士も戦闘に参加していたのが仇となったようだ。

 まあ、その辺りの反省は後回しである。今はやるべきことがあった。


「サンデューク辺境伯名代、ミナト=ラレーテ=サンデュークだ! 諸君らを助けに来た!」


 数時間、この場で耐え忍んだであろう者達へ声をかける。すると土の壁の上にいた兵士達が顔を見合わせて歓声を上げた。

 大きな声を上げるとモンスターが寄ってくるからほどほどにしてほしいが、気持ちもわかるため苦笑するに留める。俺は土の壁に近付くと、地面に転がるモンスターの死体を見た。


(獣系、軟体系……げっ、鳥系モンスターもいる。何でもありだなこのダンジョン……)


 鳥系のモンスターはキラーバードという下級のモンスターで、HPや防御力が低い代わりに攻撃力や素早さが高い。鴉を巨大化させて嘴を刃物のように鋭くした外見で、真っすぐ突っ込んできたら槍の一突きにも勝る威力になるだろう。

 他に転がっているモンスターは全て下級ばかりで、先ほどのリッチが例外だと思われた。


 仮にリッチがダンジョンのボスだったらダンジョンも崩壊を始めているはずだが、おそらくは低確率でエンカウントする強敵みたいな感じなんだろう。というか、出現率が低くないと困る。即死効果のある魔法をばら撒くモンスターなんて出てきてほしくない。


 俺は斥候に周囲を警戒させつつ、モンスターがきちんと死んでいるか兵士に刃物で刺して確認するよう命令を出す。そしてキドニア侯爵家の面々に陣地から出てくるよう促した。


「サンデューク辺境伯家の名代殿。救援、心から感謝いたします」


 真っ先に出てきたのは騎士らしき若い男性である。若いと言っても俺より年上で二十歳ぐらいか。体のあちらこちらに返り血が付いているため、おそらくは指揮を執りながら本人も剣を振るってモンスターを撃退していたのだろう。


「日暮れ前に見つけられて良かった。こちらは軍役の途中だったが、現在、アルバの町とトーグの村で防衛戦の用意を進めている。我々はトーグの村へ戻るが同行願えるか?」


 一応、相手の意思を尊重する形で提案する。アルバの町の方が防衛に向いているけど、今から行こうと思ったら日が暮れるし、リッチが出現するとわかった以上危険すぎる。そのためトーグの村に行く形で進めようとするが、騎士の男性の反応が鈍い。


「こちらからお願いしたいぐらいですが、その……」


 そう言いつつ、背後を気にする素振りを見せる。それを見た俺は眉を寄せ、沈痛な面持ちを作った。


「何人やられた?」

「八人が死亡しました。護衛についていた兵士二十人の内、五人がリッチの魔法で即死。防衛している間に怪我人も……手持ちのポーションで治していたのですが、それが尽きてから二人が死亡。重傷者四名。軽傷者が三名です」


 死者八名、負傷者七名となると相当な被害だ。防衛に参加している兵士が少なかったのは単純に人手が足りず、軽傷者まで駆り出してのことだったのだろう。


「……あと一人は?」


 そして俺は、緊張で心臓が縮みそうになりながら尋ねる。兵士の死者が七名で、あと一人足りない。その一人は、まさか――。


「……リッチの魔法から御嬢様を庇った従者が死亡しました」

「っ……そう、か」


 御嬢様、ということはこの場にいるのはやっぱりカリンか。しかし従者――おそらくは俺にとってのナズナみたいな立場の者が死亡したとなると、その精神状態はどうなっているか。


「その御令嬢、カリン殿か? 先日王都でお会いしたのだが……」


 それでも一応は尋ねると、騎士の男性が無言で頷いた。カリンが無事だったとしても、これだけの被害が出たのなら素直に喜べないし喜ぶわけにはいかない。


 そう考えた俺は、貴族のカリンではなく騎士が応対してきたことに疑問を覚える。


「カリン殿は?」

「……従者が死亡して錯乱したため、気絶させました」


 泣き叫ばれたらモンスターが寄ってくるし、リッチが近くにいるのに悠長に落ち着かせる暇と余裕はなかったのだろう。


「状況は理解した。負傷者の治療と遺体の運搬は任せよ。貴公は出発までの間、少しでいいから心と体を休めておきたまえ」

「……はっ。名代殿のお気遣いに感謝いたします」


 主家の人間は守り通したものの、被害が大きい。それを悔いている様子の騎士に休むよう告げ、俺は周囲を警戒している兵士達へ視線を向ける。


「お前達、聞いていたな!? 斥候の半数は周囲を警戒! 残った者達で勇戦された方々を治療せよ! 遺体は丁重に運び出せ!」

「はっ!」


 被害は大きいが、なんとか日暮れまでにトーグの村まで戻ることができそうだ。その点だけは安堵する俺だったが、モリオンが傍に寄ってきてそっと耳打ちしてくる。


「ミナト様、遺体に関してですが」

「ゾンビや死霊系モンスターになるかもしれない……だろ? それはわかっているが、生き残った者の心情を慮ればここで火葬するわけにもいかん。トーグの村まで運び、そこで焼くぞ」

「心情を慮る……なるほど、了解いたしました。ただ、遺体の方は」

「ゾンビ化しても対処できるよう、手足を縛ってから布で包んでおけ。死霊系モンスターになった場合は即座に鎮圧だ。キドニア侯爵家の者に気付かれたら俺の指示だと答えろ。いいな?」


 ここから先は、救助できた者達を死なせないのが俺の義務であり職務だ。そのため不安の芽は事前に摘んでおくしかない。トーグの村まで遺体を拘束せずに運び、道中や村の内部でモンスターが発生しました、なんてことになったら洒落にならないしな。


 そうして負傷者の治療を行い、戦闘を行っていた者達に僅かな休憩を取らせると、俺は兵士達に指示してトーグの村まで引き返すのだった。

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― 新着の感想 ―
庇えたって事は範囲即死じゃなくて単体即死をばら撒いてきたのか
ゲラルドないす
全員にまとめて即死攻撃出来る敵が中級とは。 上級が出てきたらどうなってしまうのか。 ゲラルドがついに活躍してくれてほっとしました。 正直今まで妹と大して変わらんやんと思ってました。
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