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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第13章

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第342話:置いていかないで その3

 まさか、という思いがあった。


 既にその領域に手をかけていたか、という驚きがあった。


 ()()()()()()先に進むその姿が、羨ましくも眩しかった。


あなたたすけるすぐれたまもりを此処に――『汝佐優守じょさゆうしゅ』!」


 ナズナが叫び、盾が放つ光が消える。今この瞬間、ナズナはたしかに羽化した。『召喚器』の第三段階、『掌握』の位階に到達した。


 おそらくは元々手が届きかけていたのだろう。それが感情の起伏で目覚め、手が届いた。


 その推測に、俺は思わず苦笑を浮かべてしまう。


(追い込んだわけじゃないのになぁ……まったく……まったくさあ……)


 もしかすると、ナズナも無意識の内に『掌握』に近付いていることに気付いていたのかもしれない。そのあと押しとして俺に勝負を挑み、見事開花させたのだろうか。


 そう思えるほどにタイミングよく『掌握』に至ったナズナを前に、俺としては苦笑を零すしかなかった。他の表情を浮かべようがなかった。


(しかし、俺を助けるための優れた守り? ()()()()()()()()のか?)


 『花コン』では『躇突盲振ちょとつもうしん』なんて名前の槍の『召喚器』を使っていたが、この世界では盾を、そして『汝佐優守』なんて名前まで手に入れて。


 ()()()()が示すのは、俺を守りたいという願いだ。その願いが形作ったのが『汝佐優守』という『召喚器』だ。


 光が消え、『汝佐優守』が姿を見せる。そこに外見的な変化はない。だが、明らかに存在感が増している。触れてすらいないが、その頑強さが一気に増したのが威圧感として伝わってくる。


「若様……これがわたしの想い、わたしの気持ちです。あなたを守る……その決意です!」


 盾を構え直し、ナズナが叫ぶ。そこにあるのは言葉通り決意だろうが、抱く想いは一体何なのか。


 守りたいという願いか、忠義か、思慕か、全部か。一つに絞り切れない感情を抱きながら、こちらを真っすぐに見つめてくる。


(まったく……俺なんかにゃもったいないよ)


 家臣として、幼馴染みとして、仲間として。あまりにも真っすぐ過ぎるナズナの眼差しと気持ちに、俺は微苦笑を浮かべてしまった。


 この『花コン』に似た世界で様々な影響を与えてきたとは思っていたが、今回はとびきりだ。リリィが過去の世界からやってきた時と同じぐらい驚いた。


「どうですか? これなら本気を出せますか?」


 俺の反応をどう思ったのか、ナズナが重ねるようにして尋ねてくる。盾の持ち手をぎゅっと握り締め、願うようにして、言う。


「――あなたの隣に立てますか?」


 その問いかけに、俺は頷きを返す。むしろ俺の方が置いていかれそうだ、なんて思いながら。


 俺はナズナからの問いかけに応えるように、剣の柄を強く握り締める。そしてゆっくりと腰を落とし、構えを取った。

 そんな俺の動きを見たナズナの顔が、ぱっと輝く。言葉にはせずとも、ここからは本気だと伝わったのだ。


 言葉がなくとも伝わるほどに、強いつながりがあるのだ。


「いくぞ」

「はい! きてください!」


 それでも敢えて声に出せば、喜色溢れる声が返ってくる。それに内心で苦笑しつつ、俺は地面を蹴りつけて一気に加速した。


 手加減こそしないが、技は使わず。それでいて確かめるよう、全力で斬撃を叩き込む。


「ッ!?」


 ナズナが盾でこちらの斬撃を防いだ。そしてぶつかり合った衝撃と硬さを剣越しに感じ取り、俺は内心で舌を巻く。


(硬い! 今までとは比べ物にならねえ!)


 これまでが岩だとすれば、今の硬さは金属の硬さだ。以前も硬かったが、今はそれを遥かに上回る。それでいて衝撃を逃がすような()()()()も感じる、不思議な感触だった。


 ナズナ自身、その硬さに慣れていないのだろう。腕に伝わる衝撃の少なさに驚いたようで、目を開いているのが見えた。


 一度、二度、三度。斬撃を繰り出し、弾かれ、俺は距離を開ける。そして剣越しに伝わってきた感触を確かめ、小さく頷いた。


(なるほど……攻撃系の能力がついたってわけじゃなさそうだ。ただ、盾の硬さだけじゃない。身体能力も向上しているな……)


 おそらくは盾の性能が向上しただけでなく、身体能力にも影響が及んでいる。そう判断できるほどナズナの動きが良くなっているのだ。


「すごい……これならっ!」


 ナズナが盾に力を込めるのが見えた。するとナズナを守るよう、半球状のバリアが展開される。これまでのバリアと比べ、更なる頑強さが見て取れるバリアだ。


(……試すか)


 俺は『一の払い』で斬撃を飛ばし、どの程度の強度があるかを確認する。それも一度ではなく、二度、三度と重ねるようにして刃を飛ばした。


 だが――届かない。


 金属を打ち合わせたような硬質な音が響き、飛ばした斬撃が全て弾かれてしまった。ナズナが展開したバリアは砕けず、揺らがず、ヒビすら入っていない。


(硬いな。あれなら上級魔法も防げるだろうな。最上級魔法は……試してみないとわからないだろうけど……)


 少なくとも上級魔法は防げるだろう。そう判断できるほどに、ナズナが張ったバリアは硬かった。


(それなら、次はコレだ!)


 その頑強さを目の当たりにして、俺は敢えて前へと踏み込む。握った剣を構え、切っ先をバリアへと向けながら強く踏み込んだ。


 スギイシ流――『三の突き』。


 威力を一点に集中し、相手の防御を貫く。そのつもりで剣を突き出すと、さすがに()()()()()は耐えきれなかったのかバリアを貫通した。


 しかし返ってくる手応えは相変わらず硬く、金属に強引に穴を開けているような反発がある。そのため切っ先がナズナには届かず、俺の突進も中途半端な位置で止まってしまった。


「……こいつは驚いたな」


 思わず、俺の口から賞賛の声が漏れる。『閃刃』を使えば破れそうな手応えだったが、逆にいえば奥義を使わないと破れそうにないほど強度があった。


 俺は止まってしまった剣を引き、ナズナから距離を取る。そして手の中に残った感触を確かめてから再度剣の柄を握り直す。


「すごいよ、ナズナ。大した硬さだ」


 そしてナズナを賞賛する。ほんの僅かな切っ掛けでここまで大化けするとは、という畏怖もあった。同時に、羨ましいという気持ちもある。俺の『召喚器』はいつになったら名前を教えてくれるんだろうな。


「はい……これも、若様への想いがそうさせてくれたんです」

「……そうか」


 さっきはあまり気にしなかったが、これは最早告白じゃないだろうか。いやまあ、忠誠心の発露って可能性もあるし、色々な感情が混ざっているだけなのかもしれないけども。


「今なら言えます――お慕いしています、若様」

「…………」


 俺の考えを真っ向から粉砕するように、ナズナが言う。真っすぐな瞳と声で、緊張を滲ませながらも。


「わたしはあなたを守りたい……そう願った根底には、あなたへの想いがありました。幼い頃からずっと、あなたのことが好きだったから。あなただけを見てきたから」

「……ナズナ、俺は――」


 告白の言葉を聞いた俺が、即座に返事をしようとする。だが、ナズナはそれを遮るように左手を突き出し、俺の言葉を止めた。


「若様。あなたに婚約者候補カリンどのがいることも、()()()()()()()()()()()わかっています。でも、その上でわたしはあなたを守りたいと願っている……それだけを知っていてもらえれば、わたしは戦えます」

「ナズナ……」


 何と声をかければ良いかわからなくて、結局は名前を呼ぶに留める。それで良いのか、()()()()で良いのかと、疑問を込めて名前を呼ぶ。


「きっと、これがわたしにとっての忠誠なんだと思います。若様を守れれば、盾として傍に在れれば、それで良いのです」


 そう言って微笑むナズナ。


「だから若様。全力で打ち込んできてください。あなたの盾がどれほどのものか、しっかりと確かめてください」

「……わかった」


 言いたいことは、色々とあった。だが、ナズナは()()を求めていない。そう感じ取った俺は剣を構え直す。すると、ナズナは盾を構えてバリアを張り直す。


「いくぞ」

「はい」


 短い言葉をやり取りして。俺は前へと踏み込む。剣を振り上げ、袈裟懸けに刃を繰り出す。


 スギイシ流奥義――『閃刃』。


 この一撃で最後だという想いを込めて、剣を振り下ろす。ナズナが張ったバリアに切っ先が食い込み、そのままバリアを切り裂いていく。


 たとえナズナのバリアが上級魔法を防げるほどに頑丈になったとしても、俺なら斬れる。それを証明するように、振り下ろした刃が()()()()()()()()バリアを両断していく。


 ――だが、ナズナにとってはその僅かな拮抗だけで十分だった。


「っ!」


 バリアを斬る際に僅かに鈍った剣先。そこへ盾を滑り込ませ、こちらの『閃刃』を真っ向から受け止める。


「くっ!?」


 ナズナが苦しげな声を上げた。それぐらい『閃刃』の威力が高かったのだろう。


「……見事だ」


 だが、俺が振り下ろした刃は途中で止まっていた。傷一つ負うことなく、ナズナが盾で受け止めたのだ。


(斬れるなら盾を真っ二つにするつもりだったんだがな……)


 ナズナは本気だった。だからこそ俺もそれに応え、本気で『閃刃』を放った。その結果がコレだ。


 ナズナは途中で止まった俺の剣を見て、数回瞬きをする。そして俺の表情から手を抜いていないと悟ったのだろう。徐々に、その表情が喜びに満ちていく。


「やった……やった! 見てくれましたか、若様! 若様の全力、たしかに受け止めましたよ!?」

「ああ……繰り返しになるが、見事だったよ」


 そう言うしかない。バリアを斬る際の抵抗、そして盾の『召喚器』の頑丈さを前に、脱帽するしかなかった。『閃刃』を止められたら、もうどうしようもないな、なんて思えたのだ。


 普通の勝負とは違う。

 俺は全力で刃を繰り出し、ナズナに受け止められた。実戦なら話は別だろうが、この勝負、俺の負けだろう。崩す方法はあるとしても、正面からの力のぶつけ合いで負けたのだ。


 拳を握り締めて喜ぶナズナを前に、俺もまた、賞賛と喜びを以て笑みを浮かべるのだった。

 





 そしてこの日。


 俺の本の『召喚器』に新たなページ――十ページ目となるナズナのページが、俺の『閃刃』を受け止めた時のナズナの姿を映したページが、淡い光と共に加わるのだった。

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