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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第13章

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第333話:国王暗殺未遂事件 その4

 飛んで逃げたアスターの追撃を断念した俺は、駆け付けてきた兵士達への状況説明に追われることとなった。


 なお、離脱したと見せかけてアスターが再度潜伏した、なんてこともなさそうである。俺とランドウ先生で気配を探して回り、学園内に潜んでいないことが確認できたからだ。


 そうして学園内の安全を確保し、ほっと一安心――なんて暇もなく、俺はランドウ先生と共に国王陛下の元へと連れて行かれる。今度は連行ではなく、あくまで国王陛下の呼び出しに応じて足を運んだ形だ。


「お呼び出しと聞き、参上いたしました」

「…………」


 呼び出された場所は学園長室である。先ほどの教室は壁に大穴が開いているし、何事かと野次馬が集まっているのだ。そのため()()()をしやすい学園長室が選ばれたのだろう。


 なお、俺と一緒に呼び出されたランドウ先生は無言である。その上でこの国の貴族ではないからか、俺を先に立たせてランドウ先生自身は斜め後ろに控え、国王陛下に対して片膝を突いていた。


 多分、国王陛下に敬意を払っているんじゃなくて、俺の顔を立てて礼儀正しくしているんだと思う。あるいは、アスターに対する怒りを抑えるために意識を集中しているだけか。


 そんなランドウ先生に背中を向けているのは正直かなり怖いが、俺に対して斬りかかってくることはあり得ないだろう。ただ、殺気だった野生の虎がすぐ後ろにいる、みたいに考えると恐怖を覚えるのは当然だと思う。事実、国王陛下を守るはずの兵士の中に腰が引けている者がいるぐらいだ。本当に怖い。


「大儀である。そして『魔王の影』の撃退、御苦労だった」


 既にアスターを撃退したことは報告してあるため、鷹揚に頷きながら労ってくれる国王陛下。『致死暗澹』を至近距離で撃たれた割に平然としているあたり、胆力もあるのだろう。


「ランドウ=スギイシ。お主も助力してくれたと聞いている。さすがは『剣聖』と呼ばれる剣豪にしてミナトの師だ。礼を言う」

「……恐れ入ります」


 国王陛下がランドウ先生にも水を向けると、ランドウ先生は硬い口調で答えて頭を下げる。パエオニア王国の礼式とは異なるが、敬意を払った仕草だというのは伝わってくる動きだった。


「ひとまず学園内の確認は終わりました。陛下におかれましてはご安心いただきたく」

「うむ、我が民にも被害は出ておらぬと聞いた。お主達の働きに感謝する」


 形式ばったやり取りをしばらく行い、必要なことを報告する。面倒だが、公的な場ではそれなりにやり方というものがあるのだ。


 そうやって報告を終えると、国王陛下が応接用のソファーに背中を預け、体から力を抜くのが見えた。そしてため息を一つ吐き、雰囲気を私的なものへと変える。


「ふぅ……まったく、せっかくの文化祭だというのに厄介なことをしてくれる。ミナトよ、ここからは肩の力を抜いて構わん。撃退した『魔王の影』について忌憚のない意見を述べよ」

「かしこまりました。それでは失礼して……私の意見としましては、強さ自体はそこまで脅威ではありません。私でも対応できる範疇でしたので、ネフライト男爵なら余裕を持って撃退できる技量でしょう」

「ふむ……」

「ですが、肉体を魔力あるいは負の感情で構成しているらしく、まともな手段では殺せません。私やランドウ先生なら魔力を斬れるので仕留めることができるとは思いますが……普通に倒そうとするなら、粉々に吹き飛ばすぐらいしか対処法が思いつきませんね」

「なるほど。それは面倒だな」


 俺の話に国王陛下が頷き、傍にいたネフライト男爵も小さく頷きを返してくる。そんな二人の反応を見た俺は、小さく首を傾げながらネフライト男爵を見た。


「ところで男爵閣下、私やランドウ先生からするとアスターの気配には違和感があるので気付けたのですが、閣下から見た場合はどうなのでしょう?」

「業腹だが、魔力がある普通の人間としか感じられなかったな……何かコツのようなものはあるのかね?」

「コツと言われましても……スギイシ流がそういう流派だから、としか答えようがないですね。スギイシ流の中には魔力を運用して使う技がありまして、魔法は使いにくくなりますが()()()()()自体は上手くなるんです。その感覚に引っかかったんじゃないか、と」


 そう言いつつランドウ先生に視線を向けてみると、俺の話を肯定するように頷いてくれた。どうやら間違ってはいないらしい。


(ということは、透輝も違和感に気付けるはず……騙されて不意打ちを受けることがないなら安心だな)


 主人公とうきが殺されるのが一番まずいのだ。だが、俺やランドウ先生と同じようにアスターの気配に気付けるのなら問題はないはずである。


 アスターと実際に戦った感覚としては、仕留めきれるかは別として、今の透輝なら十分に渡り合うことができるだろう。むしろ光属性の魔法が使える分、俺なんかよりも勝ちやすい可能性すらある。


(……そう考えると、国王陛下達を守るための方法って割と簡単なんだよな)


 ここまで考えた俺は、ふと、そんなことを思う。


 スギイシ流を学べば魔力の操作に長けてアスターの気配にも気付くことができる……それなら単純に、スギイシ流を学べば良いのだ。


「ふむ……ミナトよ、実際にスギイシ流を学んだ身として答えよ。アスターの気配に気付けるようになるまでどの程度の修練を必要とするのだ?」

「……才能があれば一ヶ月、最低限の才能がある程度なら数ヶ月といったところでしょうか」

「最低限の才能とは?」


 ネフライト男爵が疑問を込めて尋ねてくる。残念ながらスギイシ流は誰でも学べば習得できる流派ではない。才能や適性と呼ぶべきものが必要となるのだ。


「技に魔力を使うため、一定以上の魔力があることです。それでいて魔法が苦手だと後悔が少なく済みますね」


 俺も昔は下級魔法ならいくつか使えたが、今となっては『火球』で火を熾したり『水弾』で飲み水を確保するのに使う程度だ。戦闘にはほぼ使えない程度でしか魔法を使うことができなくなっている。


 スギイシ流は魔力の操作が上手くなるが、魔法を使うには()()()()()ができないと駄目である。使い方が違い過ぎるため、どうしても魔法の扱いが下手になるというデメリットが存在した。


「む……その条件では私は学べない、か。さすがに今から戦闘スタイルを崩すのは無理があるな」


 ネフライト男爵が悔しそうに言う。立ち居振る舞いから判断する限り、ネフライト男爵は戦闘に魔法を用いる魔法戦士タイプだ。スギイシ流を学ぶのはデメリットが多いだろう。


「まあ待て、男爵よ。それよりも先に確認するべきことがあるであろう? ミナト、それにランドウよ。こちらが人員を用意した場合、スギイシ流を教えることは可能か? なんなら王宮の剣術指南役の地位を与えるが」


 さらっと、なんでもないことのように重要な立場ポストを用意する国王陛下。俺はともかく、ランドウ先生を剣術指南役として迎えられるなら大金を払っても釣りが返ってくるからな。


「陛下……時間を作れと言われれば作りますが、私はまだ学生ですよ?」

「……私はやるべきことがございますので」


 私的な場ということで少し呆れ顔を向ける俺と、相変わらず硬い口調で辞退するランドウ先生。


「それは残念だな。ただ、ことは我々の身の安全にもかかわる。アスターの存在に気付ける程度で良いから指導をして欲しいが……」


 そう言って困ったように眉を寄せる国王陛下。俺としても()()()()()国王陛下を殺させるわけにはいかないし、スギイシ流を教えること自体は賛成なのだが――。


(……あ、そういうことか)


 俺は国王陛下からのアイコンタクトに気付き、向こうの意図を察する。そして思考を巡らせた後、一つ、頷きを返した。


「……それでは、そちらで選抜していただいた兵士にスギイシ流を教えるということで。師匠はどうしますか?」

「俺も見るが、勉強になるだろうから基本的にお前が教えろ。ああ、あと孫弟子も使え。そろそろ他人に教えても良い頃合いだ」

「そうですね……それでは陛下。私に一人、弟子がおりまして……その者も他者にスギイシ流を教えられるぐらいには腕が立ちます。まずは私と弟子でお受けしようと思います」


 俺にボールを投げてくるランドウ先生だが、そこに透輝を巻き込んでくれる。よし、これで上手くいけば透輝の将来の就職先が増えるぞ。竜騎士っていう道もあるけど、王宮の剣術指南役ってポストでも良い。公的な立場が増えればアイリスと結ばれる際の障害も減るだろ。


(事後承諾になるのはすまないと思うが、国王陛下を殺されるとまずいからな……)


 透輝に関しては師匠命令を出しても良いが、パエオニア王国の貴族としてしっかりと協力を要請したい。『魔王』が発生した際、この国の貴族が一丸となって事に当たるための()が必要だからだ。


 選抜された兵士に最低限スギイシ流を仕込むまでは国王陛下も危険だが、そこはネフライト男爵に頑張ってもらうしかないだろう。あるいは、少しなら俺が護衛として国王陛下の傍に侍っても良い。


(本当はもっと早くに取り掛かっておくべきだったのかもしれないが……)


 まさか、アスターがあそこまで好戦的だとは思わなかった。『花コン』でもスパイ活動に専念していたし、オリヴィアの話を聞いた限りでは率先して襲ってくるタイプとは思えなかったのだ。


 だからこそ、兵士にスギイシ流を教えるといった()()を施す必要がないと今までは考えていたのである。


(ゲームと現実の違いか……いや、バリスシア経由で俺に興味を持ったって感じだったし、それが悪い方に作用したか? それに、ランドウ先生に対して見せたあの悪意……あれは『花コン』では見られなかった部分だ……)


 他の『魔王の影』にはない、悪辣な部分がアスターにはあった。まあ、俺が実際に知っているのはバリスシアだけで、他の『魔王の影』も『花コン』にはない要素を抱えている可能性は否定できないが。


(……まあ、まさかあんな()()()()をし始めるとは思わんわな。少なくとも俺には無理だ)


 ただし、やっていることがランドウ先生への挑発という、俺からすると自殺行為にしか思えないことだったため、予想なんてできるはずもない。


 結果として不死身のタネも見抜かれているし、鳥になってまで必死で逃げ出しているし……お粗末としか言えない行動だ。


(いや、こちらに予想出来ないことをするって意味じゃあ油断はできないのか……)


 何を仕出かすかわからない敵は恐ろしいものだ。もちろん、それが味方でも恐ろしいのだが、敵となると対策に手を焼かされることとなるだろう。


 これから先のことを思い、俺は国王陛下にバレないよう密かにため息を吐くのだった。

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