第299話:凱旋
北の大規模ダンジョン――その破壊に成功する。
それはパエオニア王国のこれまでの歴史の中でも成し得なかったことだ。
破壊するための難易度が高いというのもあるが、破壊するメリットと破壊にかけるコスト、そのバランスを考えた結果、残されていた部分もある。
死霊系モンスターが跋扈するダンジョンであるため、大量の軍隊を導入するには不向き。闇属性魔法を撃たれると大量の被害が出かねないということで攻略が見送られ、モンスターを間引くに留めていた難攻不落のダンジョン。
それを六人で、一人の犠牲も出すことなく攻略できた。それはまさに偉業と呼ぶべき出来事だ。
ただ、北の大規模ダンジョンは破壊されたが、それでめでたしめでたし、とはいかない。
ダンジョン内にいたモンスターを片付けなければ危険が残ることになってしまうからだ。俺達だけで全滅させるのは無理なため、周辺の諸侯に大規模ダンジョンが破壊できたことを伝え、モンスターの掃討を行う必要がある。
そのため竜笛を使ってキュラスを呼んでノーサムの町へ向かうと、町の管理者に面会を求め、大規模ダンジョンの破壊に成功したことを報告した。
ただし、今回の件は偉業すぎて現実味がなかったのだろう。大規模ダンジョンを破壊したと報告しに行ったら最初は胡散臭い顔をされた。正規軍ではない、ただの学生が六人で大規模ダンジョンを破壊したと言うのだ。疑うのは当然だろう。
だが、証拠として持ち込んだ玄武の爪を提出し、モリオンがマッピングしていた地図も見せたら対応した者の顔色が変わり、すぐに上の方へと報告が行われた。
そしてオリヴィアが手配していたのか、竜騎士が飛竜に乗って確認に向かう。しかも竜騎士は一人ではなく、五人も待機していた。どうやら俺達がダンジョンを破壊すると信じて手を回していたらしい。
その結果、ラドフォード辺境伯をはじめとした近隣の諸侯、オレア教、王都。様々な場所に迅速に情報が届けられることとなる。大規模ダンジョンが破壊されたこと、ボスモンスターである『朽ちた玄帝』が死んだこと、その情報を最速で届けるべく竜騎士が飛び立っていく。
それを見送った俺達は、まずは宿を借りて疲れを癒すことにした。風呂に入って垢を落とし、モンスターを警戒する必要がない、安全な宿でゆっくりと睡眠を取る。五日間、気を張りっぱなしだったのだ。この程度の贅沢は許されるだろう。
そうして一日ゆっくりとしたら、大規模ダンジョンの残敵掃討に参加する。透輝が操るキュラスに乗り、上空からモンスターを探し出しては飛び降りて片付けるというハードワークを五日間ほどこなす。
大規模ダンジョンを破壊したんだからあとは近隣の諸侯に任せても良いが、ちょっとした残業みたいなものだ。
残敵の掃討に各貴族の軍を繰り出し、闇属性魔法をくらって被害が多く出ました、では負の感情が溜まってしまう。それを少しでも避けるための残業だった。
あとは王都側からの要望だったりもする。今回大規模ダンジョンを破壊したということで表彰式が行われるそうだが、その準備のために少し時間が欲しいとのことだ。
なにせ大規模ダンジョンの破壊という大事である。
俺は以前、『王国北部ダンジョン異常成長事件』で『赤銅百花勲章』をもらっているが、大規模ダンジョンを攻略すればその更に上、第二等勲章の『白銀王花勲章』が授与されることとなる。
制定こそされたが授与の基準が高難易度過ぎて受勲者がいなかった勲章だが、今回、とうとう日の目を見ることとなったのだ。
というか、受勲者が初めてで勲章自体が用意されていなかった可能性が高い。残ったモンスターの排除という名目で時間を潰してから王都に帰還するよう、竜騎士を通じて国王陛下から頼まれたのである。
俺個人としては勲章の授与は後でも構わないが、王城側からすればそうもいかないのだろう。今回の話が市井に広まればすぐにでも話題を独占するだろうし、負の感情の低減を狙って王城側が率先して噂を流すはずである。そのためできる限り早い段階で勲章の授与を行いたいらしい。
そういった事情もあり、残敵の掃討に参加した。それによって俺達の実力を疑問視していた諸侯軍も見る目が変わったため、得たものは大変さだけではなかったと言える。
諸侯からすれば、手持ちの戦力が損耗するのを防ぐことができる。
俺からすれば兵が悪戯に死んで負の感情が溜まるのを防ぐことができる上、名声も高まる。あとついでに、倒したモンスターの分は報酬も出る。
そうやって時間を潰し、竜騎士が王都へ帰還するよう伝えてきたらノーサムの町を後にするのだった。
『王国北部ダンジョン異常成長事件』の時もそうだったが、こういった勲章の授与みたいなイベントは王都の民の負の感情を減らす側面がある。
そのため王都まで戻ったら先に学園に行って制服に着替え、身だしなみを整えたら用意された馬車に乗り、王都へと向かう。
要は見せ物になって王都の民を楽しませろってことである。制服に着替えたのも、学園に通うような若い者達が偉業を成し遂げたとアピールするのが目的だ。
前回の俺は少年騎士と言わんばかりに鎧や手甲等を身に着けた状態だったが、今回は違う。略式の礼服としても使える学園の制服で王都の大通りを突っ切り、そのまま王城へと向かって勲章の授与が行われる予定だ。
そして前回同様王城の敷地を開放し、王都の民が見守る中での授与式となる。
(しかし、予想が少し外れたな……)
見栄えが良く、なおかつ外から中に乗っている者の顔がわかる特製の客室の中で俺は内心で呟く。
勲章の授与だが、全員が全員、『白銀王花勲章』が授与されるわけではないのだ。渡された目録を見てみるとリーダーの俺が『白銀王花勲章』で、他のメンバーが『赤銅百花勲章』の授与になっている。
多分、モリオンはともかく他が陪臣の娘であるナズナ、オレア教の関係者であるメリア、同じく関係者ということになっているリリィ、そして他所の世界から召喚された透輝と、立場の問題があるからだろう。
辺境伯家の嫡男である俺を一段上の勲章に叙するのは、王城からの配慮か。元々『赤銅百花勲章』と『白銅百花勲章』を授与されていたし、順当といえば順当か。
あとは他の大規模ダンジョンを破壊することになった際、与える勲章が尽きないようにするためじゃないだろうか。今回は俺、次回は他のメンバーに、といった感じで勲章の授与式というお祭りごとを複数回開きたいんじゃないか、なんて思った。
「いや……だって一番苦労して活躍したのがミナトだし……当然じゃないのか?」
なお、話を聞いた透輝はこんな感じの反応だった。そもそも『赤銅百花勲章』をもらえるってだけで緊張している。日本円だと一千万円ぐらいの年金がつくから当然といえば当然かもしれない。
ちなみに『白銀王花勲章』の年金は金貨二百枚――日本円で二千万円ぐらいだ。この金額が既存の勲章分に上乗せされる。
(これで透輝は最低限、将来の保証ができた……竜騎士って職もそうだけど、年金があるから食えなくなるってことはないだろ。『魔王』をどうにかできなきゃ空手形みたいなもんだけどな)
透輝がどんな未来を迎えるかはまだわかっていないが、金があるに越したことはない。贅沢をしなければ余裕で家庭を築けるぐらいの額だし、竜騎士として働きながらなら多少の贅沢は可能なぐらいの収入にはなる。
アイリスと結ばれるには……まあ、まだまだ収入やら格やらが足りないが。それでも大きな第一歩となっただろう。いや、竜騎士の件と合わせれば二歩目か。
そんなことを考えていると、馬車が王都へと到着した。すると待ち構えていた騎馬隊……先導のために目立つ白銀の鎧を着込んだ一団に歓迎され、そのまま簡単にパレードの流れを確認することとなる。
基本的に『王国北部ダンジョン異常成長事件』の時と一緒だ。第二層、第一層を通って王城へ行き、王城のバルコニーで王都の民が見守る中、勲章を授与される形になる。
その流れを確認したついでに透輝達の顔を確認するが、透輝とナズナは緊張した様子。モリオンやメリアは普段通りで、リリィは……少し緊張気味か? 未来の話を聞いた感じだと、こういうパレードで見せ物になる経験なんてなさそうだしな。
そうして騎士達の騎馬隊の先導で馬車が進んでいく――が。
(前回より人が多いような……ダンジョンを破壊して一週間も経ってないんだぞ? どれだけ噂をばら撒いたんだ?)
大通りには俺達を一目見ようとたくさんの人々が詰めかけていた。こちらを見て大喜びというか、大騒ぎである。そのため歓声に応えるように薄く笑みを浮かべ、手を振っておく。
「ほら、みんなも手を振ってやれ。見せ物みたいだけど気分は悪くないぞ?」
「さ、さすがに慣れてるんだな……いやー、視線がきついっす、ししょー」
透輝も俺に倣って手を振り始めるが、周囲から飛んでくる視線の数に頬を引きつらせている。このぐらい涼しい顔でこなせないとアイリスの隣には立てないぞ、なんて言葉が浮かんだがさすがに言わないでおく。透輝ならいつか、自然とアイリスに見合うようになっているだろうから。
そうやって歓声に応えつつ、馬車に揺られることしばし。第二層を抜け、第一層も抜け。王城に到着すると案内の兵士に先導され、三階のバルコニーへと誘導される。
そこにいたのは当然ながら国王陛下で、他にも大臣等の国の重鎮と呼ぶべき者達の姿もあった。
(歓迎五割、面倒事を増やしやがってって感じが三割、あとは……興味が二割ってところか? オリヴィアさんから話は通っていたとしても、面倒は面倒だわな)
これから北部諸国連合との折衝が本格的に行われるのだ。領土も増えるだろうが、その辺りのやり取りは面倒だろう。国境線の確定、今後の交流等、決めるべきことは多々ある。
(……まあ、その辺りは全部お任せだけどさ)
辺境伯家の嫡男で、今回大規模ダンジョンを破壊した内の一人だとしても、その辺りはノータッチだ。むしろ触れて良い部分じゃない。触れるとするなら今回の功績に対する褒美として、新たに得られた土地を領土として欲する場合ぐらいか。
(切り分けたパイの一部をくださいっておねだりするぐらいなら可愛いもんだろうが……その辺りの差配は国王陛下やお偉いさん方でのやり取り次第だ。東部は発言権が大きいだろうけどな)
その辺りは王都での東部派閥の政治を取り仕切る、侯爵閣下に一任するしかない。上手いこと取り分を確保してくれるだろう。
俺がそんなことを考えていると、勲章の授与式が開始となった。
まずは国王陛下がよく通る声で今回の式典が行われるに至った理由を述べる。
北の大規模ダンジョンが破壊されたこと、それを成したのが俺達であることなどを民衆へと伝えていく。既に噂話で伝わっていたとしても、この辺りはしっかりと伝えることが大事なのだ。
「それでは表彰へ移る。リリィ嬢、前へ」
「はい」
最初に名前を呼ばれたのはリリィだった。オレア教の関係者で苗字もない平民を最初に、という魂胆なのだろう。続いてメリア、透輝と名前を呼ばれて表彰が行われ、半分が過ぎる。
「次にナズナ=ブルサ=パストリス、前へ」
貴族組ではナズナが最初だ。多分、陪臣の娘だからだろう。リーダーである俺は最後に回され、ナズナに続いてモリオンも『赤銅百花勲章』を授与される。
「最後に王国東部の若き英雄、ミナト=ラレーテ=サンデュークよ。貴殿の活躍を賞し、ここに『白銀王花勲章』を授与する。四年前の偉業すら超えたな……大したものだ」
「ありがたき幸せ」
前回と同じようなやり取りになるが、こういう行事は形式化しているため仕方がない。俺は片膝を突く最敬礼を陛下に向け、勲章を受け取ってから立ち上がる。
するとそれを見守っていた王都の民達から歓声や拍手が降り注いだ。偉業を称える者、俺の名前を呼ぶ者、とりあえず叫んでいる者等々、バラバラだが祝福したいという意図は伝わってくる。
(まずは一つ、か。これで『魔王』が発生する時も死霊系モンスターに悩まされることはほとんどないはず……人類側が少し有利になった、か)
そんなことを考えながら、俺は歓声に応えるようにして笑顔で手を振った。すると更に歓声が大きくなり、最早怒号か地鳴りのように大音量になっている。それらを全身で浴びつつ、俺は思わず笑みの種類を変えて微笑む。喜びと安堵を、等分に混ぜて。
――こうして、無事に北の大規模ダンジョンの破壊に成功し、俺は『白銀王花勲章』が授与されたのだった。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
これにて11章は終了となります。そして早いものでプロローグ込みで300話に到達しました。
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それでは、こんな拙作ではありますが12章以降もお付き合いいただければ幸いに思います。




