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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第11章

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第274話:問い その1

 北の大規模ダンジョンに挑むとして、さあ出発――とはならない。


 俺やナズナ、あるいはランドウ先生ならそれでも良いのだが、大規模ダンジョンでの活動に慣れている者はそこまで多くない。というか俺やナズナを除いた学園の生徒に限ればほぼいないだろう。


 中規模ダンジョンと比べてもなお、重厚で凶悪な威圧感を滲ませる空気。


 出現するモンスターは最低でも中級、運が悪ければ上級のモンスターと遭遇する危険性。


 面積がわからないほど広く、一日で踏破することなど不可能な広大さ。


 それらが大規模ダンジョンを危険地帯たらしめており、()()()()破壊に乗り出せない理由だ。


 そう――容易には、だ。


 正直なところ、大規模ダンジョンで修行をした身としては破壊自体は困難でこそあるが不可能ではない、というのが俺の見立てである。


 ランドウ先生を、とは言わないが、ネフライト男爵を筆頭としたパエオニア王国の強者、オレア教の強者を集め、それらの強者を援護する精鋭を揃えて突撃させれば破壊はできるだろう。


 もちろん相応の被害は出るだろうが、大規模ダンジョンは決して『花コン』の主人公以外に破壊不可能な存在ではない――と、思う。


 やらないのは貴重な強者に被害が出ること、そして他国と国境を接するようになることだ。


 大規模ダンジョンを破壊したのはパエオニア王国なのだから、空いた土地もパエオニア王国のもの……そんな理屈で納得してくれる国はいないだろう。大規模ダンジョンに接していた国は少なからず土地の所有権を主張するはずだ。


 そして厄介なことに、大規模ダンジョンに接している国は()()()()。それも各方角で、だ。


 パエオニア王国が土地の所有権を主張した場合、最悪、近隣諸国が手を組む理由になりかねない。そして空き地の所有権を主張するだけなら良いが、そのまま対パエオニア王国で同盟を組んで攻めてくる可能性もゼロとは言えないのだ。


 この世界に生まれ、貴族として教育を受けた身からすると、国の上層部は優秀な者ばかりである。そのため短絡的に戦争に踏み切る者はいないと思うが、他国に関してはさすがにどの程度優秀かわかっていない。


 それこそ他者に化けられる『魔王の影』アスターが他国の上層部に潜り込み、パエオニア王国相手に戦争を仕掛ける可能性もあるのだ。


 全ては可能性で、冷静かつ平和的に話し合いだけで解決する可能性もある。しかし関係する各国全ての主張が上手く嚙み合って揉めずに済むなんてことはないだろうし、()()()()()はいくらでも生まれるのだ。


 おそらくだが、大規模ダンジョンはそれらの政治的理由も踏まえた上で作られたのだろう。作ったのは『魔王の影』だろうが、人類同士を仲違いさせるための一手に違いない。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()という、大規模ダンジョンを守るための抑止力なのだろう。


 今回、オリヴィアとの話でもあったが、北の大規模ダンジョンの破壊に関してはまだどうにかなる。北部諸国連合だけが相手ならいくらでも優位に立ち回れるだけの国力差があるからだ。


 オレア教が技術供与を行うと言っていたし、国境線の引き方に関してもある程度話がついているのだろう。そうなると問題は、北の大規模ダンジョンを破壊できるかどうかになる。


 ランドウ先生の力を借りられれば確実に。それが無理でも国からネフライト男爵のような強者の手を借りられれば比較的楽に攻略できるだろう。


 だが、()()()()()を考えるとそれはできない。主人公とうきを成長させるためにも、大規模ダンジョンの攻略という絶好の機会は活かしたい。


 透輝以外でも、『花コン』のメインキャラの成長速度は異常なほどだ。ゲーム的な考えでいうとレベルアップの良い機会になるだろう。


 そうして強者といえるぐらい強くすれば、将来訪れる『魔王』や『魔王の影』との戦いも少しは有利になるかもしれない。


 ただまあ、どんなに優れた強者をダンジョンに突入させようと、ダンジョンの広さだけはどうしようもないわけで。


(俺とナズナはいいとして、他の面子はまず、ダンジョンでの行動に慣れないとな……)


 そのためまずは手頃な中規模ダンジョンに連れて行き、ダンジョン内で一夜を明かす訓練を行うべきだろう。


 大規模ダンジョンは本当に広い。下手すると一つの国に匹敵するぐらいには広い。そのためダンジョン内での寝泊りは必須だし、場所が大規模ダンジョンとなるとまずは空気自体に慣れる必要がある。

 それらを見越し、どれだけ訓練に時間をかけ、いつからダンジョンに挑むか。


(そう考えると、学園で授業を受けているのが無駄に思えるな……ゲームなら授業を受ければ経験値が手に入ってステータスを強化できたんだが……)


 『花コン』での授業を受けるメリットを思い出し、俺は思わず苦笑してしまう。授業を受けるだけで強くなれるのなら苦労はしない、と。


 しかしながら、同時に思うのだ。


 ――『花コン』から()()()()()()()()()()()、と。


 俺という存在がいることから今更かもしれないが、『魔王』対策のためにこれから先、全ての授業を休んで修行やダンジョンへの挑戦に時間をかけたとして、だ。

 俺が知る『花コン』に関する知識が通用しなくなるのはいいとして、それが原因で予測も対処も不可能な事態が発生しないだろうか?


 正直なところを言えば、世界が滅ぶかどうかの瀬戸際が迫っているのに悠長に授業を受けるのは時間の無駄じゃないか、なんて俺は思っている。その時間を修行に割り振ればもっと強くなれるんじゃないか、という疑問は当然のものだろう。


 今を生きるこの世界は俺にとって現実だが、透輝が召喚されたことからもわかるように、『花コン』の()()から完全には外れていない。『花コン』に登場したメインキャラも全員いるし、俺とかかわったことで多少の変化はあるが『花コン』であったイベントも発生している。


 それだというのに、授業も何もかも放り出して『魔王』の対策に没頭すればどうなるのか。


 ()()()()()()だと理性が訴えているのに、あるかもわからない()()が怖くてそれができない。


(……大規模ダンジョンの破壊を進めるとして、なるべく『花コン』の流れに沿って動こう)


 今後の流れに関して考えた俺は、見えない恐怖を振り払うようにそう考えた。






 さて、北の大規模ダンジョンの破壊を目指すことになったが、俺にはその前にやるべきことがある。先日考えた、透輝の剣士としてのこれからに関してだ。


「というわけでランドウ先生、透輝にその辺りの意識を自覚させるかどうかなんですが……」

「お前の弟子だろ。お前の好きにしろ」


 授業が終わった放課後。ランドウ先生に相談に言ったらばっさりと切り捨てられてしまった。


「えぇ……せ、せめてヒントとか……」


 有益なアドバイスがもらえるかも、と思っていたが、あまりのばっさりぶりに思わず食い下がってしまった。するとランドウ先生は鼻を鳴らして腕を組む。


「ねえよ、んなもん。そういった信念があろうがなかろうが、強い奴は強いんだ。逆に、剣に懸ける想いがあったとしても強くなれねえ奴もいる。アイツはどっちだ?」


 そう言われて俺は沈黙する。透輝の性格から考えると――。


「あった方が強い……と、思います」


 透輝は『花コン』の主人公なのだ。メインキャラとの友情、ヒロインとの愛情、その他諸々の感情を剣に乗せて振るうからこそ強い、と俺は思う。


 『花コン』云々を放り投げて透輝を一人の人間として見ても、結論は同じだ。剣を学ぶ理由、剣を振るう理由、剣に乗せる想い。それらを自覚した上で剣を振るわせれば更に一段階、上にいけると思っている。


「なら自覚させろ。さっきも言ったが()()()()()だろうが。お前が一番見てきたんだろう? 俺に聞いてどうする。自分で判断して導いてやるのが師匠ってもんだろうが」

「……それは……はい……」


 ランドウ先生は俺の師匠だし、剣のことならランドウ先生に聞けばいい、なんて先入観があったのだろうか。無自覚の内に甘えていたのかもしれない。


(透輝が剣を振る理由……剣を学びたいって言い出した時は、俺みたいな剣を振るえるようにって言ってたっけ……)


 ()()()()()ランドウ先生に指摘されるまでは俺と同じ形で『二の太刀』を振るっていたのだろう。まさに俺の剣を模倣していたってわけだ。


 だが、ランドウ先生の協力もあってきちんとスギイシ流を学び始めた最近の透輝を見ていると、模倣という殻を破って自らに適した形で剣を磨き始めている。


(それがわかったからこそ、俺も透輝に剣を振るう意味を持たせようと思った……うん、それならきちんと話をするべきだな)


 たとえ今は理由がなくとも、透輝ならいずれ明確な理由を持てるだろう。そう判断した俺はなんだかんだで相談に乗ってくれたランドウ先生に頭を下げる。


「ありがとうございましたっ! 俺は俺なりに透輝と話してみます!」


 そう言って俺が頭を深く下げると、ランドウ先生は何も答えず。軽く手だけ振って俺に背中を向け、去っていくのだった。






 そしてその日の夜。


 普段通り自主訓練をしていたら透輝も普段通り姿を見せたため、これまた普段通りに剣を振って透輝を鍛えていく。

 そうやって普段通りに鍛えてから、俺は口火を切った。


「透輝。先日、ダンジョンの帰りに俺と話をしたことを覚えているか?」

「え? ししょーが怖い顔をしていた時の話か?」


 俺の問いかけに不思議そうな顔をする透輝。やっぱり怖い顔って印象なのか……。


「そうだ。あの時、色々と考えていてな」


 そう言って言葉を切って、なんと言ったものかと僅かに悩む。聞きたいことは決まっているが、どう尋ねるべきか。


「透輝、君は俺から剣を学び、今ではスギイシ流を学んでいる。先日のダンジョンでもその戦いぶりを見たが、剣を学んで一年と少しとは到底思えないほど成長しているよ」

「えっ……い、いきなりなんだよ師匠。なんでいきなりそんなに褒めて……ハッ、こ、これはアレだな? 無茶振りするための前振りってやつだな?」


 警戒したように身構える透輝だが、さすがにそんな真似はしないよ。いやでも、後々大規模ダンジョンに挑ませて破壊させるんだから無茶振りといえば無茶振りなのか?


「安心してくれ。今回は無茶振りじゃない」

「今回!? えっ? 次回はどうなるんだ!?」


 俺が笑って言うと、透輝は戦慄したように叫ぶ。うんうん、元気が良くて何よりだ。打てば響くというか、話していて気楽だわ。


 だが、そう思っていた俺は、さすがに笑みを引っ込めて真剣な表情になる。剣士として大事なことを尋ねるからだ。


「なあ、透輝。君はたしかに強くなった……いや、強くなってきているって言うべきか。だからこそ、尋ねたいことがある」


 俺の雰囲気から真剣な話だと察したのか、透輝も真剣な表情になった。そのため俺は、心置きなく問う。


「――君は、何を思って剣を振るう?」


 真剣に、それでいて穏やかに。俺は問いかけたのだった。

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