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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第11章

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第273話:欠点

 『死者歩く平原』と呼ばれる中規模ダンジョンで修行を行い、ボスモンスターを仕留めてダンジョンを破壊した俺達は、最寄りの村で一泊してから学園へと帰還した。


 メリアとの『契約』により、『献魂逸擲けんこんいってき』と『想書』を使っての強化バフは想像以上の効果を俺にもたらし、『魔王』の発生という絶望的な未来に対する一筋の光を示してくれた――のだが。


「……え? アレを使っている間、メリアは動けないのか?」

「ん」


 学園へ帰還する途中でメリアから聞いた話だが、どうやら俺への強化を行っている間はかなりの集中力を要するらしく、戦闘どころか動くことすら難しいとのことだった。


 俺に光属性の魔力を渡すだけなら大した手間でもないが、『献魂逸擲』を使いながらとなると一気に難しくなるらしい。


 そもそも『献魂逸擲』自体、集めた正の感情をまとめて発射する砲台みたいな『召喚器』なのだ。それを俺への強化に変更して使用するとなると、勝手が違うのだろう。


(マジかよ……俺を強化する代わりにメリアが戦えないってなると、どっちがマシだ? メリアは普通に戦っても強いし……相手次第か?)


 仮に俺がランドウ先生並に強くなれたとして、メリアが動けなくなるのでは本末転倒というか……使いこなせれば更に使い勝手が良くなり、俺も強くなる可能性があるが、『想書』を消耗する関係上練習すら簡単にはできない。


 それらを考えると、本当に()()()として運用するしかないだろう。あの全能感を味わえないのは惜しいが、それはワガママというものだ。


(近くに『想書』がなくても強化できるよう、オリヴィアさんが色々手を打っているとは言っていたが……どの道メリアが近くにいないと意味がないしな)


 結局、俺にできるのは少しでも地力を鍛えて強くなることだけだ。メリアとの『契約』はあくまで邪道というか、()()()()()である以上はないものとして己を鍛えた方が良い。


(ま、メリアが近くにいれば光属性の魔力は使えるんだし、効果も確認できたから良しとするか)


 『献魂逸擲』での強化は本当に魅力的だが、光属性の魔力を扱えるだけでも『魔王』や『魔王の影』、死霊系モンスターには特効といえる効果があるのだ。


 光の魔力があれば『魔王の影』が相手でも勝ち目が生まれる。バリスシアと戦った時は『閃刃』でも腕を一本斬り飛ばすことさえできなかったが、もしもあの時、光の魔力が剣に乗っていればどうなったか。


(次に会った時、油断していたらチャンスだ……一撃で首を刎ねてやる)


 叶うならば自分の力だけで『魔王の影』を倒したいという剣士としての欲がある。だが、そんな欲を出して負けたら何の意味もないのだ。


 そのため俺が薄く微笑みながら決意を固めていると、隣に座っていた透輝が必死に距離を取ろうとする。しかし客車キャビンの中はそこまで広くないため距離が取れず、諦めたようにため息を吐いた。


「ししょー、顔が怖いっす。最近そういう怖い顔が多いけど、なんかあったのか?」

「そこまで意識して怖い顔になっているつもりはないんだけどな……何かあったかと言われると、二度と負けたくない相手に対して色々と、な」


 透輝は間違いなく剣の天才だが、まだまだ勝利への執着が足りない。あとは剣にかける思いというか、狂気というか……そういう邪念みたいなものがない、まっさらな状態なのが透輝だ。

 それは良いことであり、悪いことでもある。剣の師としては矯正する必要性を感じつつも、このまま成長しても問題ないのではないか、なんて思えるだけの才能があるから厄介だ。


(真っ当に、真っすぐに剣術を修めるだけで強くなれるんだもんな……それをずるいと感じるのは俺の才能のなさが原因の妬みかねぇ)


 ランドウ先生だったらそんなことは考えず、ただ透輝のことを考えて育てることができるのだろう。透輝に執念を植え付けるべきかどうかなんて、考えもしないに違いない。


(でも、剣に乗せる想いはしっかりと認識しておいた方が良いよな……才能とそれなりの努力だけでここまで育ったけど、ここから先、そういった信念や執念がないのは透輝にとって大きな欠点になりかねん)


 隣に座る透輝を見ながら、そんなことを思う。剣を学び始めて一年と少しで考えるようなことじゃないし、ぶつかるような壁でもないんだが、スギイシ流を修めつつある透輝にはその辺り、しっかりと認識させるべきだろう。


 ただ、どうやって認識させるかが問題なわけで。


(……ランドウ先生に相談してから決めるか)


 もしかしたら有益なアドバイスをしてくれるかもしれない。


 そんな期待を抱きつつ、俺は馬車に背中を預けて静かに息を吐くのだった。






 透輝のことは追々考えるとして、学園に帰ったらオリヴィアへと今回の件を報告する。オリヴィアもオリヴィアで待っていたのか、帰還するなり図書館に足を向けたらあっさりと会うことができた。


「それで? メリアとの『契約』の力はどうだったの?」

「予想以上でしたよ。未来の俺が『魔王』退治のメンバーに入っていたのも納得の力でした」


 『魔王』が発生する頃になれば透輝も俺を超えて強くなっているだろうし、リリィに聞いた対『魔王』戦のメンバーの中で一番弱いのは俺になるだろう。

 それでもなんで『魔王』相手に俺も一緒だったのかが理解できるほど、メリアからの強化は強力だった。


 メリアが動けなくなるし、あくまで一時的なものだが、ランドウ先生並に戦えるようになるのだ。実際にランドウ先生と戦ったら負けそうな気もする――いや、確実に負けるだろうが、身体能力スペックだけを見ると互角に近い水準まで引き上げられると思う。


 それも、ランドウ先生と違って光属性の魔力を扱えるのが大きな利点だ。透輝も光属性だから手数は二倍である。メリアに『献魂逸擲』を使わせずに普通に戦わせるなら手数は三倍だ。


 ()()()()『魔王』を二十年から三十年程度しか『封印』できなかった、と考えると少しばかり絶望しそうになるが。


(別ルートだと俺が一回死んで透輝の『宝玉』を消耗したって話だし、それがないならもっと有利なはず……チッ、ここまで有利な条件が揃っているのに不安が尽きねえ……)


 リリィからの情報もあるし、俺は俺なりにできることをやっているつもりだが、どうにも漠然とした不安が拭えない。案ずるより産むが易し、なんて言葉もあるし、『魔王』が発生して戦ってみたら案外あっさりと勝ててしまった、なんて可能性もゼロではないが――。


(そりゃ油断ってやつだろ。そんな簡単にいくのなら三百何十年前の『魔王』だって『消滅』できたはずだ。『花コン』を基準にしたとしても一周目で『魔王』を倒してどうこうは難易度が滅茶苦茶高いぞ)


 ゲームなら不可能ではないが、現実で一回きりの一発勝負となると話は別だ。いくら備えても足りない気がするし、実際に『魔王』が発生して戦うとなると色々と誤算も出てくるだろう。


(それでも『消滅』を……最低でも長期間の『封印』をしないといけない、と)


 別ルートの俺みたいに二十年から三十年という()()()()ではない。前回魔王が発生した時のように三百年を超える『封印』を、最低でも百年は『封印』をしたいところだ。もちろん、最高は『消滅』なのだが。


 ただまあ、その辺りを指揮して進めていくのは国王陛下やオリヴィアといった国やオレア教の上層部になる。俺はあくまで一個の戦力か、精々オリヴィアへのアドバイザーぐらいの役割だ。


「あの子以外にも光属性の攻撃方法が増えるのは助かる話だわ。テンカワ君の方はどうなっているの?」

「順調です。あの成長具合いなら一年後には俺を超えている……かもしれません」


 思わず負けん気を発揮してそんなことを言う。師匠としては喜ばしいけど、剣士としては素直に認めるのがきついんだ。


「あら、かもしれない……なのね?」


 そんな俺の心情に気付いたのか、オリヴィアが少しだけ笑うようにして尋ねてくる。


「ええ、かもしれない、です。俺もまだまだ成長するつもりですからね。そう簡単には追いつかせませんよ」


 俺ぐらいあっさりと超えてほしい、なんて思いと、負けたくないって思いがせめぎ合っている。それと同時に、さすがに今の俺をあっさり超えるほどの急成長は現実的じゃないよな、なんてことも思う。


 俺の返答をどう思ったのか、オリヴィアは口元に笑みを浮かべてから表情を真剣なものに変える。


「強くなるのなら大歓迎だわ。でも、今ある戦力で今できることをする必要がある……それはわかるわね?」

「ええ、もちろん。何か依頼が?」


 またどこぞのダンジョンでも破壊してくれば良いのだろうか、なんて思いながら尋ねるが、オリヴィアの表情を見た俺はまさか、と思う。


()()()()を聞いて検討を進めていたのだけど、やっぱり大規模ダンジョンをいくつか破壊しておきたいのよね」


 それは、世間話の延長のような口振りだった。ただし表情も声色も真剣で、オリヴィアは俺をじっと見つめてくる。


「……そうなりますか。優先順位は? 北の大規模ダンジョンが最優先ですか?」

「そうなるわ。『魔王』が発生した際、死霊系モンスターを大量に生み出されるとこちらが不利だもの」


 そう言われ、俺の脳裏に大量に『暗殺唱』や『致死暗澹』といった確率で即死する魔法が飛び交う戦場が思い浮かぶ。


 俺は魔法を斬れるから問題ないが、闇属性の魔法は本当に厄介だ。それに、いくら魔法が斬れるといっても消費するMPまりょくの関係上、限界がある。


 死霊系モンスターが大量に押し寄せて広範囲に多重に魔法を乱射されたら、最早どうしようもない。俺だけでなくランドウ先生でさえ対処は困難だろう。


 魔法を斬れない場合、相手が撃つよりも先にこちらが魔法で薙ぎ払うしかない。しかし『花コン』で津波のよう、とまで表現されたモンスター達を相手にどこまで対抗できるか。


 だからこそ、北の大規模ダンジョンは最優先で潰す。潰したダンジョン跡から『魔王』が発生する可能性もゼロではないが、少なくとも『花コン』では全ての大規模ダンジョンを破壊した上で、グランドエンドに敢えて入らないようなプレイをしない限り起こり得ない。


 グランドエンドは全ての大規模ダンジョンを潰す必要があるが、ルートに入り損ねると各大規模ダンジョンの跡地からランダムで『魔王』の発生場所が決まる。

 つまり北の大規模ダンジョンが選ばれる確率は四分の一で、他の大規模ダンジョンが残っていればそちらが優先的に選ばれるはずだ。


 先日の会話でその辺りの事情を伝えたからか、どこの大規模ダンジョンを最優先で潰すか検討に検討を重ねてきたらしい。


「それと北部なら大きな国もないし、大規模ダンジョンを破壊しても喜びこそすれ、文句は言ってこないでしょう?」

「大規模ダンジョンはこの国との壁でもありますからね……メリットが勝れば文句は言ってこないでしょうよ」


 ただ、デメリットが発生した分の文句は言ってくるだろう。


 間引きや管理が大変な大規模ダンジョンがなくなったから良かったね、では済まないのだ。大規模ダンジョンを潰すということは、それまでダンジョンがあった場所の()()()()()ということでもあるのだから。


 パエオニア王国から見て北――アーノルド大陸でも北部に当たるその地域にはオリヴィアが言う通り大国と呼ぶべき国はない。


 中小の国家がいくつも存在しているが、それらの国々が相互不可侵、相互協力を謳って盟約を結んでおり、パエオニア王国からは北部諸国連合と呼ばれている。


 北部諸国連合としてひとまとめで見ると大国になるが、それでもパエオニア王国と比べれば国土も国力も半分以下だ。


 良く言えば手を取り合っているが、悪く言えば烏合の衆である。そんな国々との間に、面積の計算すら面倒なほどの広大な()()()が生まれればどうなるか。


 大規模ダンジョンがあった場所は元々自分のところの土地だった、なんて主張されたらどうなるか。


 少し考えるだけでも滅茶苦茶面倒臭く、下手すると戦争になりかねない事案だというのがわかるだろう。かといって空いている土地があった場合、どうぞどうぞと差し出すわけにもいかない。一度手放せば取り戻すのに()()()()()が必要となるからだ。


(その点、北部諸国連合が相手ならパエオニア王国側も強気で対応できるが……)


 土地の奪い合いで負の感情が溜まったら目も当てられないだろう。そうなった場合、ダンジョンを潰すメリットよりもデメリットの方が勝ってしまう。


「土地の帰属に関しては北の大規模ダンジョンを破壊してから交渉を進めていくわ。一応、現時点でオレア教からの技術供与を提示してあるし、平和に()()()()()進めていくつもりよ」

「つまり、『魔王』の発生に極力影響が出ないようにする、と」


 空いた土地に関しては交渉を長引かせ、『魔王』の発生よりも後回しにするつもりらしい。たしかに現状だとそれ以外の選択肢は取り辛いだろう。


(『魔王』が片付いた後なら()()()()()()()()()()だろうと取れるしな)


 これからの展望とその裏側に軽く触れ、俺は肩を竦める。今はまだ、一個の戦力としてダンジョンの破壊に関与する程度しかできないぞ、俺は。


 『花コン』でもルートによっては『魔王』を『封印』した後に周辺国家から宣戦布告されるが、オリヴィアや国の上層部は当然ながらそれを回避する方向で進めていくつもりらしい。


 今日明日にでも大規模ダンジョンを破壊しに行くわけではないが、その点には安堵する俺だった。

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― 新着の感想 ―
大規模ダンジョンを現実世界で攻略するなら少数では戦力もそうだけど体力的にきつくないかなあ… 仮にランドウ先生が参加しないなら夜間の見張りの交代を考えても十人は欲しい まあミナトなら寝ながら警戒できると…
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