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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第10章

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第271話:『契約』の力 その3

「八十一点」

「赤点ギリギリ!? 採点基準はどうなってんの!?」


 こちらに駆け寄ってきたゾンビを『一の払い』で一刀両断にした透輝の姿に点数をつけると、当の透輝は抗議するように声を上げた。


 いや……ブーブー文句を言ってるけど、実戦で当たり前のように『一の払い』を使って斬撃を飛ばし、ゾンビを倒したんだ。赤点ギリギリじゃなくて逆に合格点、つまり()()()()使()()()()()()()水準にあるという判断なんだが。


(そうなるとは思ったけど、当たり前のように成功させたな。しかも魔法を斬るんじゃなくて、魔力の刃でゾンビを斬りやがった。才能の塊かよコイツ……才能の塊だったわ)


 おそらく、ランドウ先生が見ていたとしても合格点を与えただろう。そう思えるほどに仕上がった『一の払い』だった。


(今はまだ、俺の方が上だ……ただ、それもいつまでもつかね……)


 師匠面をしているが、これもいつまで続けられるかわからない。一年ほど前の剣を振り始めた頃の透輝と比べ、今の透輝は雲泥の差がある。透輝の腕前を見せた後に、剣を学び始めて一年程度ですと言っても信じてはもらえないだろう、なんて思えるほどだ。


(三年生になる頃には超えられてるかもな……いや、まだだ。まだ負けてはやれん)


 ()()()を超えたからと喜び、満足されても困る。弟子として師匠を超えるのは最高の恩返しかもしれないが、俺とて一人の剣士だ。簡単に超えさせるつもりはない。


(でも、さすがに三年生の半ばを過ぎる頃には逆転されるか……『魔王』が発生する頃にはもっと強くなっている、なんて思えば頼もしい限りだけどな)


 その頃には俺以上、ランドウ先生未満程度に育っているんじゃないだろうか。俺が一歩一歩ゆっくり成長している横で、二段、三段とばしで駆け上がってきているのが透輝だ。いつかは追いつかれ、追い越されていくのだろう。


「次、あのゾンビに『二の太刀』」

「うっす!」


 俺は考え事をしながらも、次の目標を指示する。遠くまで見えるからこっちに向かってくるモンスターがすぐにわかるし、指示も出しやすくて楽だわ。


「おおおりゃあぁっ!」


 透輝は気合いの声を発しつつ、向かってきたゾンビへと踏み込んだ。そして以前は俺から見て学び、我流で身に着けていた『二の太刀』を繰り出す。


 踏み込み、上段から振り下ろし、袈裟懸けにゾンビを両断するその姿には一切の淀みがない。初めてゾンビと戦った時は戸惑って動きが鈍っていたが、最早そんな甘えはないと言わんばかりに流麗かつ力強い動きだった。


「……八十五点」

「上がったけど採点厳しくない!?」


 残心を取っていた透輝が振り返って叫ぶが、ここで百点を出す馬鹿がどこにいる。まだまだ成長できるんだって示さないと鈍るだろ。


「次、『三の突き』」


 俺は透輝の言葉に応えず、次の指示を出す。すると透輝もすぐさま意識を切り替えて集中し、向かってくるゾンビへと駆け出した。


「はああぁっ!」


 そして踏み込み、『鋭業廻器』の切っ先を繰り出す。元々切れ味が抜群で頑丈さにも優れる『鋭業廻器』での突き技となると、当たればそれこそ必殺と言える威力がある。

 事実、透輝が『三の突き』を叩き込んだゾンビは一撃で即死した。胴体のど真ん中、人間でいえば心臓を綺麗に破壊されての即死だ。


「……五十点」

「ぐぁ……厳しい……でも駄目だってわかるからなんとも言えねえ……」


 俺がつけた点数について、今度は透輝も文句をつけなかった。たしかに外見は『三の突き』に近付いているが、今のは()()()()()だ。どんな相手でも防御と急所を貫き、一撃で即死させるにはまだまだ遠い。


「『一の払い』と『二の太刀』に関してはだいぶ良くなってるな。実戦でも十分に使える水準になっているから、あとは透輝なりに磨き上げていくだけだ。ただ、『三の突き』……これがどうにもなぁ」

「いまいち感覚が合わないんだよな。ししょーや大師匠がやるとあんなに綺麗なのに、俺がやるとこう、バタバタしているというか……」


 徐々に形になりつつあるが、それでもまだ時間がかかるだろう。その姿を見て、透輝もちゃんと人間だったんだな、なんて安堵してしまうのは俺の心が狭いのか。


(前世でもチャンバラごっこをしたとして、突き技を使うことはなかったしな。剣道でも中学生ぐらいまでは突き技が禁止だったはずだし……その辺りが影響しているとか?)


 男に生まれたからには一度と言わず何度でも棒切れを拾い、名剣魔剣に見立てて振り回したものだろう。あるいは傘でチャンバラごっこをしたはずだ。

 それらの経験からいえば、剣の振り下ろしなどは自然と体が覚えてくれるとしても突き技は中々身につかない。なにせ()()()()()だ。それらの事情が技の習熟の早さに表れているのかもしれない。


 いやまあ、俺が子どもの頃は漫画やアニメの必殺技を真似たもんだが、今の子どもは案外そういうチャンバラごっこってやらないのかもしれないけどさ。


「自分の悪い点に気付いているのなら、あとは少しずつ直していくしかないな。でも安心しろ。間違いなく完成に近づいているから、今は試行錯誤する練習だと思え」

「試行錯誤する練習……あー、間違いと正解を見付けて、少しずつ完成に近付けていくってわけか。わかった」

「そういうことだ。よし、それじゃあ次。奥義の『閃刃』だ。やり方は任せる」


 俺は遠目にゾンビの姿が見えたため、最後の課題を口にする。『三の突き』ができないため完成は遠いだろうが、それでもやらせておこうと思ったのだ。


「おうっ! いくぜ!」


 透輝はすぐさま意識を切り替え、ゾンビへと駆けていく。意識の切り替えの早さ、集中の早さは尋常ではなく、こういうところで才能の差を感じてしまうな。


「せえええいぃっ!」


 透輝は上段からの振り下ろしを選択したようで、『一の払い』によって魔力を運用し、『二の太刀』によって的確に剣を運用し、『三の突き』によって相手の弱点を的確に狙う。


 それらを複合し、混ぜ込んで繰り出すのが奥義である『閃刃』だ。全ての技の複合にして、基本の延長にある技である。


「五十……四点」

「び、微妙な数字!?」


 ゾンビを見事に唐竹割りにしてみせた透輝だが、俺が点数を口にするとその場で膝をついた。いや、今の時点で半分以上完成しているって意味じゃあ、かなり褒めているんだぞ? なんで『三の突き』が使えないのに形になっているんだ? また見て真似たのか。


(見て真似て自分の技に取り込む……その辺りが天才の証なんだよな。俺みたいに繰り返し練習して覚えるんじゃなくて、見て盗めるのが才能ってやつか)


 ここまで成長するとさすがの透輝といえど成長が鈍化するが、それでも目で見てわかるほどの成長速度を保っている。


(この様子なら『閃刃』を磨いている内に()()()()()()に気付いて『三の突き』を覚えるかもな……早ければ夏の終わり頃、遅くても冬が来る前に奥義まで修めるか……)


 俺がランドウ先生指導のもとで十年近くかけて覚えたことを、俺の指導で二年足らずで覚えそうだ。ここまでくれば嫉妬の感情も湧かず、ただただ驚嘆するしかない。


 うん、まあ、嫉妬しないっていうのは嘘だけどね? 普通に剣士として嫉妬するわ。むしろ嫉妬しないなら剣士じゃないわ。


 それでも、透輝なら俺の予想を更に短縮する形で『三の突き』や『閃刃』を覚える可能性がある。透輝の場合、ちょっとしたことをきっかけにして覚えてくるからな……。


「ま、動きが単調でゆっくりなゾンビが相手だから斬りやすいけど、他のモンスターでも問題なく斬れるようにしないとな。相手によっては斬れません、じゃ話にならないし」

「うっす。頑張ります、ししょー」


 透輝は気合いを入れるように大きく頷く。なんとも素直で育てやすい弟子だ。いや、こういう部分も才能と言うべきかもしれないが。


(さて……次は俺の番かな)


 透輝の実戦練習を確認した俺は、メリアへと視線を向ける。今回のダンジョン挑戦は俺の練習成果を試す場でもあるのだ。


 そんなことを考えていると、遠目にゾンビが近付いてくるのが見えた。『死者歩く平原』というだけあり、ゾンビが多いのか。


「メリア、いつも通り力を貸してくれ」

「ん」


 俺が声をかけると、すぐにメリアが頷く。すると『契約』を通して光の魔力が流れ込んできたため、すぐさま掌握し、操作して剣に集中させていく。


(……よし、問題ないな)


 数秒とかけずに光の魔力を剣に乗せた俺は、そのままの状態でゾンビに向かって駆け出した。


 そして袈裟懸けに剣を振り下ろし――。


「っ!?」


 剣に触れたゾンビの体が、蒸発でもするように消滅した。そして俺は手応えを感じることなく、雲でも斬るように剣を振り切る形となる。


(これ、は……これが光属性の力……なのか?)


 たしかに光属性は死霊系モンスターに特効の力があると『花コン』でも描写されていたが、ここまでとは……透輝が以前『光弾』を使った時も大した効果だとは思ったものの、ここまでとはさすがに思わなかった。


 あまりの手応えのなさに困惑していた俺だが、気を取り直して次の実験に移る。最近、ようやく形になりつつある光の魔力を使った『一の払い』の実践だ。


「シイィッ!」


 気合いの声と共に剣を振り下ろし、斬撃を飛ばす。さすがに素の『一の払い』のような射程はないため、五メートルほどの距離を空けてゾンビへ魔力の刃を飛ばした。


「……おお」


 そして、思わずそんな声を漏らす。固めて飛ばした光の魔力が直撃した部分が消え失せ、ゾンビが即死したからだ。


(すげえ……光属性ってここまで強力なのか。これなら『魔王の影』が相手でも……って、さすがにそこまで上手くはいかんか。精々ダメージが増すぐらいかな?)


 それでも『魔王の影』に対する効果的な手段が見つかった気分である。近くにメリアがいて、なおかつ俺の集中力が耐えきれる状況だという前提はあるが、これなら『魔王の影』が相手でも勝てるのではないか、と希望を抱かせるに足る光景だった。


(待て、油断するな、俺……あくまで死霊系モンスターや『魔王』、『魔王の影』に対する特効であって、他のモンスターには普通の属性魔法でしかない。前回戦った時みたいに、大量のモンスターを繰り出されたら突破するだけで体力も集中力も削られるから……)


 モンスターの波を掻き分け、『魔王の影』に接近した上で光の魔力を叩き込む必要がある。そうなった場合、今みたいに一対一で妨害もなく叩き込むのとは天と地ほどの難易度の差があるだろう。


 だが、それでも、だ。


(もっと光の魔力の扱いを磨いていけば、『魔王』はまだしも『魔王の影』なら俺でも倒せるようになる……いや、きっと倒せる)


 その事実がわかっただけでも、大きな収穫だった。

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― 新着の感想 ―
魔王の影とか相手だとメリアを守らなきゃいけないというハンデも負うから一概に有利になったとも言えないんじゃないかな
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