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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第10章

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第270話:『契約』の力 その2

 最早普段通りにというべきか、日曜日に学園を出発した俺達は夕方になると『死者歩く平原』に一番近い村まで到着し、そのまま一泊して翌朝からダンジョンに挑むこととなった。


 ナズナが馬車を飛ばしていた割に、到着は夕方ギリギリである。距離があったのもあるが、やっぱり機嫌が悪くて馬車を飛ばしていただけなんだろうか……もう少し早めに到着すると思ったんだが。


 それでも無事に到着できたし、俺は何も言わない。飛ばしてはいても安全運転を心がけていたみたいだし、そういう日もあるだろう、と深くは触れなかった。


 立場上、馬車で移動することも多かったからか。カリンは思った以上に平気な顔をしており、メリアもメリアで普段通りの無表情だ。いや、カリンの膝枕を堪能したからか、少し満足そうでもある……かな?


(カリンはカリンで、メリアの行動に何も言わなかったな)


 メリアを止めることもなかったし、メリアの好きにさせていた。そこにどんな意図があるのかはわからないが、悪いことではないと思いたい。メリアもメリアで、俺以外の面々と交流して仲を深めるのは悪いことではないはずだ。


 メリアは元々透輝に対してはそれなりに気安いというか、以前の俺に対するものに近い態度を取っている。それが光属性同士のシンパシーによるものか、別の何かがあるのかはわからないが、ひとまずカリンや透輝との相性は悪くない。


 しかし今回のメンバーの中で、ナズナだけは距離がある。元々言葉を交わす間柄でもなかったし、性格もそこまで合わないのか他人以上知人未満といった距離感だ。


 ただまあ、そうやって距離感がどうこうっていうのはダンジョンの外だけでの話である。これがダンジョンで実戦を行うとなると、ナズナも適切な行動を取る。距離感がどうとか言っている暇はないからだ。


 逆にダンジョン内での動きが悪いのはカリンだけとなる。俺とナズナは大規模ダンジョンで修行をしてきたから言わずもがな。透輝はこれまで何度もダンジョンに連れて行って慣れており、メリアはオレア教での修行で潜ったのか平然としている。

 カリンはカリンで普通の貴族令嬢と比べれば修羅場を潜っているが、それはあくまで普通の令嬢と比較してのことだ。ダンジョンに挑んだ経験が豊富な者と比べるとどうしても劣る面が出てしまう。


「っ……」


 そして今も、『死者歩く平原』に足を踏み入れた際の反応が他の面々とは異なった。


 ダンジョンに入ると特有の威圧感があるが、カリンだけが怯えたように身を縮こまらせたのである。


「おー……これまで入ったことがあるダンジョンと違って、向こうの方まで視界が通るんだな。でもなんだっけ? 地平線? 水平線? よりも先は当然見えないか」


 カリンを除けば一番経験が浅い透輝でさえ、遠くを見てそんな感想を漏らす余裕があった。


 透輝が言う通り、遮蔽物が少ないこともあって水平線まで視界が通る場所がちらほらとある。もちろん視界が通らない、岩場や林といった起伏もあるわけだが、これまで潜ったことがあるダンジョンと比べれば視界が通りやすい分、かなり楽に探索できるだろう。


 当然だが夜が明けてから来たため真っ暗で先が見えないなんてこともないし、死霊系モンスターしか出ないからといってホラー映画よろしく、恐怖を煽るようなおどろおどろしい薄暗さもない。すがすがしい朝陽の中、遠目にゾンビが闊歩していたり、レイスが宙に浮いていたりするのが見えるほどだ。


(いや、それはそれでシュールだな……)


 プレッシャーに押されているカリンには悪いが、俺としてはむしろ、光景のシュールさに噴き出しそうになってしまう。遮蔽物が少ないとモンスターの動きが丸見えだが、それが死霊系モンスターとなるとホラーではなく滑稽なのだ。


「それで若様。何やら実験をされるとのことでしたが……」


 ダンジョンに入って意識を切り替えたのか、キリっとした顔でナズナが尋ねてくる。


「ああ。ここならモンスターの不意打ちもそこまで警戒しないでいいし、事前に戦う相手がわかりやすい。実験にはうってつけだな」


 そう言って俺は剣を抜こうとするが、その前にカリンに視線を向けた。


「カリン、そう怯えないでくれ。俺達がいる以上、君には傷一つつけさせないよ」

「は、はい……それはわかっているのですが、やはりまだ慣れていないようで……」


 『契約』の力を試すよりも先にカリンを落ち着かせることを優先する。『契約』の力に関してはいつでも実験できるし、モンスターとの距離もあるからだ。


「ま、こればっかりは慣れが物を言うから仕方ない。しかも小規模じゃなくて中規模だからな。学園の生徒でも大半は怯えるだろうさ」


 俺は意識して笑い、仕方がないことだと笑い飛ばす。ダンジョンは規模が大きくなるにつれて威圧感が増すため、カリンの反応は至極当然なのだ。

 いくら『王国北部ダンジョン異常成長事件』を経験しているとはいえ、あれから四年近く経っている。一週間を超える期間ダンジョンに居続けたわけだが、一度きりの経験で慣れるかといえばそうではないのだ。


 もっとも、それでも他の生徒と比べればカリンの反応は大人しいだろう。少ないとはいえ経験があるため、その差が出ているに違いない。


「っと、ミナト、レイスがこっちに気付いたみたいだけどどうする?」


 そうやってカリンを落ち着かせていると、周囲を索敵していた透輝が声を上げる。その声に釣られて視線を向けてみると、たしかにレイスが一体、こちらへ飛んできているのが見えた。


「せっかくの機会だ。カリン、まずは君の訓練の成果を試してみようか」


 俺は何でもないことのように告げ、カリンに笑いかける。そして腰元の剣の柄を軽く叩く。


「もしも魔法が飛んできても俺が防ぐ。君はただ、『召喚器』を発現し、レイスに向かって能力を発動する……それだけだ。簡単だろ?」


 これからやるべきことを簡単にカリンに伝えると、カリンは目を瞬かせててから小さく頷く。そして深呼吸をしたかと思うと右手を前に突き出し、意識を集中させて数秒で『召喚器』――『尖片万火せんぺんばんか』を発現させた。


(発現まで少し時間がかかっているが……カリンは後衛だし、今回は敵とも距離がある。前衛もいるから問題はなかった……と、しておこうか)


 内心で苦笑しながらそんなことを思う。これで透輝が相手ならもっと厳しく指摘するが、カリンが相手だと手心を加えてしまうのは俺が甘いからだろうか。


 『尖片万火』の外見は全長三十センチほどの鉄扇であり、折り畳まれた状態で発現される。カリンは鉄扇を握り締めると、バッ、と音を立てながら鉄扇を開いて大きく振りかぶった。


「い、いきますっ!」


 そう叫び、振り上げた『尖片万火』を勢いよく振り下ろすカリン。すると次の瞬間、開いた鉄扇から濁流のような勢いで炎が噴き出し、向かってきていたレイスを瞬く間に飲み込んで燃やし尽くし、消滅させた。


「うわぁ……」


 それを見ていた透輝が、思わずといった様子で呟く。敵のレイスに魔法を使わせないどころか、抵抗の一つすら許さない蹂躙劇だった。


「ど、どうでしょう!?」


 レイスを焼き払ったカリンは俺へと振り返り、興奮した様子で尋ねてくる。自らの行いを褒めて欲しがる幼児のような反応で、それを見た俺は薄く微笑みながら頷く。


「五十点」

「五十点!?」


 俺がつけた点数に対し、カリンは驚いたように叫ぶ。うん、婚約者候補って色眼鏡をかけてもそれぐらいの点数が限度かなって思うんだ。


「威力と範囲が過剰すぎる。練習の時はもっと威力を抑えられたんだから、相手の強さに合わせて無駄なく力を使わないと。今のだと強めの中級魔法ぐらいの威力があったかな? 下級魔法ぐらいの威力に抑えられるようにするのが課題だね」


 俺がそう言うと、カリンは目に見えてしょぼんとした顔になった。どうやらもう少し褒められると思ったらしい。


「継戦能力って大事だからね。ただまあ、威力を抑えすぎて相手を仕留めきれなかったら意味がない。今回の場合、威力は過剰だけど相手をしっかり仕留めることはできた。だから五十点」

「あ……は、はいっ!」


 そう結論付けると、カリンは納得したような顔になる。


 俺の話を聞いていた透輝が『甘い……甘くない? 俺が相手だったら三十点ぐらいじゃない?』なんて呟いているが、お前は弟子だからな。カリンと同じことやったら二十点をつけた上で張り倒すぞ。


 そしてそんな透輝と同様に、ナズナも()()()()()()()を抱いているのが透けて見えた。アレは……俺がつけた点数に不満を抱きつつも、自分ならもっと高得点を取れるという自信……かな? 訓練に割いてきた時間が違い過ぎるんだから、単純な比較はできないだろうに。


(うーん……実際、周囲の警戒はしっかりしているしなぁ。不意打ちを受けてもカバーできるよう、立ち位置に気を遣ってもいるし……)


 いわば素人のカリンを玄人のナズナが軽んじているような有様だが、やるべきことをしっかりとやってはいるわけで。


 それでもあまりカリンを軽んじるような態度は取ってほしくない。そう思ってナズナを叱ろうと口を開くが、ナズナも己の行いがまずいと自ら悟ったのだろう。顔をしかめて頭を振ると、真剣な表情になって周囲の索敵により注力し始める。


(……ナズナ)


 そんなナズナの様子に、俺は心中でその名前を呼ぶ。己の中の感情と向き合い、なんとか折り合いをつけようとするその姿にナズナの成長を感じざるを得ない。


(俺の方から注意をしようと思ったが……もう少し様子を見てみるか)


 ナズナは幼馴染みだが、カリンとの関係性を思えばさすがにそろそろ注意をしなければならない。そう思っていたが、自ら律することができるのなら見守りたくもあった。


「……透輝!」


 俺はナズナから意識を外し、透輝の名前を呼ぶ。自分自身の意識と空気を入れ替えるために、少し強めに。


「なんっすか、ししょー」

「これから死霊系モンスター相手にスギイシ流の技を実践してもらうわけだが……八十点以下を取ったら追試だからな?」

「赤点のライン高すぎじゃない!?」


 からかうように、それでいて本気で条件を提示すると、透輝は目を剥くようにして驚きの声を上げた。


 追試って何をするの、なんて叫んでいるが……それはもう、地獄のような再特訓だよ。一からまた鍛え直しだよ。


 それでも透輝の才能と努力を思えば、俺が設定したラインなど容易に超えるだろう。そんな信頼は表に出さず、こちらに気付いたのか向かってくるゾンビを見て顎でしゃくる。


「丁度良い相手がきたな。行ってこい」

「えぇ……ちくしょー! やってやるよ! 八十点がなんだ! 目指せ百点!」


 そう叫ぶ透輝を見て、俺はカリン達に見られていないことを確認してからため息を吐くのだった。

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― 新着の感想 ―
うん、指揮官て大変だよね 透輝をレウルス君のポジションだと思って見てみると 色々視点が変わって面白い
その甘さは実戦に連れてきている以上文字通りの命取りになるものなので、本当の意味で甘さやね。 優しさとかではなく。 一度痛い目をみたほうがいいのではないだろうか。
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