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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第10章

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第252話:モモカインパクト その1

 新年度が始まり、一ヶ月近い時間が過ぎた。


 入学式が行われた当初は決闘騒ぎが頻発していたが、今となってはほとんど決闘が起きず、一年生も大人しくなっている。


 いや、大人しくなっていた、というべきか。


「えー……それではこれより、決闘を執り行う。一年貴族科モモカ=ラレーテ=サンデューク対三年貴族科ジェイド=ネフライト……両者、準備はよろしいか?」

「構いませんわ!」

「……おう」


 今、俺が立ち会いを務める中で、決闘が行われようとしている。それも妹であるモモカと、三年生のジェイドの決闘だ。


(どうしてこんなことに……)


 闘志を剥き出しにするモモカと、乗り気ではない様子のジェイドを見ながら、俺はつい十分ほど記憶を遡る。






 事の発端は、放課後になって普段通り透輝に訓練をつけていた時に起きた。


 俺に構って欲しかったのか、放課後になるとモモカが姿を見せ、透輝を鍛える様をニコニコと笑顔で見学し始めたのである。


「おう、サンデューク……ちょっとツラ貸せや。決闘を挑みに来たぜ」


 そこに、ジェイドが来た。どうやら修行をしてきたらしく、俺に再度の決闘を挑みに来たとのこと。


 だが、今は透輝に訓練をつけている最中だし、俺は決闘委員会の委員長である。去年は大暴れしたし、今年も一年生に何度も決闘を挑まれてきた身で何を今更、と言われそうだが、今の俺は決闘を取り仕切る側であって、率先して受ける側ではないのだ。


 そのため明日、他の委員がいる時間帯に改めて受ける、と返答した。しかし、ジェイドはそれを拒否した。今からやろうぜ、と。逃げるなよ、と。


「いいでしょう! その決闘、このわたしが! モモカ=ラレーテ=サンデュークが受けますわっ!」


 そうしたら、この場にいた()()()()()()()()()()()が食い付いた……食い付いちゃったのだ。


「えっ……いや……え? 俺が戦いてえのは、こっちのサンデュークなんだが……」

「我がサンデューク辺境伯家の人間に、敵を前にして逃げるという選択肢はありませんの! お兄様は忙しいようですし、わたしがお相手いたしますわっ!」


 困惑するジェイドに対し、モモカは力強く宣言するが……すまない、モモカ。俺、『魔王の影』と戦った時に逃げちまったよ……逃がしたのはリリィだけどさ。リリィも俺の娘ならサンデュークの人間ってことになるし……。


 なんてことを現実逃避するように俺が考えていた時だった。モモカの勢いからなんとか立ち直ったジェイドが、肩を竦めて背中を向ける。


「……悪いが、女に向ける拳は持たねえんでな。今日のところは改めさせてもらうぜ」


 モモカの言い分に毒気を抜かれたのか。ジェイドは前言を撤回して退くことにしたらしい。俺としても助かるため、それを見送ることにした――のだが。


「あら、ご立派ですのね」


 モモカがニコリと微笑み、令嬢然とした笑顔で言った。


「――逃げ口上だけは」

「――あ?」


 それは、これ以上ない挑発だった。なんでそんなこと言うの? なんて思わず尋ねたくなるような、豪速球な挑発だった。俺が思わず天を仰いでいると、一緒にいた透輝が『すげえ、さすがミナトの妹だな。キレッキレじゃんか』なんて言って感心するような挑発だった。


(……モモカ?)


 だが、ここにきて俺はさすがに違和感を覚える。いくらモモカがやんちゃな性格だとしても、この挑発は()()()()だと感じたからだ。


「……いいぜ、そこまで言われたからにはこっちも退けねえ。その挑発、受けてやるよ」


 俺としてはそのまま退いてほしかったが、さすがにそうもいかないらしい。ジェイドは獰猛に笑い、ここに決闘が成立したのだった。






 ――そして現在いまに時が戻る。


 決闘を承諾したものの、相手が一年生の女子生徒ということもあってか、この十分でジェイドのテンションは元通りになっている。


 すなわち、『なんで俺、こんなことをしているんだろう……』と気落ちした様子だ。今からでも撤回できないかな、と言わんばかりに表情が落ち込んでいる。


 そんなジェイドとは対照的に、モモカはやる気満々だ。準備があると行って寮に行き、何やら四角鞄トランクを持ってきたかと思うと、十メートルほど距離を取った状態で腕組みをしている。


「ふふふ……サンデューク辺境伯家の人間として、お兄様の妹として、手加減はいたしませんわよ?」

「ああ、うん、そうか……まあ、頑張ってくれや」


 ジェイドの表情が、どうやって勝負をつければ良いのかと苦悩を物語っている。


 『花コン』で知る性格、この現実たる世界で知った性格、その両方から照らし合わせると、先ほど言ったように女性モモカに対して拳を振るうのは矜持が許さないだろう。そうなると、防御に長けたその力を使い、モモカが諦めるまで耐え忍ぶ戦い方をするだろうか。


 こんなことなら俺が素直に決闘を受けておけば良かったか、なんて思う。同時に、モモカがどの程度の実力があるのかを見てみたいという思いもあった。


 『花コン』でのモモカの戦い方を分類するなら、『召喚器』使いであるエリカが一番近いだろうか。他のメインキャラと比べるとやや低めなステータスを『召喚器』で補うスタイルだ。


 ただし、『花コン』でモモカが使う『召喚器』は割と特殊である。その名も『護封獣兎ごふうじゅうう』といって、一時的に巨大な兎を召喚して戦わせるのだ。

 少しメルヘンチックだが、角や爪、牙を生やした巨大な兎が大暴れするのがモモカの『召喚器』である。


 ただし、ナズナみたいに『召喚器』が『花コン』と違うパターンもあるし、モモカが現状で『召喚器』を使えるかどうかもわからない。少なくとも俺が実家にいる時はそんな話は聞かなかったんだが。


「モモカ……一体何を……」


 ふと、そんな声が聞こえた。それはコハクの声で、放課後ということもあってかいつの間にやら集まり始めた見物人ギャラリーの中にコハクの姿があった。


 今から決闘を行うモモカを見て立ち眩みでも起こしたようにふらつき、続いて、俺に向かって何が起きているんですか、とでも言わんばかりに視線をぶつけてくる。いやぁ、なんでこうなってるんだろうね、本当にね。


 これだけ見物人がいるのなら決闘委員会のメンバーもいないかな、と思ったが、何かあった時に備えるという意味では俺以上の手練れは委員会の中にいない。

 本当は決闘委員が身内の決闘を取り仕切るのはあまり良くないことなのだが……決闘を行う者達の安全を考えると、俺が立ち会うのが一番安全なのだ。


「ジェイド先輩、今更ですが俺が立会人で良いんですか? なんなら別の委員か、透輝に頼みますが」

「構わねえよ。できることなら早めに止めてくれや……早めにな。本当に頼むぞ?」


 自分から決闘を挑みに来たものの、相手が予定と違うことからジェイドのやる気が低い。それでも決闘が成立してしまったことから、一応はやり通そうとするあたりなんだかんだで真面目というべきか。


 念押しするように早く止めるんだぞ、なんて言うジェイドだが……妹がすいませんね。


(女の子が決闘なんて、嫁ぎ先がなくなりそう……うっ、胃が……)


 別に女性だから決闘をしては駄目という法律はないが、滅多に聞く話ではない。仮に決闘を行うとしても代理人を立てて戦わせるのが普通で、自ら戦うっていうのはレアケースだ。


 それこそカトレアみたいに剣も魔法も高水準でこなせる、みたいな実力者じゃないと。その点、モモカは剣も魔法も()()()程度のはずだったが。


 どうしよう、見物人がいるけど今からでも決闘を中止しようか。でも成立した決闘を中止するとそれはそれで問題だし、こうなったらジェイドが上手いことあしらってくれるのを期待するしかない。


(ジェイド先輩は防御特化だし、実戦経験もある。モモカにとんでもない()()()でもない限り、負けることはないだろ)


 それこそ『護封獣兎』を使えたとしても、ジェイドなら耐えきれるはずだ。こうなったら今度、ジェイドが望む形で決闘を受けて詫びとするしかないだろう。


 そんなことを思いつつ、俺はモモカとジェイドの間に立つ。


「では、両者共準備が整ったようなので――決闘、始めっ!」


 決闘の開始を宣言する――と、それと同時に動いたのは、モモカだった。


「よいしょっ」


 可愛らしい掛け声と共に、足元に置いた四角鞄に蹴りを入れるモモカ。すると四角鞄の金属錠が外れ、音を立てて鞄が開く。


 武器か防具でも取り出すのか。それなら決闘前に装備しておいてくれよ、というか鞄に蹴りなんて入れないでもうちょっとお淑やかにして、なんて思った俺だったが、鞄から飛び出してきたのは全長二十センチほどの赤いウサギのぬいぐるみである。


「…………?」


 駆け出そうとしていたジェイドが思わず動きを止めた。そして鞄から出てきたウサギのぬいぐるみを見て、俺を見て、再度ウサギのぬいぐるみを見て、もう一度俺を見る。


 なんというか、助けを求めるような視線だった。武器や防具ではなく、ぬいぐるみが出てきたのだからそれも仕方ないだろう。


「あー……まさか、そのぬいぐるみで戦うってわけじゃねえよなぁ?」

「そのまさかですわ!」

「…………」


 どうしよう、やっぱり今から決闘を中断しようか。ジェイドが決闘を成立させた己を責めるように顔をしかめている。決闘と聞いてぬいぐるみを取り出す貴族の令嬢を前に、どうすれば良いか判断がつかないようだ。


(というかあのぬいぐるみ、俺が以前王都で買ったお土産じゃないか……)


 スッ、と立ち上がる赤いウサギのぬいぐるみを見ながら、そんなことを考える。カリンと王都でデートをした際、赤色、黄色、桃色、それとカリンが選んでくれた黒色のぬいぐるみを買ったが、その内の一体だ。


 よく手入れがされているものの、ところどころ布地で補強されているあたり雑に使われているのかもしれない。モモカのことだから大事にしてくれると思ったんだがなぁ……でも、なんで拳や肘、膝といった部分を重点的に補強しているんだろう?


(……ん? あれ?)


 何か、見落としてはいけないことを見落としたような気がして俺は内心で首を傾げた。


 決闘を切り上げるべく、今にも降参しそうな顔のジェイド。


 蹴り開けた鞄から、黄色、桃色、黒色のぬいぐるみが飛び出してくるのをじっと見るモモカ。


 そしていつの間にか三倍ほどの大きさになっている、赤いウサギのぬいぐるみ――?


「は?」


 ()()に気付いた俺は、無意識の内に声を漏らしていた。いつの間にやら赤いウサギのぬいぐるみが巨大化し、動き出したのだ。いや、鞄から出てきた後に動いてはいたか。えっ、なんで動いているの?


「……なん、だ?」


 モモカと対峙しているジェイドは困惑したような声を漏らす。鞄から出てきたぬいぐるみ達がそれぞれ動き出し、巨大化し始めたからだ。


「おい……おいおい……なんだぁ、こりゃあ……」


 そうして十秒と経たない内に、四体のぬいぐるみがジェイドの前に立ちはだかる。それぞれ二メートル近い大きさまで巨大化し、なおかつ体付きが少し人間っぽいというか、二足歩行も可能な体付きへと変化していた。


「ウーちゃん、イーちゃん、テンちゃん、ペンくん! これこそがわたしの『召喚器』、『兎衣纏変ういてんぺん』ですわっ!」


 そう叫ぶモモカだが、よくよく見るとその両手からは糸が伸びていた。さすがにぬいぐるみが『召喚器』なのではなく、糸を通じてぬいぐるみを巨大化させ、その上で操作しているのだろう。


(物質の操作? いや、巨大化させてるし、操作もできる。糸につながったものならなんでも操れるのか? さすがにそれは強力過ぎるし、対象が限定されている……か? 何にせよ、上級の『召喚器』だろうな……)


 さすがに最上級ではないだろうが、それでも下級や中級とは思えないほど特殊な『召喚器』に見える。


「……ハッ。なんでこんなことに、なんて思ったが、これならまともに戦えそうじゃねえか」


 モモカの『召喚器』を見て、ジェイドが嬉しそうに、それでいてどこか安心したように呟いた。そして己の手甲型の『召喚器』を発現すると、拳を握り締めて構える。


「かかってきな、お嬢ちゃん! そのぬいぐるみ、ぶっ飛ばしてやるよ!」

「いきますわよっ!」


 ジェイドとモモカは互いに声を上げ、本格的に決闘が始まるのだった。

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― 新着の感想 ―
もしかしてサンデューク家の教育がヤバいのでは
これはまさかぬいぐるみの腕から刃が出てくるパターン!? 戦いのアート!
その一だと・・・。ワクワク
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