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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第10章

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第250話:新入生 その3

「ミナト様の師とあらば加減はいらないでしょう! 『風食轟雷』!」


 ランドウ先生との模擬戦。その口火を切ったのはモリオンだ。


 三十メートルほど距離を開けて模擬戦を開始するなり、モリオンが出せる最大火力の一撃を叩き込む。木属性の上級魔法、『風食轟雷』だ。


「ふむ……この歳のガキにしちゃあ、中々思い切りがいいな」


 だが、当然と言うか、ランドウ先生には通じない。俺でさえ上級魔法は斬れるんだ。ランドウ先生は感心したように呟きながら、飛んできた虫でも払うように刀を一閃して『風食轟雷』を両断する。


「モリオン! ランドウ先生に上級魔法は通じない! 威力よりも手数を優先して前衛をサポートしてくれ!」

「はいっ!」


 俺はランドウ先生との距離を詰めながら叫ぶ。


 最初に指示を出さなかった理由は簡単だ。他のクラスメート達に、ランドウ先生の()()()()()を認識してもらうためである。


「透輝! 相手は俺の上位互換だ! 俺がレベル三十ぐらいだとすればレベル百ぐらいの相手だと思え!」

「ししょー! それって接近戦を挑めば死ぬと思うんですが!?」

「模擬戦だから死なん! 多分!」

「多分!?」


 距離を詰めるほんの数秒、モリオンが『火球』の連射に切り替えてランドウ先生を攻め立てているが、これも当然ながら効いてはいない。どこか感心したようにモリオンを眺めつつ、刀を縦横無尽に振るって全てを切り裂いていく。


「ナズナは透輝を守れ! 透輝は左右に別れてランドウ先生を攻めるぞ! アレク!」

「はいはいっと。本当に実戦みたいねぇ……『不知火』、『金剛力』……『疾風迅雷』」


 アレクから援護の魔法が飛び、一気に加速する。回避と防御を重点的に強化した上で、『疾風迅雷』による速度の強化だ。いつの間にか上級の援護魔法バフを使えるようになったらしい。


「いきます! 先生!」

「――来い」


 『魔王の影』対策として戦うにはこれ以上ない相手である。それも味方の連携、援護込みで、殺される可能性も多分ないという、絶好の訓練相手だ。


 先日のように、一対一での戦いではない。あれはあれで良い訓練になったが、足りないものを他所から持ってくるという意味では今回の方がより訓練になるだろう。


 そう思いながら俺は、加速した体と視界の中で次から次へと斬撃を繰り出していく。


 一呼吸の間に十度、斬る位置を変えて刃を奔らせれば、ランドウ先生を挟んだ反対側で透輝も『鋭業廻器』を振るう。こちらは威力を重視し、一呼吸の間に二度、手加減なしで刃を振り切る。


 回数は違えど、左右からの挟撃。それに対するランドウ先生の反応は、刀を速く振って両方とも弾くという力技だった。


「はぁっ!?」

「チィッ!」


 驚愕する透輝の声が響く中、これでは傷一つつけられないと即断してランドウ先生の背後へと回る。だが、俺の動きを読んだように後ろ蹴りが飛んできたため柄で受け、衝撃を逃がすように背後へと跳んだ。

 その間にナズナがカバーに入り、盾の『召喚器』を繰り出してランドウ先生へシールドバッシュを仕掛けるが……いかんな。


 スギイシ流――『一の払い』。


 後ろに向かって跳びながらも、剣を振るって斬撃を飛ばす。ランドウ先生相手に盾一つで立ち向かうナズナは大したものだと思うが、透輝の反応が鈍く、ナズナだけに的を絞られてしまいそうだった。


 そのため『一の払い』で邪魔をすると、ランドウ先生は口元に小さく笑みを浮かべながら俺の斬撃を斬り払い、それと同時に拳を繰り出してナズナを盾ごと殴り飛ばす。


「呆けるな透輝っ! 相手は俺の上位互換だって言っただろ!」

「う、うっす!」


 殴られて距離を取ったナズナをカバーするように、今度はモリオンが放った『火砕砲』が飛んできた。それに気付いた透輝が仕切り直すべくナズナのもとへ跳び、俺も蹴られた衝撃を完全に殺し切って動きを止める。


 ランドウ先生は『火砕砲』を一瞥もせずに両断すると、何を思ったのか俺へ視線を向けてきた。


「ミナト、お前がコイツにスギイシ流を教えたのか?」


 どうやら透輝が斬りかかった際の動きでスギイシ流を教えたと判断されたようだ。しかし俺は首を横に振る。ソイツ、教えてないけど勝手に覚えたんですよ。


「剣の基礎は教えましたが、スギイシ流については教えていません。俺の動きを見て覚えました」

「……ほう?」


 俺の言葉を聞いたランドウ先生が興味深そうに透輝を見た。それを確認した俺は内心で密かにガッツポーズを取る。


(よしっ……ランドウ先生なら透輝の才能にもすぐに気付くと思った。あとは鍛えてみたいって思うぐらい透輝が頑張ってくれれば……)


 こと剣に関して、ランドウ先生以上の人間を俺は知らない。そんなランドウ先生なら透輝が一太刀振るうだけで優れた才能があると見抜けるだろう。


「透輝! その人は俺の師匠……つまりお前は孫弟子みたいなもんだ! 腑抜けたところを見せたら承知しないからな!」

「うっす! 了解ですししょー!」


 俺が檄を飛ばせば、透輝も気合いが入った声を返してくれる。それを聞きながら俺も剣の柄を握る両手に力を込めた。


 ああ言った手前、俺だって腑抜けたところを見せるわけにはいかない。ただでさえ先日、情けないところを見せたんだ。ランドウ先生の弟子として、出せる力は全て出す。


「……そうか。お前が弟子を、なぁ……」


 ランドウ先生は透輝から視線を外し、俺へと鋭い視線を向けてきた。その視線を受けた俺は構えを僅かに変えつつ、意識して笑う。


「更に強くなるには、他人に教えることも必要だと判断しました。そうすることで自分の剣の復習にもなりますし……なによりランドウ先生、()()()()()()()()()()()です」


 自惚れるわけではないが、ランドウ先生も俺を鍛えることで様々な面が変わったと思う。『花コン』でのランドウ先生と比べたら性格が多少丸くなったと思うし、それでいて強さは据え置きか、あるいは原作以上の強さに成長していると俺は見ていた。


「フン……生意気を言うようになったな」


 ランドウ先生は短く、吐き捨てるように言う。だが、その口元が僅かに弧を描いているのが見えた。あれは笑おうとしているのを堪えている時の仕草だ。


「生意気を言えるぐらいには成長したと、先生にお見せしたいですから」


 だから俺は笑って返す。そして表情を引き締めると、戦いを再開するべく前傾姿勢を取った。


「合わせろ、透輝!」

「わかった、師匠!」


 俺は透輝に声をかけ、同時に駆け出す。左右から連撃で挟み込んでも通じないなら、今度は威力だ。


 スギイシ流奥義――『閃刃』。


 スギイシ流――『二の太刀』。


 俺は奥義たる『閃刃』を、透輝は俺から見て学んだ『二の太刀』を繰り出す。左右から挟み込むようにして、必殺の意思すら込めて。


 ()()()と同じように、俺の『閃刃』が『二の太刀』で迎撃される。アレクの援護がある分、今回は俺に優勢な形で剣と刀がぶつかり合って拮抗し――?


「――甘い」


 俺の剣を受け止めた衝撃を利用して、後ろも見ずにランドウ先生が透輝の剣を蹴り上げた。まるで背中に目があるように、『鋭業廻器』の()を蹴り上げて軌道を逸らす。


「はあっ!? おぶっ!?」


 その曲芸染みた捌き方に透輝が驚愕の声を上げ、続いて繰り出された蹴りが胴体を捉えて大きく吹き飛ばされる。あまりの出来事にナズナが防御カバーに入れないほどの絶技だった。


「なるほど、見て学べるほどの才能を育ててみたくなったか。だが、あのザマならきちんと一から育てるべきだったな。『二の太刀』の癖も全てが()()()()()()だぞ」

「っ……そっくりだからと蹴りで弾けるのは、ランドウ先生だけですよ」


 俺の剣を体重移動で抑え込みながら、ランドウ先生が言う。いやもうまったく、模擬戦をする度にとんでもないことをしている気がするわ、この人。


「お前もだ、ミナト。自力で奥義に至った点は褒めよう。だが、まだまだ甘い。磨きが足りん」

「努力、しますっ!」


 鍔迫り合いで押し潰される前にわざと体勢を崩し、強引に抜け出す。するとその隙を守るようにナズナが盾を構えて体当たりを仕掛け、それも見えていたのかランドウ先生は自分から距離を取った。


「嬢ちゃんもだ。カバーはそれなりに上手くなったが、もう一歩足りん。これが実戦なら既に二度、お前さんを斬っているぞ」

「は、はい!」


 どうやら模擬戦だからと多少なり手加減していたらしい。一応、俺の『閃刃』を迎撃した時はある程度本気だったみたいだが。


「そっちの眼鏡の小僧……お前は悪くないな。自分にできることをやっている。まあ、今回は相手が悪い。それとそっちの道化師の小僧は……補助としては申し分ないが、それ以外ができないというのは減点だ」


 ランドウ先生は他の面子にも評価を下す。モリオンに関しては思ったよりも評価が高いが、アレクに関しては減点らしい。


「そっちの馬鹿弟子の弟子……孫弟子か。お前はもっと鍛えろ。鍛えれば鍛えた分、伸びる時期だ。とにかく鍛えろ。全体的に足りん」


 透輝に関しては、評価以前の問題らしい。才能は認めるが、そもそも今が成長期の真っただ中だ。とにかく鍛えるしかないようだ。


「あとは後ろの面々だが……ミナトが指示したとはいえ、本当に見ているだけとはな。減点だ、減点。手加減しているとはいえ、せっかく俺と斬り合える前衛ミナトがいるんだから自分にできることを何かしろ」


 ランドウ先生はアイリスやカリン達を見ながらそう言う。興味なさげというか、有象無象を眺めるような目だ。


「というわけで、そろそろ本気でいくぞ。全員、自分にできることをして抗ってみろ」

「っ!? 全員距離を取れ!」


 俺だけはその場に残りつつ、即座に指示を出す――が、瞬時に斬撃が飛んできたため、必死になって受け止める。()()()()()()()()


(まずっ――)


 すくい上げるようにして、俺の両足が地面から離れた。それに気付いた俺は即座に剣を捻って外そうとするが、それよりも早く、ボールでも打つように弾き飛ばされてしまう。


 ランドウ先生はそこから追撃はしなかった。ただ、俺の体が浮いて何もできないほんの数秒の間に、透輝を真っ先に無力化した。峰打ちで意識を刈り取ったのだ。


 続いてナズナの盾を刀で弾いたかと思うと、即座に襟元を掴んで片腕で投げ飛ばす。投げた先にいたのはアレクで、ランドウ先生は一体どんな腕力をしているのか、ナズナを受け止めようとしたアレクが堪えきれずに薙ぎ倒された。


 その間に距離を詰めたかと思うと、軽く刀を一閃してナズナやアレクの意識を刈り取る。それを見ていることしかできなかった俺は歯噛みをするが、そんな俺に構わず、ランドウ先生は次の獲物をモリオンへと定めて駆け出した。


 俺の位置からでは追いつくことができない。モリオンもそれを理解しているのか、『土槍』や『土轟震』で足場を崩し、少しでも時間を稼ごうとする。

 だが、それもランドウ先生には通じない。まるで空でも飛ぶように、揺れ、崩れる足場に構わず、滑るようにしてモリオンとの間合いを詰める。


「くっ!? 『猛火』! 『疾風』!」


 最早逃げられないと判断したのか、モリオンが選んだのは迎撃ではなく俺への援護だった。下級ながら援護魔法を使い、そのままランドウ先生に殴り倒されて気絶する。


「おおおおおぉぉっ!」


 モリオンが最後にかけてくれた援護魔法を頼りに、俺はランドウ先生との距離を詰める。そして刃を繰り出し、一矢報いようと斬り結んでいく。


 ――それでも、届かない。


(っ、く、そぉ! 一歩が、遠い!)


 あと一歩。あるいは一手。それが届かない。これだけの加勢があってもランドウ先生に剣の切っ先一つ触れられない。個々の力はともかく、()()()()()がまだ足りなかった。


 そうして攻め続けて、援護魔法の効果時間である三十秒が過ぎて。


「まだまだ、だな」

「――あ」


 振り下ろされたランドウ先生の刀を網膜に焼き付けて、そこで意識が途切れた。




 こうして、全クラスで全生徒を相手にして全員殴り倒したランドウ先生は、名実ともに学園最強として名前が広まるのだった。

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― 新着の感想 ―
ミナトの「俺がレベル三十ぐらいだとしたらレベル百くらい」って現代人のゲーム的知識ありきな発言がありますが、レベルの概念ってありましたっけ?あったらすみません…。自分にはミナトの焦りや興奮でつい口走った…
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