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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第9章

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第240話:厚意 その1

「今回は何も起きなかったみたいね」


 既に多くの生徒が寝静まっているであろう深夜。


 手紙で呼び出されて図書館に向かった俺は、いつも通り図書館の奥でオリヴィアと顔を合わせていた。


 『獣と豊穣の森林』で素材を採集し、学園に帰ってきたその日の夜に早速の呼び出しである。メリアからも報告を受けているだろうに、わざわざ俺を呼び出すあたり何か思うところがあるのか。あるいはメリアだと言葉が足りなくて報告に適してないという判断か。


「自分でもビックリするぐらい何も起きませんでしたよ。こんなに平和だと逆に違和感があるな、なんて思ったぐらいです」


 俺は冗談混じりに、それでいて本心で答える。毎度毎度問題が起きても困るが、起きないとそれはそれで不安になるのは悪い癖なのだろうか。


「そう……それぐらい平和だったのね」


 オリヴィアは俺の報告や発言を受け、何かを考え込むように視線を宙に向ける。それを見た俺は僅かに迷ったものの、何も知らない方が怖いと判断して質問を投げかけることにした。


「それで? 今回の件でアスターの潜伏先が絞り込めましたか?」

「……貴方なら予想しているか、()()()()()()でしょうけど、大まかには、ね。ただ、これ以上は敢えて動かないわ」

「敢えて、ですか?」


 オリヴィアの発言に俺は首を傾げる。『魔王の影』の居場所がわかったのなら、オレア教の総力を挙げて仕留めると思ったのだが。


「アスターの能力から考えて、やられると非常に厄介なことがあるわ。それはなんだと思う?」

「……なるほど。今の外見ガワを脱いで別の人物に化けられると面倒ですか」


 それも短期間で連続してやられると厄介さが増す。探すのも大変だが、化ける相手は殺されているのだから。


「ええ、そうよ。だからほどほどのところで止めておくの。バレている()()()()()()と相手が疑う段階でね。そうすれば今の状態を維持しようとするわ」

「普通は疑われた段階で逃げると思うのですが……」

「アスターの、というより『魔王の影』の習性みたいなものよ。なまじ高い能力があるものだから、決定的な失敗を犯すまでは積極的に動かないの。貴方がバリスシアと交戦した時も、逃げる時に何が何でも仕留める、なんて感じで追いかけてはこなかったでしょう?」


 そう言われて、たしかに、と納得する。油断や余裕とは違い、()()()()()()()()()というべきか。


(『魔王』の発生を目指す割に、『魔王』自体は放っておいてもいずれ発生するからな……遅いか早いかの違いはあるけど、やる気を出すには目標が簡単すぎるか?)


 『魔王の影』は『魔王』を発生させるために生まれてくるが、肝心の『魔王』は放っておいても負の感情が溜まれば勝手に発生するわけで。


 やりがいがあるか、と問われれば、ないだろうな、としか言いようがない。それでもやりがいやらやる気やら、そういったものを感じる機能すら『魔王の影』にはなさそうだ。


「どこかに移動されても面倒だし、戦力を集めて叩き潰そうとすれば察知して隠れるでしょう。だからこのまま大人しく()()()でもしててもらうわ。もちろん、隙があれば消すけどね」


 あくまで大まかに目星をつけたのであって、特定の人物がアスターだと突き止めたわけではないのだろう。


 今回の依頼で何かしらの確証を得たのかもしれないが、俺としては『魔王の影』をどうにかするための道筋がついたのならそれだけで十分だ。


(たしかにアスターは『魔王の影』の中では弱い方だったが……そのまま潜ませて大丈夫か? いや、俺にはこう言っておいて、すぐにでも仕留めにいくのかもしれないけどさ)


 こうしてアスターに関する話をしておいて、アスターに()()()()()()()()()()()を確認しているのかもしれない。


 潜んでいる『魔王の影』が一体だけだったとしても、その協力者が別にいる可能性は否定できないのだから。


「そういうわけで、何もなかったのならそれで十分よ。しばらくは依頼もないだろうし、好きに過ごしてちょうだい」

「わかりました。また何かあれば連絡をください」


 これで話は終わりだろう。そう判断した俺だったが、オリヴィアはどこか悩むような、話題を探すような雰囲気で視線を彷徨わせる。


「……今回の件、メリアは……あの子はどうだった?」

「どう、と言われましても……普通でしたよ? いつも通りのメリアでした」


 俺の膝の上に座ってきたり、無言ながらも目で訴えかけてきたり。ビックリするぐらい普段通りだった。


「そう……それならいいわ」


 そう言って、これで会話は終わりだと言わんばかりに視線を逸らすオリヴィア。


 そんなオリヴィアの様子に内心で首を傾げながらも、俺は図書館を後にするのだった。






 相変わらず眠れないため、ベッドに潜り込んで目を閉じるだけで夜を明かした翌日。


 予定よりも早く戻ってこれたため普段通り授業を受け、もうすぐ年度末の試験かぁ、なんて思いながら放課後まで過ごす。


 そして昨日依頼から帰ってきたことから、透輝に今日は自主訓練はお休み――ただし剣を振りたいなら好きにするよう伝える。


 俺はどうせ眠れないし、普段通り剣を振る予定だが、透輝は旅の疲れがあるだろうと配慮してのことだ。


 あとはいつものルーティンとして生徒会室に顔を出し、アイリスやカトレアから何か手伝うことがないかを確認した――のだが。


「あ、あの、ミナト様」


 何もないからと第一訓練場に向かおうとしたら、生徒会室の扉を閉めた段階でスグリに声をかけられた。どうやら俺が出てくるのを待っていたらしい。


「やあ、スグリ。君は今日も錬金かい?」


 素材もたくさん採集できたし、学園に渡す分を差し引いてもかなりの量がある。集めた分の()()()は当日の内にスグリが透輝に教えながら済ませてしまったし、学園に帰ってきたらあとは素材を使って好きに錬金するだけのはずだ。


「は、はい……ミナト様は、その、お時間、あります……か?」

「……あー、うん。あるとも。さすがに今日は透輝にも休養を言い渡しているからね」


 近寄ってきて、上目遣いで尋ねてくるスグリに俺は答える。すると、スグリは伸びた前髪の隙間から瞳を覗かせながら微笑む。


「あっ……良かった、です……み、()()()()()()()()()()、って、思い、ました」


 どうやら俺の行動は見透かされていたらしい。いや、普段からやっていることが同じってだけかな?


 そんなことを考えていると、スグリが僅かに体をずらし、錬金工房へと俺を誘導するように手を向ける。


「その、ですね……い、以前、お話したアイテムが作れそう、なので……よければ、う、ううん、是非、その、寄っていってください……」


 そう言って微笑むスグリに、そういえばそんなこと言っていたな、なんて俺は思う。


(時間もあるし、少しぐらいなら良いか)


 自主訓練をするつもりだったが、最近は真夜中どころか夜明け近くまで剣を振っていることも珍しくない。そのため開始時間が多少遅れても問題はないはずだ。


「……ああ、構わないよ。新しいアイテムかな?」


 ()()()()()()ならそう答えていただろう。そんなことが脳裏に過ぎったが、新しいアイテムなら興味があるのも事実。俺はスグリの先導に従い、生徒会用の錬金工房へと足を踏み入れる。


「す、少し、待ってくださいね。あとちょっとで完成、なので……そ、ソファーにでも座って、お、お待ちください」


 既に作成を進めていたのか、スグリは錬金用の釜の前で何やら作業を始める。素材やビーカー、フラスコを手に持って、普段のオドオドぶりが嘘のように機敏な動作だ。


「それじゃあ、お言葉に甘えて……」


 そんなスグリを見ながら、俺はソファーに腰を下ろす。二人掛けの量産品だが、こうして座る分には問題もない。

 ソファーだけでなく机も置かれているが、スグリが使っているのか、あるいは性格がそうさせるのか、埃が積もっているということもなかった。どうやらきちんと掃除がされているらしい。


 そうしてソファーに座り、スグリの作業を眺めることしばし。俺の目からはスグリが何をしているのか、何をどうやって錬金しているのか、いまいちわからない。それでも明確な目的を持って動いているのが見て取れた。


「お、お待たせ、しました……」


 待つこと十分少々。スグリが作業を止めて、いつの間にか用意したティーカップを机に置く。薄い緑色をした緑茶みたいな外見だ。ただし、香りはハーブティー系統というか、涼やかに鼻を通り抜けていく香りがする。


「これは?」

「ね、眠気覚ましのポーションをアレンジして、作りました……あの、その、り、リラックスして寝付きを良くする、な、名付けて、安らぎのポーション、です」

「ほう……既存のポーションを、アレンジ……」


 眠気覚ましのポーションというのは、眠り草を使って作成するアイテムである。眠りという状態異常を回復するアイテムなのだが、スグリはそれをアレンジしたという。天才かな? 天才だったわ。


 ちなみにだが、眠気覚ましのポーションは低品質のものなら錬金レベルが四で作成できるようになる。割と簡単な部類……俺では逆立ちしても作れない代物だが、腕が立つ錬金術師にとっては比較的簡単に作れるアイテムだ。


 俺の反応をどう思ったのか、スグリはおどおどと視線を彷徨わせる。


「そ、その、最近、ミナト様がお疲れというか、よく眠れていない、と言っていたので……よ、余計なことかと思ったんですけど、す、少しでもお役に立ちたいな、なんて……」


 そう言って普段以上に体を丸めるスグリ。どうやら俺を気遣ってこのアイテムを作ってくれたようだ。


「スグリ……」


 思わず名前を呼ぶ。純粋な気遣いが身に染みるというか、単純に嬉しい。


「え、えっと、安らぎのポーション、なんて名前をつけましたけど、乾燥させた茶葉にお湯を注いだらすぐ飲めるよう、作りました……だ、だから、その、ミナト様が自分のお部屋でも飲めたらな、って」

「なるほど……寝る前に飲めるようにってことか。気遣ってもらってすまない……いや、ありがとうって言うべきだな」


 至れり尽くせりってやつか。気遣いが行き渡りすぎてまた胃にきそうだわ。でも普通に嬉しくもある。


(ただ、こういうアイテムで本当に眠れるとは思えないんだよな……)


 睡眠導入剤みたいな感じだろうか。あるいは寝付きが良くなる健康食品か。リラックスして寝付きが良くなるとスグリは言うが、今の俺に効果があるとは思えない。


(それでもせっかくの気遣いだしな。ありがたくいただこう)


 だが、それはそれ、これはこれ。せっかくスグリが用意してくれたんだ。口振りから察するに、『獣と豊穣の森林』で採集したかった素材というのも眠り草のことだったのだろう。俺にこれを飲ませたかったに違いない。


 それだけ()()()()()()のだとすれば、光栄なことだ。同時に、胃がキリキリと痛むけれど。


「どれどれ……うん、良い香りだ。いただきます」


 そう言ってティーカップに口をつける。味は見た目よりも香りの方に近く、爽やかなのど越しとスーッとするような香味が口の中を通り抜けていく。


(……味だけで判断すると、むしろ目が覚めそうだな。いやまあ、味自体は嫌いじゃないというか、好きな方なんだが……)


 少し癖があるが、味自体は悪くない。冷やして夏の時期に飲んだら更に美味しそうだ。


「外見の色と味が少し噛み合っていないが、中々美味しいよ。ありがとうな、スグリ」


 その気遣いだけで嬉しいよ。そんな意図を込めて微笑み、安らぎのポーションを飲んでいく。


 それにしても単体で飲む分には構わないが、お茶請けとしてお菓子を選びにくい味だな、これは。


 俺がそんなことを考えていると、スグリは疑問を覚えたように首を傾げる。


「え? お、美味しい……ですか? そ、そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、ど、独特の風味がある、と思う……のですが……」

「ん? いや、たしかに独特の味だが、けっこういける。美味しい……と……?」


 ぐらり、と視界が揺れた。思わず机に手を付き、何事かと目を瞬かせる。


「……あ、れ……?」

「み、ミナト様?」


 おかしい、視界が安定しないぞ……なんて思っていたら、スグリが慌てたようにこちらへ近付いてくる。


 俺はそんなスグリに目を向けて、大丈夫だと強がろうとして、意識が――。






 ――ふと、意識が覚醒した。


「…………?」


 目を開け、ぼーっとする頭で状況を理解しようとすること数秒。自分の身に何が起きているのかわからず、俺は視界から入ってくる情報を必死に咀嚼する。


 パチパチと瞬きをして、首の裏に感じる柔らかい感触だとか、目の前に見える二つの大きな膨らみだとか、僅かに見える黒に近い茶色の髪だとか。そういったものから状況を推測していく。


「――め、目が覚めました……か?」


 そんな声が降ってきて。自分の置かれた状況を理解して。


(スグリに膝枕されてる……だと……)


 俺は、思わず愕然とするのだった。 

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サッー!(迫真
もうお薬なしでは生きていけない身体になっちゃった…… 薬効に中毒性とかないにしても、もう手放せないっすね
ミナト君、君が悪い。彼女も娶って差し上げなさい。それしかない。 母の命を助けてくれて、若き英雄とか呼ばれ始めて、そんな人が自分の才能を見つけてくれて、その後も気にかけてくれて?これで惚れないわけないだ…
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