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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第9章

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第239話:素材集めの依頼 その3

 『獣と豊穣の森林』における、錬金素材の採集。


 これまでのようにダンジョンの中で畑として管理されている薬草を採集したり、ダンジョン調査の一環だったりはせず、素材採集こそを目的としてダンジョンに挑むのは初めてだ。

 いや、攻略はしないんだから挑むというのもおかしいのか。『獣と豊穣の森林』はボスモンスターを倒せば崩壊するタイプのダンジョンらしく、出現地点も事前情報があるため近付かなければ何も起きないはずだ。


 『王国北部ダンジョン異常成長事件』の時のようにダンジョンが異常成長したり、ボスモンスターが移動して襲い掛かってきたり。そういった異常事態がなければ問題はないだろう。


 もっとも、仮に何か問題が起きたとしても、今回は余裕を持って対応できるだけの戦力を揃えてある。『王国北部ダンジョン異常成長事件』の時にこれだけの戦力が揃っていたら滅茶苦茶楽だっただろうな、なんて思えるほどだ。


(楽どころか防衛を騎士と兵士に任せて、ボスモンスターを探しにこっちから打って出ることができただろうな……運が良ければ初日でボスモンスターを見つけてダンジョンを破壊していただろうに)


 モンスターに備えて周囲を警戒しながらそんなことを考える。たらればの話をしても仕方がないが、思わずそう考えてしまうぐらいには戦力が揃っていた。


(これならいっそのこと、『魔王の影』が襲ってくる方が……いや、そりゃ慢心だな。勝ち目はあっても必ず勝てるわけじゃないんだ。メリアがいるから勝率は高そうだけど、ゲームじゃない。備える時間があるのならそれに越したことはないだろ)


 思考が()()()()()に流れそうになったため、すぐに己を律する。『魔王』の発生まで残り二年と少ししかないといっても、焦って『魔王の影』を倒す必要もないのだ。


 『魔王の影』に限っての話だが、当然ながら、時間が経てば経つほどこちらの勝率が上がる。来年度にはランドウ先生が学園に赴任するはずだし、何よりも主人公とうきという時間の経過と共に強さが右肩上がりに上昇していく才能マンがこっちにはいるのだ。


 バリスシアと会話し、交戦した感覚としては今のところ透輝の存在はバレていない。というか、俺に対する興味が予想外に高かったため認識すらされていないと見るべきか。そのため、時間を稼げば稼いだ分だけ透輝が強くなれるはずだ。


(リリィが俺の名声を高めようとした結果が思わぬところで出た感じだな。それが透輝の隠れ蓑になっていると思えば怒る気もないけどさ)


 モンスターを警戒しながらもそんなことを考える。木々が多くて見通しが悪いから警戒も大変だが、それはモンスター側も一緒なのかダンジョンの規模の割に襲撃が少ない。まあ、仮に襲撃してきても短時間で対処するんだが。


「あっ……そ、素材、見つけました。ミナト様、足元です」

「…………」


 そう言われて視線を向けると、他の草と比べて少し形が変かな? と思わなくもない草が生えていた。冬の時期にもかかわらず元気に生えているが、ダンジョンの中だと雑草も割と普通に生えているから俺では気付けないのだ。


「え、えへへ……これ、眠り草っていうんです。わ、わたしが欲しかった素材の一つ、です」

「そうか……それはなによりだ」


 素早く、それでいて丁寧に眠り草を採集するスグリにそう返す。相変わらず、俺の目にはたくさん生えている雑草の一つにしか見えないんだが。


「おっ、薬草見っけ。あれ? これって中品質の薬草じゃね? 低品質のやつよりデカいし葉っぱも艶があるし」


 俺と一緒に周囲の警戒をしている透輝からそんな声が響く。どうやら警戒しながら素材を発見したらしい。


 ちら、と視線を向けてみると、アレクもいくつかの素材を摘んでいるのが見えた。さすがにスグリや透輝には負けるようだが、それでも慣れた手つきで素材を採集している。


(俺も素材を探してみようか……周囲を警戒しているといっても、モンスターがはあまり襲ってこないし……い、いや、一人ぐらいはしっかりと周囲を警戒しないとな、うん)


 俺は素材の採集に関しては本気で役に立たない。そのため気を入れ直して周囲の警戒に徹する。


 そうして採集を進めてみれば、基本的に低品質のものばかりだが、薬草、魔力草といった回復ポーションに使用する素材や、毒草、痺れ草、眠り草といった状態異常の回復アイテムに使用する素材など、様々な種類の素材が見つかっていく。


 また、木の陰に隠れる形で宝箱が置いてあることもあり、三つほど見つけることができた。まあ、低品質の回復ポーションが入っていた宝箱が二つと、残り一つは空っぽの宝箱だったが。


(うん、順調っちゃ順調だな。思ったよりもモンスターの襲撃が少ないし、採集に割ける時間が長い。スグリに透輝に、アレクの三人で集めたらあっという間だ)


 透輝は前に立ってモンスターの警戒をさせていたが、モンスターの襲撃が少ないため採集に回してしまった。後方はメリアとナズナがいるからこちらも問題はない。仮に問題があるとすれば、だ。


(……メリア、何をしているんだろう?)


 後方の警戒を任せたメリアだが、一応は周囲を見回しているものの、ぼーっとしているようにも見えた。メリアぐらいの手練れなら目視でなくとも気配だけでモンスターの接近に気付けるのかもしれないが、それでも見落としたら、と思うと少し怖い。


 その分、ナズナが気合いを入れて周囲の警戒をしてはいるのだが。


「…………」


 そんなことを考えていたら、メリアと目があった。すると無言でこちらへと近付いてくる。


「メリア? いくらナズナがいるとはいえ、後方の警戒をいきなり放り出されると困るんだが」

「……?」


 不思議な顔で首を傾げるメリア。その顔はまるで、『周囲にモンスターはいないよ?』とでも言っているかのようだ。


「いや、モンスターがいないといっても、ダンジョンだといつ、何が起きるかわからないからな。それこそ突然モンスターが出現する可能性もあるし……」

「……むー」


 俺の言葉を聞いたメリアはどことなく不満そうな顔をする。この表情はなんだろう……『近くにいたら駄目なの?』って感じか?


「あっ、み、見てください、ミナト様っ。こ、これ、中品質の魔力草、です。珍しい……っ」

「あ、うん、そうだな。珍しいな」


 俺がメリアの表情から言いたいことを推察していると、スグリが見つけたものを報告するようにして割り込んでくる。


 それはそれで珍しい行動だな、なんて思う俺。スグリがここまでぐいぐい来ることは滅多になかったんだが。


「えへへ……こ、これも、ミナト様が守ってくださって、あ、安心して探せるから……ですね」

「……そうかい? そこまで言われてモンスターに突破されたら恥だから、もっと気合いを入れて警戒するかな」


 会話としておかしくないよう、それでいて()()()()()()()()()()()()()()から上手く逃れるよう、言葉を紡ぐ。


 最近、グイグイとくることが多い気がする。もちろんそれはスグリなりにって話で、控えめというかいじらしいというか……アレクから向けられる、『どうするの?』って言いたげな視線が痛い。


(どうするも何も、現状だとどうしようもないんだよな……)


 好意を感じるが、スグリが直接言葉にして告白してきたわけではない。アレクも心配しているから俺の勘違いってことはないんだろうが、万に一つ、億に一つ、勘違いの可能性も残っているわけで。


 実はスグリなりに親しくしているだけで、男女間の好意はない、みたいな可能性も……うん、ないかな? 自分で考えておきながら、かなり苦しいなって。


 ただ、スグリが何も言わないのにこちらから何か言うのもおかしな話ではある。そのためそれとなく言葉や態度で伝えるべきで、俺もそうしてはいるのだが、どうにもその辺りは無視されているというか、知った上でアクセルを踏んで突っ込んできているというか。


 俺にカリンという婚約者候補がいることを伝えても、知っていますで会話が終わる。学園にはスグリ以上の錬金術師がいないため、できる限り懇意にしておきたいという思いもあって強く拒絶することもできない。


 『花コン』のメインキャラの一人だから――なんて理由を横に置いたとしても、俺個人、スグリという少女のことを嫌っているわけではないのだ。


 錬金術の才能然り、その才能を伸ばすべく努力していること然り。ただ、まあ、努力している理由に()()()()()()()()ってのが少し……いや、かなり重たく感じるわけで。


「……ミナト、様? ど、どうか、されましたか?」


 俺の心情を僅かにでも察知したのか、スグリが首を傾げて尋ねてくる。


「いや……なんでもないよ」


 そんな問いかけに、俺は作った笑顔で応えることしかできなかった。






 さて、そんなわけで『獣と豊穣の森林』で素材の採集を行うこと二日あまり。


 スグリに透輝にアレクと優れた錬金術の才能を持つ者と要領が良い者が手を組んだ結果、短期間で想定以上の素材を集めることができた。


 モンスターの襲撃はそこまで頻度が高くなく、襲ってきても一撃で終わってしまった。中規模ダンジョンのため俺が苦戦するようなモンスターもおらず、途中から素材採集係になってしまった透輝に戦わせてみてもあっという間に勝負がついたほどである。


 そのためほとんど邪魔されることもなく採集に励んだ結果、予定を上回る量の素材を集めることができた。


(うーむ……結局、『魔王の影』どころか何も異常がなかったな……)


 集まった素材の数々を見ながらそんなことを思う。家に帰るまでが遠足で、今回で言えば学園に帰るまでが素材採集といったところだろうが、特に何事もなく片付いてしまった。


(まあ、気分転換にはなった……いや、なったか?)


 今回は町で宿を借りたものの、学園みたいに一晩中剣を振り回せる空いたスペースもなく、結局ベッドに入って眠れないまま夜を明かすことになってしまった。目を閉じていたため体はそれなりに休まったが、精神は休まった感じが微塵もしない。


 場所が変われば眠ることができるかと思ったが、残念ながらそんなことはなかった。気分転換になったかといえば、これも微妙なところだ。


(でも、問題が起きなかったってことはオリヴィアさんの予想が当たった可能性が高い……王城の上層部にアスターが潜んでいるのかもな)


 『魔王の影』の一体にして他人に化けるのが得意なアスターなら、王城に潜り込むこともできるだろう。ただし人間のフリをしていても親しい人にはバレる程度の演技力しかないため、既におおよその目星がついているのかもしれない。


 まあ、『花コン』だとミナトを殺して成り代わったものの、ナズナには全く気付かれなかったし、()()()()()()()()()()()()を演じたらむしろ忠誠心が上がっていたから、バレない相手にはとことんバレないんだろうけど。


「ミナト君? どうかしたの?」


 ダンジョンから撤収する準備を進めていると、アレクが怪訝そうに尋ねてくる。それを聞いた俺は思わず苦笑してしまった。


「いや、何もなかったことは喜ばしいんだが、それはそれで違和感があるな、なんて思ってね」

「……遠出する度に何か問題が起きたんじゃあ、迂闊に外出もできないわね。そういう時は素直に喜びましょう?」

「そう……だな。まあ、まだ学園に帰り着いたわけじゃない。最後まで気を抜かずにいるとしよう」


 あるいは、俺が気付いていないだけで何か問題が起きているのかもしれないが……今のところ直接的な被害は出ていないし、何も起きなかったことを不安に思っているだけかもしれない。


 兎にも角にも、ダンジョンを抜けた俺達は町に戻ってもう一泊し、翌朝になると学園に向かって出発する。


 そして結局、何事もなく学園に帰り着くことができ、俺は何事もなかったことに対して違和感を覚えながら首を傾げるのだった。

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― 新着の感想 ―
スグリへの対応に関しては「このクソヴォケがぁ!」と言いたくなりたくもありますがw この世界、貴族は側室とかどういう設定でしたっけ?アリなのかナシなのか。最悪、サンデューク家のお抱え錬金術師兼、公然の愛…
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