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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第9章

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第229話:『召喚器』使い その2

「うむうむ。武闘祭での戦いぶりからわかってはおったが、ミナト君とモリオン君は学生の範疇を軽く超えておるのう。実戦経験があるから躊躇もなく、狙いも正確かつ的確。戦いぶりも冷静で実に良い」


 俺が前衛に立ち、モリオンが後衛として魔法で援護射撃を繰り広げることしばし。


 コーラル学園長は俺の斬撃を時に撥で受け止め、時に小太鼓で弾き。モリオンの魔法は音の衝撃で相殺するか小太鼓で殴って掻き消すという、中々に理不尽な方法で対処していた。


「ナズナ君はすぐに味方の防御に回ったのう。良い判断じゃ。透輝君は他の三人と比べると実戦経験が足りんか。対処できないと思ったら離脱するのも一つの手じゃぞ?」


 長さ的には短剣と大差ない撥で俺の斬撃を防ぎつつ、コーラル学園長が言う。


 撥で防ぐと見せかけて小太鼓で防いでこちらを吹き飛ばそうともしてくるため、こちらは迂闊に強く斬り込むことができない。『召喚器』が、というよりもコーラル学園長自身が厄介な点がコレだ。悪戯っぽい顔をしながら心理戦を仕掛けてくる。


(『閃刃』で……いや、防がれたら反動でこっちが吹っ飛ぶな。迂闊に技を繰り出せないか)


 模擬戦だが奥義を叩き込むことすら検討してしまうが、当たればこちらの勝ち、防がれればこちらの負けと、厄介な二択を突き付けられてしまう。


 しかも、コーラル学園長の動きを見る限り剣術ではなく()()()()()だ。貴族として剣術も修めているんだろうが、どちらかというと実戦で磨かれた戦い方に見える。


 俺とモリオンが左右から挟み込むようにして攻撃してみても、俺の攻撃を撥で防ぎ、モリオンの魔法を小太鼓で殴って相殺、あるいは弾いて俺の方に飛ばしてくるのだ。


(武器を小太鼓で弾くのはわかる……わかるが、魔法はどういう理屈だ?)


 剣と小太鼓がぶつかって音が鳴るのは物理的に接触している以上、仕方がない。だが、『火球』や『風刃』といった実体がない魔法に関しても小太鼓で防いでいるのだ。


 小太鼓を叩いた際の音を操るのではなく、音ならなんでもいいのかもしれない。なんでもいいから音を増幅して操作しているのか。接触しているから音が鳴っているはずだ、なんて概念的な能力かもしれないが。


(というか、自分で叩いて音を出せるんだからその辺は気にしていても仕方がない、か……厄介だな、本当に)


 試しにと『一の払い』で魔力の刃を飛ばしてみるが、こちらも小太鼓で掻き消される。モリオンが威力重視で中級魔法である『火砕砲』を撃ち込んでみれば、小太鼓を叩いて()()()を作り出し、空中で『火砕砲』が透明な壁に激突したように爆散してしまった。


 周囲を駆け巡って攻撃してみるが、コーラル学園長の周囲全体に音の壁が出現し、こちらの攻撃を弾いてしまう。


 何かしらの攻略法があるのだろうが、一見すると攻防一体の便利な能力だ。コーラル学園長の様子を見る限りまだまだ余裕があり、『召喚器』の能力も底が見えない。


(実戦なら別の手段も試すんだが、それは()()()()()()か。『召喚器』……『召喚器』か)


 『瞬伐悠剣』はともかくとして、自分自身の『召喚器』が何か力を発揮してくれれば、と思うんだが。

 しかしながらバリスシア相手に死にかけた時でさえうんともすんとも言わなかったし、今も沈黙したままだ。そうなると結局、自力でどうにかするしかない。


「では、次はコレじゃ。防げるかのう」


 そう言って、コーラル学園長が小太鼓を連打する。ドドドドドン、と連続させて何度も叩く。


(これは……っ!?)


 飛んできた衝撃波を飛ばした『一の払い』で両断した俺だったが、コーラル学園長の思惑に気付いて即座に横へと跳んだ。


 こちらが衝撃波を両断することを見越し、連打した分の衝撃波を()()()飛ばしてきたのだ。


 『一の払い』で斬ることができたのは先頭の衝撃波だけだった。そのため後続の衝撃波は回避したが、その間にコーラル学園長は次の動作に入っている。


「良い判断じゃ! まだまだいくぞっ!」


 ドドドン、ドドドン、ドドドン、と三連打を連続させるコーラル学園長。それがもたらすのは三重に重ねられた衝撃波の連射という、こちらからすれば理不尽としか言い様がない攻撃方法だ。


「チィッ!」


 剣に魔力を乗せつつ、『二の太刀』で三重の衝撃波をまとめて両断する。振り下ろし、返す刃で次の衝撃波を斬り、更に『三の突き』につなげて貫いて霧散させた。


(衝撃を重ねられると手応えが硬いし重い……魔力も削られるし厄介だな)


 距離を詰めたいところだが、相手は小太鼓を自分で叩く、あるいは敵に叩かせるだけで能力を発動できる。


 距離を詰めるなら一撃で仕留められる威力を出すしかないが、これは模擬戦だ。コーラル学園長なら大丈夫だとは思うものの、うっかり防御を抜いて斬ってしまったら大惨事になる。


(ううむ……模擬戦の範疇だと決め手に欠けるな。向こうもそれは同じみたいだけど……)


 俺がコーラル学園長の出方をうかがっていると、コーラル学園長はどこか呆れたように俺を見ていた。


「これはなんとも……平然と切り抜けられると、反応に困るわい」

「手加減された状態ならさすがに斬れますよ。本気ならわかりませんがね」


 どこまで衝撃波を重ねることができるのかはわからないが、仮に小太鼓を連打するだけでそれが可能なのだとすればさすがに防げない。


 強く叩くことと連打すること。その両立には限度があるはずだ。コーラル学園長ほどの手練れなら高い水準で両立させるだろうが、それでも限界は必ずある。


「こちらの攻撃も魔法も通らず、学園長の攻撃もミナト様がいれば通らない……千日手になりますね」

「俺の魔力が切れなければ、だけどな」


 モリオンも模擬戦の範疇では勝つための一手が見えないのか、困ったような声を漏らす。


 下級魔法を連射してコーラル学園長のリソースを削り、その間に斬り込めばどうかと思ったが……小太鼓を叩く、()()()()()()、撥で殴ると対応手段もバッチリだ。というか、学園長自身ある程度は魔法も使えるはずだし。


(さて、こうなると、だ……)


 チラ、と透輝を見る。コーラル学園長の防御を抜く、最も簡単な方法。それは手数を増やすことだ。


 コーラル学園長ほどの技量があれば透輝が加わっても凌げるだろうが、手数が増えれば単純に他の者に割くリソースも減る。そこに相手の想定を上回る威力の一撃を叩き込むことで防御を崩せばどうか、なんて思ったのだが。


(……今の透輝じゃ厳しいか? 目に見えない衝撃波を回避しながら学園長に近付くっていうのは……さすがに無理か)


 透輝の才覚をこの世界の誰よりも高く買っているという自負があるが、さすがの透輝でも目に見えない衝撃波を対処するには訓練と経験が足りない。


 空気の変化、向けられた殺気から無色透明の衝撃波の大きさや位置を見切り、適切に対処していく必要があるのだが、さすがに現段階でそれを可能とするほど透輝も化け物染みてはいないのだ。


(まあ、何度か体験させればそれで覚えそうだけどな)


 これが模擬戦だと理解しているからか、ナズナに庇われる形で立つ透輝は瞬き一つせず俺達の戦いをじっと見ている。


 コーラル学園長が放った最初の一撃で、自分に模擬戦に参加する実力がないと悟ったのだろう。時折飛んでくる衝撃波を防ぐナズナの背後で見取り稽古に徹しているのだ。


 そのためコーラル学園長とは実質二対一。しかしナズナの練習がてら衝撃波を飛ばす余裕がコーラル学園長にはあり、こちらとの技量差を示している。


(これはこれで楽しいし、訓練にもなる……が……)


 モリオンを相手にして飛んでくる魔法を斬るのと大差がない。もちろん相手が違えばそれだけ新鮮だし、不可視の衝撃波を感じ取って見極めるのは良い訓練になるのだが。


「学園長」

「なんじゃ? まあ、予想はつくんじゃが」

「後学のために、学園長の全力を見てみたいのですが」


 コーラル学園長の能力から考えると、仮に全力を出してもこちらに被害を出さないことは可能なはずだ。


 全力で音の壁を展開してもらい、それを突破できるかどうか挑む――それならお互い被害は出ないはずである。


「ふうむ……まあ、そうくると思ったんじゃが……ま、よかろう」


 俺の提案を聞いたコーラル学園長はあっさりと承諾してくれた。そのためウキウキしながら後ろへと下がる。すると、モリオンが真剣な顔をしながら杖の『召喚器』を発現した。


「ミナト様、まずは私に挑ませていただきたく。学園長の防御、見事貫いてみせましょう」

「おっと……ずいぶんとやる気満々だな、モリオン。いいぞ、先手は譲ろう」


 珍しく闘志を剥き出しにしていたため、俺は見物の姿勢を取る。


「殺す気でいきます」

「物騒じゃなぁ……構わんよ。無理じゃからな」


 挑発のつもりなのか、コーラル学園長が笑って言う。しかしモリオンはそれに構わず杖の『召喚器』を振り上げ、得意とする上級魔法の準備に取り掛かった。


 モリオンが放つのは木属性の上級魔法、『風食轟雷』である。その発動を感じ取ったのか、コーラル学園長は『ほう……』と感心したような呟きを漏らしつつ、小太鼓と撥を構えた。


 数秒の魔力の溜め。そこから秒もかけずにスムーズに発射される、嵐と轟雷の合わせ技。魔法が苦手な俺では到底成し得ない上級魔法……それも、魔法に関して天才といえるモリオンが繰り出せば、人間に向かって撃つには過剰すぎる一撃となる。


「ははっ!」


 それを迎え撃つコーラル学園長は、高揚したように笑っていた。そして右手に持った撥を全力で小太鼓に叩きつけ、ドドドォン! と激しい音が鳴る。


 『風食轟雷』を迎撃する衝撃波と、自らを防御するための音の壁。その両方を連打して同時に展開したのだ。


 その結果は――互角。


 『風食轟雷』の威力を削ぎ落し、音の壁で受け止めたかと思うとしっかりと防ぎきる。


「……ッ」


 僅かに、モリオンから舌を打つような音が聞こえた。その表情は険しく、鋭い眼差しでコーラル学園長を見ている。


「……いや、その若さで大したものじゃな。上級魔法というだけでも驚きじゃが、この威力……正直に言えば、最初の二発で掻き消せると思ったんじゃが」


 保険の障壁まで削られたわい、と言葉を続けるコーラル学園長。どうやらモリオンの魔法の威力が予想以上だったようだが……本当かな? 威力を見切ってきっちり防ぎきったようにも見えたが。


「では、次は俺の番ですね」


 悔しそうにしているモリオンに何も言わず、俺は前に出る。模擬戦と呼ぶには異質な全力のぶつけ合いだが、これはこれで良い練習になるだろう。


(上級魔法を防げるとなると、防御が主体のナズナよりも更に上か……さて、俺に斬れるかね?)


 実戦ではないため、全力と言いながらも出せる力は()()の八割程度。それでも並の上級魔法なら余裕を持って斬れるんだが、さて、どうなるか。


 軽く駆け出し、瞬時に加速。コーラル学園長の動きに合わせて、普段よりも手前の位置で大きく踏み込む。


 それと同時に小太鼓が大きく、盛大に、連続で五回鳴らされた。


 五重に展開される音の壁。それを肌で感じ取りつつ、踏み込みに合わせて袈裟懸けに刃を繰り出す。


 スギイシ流奥義――『閃刃』。


 音の障壁を袈裟に切り裂き、一枚、二枚、三枚、四枚と突破。しかし最後の一枚に阻まれ、剣を振り下ろす途中の不格好な形で剣が静止する。


「……届きませんか」

「……いや、なんで用心のために展開した障壁の最後まで刃が届いているのかのう……ワシの見立てでは途中で止まると思ったんじゃが」


 俺が不満を零せば、コーラル学園長は呆れたように返す。そうは言うが、防がれたら悔しいものは悔しいのだ。


(これが実戦なら……いや、それは向こうも一緒か。というか、妨害なしで斬りかかった結果がコレなんだ。実戦ならそれ以前の問題か)


 むぅ、と唇を尖らせるようにしながら剣を引く。残念ながら、今の俺では突破することができないようだ。


「モリオン君もそうじゃが、ミナト君も学生の範疇は大きく超えておるのう。武闘祭を来年から出場禁止にしたのも間違いではなかった……というか、最初から出場禁止にしておけば良かったわい」

「褒め言葉と受け取っておきますよ」


 悔しいが、あくまで模擬戦だ。苦笑と共に剣を鞘に納め、大きく息を吐く――と、何やら見回りと思しき教師が駆け寄ってくるのが見えた。


「学園長! なんで生徒の注意にいった貴方が暴れているんですか!?」

「ぬっ……すまんのう。思った以上に育っておったから、つい……」

「つい、じゃありませんよ!?」


 どうやら『音鼓地震』の音が遠くまで響いていたらしい。離れているから被害はないと思うが、音だけなら寮の方まで届いていたかもしれない。


 教師に怒られるコーラル学園長を眺めつつ、俺は小さく拳を握り締める。色々と勉強になったが、強さが足りないことが浮き彫りになったともいえた。


 それはモリオンも同じだったのか、俺の隣に立って口を開く。


「ミナト様……もっと強くなりましょうね」

「ああ、そうだな」


 問題はどうやって強くなるかだが。


 悔しさを滲ませたモリオンの言葉に、俺も大きく頷いて返すのだった。

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