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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第9章

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第228話:『召喚器』使い その1

 王立ペオノール学園の学園長にして、『花コン』のサブヒーローでもあるコーラル=モルガナイト。


 かつてはモルガナイト伯爵家の当主として領地を治めていたものの、息子に家督を譲ってからは一線を退き、国王陛下の招聘によって学園長を務めることになった人物である。


 息子に家督を譲っている点からもわかるように、年齢は『花コン』のメインキャラの中でもトップだ。しかしながら外見が若々しいためそうとは感じさせず、『花コン』では学生服を着て生徒の中に紛れ込んでも気付かれないほど、なんて描写があった。


 『花コン』のプレイヤー達からも『ショタ爺』だの『見た目詐欺』だの言われていて、年齢的には十歳近く年下のはずのランドウ先生の方が年上に見える有様である。


 『花コン』でのエピソードによると、領民の噂話を聞くべく子どもの格好をして町に繰り出し、周りからも一切不審がられずに済んだとか、町の子どもに紛れて遊んでいたら複数の少女の初恋を奪ってしまっただとか、外見にまつわる話が多かった。


 そんなコーラル学園長だが、メタ的な視点でみればサブヒロインであるエリカと同様に『召喚器』に特化したキャラである。男性版()()()()()使()()とでも言うべき存在で、エリカとの違いがあるとすれば自身の『召喚器』をきちんと使いこなしている点だろう。


 コーラル学園長が操る『召喚器』――その名も『音鼓地震おんこちしん』というが、これまたエリカと同じく範囲攻撃を得意とする上級の『召喚器』だ。


 ただし、熟練の技によって攻撃範囲を絞ったり、威力を上手く調整したりと、扱いの巧みさには雲泥の差がある。


 ゲームだとあくまでそういう設定であり、条件を満たして生徒会パーティメンバーに加入してもエリカと比べてレベル差が大きいわけではない。才能値もエリカと大差なく、ステータスが高く育っているというわけでもなかった。


 だが、()()()()()である。


 コーラルは四十歳前後だが、その年齢に至るまで技術を磨き、成長してきたのだ。冗談のように軽く揉んでやろう、なんて言ってきたコーラルだが、その身に纏う気配はたしかな強者のソレである。


「これはこれは……ありがたい話ですが、特定の生徒に肩入れする形になりませんか?」


 言外に大丈夫か、と尋ねると、コーラル学園長は外見通りの笑みを見せる。


「なに、迷う生徒を導くのも教師の務めじゃろうて。ほれ、授業の合間の休憩時間に、教師と生徒が遊んだりするじゃろ? アレとそう変わらんよ」


 それって小学校とかの話じゃないかな、なんて思う。しかしながら強者……それも『召喚器』使いという特殊な強者と戦う機会は滅多にない。そのため俺は『瞬伐悠剣』に手をかけ、迷わず抜く。木剣では勝負にならないと判断してのことだ。


 今以上に強くなるには、様々な経験を積む必要がある。それをコーラル学園長もわかっているのだろう。自分で言うのもなんだが、俺は生徒の中では目立つ方だし、気にかけてもらっているのかもしれない。


「それにのう、()()()()()()君のことを気にかけてほしいという依頼があったんじゃ。かのお方からそういった依頼は初めてでの。少し骨を折ってみようか、と思ったんじゃ」

「それはそれは……ありがたい話ですね」


 おそらくだが、オリヴィアから何かしらの話が伝わっているのだろう。口振りから判断するに、国王陛下ではないと思う。それでも誰かを明言しなかったのはオリヴィアを慮ってか、あるいはナズナ達に相手を勘違いさせるためか。


「それでは、遠慮なく胸をお借りしましょう」

「ほほっ、迷わず抜いたのう。その辺りは学生の範疇を超えておるが……せっかくじゃ。ナズナ君、モリオン君、透輝君も一緒にくるといい。()()()()()、じゃが」


 そう言いながら、コーラル学園長が左手をかざす。すると瞬く間に持ち手が付いた小太鼓スネアドラムっぽい物体が出現し、右手にはばちが出現した。外見からは到底武器には見えない。


「よ、四対一?」

「……反応に困りますね」

「余程自信があるのか、こちらが舐められているのか……」


 透輝が困惑したように呟き、ナズナも言葉通り反応に困った様子で眉を寄せる。モリオンも怪訝そうにしているが、その瞳には警戒の色があった。


 ただまあ、かかってこいと言われて本気で殺しにかかるような性格の者はこの場にいない。あくまで模擬戦の範疇としての全力だ。


「全員、構えろ。油断していると十秒ももたんぞ」


 剣を構えながら促せば、透輝とナズナもようやく構えを取る。モリオンは俺が剣を構えるのと同時に構えていた。


 コーラル学園長は俺達から距離を取り、二十メートルほど離れて足を止める。そしていつでも来い、と言わんばかりに小太鼓を構えた。


「それでは」

「うむ、来るといい」


 それが開始の合図だった。いまいち切り替えができていない透輝を置いて、俺は即座に動き出す。地を蹴って瞬く間に距離を詰めて斬りかかる――それよりも早く、コーラル学園長が撥を振るっていた。


 トン、という軽い音が一度響く。


(……くるっ!)


 『音鼓地震』がどういうものかを『花コン』で知っているが故の先読み。目には見えないが、コーラル学園長が叩いた小太鼓の音が衝撃となって周囲に放たれるのを感じ取る。


「えっと、何がぶわっ!?」

「っ!?」

「木属性の風魔法……では、ないですね」


 何が起きているかわからず、中途半端に構えた透輝が吹き飛ぶ。ナズナはすんでのところで堪え、モリオンは俺の動きを見ていたのか『風刃』で衝撃を相殺したようだ。


 俺はといえば、迫りくる衝撃波を切り裂いてコーラル学園長との距離を詰めていた。『一の払い』で衝撃波を両断したが、コーラル学園長はそれに驚いた様子もなく再度撥を構える。


 ドドン、と先ほどよりも強く、それでいて二度、小太鼓が鳴り響いた。


 スギイシ流――『一の払い』。


 それに応じるように、二度、剣を振るう。一度目は周囲を薙ぎ払うように衝撃波が放たれたが、今度は指向性を持たせて俺を狙ってのものだった。


(けっこう手応えが硬い……それに衝撃に指向性を持たせるってのはどういうことだろうな)


 目に見えない音の衝撃。本来は周囲に向かって広がるはずのソレが収束し、蛇行するように俺目掛けて飛んできたのだ。斬ることはできたが、音を斬ったはずなのに手応えが硬いし重い。


「ほう……武闘祭でも見たが、魔法だけでなく『召喚器』による攻撃も斬れるんじゃな。前途有望……いや、今の時点で大したものじゃ、と褒めるべきかの」

「お褒めいただき恐悦至極、と言いたいところですが、相当手加減されているのでは? それなのにこれほどの操作性と威力を両立するとは……驚きですよ」


 撥で小太鼓を軽く叩くという、僅かな動作で連射まで可能なのだ。それでいて手応えから判断するに、威力は手加減した状態でも中級魔法に近い。しかも範囲攻撃と個別攻撃を切り替えることもでき、その上で目には見えないという厄介さもある。


(使いこなせるコーラル学園長の腕前があってこそだが……羨ましいな、おい)


 俺自身の『召喚器』には今のところ身体能力を強化する効果しかなく、『瞬伐悠剣』と能力が被っている。


 どちらか片方だけでなく、発動さえすれば両方の効果が上乗せされるためまったくの無駄というわけではないが……こうして特殊な能力の『召喚器』を見ると、羨む気持ちが湧いてしまうわけで。


(剣士としては助かるけどさ……俺の戦い方に多様性をもたらす能力か、一発逆転が可能になるような能力があれば……)


 本の『召喚器』も『瞬伐悠剣』もあくまで身体能力の強化しか効果がなく、それ以外の能力はない。たとえば斬撃に属性魔法の効果を付与するだとか、一度剣を振れば斬撃が複数同時に放たれるだとか、剣からビームが出るだとか、そういう特殊な能力が少し欲しかった。


(今以上に強くなろうにも、少しずつしか強くなれねえ……そうなると道具で補うぐらいしか思い浮かばないが、肝心の道具がな)


 『魔王の影』であるバリスシアに負けたせいか、今まで以上に強さを渇望してしまう。小手先の強さを得てもどうしようもないが、()()()()()()()()()を求めてしまうのだ。


 コーラル学園長との模擬戦も、戦闘経験を積むことができるため大歓迎である。しかしながら羨ましいと思う気持ちは止められなかった。


「シィッ!」


 鋭く呼気を吐き出しながら踏み込み、飛来する音の衝撃を切り裂く。目では見えないため音と感覚を頼りにして迎撃するが、これが中々に厄介だ。


 ドドドン、ドン、と小太鼓が鳴る。最後の一回は力強く、音が激しく鳴ったが――。


「おぉっ!?」


 まるで重力が増したように、上から衝撃がきた。威力としては膝を突くほどではないが、押さえつけられるように重さを感じる。


 そうして動きを鈍らせながらも、正面から三発、音の弾丸が飛んできた。


(模擬戦でなければもっとえぐいことができそうだなぁ!)


 重いは重いが、この程度では止まらない。剣を振り抜いて音の弾丸を切り裂き、全身に降りかかる圧力も斬って捨てる。


 追撃がないことを確認してから改めて剣を構え直すと、コーラル学園長は苦笑するように笑った。


「並の学生なら今ので勝負がつくんじゃがな。ほとんど効果がないか」

「学園長が全力だったら話は別ですが、さすがに今の程度では潰れてはやれませんね」


 そう言って笑って返すが、コーラル学園長の実力は未だに底が見えない。軽く揉むと宣言した通り、あくまで模擬戦の範疇でしか力を振るわないつもりなのだろう。


 だが、()()()()では俺も負けてはやれない。


 最初に不意を突かれてひっくり返った透輝も既に起き上がっており、盾を構えてしっかりと警戒するナズナ、俺とコーラル学園長の戦いを見ながらも少しずつ位置を変えるモリオンなど、このまま戦いが進めばあと二、三手で勝ち切れるだろう。


 俺がそう判断し、コーラル学園長もまた、同じ結論に至ったのか。やれやれと言わんばかりに肩を竦めた。


「ふむ……さすがにちと手を抜きすぎたかのう。建物を薙ぎ倒すから全力は出せんが、もう少し()()()()()()()良さそうじゃな」


 滑らかな動作で撥を構え直しつつ、コーラル学園長が言う。おそらくは小太鼓を叩く際の威力、つまりは発生した音の大きさで衝撃波の威力も変わるのだと思われた。


(軽く叩いて威力が加減できるのだとすれば、その逆……大きな音を出すことで威力や範囲を底上げできるってわけか。衝撃に指向性を持たせるのは音の出し方で決まるのか? それとも発生した衝撃は自分の意思で操れる? どちらにせよ厄介だが……)


 小太鼓の叩き方で範囲攻撃や個別攻撃を切り替えているのか、自分の意思で操れるのか。魔法の扱いが下手で、『召喚器』も身体能力の強化に特化したものを扱う俺としてはその辺りがいまいち予測できない。


 それでも油断なく剣を構え、一足飛びに間合いを詰めるべく僅かに前傾姿勢を取った。


(たとえ()()()()ができるとしても、間合いを詰めればこっちが有利だ。周囲を薙ぎ払うとしても、太鼓を叩く必要があるからな)


 衝撃波を剣で斬り、再び小太鼓を叩くよりも先に斬る。単純な攻略法だが、それ以外だと俺が前衛を務めて後方からモリオンが魔法で狙撃するぐらいか。実際、後方のモリオンはそんな風に位置取りしているしな。


 模擬戦だからか、ナズナは状況に対応できていない透輝のカバーを優先している。いくら透輝が天才だとしても、いきなり不可視の衝撃波を斬るなり回避するなりしろっていうのは難しいからか。


「いきます!」

「うむ、来るといい」


 一応、宣言をしてから地を蹴る。するとコーラル学園長もそれに応えて撥を振りかぶり――小太鼓を()()()()


「っ!?」


 踏み込んだ俺に対し、コーラル学園長もまた、前へと踏み込んできた。そして小太鼓の持ち手を左手でしっかりと握り締めたかと思うと、俺が繰り出した斬撃に向かって小太鼓を叩きつけてきた。


 剣とぶつかった小太鼓から、ガンッ、と音が鳴る。


「――操れるのが撥で叩いた音だけと思うたか?」


 そんな言葉と同時に、俺の剣が弾かれた。そして全身を衝撃が襲い、後方へと吹き飛ばされる。


(相手の攻撃でもいいのかよ!?)


 剣を手放すことはなく、空中で回転しつつ姿勢を制御して足から着地した。しかしそれはそれとして、コーラル学園長の『召喚器』に対して驚きの感情を向ける。


「ほほっ、ずいぶんと強く叩いてしもうたのう。じゃがまあ、今の威力ならその程度じゃ。ワシの防御とこの『召喚器』、抜けるかのう?」


 そう言って外見に見合わぬ老練の笑みを浮かべるコーラル学園長に、俺もまた、口の端を吊り上げるようにして笑って返すのだった。

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― 新着の感想 ―
ミナトに音が聞こえてたらもう衝撃は届いてる気がするんですが、、、
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