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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第9章

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第225話:困惑 その1

 オリヴィアの呼び出しを受け、人気のない学園内を気配を消しながら進んでいく。


 時折巡回の使用人と行き会うが気配を消したままやり過ごし……って、隠れている俺が言うのもなんだけど、不審者だったらどうするんだろうか? 出歩いている生徒がいれば寮に帰るよう促すぐらいだし、気配を消してうろついているような不審者の発見や退治は仕事じゃないか。


 そんなことを考えながら図書館へと向かう――が、どうにも普段と比べて足が重い。


 オリヴィアと会うことに関して何か問題があるわけではない。『魔王の影』であるバリスシアと遭遇し、交戦した以上、その報告は必須だろう。


 それなら何が問題かというと、だ。


(うーん……もしもメリアがいたらどんな顔をすれば良いのかわからんぞ……)


 それは、図書館に行くとメリアと顔を合わせる可能性がある、という一点だけが問題だった。いや、問題っていうとメリアに失礼か。


 それでも、あくまで別ルートの俺の話だが、結ばれて娘まで生まれている相手となるとさすがに反応に困る。


 いやだって、未来に生まれる娘がやってきて、母親はあの人です、なんて告げてきたんだ。これで何も思わないような人間はいないだろう。いるとすればきっと感情が死んでいるに違いない。

 あるいは未来のことは未来のことだから、と完全に割り切れるタイプか。とりあえず俺には無理だ。意識しないよう心がけても意識してしまう。図書館で出会わなければいいんだが……いっそ無視するのも手か?


(いや、悪手だろそりゃ……メリアが無表情だけどしゅんってするのが想像できるわ。で、そのあと逆にグイグイきそう……)


 なんというか、こちらが引くことで相手に意識させる作戦に思えてしまう。普段なら自意識過剰だと鼻で笑うところだが、リリィという証拠むすめがいるのだ。こんな時の心構えや対処法なんてさすがに習ってないよ、俺。


(ま、まあ? メリアも必ず図書館にいるってわけじゃないし? オリヴィアさんと話して終わるかもしれないし?)


 だから大丈夫、なんて思いながら図書館に足を踏み入れる。そしていつも通り図書館の奥へと足を運んだ……のだが。


(いるじゃん……やっぱりいるじゃん……)


 以前顔を会わせた時のように、パジャマ姿のメリアが椅子に座っていた。ついでに俺が以前羽織らせた外套を着込んでいるが……温かそうだね?


(普通、異性の上着なんて着込まないだろうに……やっぱりリリィが存在しているから、それが原因でメリアが俺に好意的になっているのか? でも『花コン』でも割と不思議ちゃんというか、そういうところがあったしな……)


 もしもメリアが貴族に生まれた御令嬢だったら、前回の件で異性の膝の上に座るのははしたないよ、とか、そもそもパジャマ姿で出歩くのは駄目だよ、なんて注意できたんだが。いや、貴族の生まれじゃなくても一般常識として注意はできるか。でも効果があるかと聞かれるとないわけで。


「っ…………」


 気配を隠したままだったが、さすがはメリアというべきか。十メートルの距離まで近付くと読んでいた本から顔を上げ、俺をじっと見つめてくる。


 真夜中ということもあって図書館の中は暗く、光源は机の上に置かれたランプだけだ。そんなランプに照らされたメリアはリリィによく似ていて――いや、リリィがメリアによく似ている、というべきか。


 長く真っすぐな、綺麗な銀髪。ただしリリィと比べてみると顔立ちが若干異なり、やや幼い印象を受けるか。それでいてこちらを見つめてくる瞳の色も青色で、リリィの赤色とは異なる。


(それでも二人が並んでいたら双子に見えそうなぐらい似ているな……あ、あれ? 俺の要素、どこ? 顔立ちと瞳に影響しているけど、正直誤差じゃないか?)


 他に外見で遺伝した部分がわからず、俺は困惑する。リリィは間違いなくメリアの娘だが、俺の娘かというと……瞳の色と顔立ちの方向性をちょっと継いだだけか。ま、まあ、元気に育ってくれたのなら似てなくてもいいけどさ。


 俺がそんなことを考えていると、椅子から下りたメリアがとてとてと近付いてくる。


「……なに?」

「あー……いや、俺の上着、貸したままだったなぁって思って」

「?」

「そこは不思議そうにするところじゃないぞ?」


 誤魔化すように貸した外套について触れるが、メリアは不思議そうな顔をして首を傾げる。あげたわけじゃないからな? 体格が違うからロングコートみたいになってて温かそうだけどさ。


 別に外套の一着や二着、なくても困らないといえば困らないが。それでもさも『これは自分のものですよ?』なんて反応をされるとこちらとしても困る。


「…………?」


 そうやって俺が外套についてどうするかなぁ、なんて考えているとメリアが小さく首を傾げ、腰を折って前かがみになったかと思うと鼻をピクピクと動かす。そして俺の周囲をグルグルと周り、再度首を傾げた。


(え? まさかリリィの匂いが残ってるのか? ナズナもそうだったけど、そんなにわかるもんなのか? 日中は特に指摘されなかったんだが……)


 仮にリリィの匂いが残っているのだとしても、さすがに時間が経っているから僅かだと思うんだが……()()()()()の何かが引っかかったのだろうか。だとすれば母親ってすごいわ。いや、まだメリアは母親じゃないけどさ。


(っと……この気配は……)


 首を傾げるメリアを不思議に思っていると、かすかな気配が近付いてくる。そのためそちらへ視線を向けると、オリヴィアが怪訝そうな顔をしながら歩いてくるところだった。


「何をしているのかしら?」

「いや……なんでしょう?」

「…………?」


 以前と似たようなやり取りになったが、メリアが気にする様子はない。そしてそのまま以前のように立ち去る――と、思いきや。先ほど座っていた椅子に腰を下ろし、再び本を読み始めた。


(えぇ……自由過ぎる……)


 思わずオリヴィアへ視線を向けるが、咎める様子はなかった。そのため俺も何も言わずにいると、オリヴィアは観察するように俺を見てくる。


「『魔王の影』……バリスシアと交戦したそうね? あなたの印象は?」

「単純に強いし、モンスターを色々と呼び出すしで厄介ですね。悔しいですが、時間を稼いだ後に逃げるだけで精一杯でしたよ。逃げるだけって言っても、普通に死にかけましたがね」


 印象を聞かれたため苦笑しながら答え、ことの顛末を軽く説明していく。するとオリヴィアは納得したように頷いた。


「上司が作ったダンジョンを破壊しに、ねぇ……あのダンジョン、スイレンが作ったのね。それを今更破壊するなんて……まあ、『魔王の影』にとっては人類に有益なダンジョンでも()()()()の扱いなんでしょうが」


 直接会ったわけではないが、『魔王の影』のリーダー格であるスイレンからすると思い出したから破壊しておこう、ぐらいの扱いなのだろうか。参謀役であるスファレライトなんかはもっと早めに破壊を進言しそうなものだが。


(人類がドラゴンを多少手懐てなずけても大した脅威にはならないって考えか? そこから考えを飛躍させて、飛行機でも開発できれば別なんだろうけど……魔法で迎撃されるから無理か)


 良くも悪くも魔法の存在が様々な技術の発展を阻害している気がする。回復魔法やポーションがあるからか医療技術の発展も遅いしな。あと、飛行機は魔法で撃ち落されるだろうし。


「それにしても、あなたでも斬れなかった……か」

「ええ。首を落としにいったんですが、渾身の一撃を右腕一本で止められましたよ。一応、半分ぐらいは斬れましたが……」


 あれはあれで剣士としては中々にショックな光景だった。必殺の意思を込めて繰り出した一撃を片腕で止められるなんて、本当に頭にくる。


 自らの未熟さが原因でもあるが、悔しいものは悔しいのだ。


「誇れ、とまでは言わないけれど、その若さで何の準備もなく、突然一対一で『魔王の影』と交戦して生き残っただけでも大したものよ。ましてや最上級魔法を撃たれて生き延びたんだもの」

「ほぼ死にかけでしたけどね。ポーションが足りなかったら死んでましたよ」


 スグリに頼んでポーションを作ってもらわないとな。あ、でも、なんでポーションがなくなっているのかと疑問に思われるか? それだけの激戦があった、なんて説明で納得してくれるかな。


「――死にかけても逃げ切れたのね?」


 苦笑する俺を、射貫くように見つめながらオリヴィアが尋ねてくる。それは覚えて当然の疑問だろう。基本的に技量差があると逃げ切ることさえ困難なのだ。


「一応、()()だって証明しておきますね?」


 そう言って本の『召喚器』を発現する。オリヴィアは『巧視魂動』があるから必要ないが、一応のアピールだ。そうして俺が『魔王の影』ではないと証明してから肩を竦める。


「なんというか、何がなんでもこちらを殺す……なんて意図は感じませんでした。邪魔な人間と偶然遭遇したから殺しておくか、みたいな……こちらの逃げ足が速かったのもあるんでしょうけど、追ってくる様子もなかったですし」


 いくらリリィが『疾風迅雷』を使っていたとはいえ、男一人担いで逃げるとなると速度はどうしても落ちてしまう。バリスシアもモンスターを呼び出せば追撃することも可能だっただろうし、なんならすぐに魔法を撃てばリリィを捉えることもできたはずだ。

 さすがに最上級魔法を連射するのは難しかったとしても、上級魔法を撃つだけでも逃げる側からすれば厄介である。威力を下げて中級魔法を連射すれば逃げるのが難しかったのではないか、とも思う。


 しかしバリスシアはそれをしなかった。俺が傷をつけたことに感心した様子だったが、逃げるなら無理には追わない、その必要もないと言わんばかりに。


「……まあ、いいわ。アイツら『魔王の影』はね、そういうところがあるのよ。『魔王』が発生すれば人類は滅亡するのだから、多少のことは放置する……そんな感じでね。スファレライトは性格的に多少厳しいけど、それでもわたしからすると()()()わ」


 そう言いつつも、オリヴィアの表情は険しい。『魔王の影』が多少手抜きしていても、人類側が不利だという点に変わりはないからだろう。実際、『魔王』が発生すると圧倒的に不利なのだ。


(向こうは『魔王』さえ発生させればいいし、何より不老不死だ。たとえ一度失敗してもまた手が打てる。こちらが『魔王』を『消滅』させるか長期間『封印』できない限り、『魔王』を発生させて人類の戦力を削って、短いスパンでもう一度『魔王』を発生させて更に戦力を削る、なんて真似もできるわけだ)


 バリスシアでさえ次から次へとモンスターを出現させたが、『魔王』が発生すると津波のようにモンスターが発生すると言われている。


 単純に、数というのは力だ。いくら個人で突出した技量を持つ者がいたとしても、数の暴力には勝てない。


 たとえば、ランドウ先生ならモンスターの群れ程度簡単に斬り捨てるだろう。だが、モンスターが百、千、万と増えればどうなるか? いや、ランドウ先生なら魔物が一万匹襲ってきてもどうにかしそうだが、倒すにも限度がある。


 負傷、疲労、『召喚器』以外なら武器の消耗、MPの消耗。倒すことはできてもモンスターの死体が邪魔になり、地面に零れた血が足を滑らせ、疲労をより大きくする。


 そんなわけで、突出した個人による対処にも限界があるし、数えきれないほどのモンスターが襲ってくれば人類も奮戦の末に力尽きるだろう。


 ()()()()()というべきか。リリィから聞いた話でもそうだったが、ランドウ先生に透輝、それに何をどうやったかはわからないが、メリアと『契約』を交わした俺を『魔王』の元に送り届けるべく、王国騎士団が力を貸したらしい。


 相手が数で押してくるのならこちらも一時的に数で対抗し、その間に()()()()()で相手の親玉まおうを狙う。シンプルだがそれ以外の方法はないだろう。


 その結果が二十年から三十年程度の『封印』――あくまで未来の俺の推測だからもっと期間が短い、あるいは長いかもしれないが、『魔王』を一時的にどうにかすることはできた、と。


 だが、『魔王の影』は二体しか仕留めきれなかったというし、向こうからすれば『魔王』が発生するまでまた同じことをやればいい。

 そして再度『魔王』が発生した頃にはランドウ先生は年老いて衰えているし、俺とメリアは存在が消滅した上で死んでいるし、残ったのは透輝だけという、目も当てられない状況になる。


(うーむ……こうして現実として対処するとなるとクソゲーすぎるな……)


 何度も思ってきたことだが、現実として対面するとクソゲーだよコレ。


 俺がそんなことを考えていると、オリヴィアが意味深な視線を向けてきた。


「しかし……今回の件、()()()()()()には含まれていなかったのよね?」

「そうですね。仮に知っていたら、相談した上で確実にバリスシアを仕留めてましたよ」


 『花コン』でもそうだったが、『魔王の影』の厄介なところは神出鬼没な点だ。ゲームとして考えるとそういう演出なんだな、で済むが、現実で敵が神出鬼没となると最悪すぎる。


「それならやっぱり、あなたの未来に関する知識はアテにならないわね。いえ、参考に留めるべき、と言った方が良いかしら」

「……そう、ですね。自分で言うのもなんですけど、参考程度にするべきかと」


 なにせ未来の予知どころか、未来の娘が助けに来るような有様なのだ。参考にできる部分はあるとしても、前提として考えるにはボロボロすぎて頼れない。


(リリィのことをオリヴィアさんに伝えるのは……いや、やっぱり駄目だな。リリィがいるからこそ『魔王』を二十年から三十年『封印』できる程度の未来しかこない、なんて判断される危険性がある……)


 そんな未来を覆すためにリリィが過去から来てくれたのだし、俺としてもそのつもりだけど、オリヴィアがどう判断するかは別の話だ。

 というか、お隣で眠そうに本を読んでいるメリアが娘を産んで、その娘が過去を変えようとタイムスリップしてきたんですよ、なんて言って信じるだろうか? まずはタイムスリップって単語から説明する必要があるかな? って感じだが。


(伝えるにしても、もう少しよく考えてからにしよう。何か落とし穴があるかもしれないしな)


 俺はそう結論付け――ふと、気付く。


 俺が今している思考や判断が、世界の命運を分けるかもしれない。『魔王』を『消滅』させるか、『封印』するか、あるいは失敗するか。それが決定付けられる選択を俺が()()()()()かもしれない、という重圧。


「…………っ」


 今までもそれをプレッシャーに感じることはあった。その度に胃に穴が開きそうな気分になってきた。しかし今は、リリィから未来の情報を聞いてしまったのだ。


 つまり、『魔王』を二十年から三十年『封印』するという未来を基準として、俺の選択がもっと良い未来、あるいはもっと悪い未来につながるかもしれない。


 ()()()()()()()()()()可能性を、強く実感した。


(こいつは……きつい、な)


 十二月も半ばを過ぎ、真夜中の図書館はかなり寒い。それでも知らず知らずのうちに浮かんできた冷や汗が頬を伝い落ち、床へと落下していく。


 そんな俺をオリヴィアは訝しげに見てきたが、追及する気はなかったのか次の話題に移る。


「ダンジョンは破壊されてしまったけど、トウキ=テンカワ君にドラゴンの卵を入手させる件は達成できたのよね? それならいいわ……ああ、そうそう」


 ドラゴンの卵に関して確認をしたかと思うと、付け足すようにしてオリヴィアが言う。


「今のところ何か依頼があるというわけではないのだけど……今度ダンジョンに行く時はメリアを同行させるわ」

「……え?」


 未来へのプレッシャーで戦慄していた俺だったが、オリヴィアの突然の言葉に盛大に困惑するのだった。

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