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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第8章

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第194話:ダンジョン調査 その6

「はぁ……はぁ……倒せた……のか?」


 『光弾』でリッチを撃ち抜いた透輝は、集中力が切れたのか肩で息をしながらそう呟く。俺はそんな声を聞きながら、今しがた透輝が見せた『光弾』について思考を巡らせていた。


(不完全とはいえ上級魔法を真っ向から破ったな……属性の相性差か、透輝の魔力がそれだけデカいのか……)


 以前メリアが見せてくれた『光弾』と比べると、魔力の収束も甘くて弾丸というより砲弾というべき大きさだった。その分MPを消費したのか透輝はどことなく辛そうである。


 リッチは『光弾』で即死したのか、HPを削られきったのか、開いた穴からボロボロになって体が崩れていく。その様は風化した砂岩が風で崩れ去るようで、最早反撃するどころか動く気配もなかった。


「見事だ、透輝」


 俺は透輝に対して声をかける。称賛するように、その成長を喜ぶように。


「あ、ああ……っ? ミナト?」

「ん? どうかしたか?」

「いや、どうかしたかって言われても……なんでそんな顔をしてるんだ?」


 そう言われて俺は自分の顔に手を伸ばす。鏡があるわけではないため確証はないが、強張っている――?


「……少し……そう、少し驚いただけさ」


 俺は誤魔化すように言って、意識して表情を崩す。幼い頃から貴族として習ってきた通り、感情と表情を切り離して操作し、薄く笑みを浮かべるように表情を変える。


 透輝が『光弾』を使えるようになったことは、心底喜ばしい。魔法の扱いに慣れていけば中級や上級、更には最上級の光属性魔法も覚えてくれるだろう。


 透輝の成長ぶりはさすが主人公と称賛するべきもので、俺としても両手を打ち合わせて拍手を送りたいほどだ。この分なら透輝は俺が予想したよりも早く、俺を超えるほどに強くなってくれるかもしれない。


 ――だが、同時に思うのだ。


 これほどに成長が早く、驚くほどに強くなっていく透輝だが、()()()()()()()()()()()ほどに『魔王』は強いのか、と。


 似たようなことは以前にも考えたことがある。透輝の成長を目の当たりにする度に、同じことを考えてしまう。楽観的に考えずに悲観的に考えてしまうのは、悪い癖だとわかってもいる。


 しかし、だ。こうして透輝が思わぬ成長を見せる度に、心の片隅で囁く声があるのだ。


 透輝は本当に『魔王』を倒せるほど、強くなるのか――と。


 それは『魔王』が発生し、実際に戦ってみなければわからないことである。もしかすると予想以上に透輝が強くなり、あっさりと『魔王』を倒してくれる可能性もある。逆に、予想以上に『魔王』が強くて敗北し、人類が滅ぶこともあり得る。


 ()()がわかるのは、いざ本番を迎えた一度きり。透輝が『魔王』よりも強いか強くないか、コイントスのように二分の一の確率で決まるわけではない。

 実際に戦う状況に至るまでの積み重ねで決まるのだが、これほどまでにすさまじい速度で成長する透輝の才能をもってしても、『魔王』に勝てると断言できないのだ。


(っ…………)


 不安とプレッシャーでズキリ、ズキリと胃が痛みを発する。透輝を強く育てるための手を打ちながらも、それが合っているのか、適切なのかと疑問が湧いてくる。


「本当に……よくやったな、透輝。まさか一度メリアに見せてもらった『光弾』を本当に再現するとは……驚いたぞ」

「え? そ、そうか? でもほら、死霊系モンスターは光属性の魔法が弱点って話だっただろ? それなら下級魔法の『光弾』でも勝てるんじゃないかなー、なんて思ってさ。なんかいけそうだなーって」

「いや、大したもんだ。実は死霊系モンスターは回復ポーションをかけてもダメージを与えられるんだが、それ以外の手段で倒してほしくてな……本当に、大したもんだよ」

「な、なんだよ、ずいぶんと褒めて……って、え? 回復ポーションをかけたら勝てるの? 褒められるのは嬉しいけどなんか複雑だな……」


 痛みを無視して、顔に笑顔の仮面を張り付けて透輝を褒める。すると少しばかり不思議そうにしながらも、透輝は照れた様子で頭を掻いた。


 ()()()()()()()()()って感覚で実際に『光弾』を使ったのだから、本当に大したものだ。


 武闘祭の決勝で『二の太刀』を再現して見せたことといい、何度か技や魔法を実演してみせてから実戦に放り込んだらその場で覚えてくれそうである。


 ただまあ、『二の太刀』は『一の払い』みたいに魔力の運用はなく、技術だけで繰り出す技だから模倣はできるとして、他の技や魔法はどうだろうな。『光弾』が真似できたんだからそれ以上の難易度でもいけるか?


(もっと強くするにはどんな育成方針で育てるか……いやはや、今後が本当に楽しみだ)


 俺はそう考えることで無理矢理意識を前向きにすると、ボスモンスターが倒れたことで崩壊し始めたダンジョンを見上げ、小さくため息を吐くのだった。






 ダンジョンが崩壊したものの、発生したモンスターはその場に残るため、ファルク村に戻るついでに見かけたゾンビやレイスを斬り捨てていく。透輝はボスモンスターを倒したからお休みだ。


 ダンジョンが発生してから崩壊するまでの時間が短かったからか、索敵しながら進んでも発見できるモンスターの数は少ない。ゾンビを二体、レイスも二体仕留めたら近場ではそれらしい気配が掴めなくなった。


「うわぁ……本当に霊体を剣で斬ってる……」


 透輝がとんでもないものを見た、とでも言わんばかりに呟いているが、お前も剣に魔力を通せるようになったらできるからな? というかやれと言ったらできるようになるんじゃないか?


(やれって言わなくても、必要な時が来たら勝手に覚えて使いそうなんだよな……でもまずは『光弾』の扱いに慣れさせる方が先か)


 せっかく使えるようになったのだ。中途半端になるよりもしっかりと扱いを覚えさせたいところである。ま、その辺は学園に帰ってからモリオンに指導を頼むしかないんだが。


 そんなわけでファルク村に帰還すると、代官の男性を筆頭に村人達が出迎えてくれる。周囲に満ちていた威圧感も消えたし、ダンジョンが崩壊したと理解できたのだろう。


 結局、村を出発してボスモンスターを倒すまでに一時間もかからなかった。そのためか、もしもの場合に備えて作るよう頼んでいた安全地帯は二割もできていない。元に戻すのが楽でいい、と前向きに考えるとしよう。


「ボスモンスターはこちらの透輝が倒しました。それと移動の最中に遭遇したモンスターも全て片付けてあります」

「おお……ありがとうございます!」


 俺達がボスモンスターを倒してくると聞いても半信半疑だったのだろう。代官の目には感謝の気持ちもあるが驚きの感情もあった。


「ただ、ダンジョンは破壊できましたが出現したモンスターに関しては残っていますからね。これから周囲を見て回って排除してきます」


 ダンジョンの大きさは不明だったが、村を中心として渦を巻くように走ってみればおおよそのモンスターは駆除できるだろう。どれだけモンスターが出現したかはわからないため、逃がしてしまったはぐれモンスターに関してはどうしようもないが。


「お待ちしておりました、若様。ご無事の帰還、何より嬉しく思います」

「ただいま、ナズナ。こっちはどうだった?」

「ゾンビが三体、レイスが一体来ましたが、ゾンビはわたしが、レイスはエリカ嬢が倒しました」


 村での指揮を任せたナズナに報告を頼むと、簡潔に答えが返ってくる。出現したモンスターは短時間の割に数が多いとみるべきか、あるいは死霊系モンスターだから埋葬された死体などから誕生したのか。それでも普通のダンジョンの範疇に収まるだろう。


「俺はこれから村の周辺をまわってくるから、ナズナは継続して村での警戒を頼む。この村の安全のため、学園への帰還は明日にしよう」


 これも何かの縁だ。もう一泊して学園に戻るのは明日にして、今日のところははぐれモンスター退治に勤しむとしよう。


 死霊系モンスターだから夜間に襲ってくる可能性があるし、夜通し警戒して何もなければ学園に戻っても大丈夫なはずだ。というかそれ以上はさすがに面倒を見きれない。今回の件を王城に報告する必要もあるしな。


「というわけで代官殿。今夜も村に泊まっていこうと思います」

「は、はい、それはもう大歓迎です。泊まる場所や食事の手配はお任せください」


 ダンジョンを破壊した礼としては安いだろうが、色々と世話を焼いてくれるらしい。


「それならまずはボスモンスターを倒した立役者の世話を頼みます。少し無理をして疲れているようなので」


 そう言って俺は透輝の世話を託すと、はぐれモンスター退治へと出かけるのだった。






 結果から言えば、はぐれモンスターは大した数はいなかった。


 ファルク村の周囲を駆け回って発見できたのはゾンビが二体にレイスが一体と、少ない数である。それでも放置して旅人などが襲われると大変なため、少数とはいえ発見できたことを喜ぶべきだろう。


 さすがに俺が確認した以上の範囲に移動してしまったのなら対処のしようがないが、代官の男性が近隣の村や町に情報を共有し、当面の間ははぐれモンスターに注意するという形で決着となった。


 その後も夜通し不寝番をしてモンスターの襲撃に備えたが影も形もなく、翌朝になると安心してファルク村を出発することができた。


(いやはや、何も起きないと思ったらコレだよ……帰るまでが遠足とはよく言ったもんだねぇ)


 代官の男性をはじめとし、大勢の村人達に見送られながら街道を馬車が進んでいく。


 ただまあ、今回はこれまで起きた騒動と比べて規模が小さいというか、偶然発生したダンジョンに巻き込まれただけといった感じだった。

 ボスモンスターが途中で変異したり、いきなりリンネが襲ってきたり、発生したダンジョンが更に異常成長したりもしなかった。


 そのため結果だけを見るなら透輝の良い経験になった、といったところだろう。いや、透輝が『光弾』を使えるようになった点から考えれば()()()()だとすら思えるが。


(やっぱりリンネが何か……でも『魔王の影』にとって天敵になる、光属性の魔法の使い手を育てるか? しかも、もしもリンネが狙って仕組んだのなら()()()()()()()()()()()ってことになる。リンネがオウカ姫で『魔王』をどうにかしようとしているのならまだ納得もできるが……どうやって透輝の能力を知ったんだって話になる、か)


 透輝に光属性の魔法の才能があると知っているのは、俺と『巧視魂動』で透輝を確認したオリヴィア、あとは魔法の指導を頼んだことで自力で気付いたと思しきモリオンぐらいだ。


(モリオンは『花コン』のメインヒーローだから除外するとして、オリヴィアさんが情報を漏らした? あるいは……リンネとつながっている? さすがに邪推でただの偶然か?)


 御者台でガタゴトと揺られながら、そんなことを考える。偶然でもおかしくはないが、誰かが仕組んだ必然でもおかしくはない。リンネが怪しいとは思うが、今回は姿を見せていないため断言もできない。


(結果だけ見て透輝が『光弾』を使えるようになったから問題なし……とは、言えないわな。あー、クソ。頭と胃が痛い。ポーション飲みたい……)


 表面上は普通の表情を装いつつ、内心では苦悶の感情が溢れ出す。学園の寮に帰ったらこっそりポーションを飲もう、そうしよう。


 そんなことを考えていると、キャビンから御者台へとつながる扉が開いて透輝が顔を覗かせた。それに気付いた俺が視線を向けると、透輝はどこか楽しそうに笑う。


「なあなあ、レッドカラントさんと話をしたら錬金術に興味が出ちゃってさ。今度の文化祭、錬金術にチャレンジしてアイテムを作ってみようと思うんだけど……どう思う?」

「…………」


 対する俺は、多分だけど一瞬、真顔になった。しかしすぐさま表情を取り繕うと、口の端を吊り上げて笑う。頬が引きつりそうだったからそんな笑い方しかできなかったのだ。


「錬金術か……たしかに、素材を集めた手際から考えると才能がありそうだが……」

「だろ? 今回集めた素材がたくさんあるから、レッドカラントさんが錬金術の基礎ぐらいなら教えてくれるっていうしさ。あ、もちろん剣と魔法の訓練はするからな? そのあと、時間を作って教わろうって思うんだけど」


 そんな透輝の話を聞き、俺は内心だけで小さく驚いた。たしかに透輝に対する悪感情はなくなったようだが、錬金術を教えようと思うぐらいスグリが透輝と打ち解けたというのか。


(スグリルートに入る危険性は……スグリの様子から考えるとそれはないか? しかし透輝、アイリスがいるのにスグリに錬金術を教わるって……いや、少し危険だけどアイリスが透輝のことをより強く意識するきっかけになるか?)


 アイリスから離れるわけではないが、これまでと違う行動を取る透輝を見てアイリスがどう思うか。嫉妬でもして透輝に対して執着心を持ってくれるか? それともあっさり流すか?


(剣と魔法の訓練をした上でやりたいっていうのなら反対する理由がない、か……これまで指導した感じだと、錬金術の練習を始めたからっていって他のことを投げ出す性格でもないし……)


 俺としては透輝を少しでも強くしたいが、訓練の時間をただ伸ばすだけでは大きな効果は望めないだろう。今回みたいに適切な難易度で適度に追い込むほど光り輝くのが透輝だ。これまでやったことがないことに取り組むことでストレスも発散できるだろう。


「……おう、そうか。いいんじゃないか?」


 結局、俺にできたのはそんな返事だけだった。

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透輝の成長と共に不安感が増していく…今後のストーリーで一気に何か衝撃が訪れるのでは…!?
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