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ハッピーエンドの未来を目指して  作者: 池崎数也
第5章

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第110話:生徒会 その2

 いや、ちょっと待ってほしい。本当に待ってほしい。なんでそんな厄介事の臭いしかしない問題を投げてくるんですかね。


「あー……はとこ殿、まずは前提となる話を確認させてください。貴女の代わりにといいますが、生徒会長は既にいるのでは?」


 そう言って俺はカトレアへ視線を向けた。副会長がそこにいるんだし、生徒会長もいるだろう。いや待て、それならなんで昨日の入学式でカトレアが司会を務めてたんだ? 顔が良いから? 役職で見れば生徒会長が入学式の司会を担当しても良さそうなものだが。


 俺の質問に対し、カトレアは困った様子で頬に右手を当てる。ゲラルドにも視線を向けてみるが、ゲラルドは視線が合う前に下を向いてしまった。おう、逃げるな。


(明らかに厄介事だな、こりゃ)


 俺がそんなことを考えていると、困ったような表情のままでカトレアが口を開く。


「その、ね? 生徒会長は現在空席になっていて……アイリス殿下には重く受け止めないでほしいのですけど、殿下が入学されるのに生徒会長を務めるのは荷が重い、とのことで……三年の先輩方が全員立候補を拒否してしまったの」

「先輩、それはどう考えても軽くは受け止められない話では?」


 俺は思わずツッコミを入れてしまった。


 生徒会長という役職上の話といえど、王女殿下の()()()()というのがプレッシャーだったらしい。そのため本来生徒会長を選出しなければならないところ、誰も立候補せずに入学してきたアイリスを生徒会長に置こうとしているようだ。


「一応聞くがゲラルド、お前も生徒会長に立候補しなかったのか?」

「さすがに実家が陪臣子爵で生徒会長は無理ですよ、若様……それに俺は決闘委員会の委員長をやっていますので」


 なんだその決闘委員会って……いや、そっちも気になるけどまずは生徒会長の件だ。


「そういうわけで、入学式の司会や殿下へのお願いも副会長のわたしが引き受けることになったのよね……」


 本当に困った、と言わんばかりにカトレアが言う。『花コン』では主人公が召喚された時点でアイリスが生徒会長、カトレアが副会長だったから気にならなかったが、どうやらこういったゴタゴタが裏ではあったらしい。


「カトレア先輩、生徒会メンバーの選出は生徒会に所属している者や教師の推薦だったと思いますが、生徒会長などの役職を持っている方はどのようにして決めているんですか?」

「毎年卒業式の前に生徒会メンバーが集まって、自薦他薦で候補を決めて、あとは投票で決まるわ。今年度は事前にアイリス殿下が入学してくるってわかっていたから、生徒会の先輩方は全員及び腰になっちゃってね」

「カトレア先輩が二年生で副会長なのも投票の結果ですか? 三年生じゃなくていいんですね」

「副会長は経験を積ませるため、毎年二年生から選んでいるのよ。あとは実家が伯爵家で、会長になっていただく殿下と同性で相談しやすいから……ってところね」


 まあ、気持ちはわからないでもない。生徒会長は役職の上では()()みたいな存在だとしても、王女殿下を生徒会の部下として扱うのはプレッシャーだろう。アイリスが何かミスでもして、他の生徒と同様に注意したり指導したりは難しいか。

 かといってアイリスを生徒会に入れず、ただの一人の生徒として扱うのはそれはそれで失礼だと思ったのか。しかし、生徒会に入れるとなると今度は平のメンバーは失礼だと考えてしまったわけだ。


「さすがに入学したばかりの殿下に生徒会長は難しいと思うのですが……いっそのことカトレア先輩が生徒会長になるというのは?」

「それも考えたのだけど、三年の先輩方がいることに変わりはないし、殿下がいらっしゃるのにわたしが会長となると生徒会が二つの派閥に分裂しそうでね……そうなると殿下に生徒会長をお願いして、実務はわたし達が行った方が安定すると思ったのよ」

「ふーむ……ゲラルド、お前が決闘委員会とやらを辞めて生徒会長になるのはどうだ?」

「勘弁してください若様……この二年間で何度もありましたが、ここの生徒は揉め事がある度に決闘をしようとするんですよ? それなのに実戦経験がないから勢い余って寸止めもできないし、止めないとやりすぎるし、止めても興奮していて止まらないし、決闘委員会で審判として立ち合いをできる生徒も限られて――」


 そこまで口にして、ゲラルドはまさか、と言わんばかりに俺を見た。


「俺がその決闘委員とやらをやれば、ゲラルドは生徒会長に……」

「無理です! 本当に無理です!」


 無理か……残念だ。陪臣って立場さえ問題にならないのなら、ゲラルドを生徒会長にするのもアリだと思ったんだが。


「すまないな、はとこ殿。さすがに当家の次期騎士団長でも生徒会長は荷が重いようだ……というかゲラルド。生徒会長になるつもりがないのならなんでこの場にいるんだ? 顔を見せにきてくれたのか? それはそれで嬉しいけどさ」

「っ……ははっ、若様と面識がありますし、副会長に立ち合いを頼まれただけですよ」


 とりあえず色々と言いはしたが、アイリスが求めているのは俺が生徒会長になることだ。


 家の格は……まあ、実家は辺境伯家だから大丈夫だろう。


 実績に関しては複数の勲章持ちだから、こっちも大丈夫。


 実力に関してもゲラルドの言葉が真実なら、実戦経験がない生徒ばかりだから大丈夫だ。


 そうなるとあとは一年生って部分が引っかかるが、同じ一年生のアイリスを生徒会長に据えられるのは俺も大丈夫だろう。


 なるほど、アイリスの見立ては素晴らしい。たしかに俺なら生徒会長を務められる――とは、ならない。


(王族のアイリスがやるからセーフなのであって、東部貴族の俺がやったらアウトだよな)


 個人的には面倒極まりないが、今回の場合は派閥というものが足を引っ張る。


 俺が生徒会長になったらどうなるか? 東部貴族以外の貴族が全員背中を向けて中指を立てるぐらいはあり得る。生徒会のメンバーの中で根回しが済んでいるなら話は別だが、さすがに会ったこともない者達に根回しをするのは不可能だ。

 というか、同じ東部貴族でも先輩連中からは生意気だと疎まれる可能性もあるし、アイリスを旗頭にした()()()()の面々からも敵視されそうだ。


 王族としてその辺りの権謀術数はアイリスも習っているはずで、明らかに悪手としか思えないのだが。


(まさか、俺ならそういった反対意見を潰せると思ってる? そりゃ物理的には潰せるかもしれないけどさ……)


 実戦経験がない者ばかりならさすがに負けない。技量次第では複数が相手でも余裕を持って勝てるだろう。気に食わないからと決闘を挑んでくるならカモである。


(決闘を挑む奴ばっかりじゃないだろうし、そういう手合いに足を引っ張られたり裏で結託されたりするとなぁ……うん、カトレア先輩の言う通り、アイリスを神輿に担いで実務は他がやる方が良さそうだな)


 三年生が誰もやりたがらないのなら仕方がない。貴族にとって王族は上に戴くものだし、アイリスを生徒会長にするというのも過去に入学した王族がいる以上、同じことが行われたはずである。

 つまり、先輩方としては王家の下につくという()()()()()を求めているわけで。


(というか、『花コン』の主人公を誘導したり鍛えたりしたいし、生徒会長になったら身動きが取れなくなりそうだな……ここは『花コン』通り、アイリスを生徒会長にした方が動きやすそうだ)


 最終的な結論は()()に落ち着く。ただでさえ王国東部の貴族達の旗頭をしなきゃいけないのに、生徒会長なんて重責まで背負いたくない。


「ミナト様、やっぱり駄目……でしょうか?」


 アイリスが不安そうに尋ねてくるが……駄目なものは駄目ですね、ええ。


「殿下、さすがに私が生徒会長になるのは無理です。東部貴族以外の反発が大きすぎるでしょう」


 俺はそう言いつつ、カトレアへと視線を向ける。カトレアは味方になってくれるかもしれないが、彼女――ラビアータ伯爵家が所属するのは西部貴族であり、彼ら、彼女らの全てを味方にするのはさすがに無理があるだろう。

 いや、婚約者候補のカリンが北部貴族だし、頑張ればギリギリいけないこともない……かも、しれないが……。


「そうですか? 『野盗百人斬り』と評判のミナト様なら、不満はあっても十分に抑えられると思ったのですが……」


 待って、何その『野盗百人斬り』って。たしかに領内の野盗を相手に何度も戦ってきたけど、さすがに百人は斬ってないよ?


 俺が困惑していると、カトレアが不思議そうに首を傾げる。


「学園に入学するついでに道すがら野盗を百人、ミナト君一人で斬ったって噂になってるわよ?」

「なんですかその噂……たしかに遭遇した野盗は合計すれば百人以上いましたけど、俺一人でそんなに斬るわけないじゃないですか」


 他に兵士もいたんだし、俺一人で手柄を独占するわけにはいかないだろう。百人斬れるかどうかは……一対一で時間をかければいける……か? ランドウ先生なら多対一で時間をかけなくても可能なんだろうけど、俺だとさすがに厳しいぞ。


「……百人以上の野盗に遭遇したのは本当なのね」

「一回あたり二十から三十人程度の野盗の集団と四回遭遇しただけですよ。同時に百人以上が襲ってきたわけじゃないです」


 そんな大集団の野盗がいたら各地の領主が本腰入れて討伐するし、俺達が遭遇していたらモリオンに上級魔法を全力で撃ってもらっただろう。


(というか、入学してからやたらと周りから見られている気がしたけど、そんな噂が出回っていたのか……その割に俺の耳に入ってきてないんだよな)


 率先して情報収集をしていたわけではないが、耳を塞いでいたわけでもない。多くの生徒が知っているぐらい『野盗百人斬り』なんて噂が広まっているのなら、嫌でも耳に入ってきそうなものだが。


(もしかして、それが聞こえて俺が反応したら怖いから俺に聞こえないよう注意してる、とか? それならナズナかモリオンが教えてくれれば……いや、教えるタイプじゃないか)


 『野盗百人斬り』? なるほど、さすがですね! なんて言って報告せずに終わりそうだ。想像だけど外れてなさそう。報告してくれよ。


 ただでさえ虚名が広がっているのに、更に追加で虚名が増えてどうするんだ。いやまあ、虚名か実情か問わず、膨らんだ名声に殺されないようランドウ先生に鍛え直してもらったんだけどさ……それが原因で今度は『野盗百人斬り』って……。


 アイリスもその噂を聞いて、以前からの功績も含めれば俺が生徒会長でも大丈夫だと思ったのかもしれない。しかし仮に俺が生徒会長になったとしても、アイリスを()()()()という構造は変わらないわけで。


(何かある度に、アイリス殿下をないがしろにしている! みたいな難癖をつけられるかもしれないしな。常に攻撃材料を抱えながら生徒会長をするって考えると、さすがに三年生の先輩達を責められないか)


 うん、そう考えるとやっぱり俺が生徒会長をやるのはナシだな。メリットも特にないし、デメリットばっかりだし。


 俺がそう考えていると、表情からこちらの考えを見抜いたのだろう。アイリスは残念そうにしながら口を開く。


「生徒会長になるのはわたしの立場上仕方がないこと、ですか……それではミナト様、生徒会長補佐に就いてもらうというのはどうでしょう?」

「…………」


 それ、『花コン』の主人公に与えられる役職じゃないか……なんとか表情を動かさずに済んだけど、思わず頬が引きつるところだったよ。


「ミナト様は武名と実績の両方を兼ね備えていますし、その、()()()殿()、ですし……わたしを支えてほしいです」


 どこか複雑そうにしながらもそう告げるアイリス。俺はそんなアイリスの言葉を聞きつつ、必死に脳味噌をこねくり回す。


(やばい……主人公が召喚される前にまた『花コン』との差異が増えちまう……生徒会長補佐って何人も置けるんだっけ?)


 生徒会長補佐という役職はアイリスに召喚された主人公が任命される役職だが、任命された理由はこの世界において家族もおらず、何の縁も持たない主人公に対して手っ取り早く社会的な身分を与えるためだったはずだ。


 『花コン』の主人公は言葉を飾らずに言えばアイリスが召喚した異邦人にして()()()だ。それも特殊な技能や身分も持たない民間人の高校生である。

 アイリスとしても自分の『召喚器』を通して召喚してしまった相手に対し、何もしないというのは性格的にも無理だ。そのため生徒会に入れて役職を授け、学園内で動けるようにしたわけだが。


 そんな役職に俺が滑り込んでどうするんだって話だ。ただでさえ色々と過剰に功績やら期待やら盛られている気がするのに、そんな俺と同じ役職に『花コン』の主人公が就けるか?


「俺をはとこ、と呼んでくださるか」


 そう思った俺は断り文句を必死に考えながらアイリスに向かって片膝を突く。


「では、俺も敢えて()()()殿()に進言するとしよう。俺が君を助けるのは当然のことだ。血のつながりがあり、王女と直臣の嫡男であり、共に学園に通う仲間でもある」


 少しばかり演技臭いかもしれないが、貴族はこうして大仰に振る舞うのも社交術の一つだ。まあ、片膝を突いてどうこうは貴族というより騎士っぽい感じがするが。


「わざわざ役職に就けずとも、助けてほしいと言ってくれれば助けるとも。もちろん、助けてなんて言わなくても助けるがね」


 そう言って俺は軽く笑う。君を助けるためにわざわざ役職はいらないよ、とアピールする。


「それに、さっき言っていた決闘委員会のこともある。そちらも生徒会の役職の一つなんだろう? 役職の掛け持ちはさすがにできないだろうし、俺を役職に就けるならそっちが適任じゃないかな?」


 アイリスを支えるというのは本心だ。『花コン』の主人公を召喚してもらわないといけないし、召喚した後も色々と誘導するために接触する機会は多い方が良い。そのための口実を今、ここで作っておくのも悪くないだろう。


「若様……若様は決闘を起こす方だと思うので、決闘委員になるのは難しいと思います」

「ゲラルド? 思いっきり話の腰を折ってくれたな」


 そう思っていたら身内ゲラルドに背中から刺された。ゲラルドお前……相変わらず口が……なんて思っていたら、アイリスが口元に手を当ててくすくすと笑う。


「そう、ですね……たしかに役職抜きで補佐してもらえるのなら、もっと相応しい役職に就けるべきだとわたしも思います。それは追々決めるとしましょうか」


 上品に可愛らしく笑ったアイリスだったが、最後には笑みを引っ込め、カトレアへと視線を向ける。


「生徒会長の件、未熟な身ではありますがお受けいたします。それが王族としての務めでしょうし、支えてくれる方もいらっしゃるのでわたしでもどうにかなるでしょう」

「……ご負担とご面倒をおかけして申し訳ございません。わたしも可能な限りお力添えをすることを誓います」


 俺と同じく、カトレアも片膝を突いてアイリスに向かって最敬礼を向ける。それを見たゲラルドも椅子から立ち上がり、片膝を突いてアイリスへ最敬礼を向けた。


 そうやって新たな生徒会長の誕生を目の当たりにしつつ、ふと思う。


(これで『花コン』の主人公が召喚されてくれれば、生徒会の人間としても接触できる……俺が色々やったから元々の『花コン』通りにはいかないんだし、上手くやらないとな)


 そのためには主人公が召喚されてくれなければ動きようもないが、今はまだ、無事に主人公が召喚されるよう祈るばかりである。

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― 新着の感想 ―
「若様は決闘を起こすほう」に笑いました。 女を巡ってが半分、好戦的な所が半分と思われてそう。 ミナト周りで洗脳されてないのはゲラルドだけ? レオンさんのせいで東部派閥以外からは元々嫌われていたのでは…
王族云々は理解出来ても、教育機関として「それは駄目だろ」と思ってしまう。家庭教師スタイルが主で学校というシステムが初体験のはずの生徒に「俺たちがやり難いからお前トップな」は……。フォローはするからと言…
これもう主人公召喚されないのほぼ決やん
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