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第109話:生徒会 その1

 入学式の翌日。


 朝から食堂で朝食をとり、準備を整えたら通学である。上級貴族寮から貴族棟までは徒歩三分とかからず、仮に寝坊しても余裕で授業に間に合う距離だ。


「おはようございます、若様」

「おはようございます、ミナト様」

「ああ、おはよう」


 ただ、寮を出たらナズナやモリオン、それに東部貴族の子達が勢揃いしており、俺を出待ちしていた。どうやら朝から大名行列をするつもりらしい。困ったね。


「あー……ナズナ? モリオン? 朝からみんなを集めるのも集まるのも大変だろうし、こういうのはほどほどでいいと思うんだが……」

「いえ、若様。こういうのは最初が大事ですから」

「ナズナ殿のいう通りです。徐々に形を変えるとしても、まずは団結しているということを誇示しなければなりません」


 そっかぁ……誇示しないと駄目なのかぁ……ま、まあ、派閥っていうのはそういうものだし、仕方ない、かな? 俺が旗頭でなければもっと素直に頷けるんだけど。


 チラ、と見てみれば直臣陪臣問わず貴族の生まれの生徒、騎士科の生徒、技術科の生徒と東部貴族に縁がある生徒がずらりと並んでいる。


 これで全員が面倒そうな顔をしていてくれればまだ気が楽だったが、半数ほどはキラキラとした、輝かんばかりに明るい表情をしていた。残り半分は俺の心境と似たような顔――すなわち困惑したような表情である。これ、何の集まりなんだろう? みたいな顔だ。俺が知りたいよ。


(現実逃避はこれぐらいにして、だ……えぇ……派閥の旗頭としてこんなに面倒見ないといけないの? うちの寄り子ならまだわかるけど、東部貴族ってだけの関係の子もいるしさ。騎士見習いの子なんてほとんど関わりがないんだけど……)


 騎士志望でもサンデューク辺境伯家で召し抱えている騎士の子どもなら、たしかに俺が面倒を見るべきだろう。寄り子のところで召し抱えている騎士の子どもに関しても、まだわかる。

 だが、東部貴族という大まかな括りでしかつながりがない家の子、そんな家の子が召し抱えている騎士の子どもなどは、さすがに管轄外だと思うんだが……駄目か。大まかな括りだろうと、つながりと言われたらそうだしな。


 俺からすると面倒だが、相手からすると王立学園というパエオニア王国各地から様々な生徒が集まっている場所で、何かしらのつながりや庇護が欲しいと思うのも仕方がないのかもしれない。寄らば大樹の陰って昔からいうしな。


「そうか……それなら仕方ないな。君達、何か困ったことがあれば遠慮なく相談しなさい。俺に相談しにくいならナズナやモリオンでもいい。一人で溜め込まず、周囲に助けを求めること。いいね?」


 とりあえず旗頭トップとしてそう伝えておく。報告、連絡、相談はどんな時でも大切だからね。


 『花コン』だとミナトの評判ごと瓦解していた東部貴族の派閥だけど、分裂して統制が不可能になるぐらいなら面倒でもトップをやるしかない。

 まあ、あくまで一年生の東部貴族のトップだ。先輩もいるし、なんなら先に入学しているゲラルドが三年生にいる。何かあれば俺も報告、連絡、相談をしよう。そうしよう。


 ――そう、思っていたんだが。


「あの……ミナト様、少しお時間をいただいてもいいでしょうか?」


 大名行列よろしくぞろぞろ連れて教室に向かって席につくと、東部貴族の子ではなく何故かアイリスが話しかけてきた。それもどこか深刻そうな顔である。


「やあ、()()()殿()。貴女のためとあらば少しといわずいくらで時間を取りますとも」


 やめてくれ、君の立場で様付けなんてしないでくれ、という思いを込めてはとこ呼びする。しかしアイリスはそれに気付いた様子がなく、相変わらず深刻そうな顔をしたままだ。


「今ではなく、今日の放課後に時間を取ってほしくて……わたしと一緒に生徒会室へ行ってくれませんか?」

「それは構いませんが……生徒会室、ですか」


 俺は思わず怪訝そうな顔をしてしまう。


 『花コン』における生徒会――それは主人公が所属することになる組織で、前世で知る生徒会と比べると役割が大きく異なる。


 前世の漫画やアニメなんかでもやたらと権力が強い生徒会が登場する作品があったが、『花コン』だと生徒会を運用するのは基本的に貴族である。

 つまり権力が強いというのもある意味当然で、学園内のバランス取りや問題事の解決、依頼の達成など、様々な面で強権を奮うことになる。


 ある意味、普段からパエオニア王国全土で行われている各貴族達の政治的な駆け引きを、学園という箱庭に縮小したのが生徒会になるのだ。各派閥の代表が集まって色々と政治的な暗闘を繰り広げることになる――()()()、だが。


(『花コン』だとあくまで主人公が所属する組織って感じで、政治的な部分はあまり触れないんだよな……)


 もちろん政治的な部分が皆無というわけではないが、その辺りはアイリスが対処していたはずだ。『花コン』で詳しく触れることはほとんどなく、味方になっているならモリオンも辣腕を奮って政治的なアレコレを対処していたはずだ。


 そんな生徒会だが、生徒会長や副会長、書記なんかがいるのは前世の学校と同じだが、『花コン』だと主人公がパーティを組むメンバーを集めた組織、というのが最も適切か。

 パーティを組めるのは生徒会のメンバーだけ……ゲームが始まったら各キャラと交流して友好度を上げ、勧誘して生徒会に入ってもらわなければダンジョンなどに連れ出せないのだ。


 そうして勧誘したメインキャラ達と生徒会に寄せられる様々な依頼をこなしつつ、授業を受けてステータスを鍛えたり技や魔法を覚えたりしつつ、各キャラと交流して好感度を上げつつ、様々なイベントをこなしていくのが『花コン』の基本的な流れだ。


 一応、生徒会に所属しているメンバーは『花コン』のメインキャラ以外にも存在したはずだが、パーティに入れることはできず、イベントの際にちょっとした発言がある程度の扱いだ。立ち絵はないしボイスがついてるなんてこともなかった。


 最初からパーティ入りしているキャラは主人公とアイリス、それとカトレアの三人だけであり、生徒会顧問としてコーラル学園長の名前があるが条件を満たさないとダンジョンにはついてきてくれない。


 そんな生徒会だが、『花コン』だとミナトは東部貴族のまとめ役として()()()入っていた。しかし主人公が生徒会に入ると『こんなところにいられるか』と出て行ってしまうのだ。


(つまり、生徒会に加入しないかのお誘いかな?)


 その割にはアイリスの表情が優れないし、どこか態度が固い。そのためアイリスに敢えて笑いかけた。


「……いえ、それでは放課後に生徒会室へご一緒しましょうか」

「よろしく……お願いします」


 そう言って小さく頭を下げるアイリスに、俺は笑みの種類を苦笑に変えて頷くのだった。






 さて、放課後である。


 今日は入学式の翌日ということもあり、授業というよりは()()()()()()()()()の説明を受けることとなった。


 国語数学理科社会とかそういう感じである。英語はないから楽でいい。あとは年間スケジュールの細かい説明だったり、定期テストに関する話だったりと昨日行われたオリエンテーションの延長としての話ばかりだった。

 今から学園で三年間生活し、学んでいくんだから最初にしっかりとした説明が必要ということだろう。


 それらの話を聞き終わり、放課後になったらアイリスが再び俺の席にやってきた。そのため俺は椅子から立ち上がり、すぐ近くの席に陣取っていたナズナやモリオンへ視線を向ける。


「俺は殿下のご要望で生徒会室に行ってくる。君達はそれぞれ自由に過ごしてくれ」


 朝の内に話をしていたため、それだけ伝えたらあとは行動あるのみだ。


 アイリスと並んで学術棟へ足を向ける。昨日入学式があった学術棟の四階、その一角に生徒会室があるのだ。


 アイリスと並んで歩く――正確には俺の方がアイリスから半歩ほど後ろに引いて歩いていると、廊下にいた生徒達がぎょっとした顔になり、慌てた様子で道を開けてくれる。うん、ありがたいけど申し訳ないな。ごめんよ。


「……やっぱり、ミナト様はよく知られているようですね」

「いや、知られているのははとこ殿の方では? 昨日新入生代表として挨拶をしたじゃないですか」


 何を言い出すんだ、とツッコミを入れる。俺は名前自体は知られていたとしても、容姿までは知られていないはずだ。そうなるとアイリスの知名度がもたらした結果だと思う。 

 そう本心から思っての言葉だったが、アイリスは半信半疑といった様子だ。なんというか、初対面の時から継続して妙な固さというか、壁を感じてしまう。


(うーん……アイリスに畏まられると周囲の目が余計に……この国の姫なんだから、もう少し影響を考えてほしいところだけど……)


 俺も立場と実績から影響力がある方だが、さすがに王女殿下アイリスには劣る。王国東部限定ならさすがに俺の方が上だけど、王国全土で見れば完敗だろう。


 そんな会話をしながら生徒会室へ到着すると、礼儀としてノックをして返事があってから扉を開けた。


 初めて入った生徒会室は机がいくつも並んでいて、大人数が集まって会議ができそうなぐらい広い。なんというか前世の会社を思い出すが、扉から一番離れた場所に大きな机……おそらくは生徒会長が使う机が置かれ、その前にズラリと机が並んでいる。

 だが、ずいぶんと多くの机が並んでいる割に部屋の中にいた者の数は少なかった。昨日入学式で見たカトレアと――。


「ゲラルドじゃないか。どうして君がここに? おっと、今はゲラルド先輩と呼ぶべきだったか」


 生徒会室には何故かゲラルドの姿があった。年齢は今年で十八歳になるからか、会っていない間にずいぶんと大人びた顔付きになっている。そして、大人びたが居心地悪そうな顔で俺を見ていた。


「勘弁してください若様……将来の主君に先輩呼びされるなんて居心地が悪いですよ」

「ははは、すまんすまん。しかし、どうしてここにいるんだ?」


 ゲラルドは三年生だが、現時点では生徒会に入っていてもおかしくはない。実戦経験があるし、その辺りを評価されて生徒会にスカウトされたんだろうか?

 そんなことを考えつつ、視線をカトレアへと向ける。


「それにそちらの女性は……入学式で司会をされていたカトレア先輩ですよね?」

「そういう貴方はミナト君よね? ゲラルド先輩からよく話を聞いていたし、色々と噂も聞いているわ」


 俺の言葉にカトレアが()()()()()反応し、椅子から立ち上がって歩み寄ってくる。そして親しみやすい笑顔を浮かべて右手を差し出してきた。


「改めまして、カトレア=リンド=ラビアータです。生徒会の副会長を務めさせていただいているわ。よろしくね?」

「初めまして。ミナト=ラレーテ=サンデュークです。アイリス殿下の付き添いで来ました。よろしくお願いします」


 差し出された右手を握る……ん?


(剣だこがある……『召喚器』も剣だったはずだし、しっかりと鍛えてるみたいだな)


 軽く握手をしただけだが、カトレアが剣の修練を積んでいるのがすぐに理解できた。そしてそれはカトレアも一緒だったのか、俺の右手をにぎにぎと。


「うわぁ……ゴツゴツしてる。すごいわね。噂は聞いていたけど、剣士として一流っていうのは嘘でも大袈裟な宣伝でもないみたい……あ、不躾にごめんなさいね? わたしも剣を扱うから、つい興味が湧いちゃって」

「いえ、構いませんよ。先輩もしっかりと剣の修行を積まれているようで……手を握ればそれがよく伝わってきました」


 お互いに頭を下げ合い、挨拶を終えて一歩下がる。カトレアはアイリスにも挨拶を……しない? 既に知り合いなのか?


「はとこ殿? そろそろ生徒会室に連れてきた理由をお聞かせ願いたいのですが?」


 少し気になったが、それよりも先に本題を尋ねる。するとアイリスはカトレアへ視線を向け、アイコンタクトを取り合ってから俺を見た。


「用件というのは他でもありません。ミナト様、わたしの代わりに生徒会長になっていただけませんか?」


 そして、そんな爆弾発言を投げて寄こすのだった。

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― 新着の感想 ―
アイリスはミナト派閥の暴走の抑止力係を放棄するのか。 周りから王族としての義務を放り出したように見られそう。 3年のゲラルドが副会長でないのは身分が足りなかったから? それとも後輩より明確に能力が劣…
生徒会長云々は派閥と同じく面子の問題ですよね、これ 王族が誰かの下にいたり、一般生徒の立場にいるとかありえないし、劣等感とかがあるとしてもミナトが言うようにアイリスの方が自分の立場をわかってない感じか…
アイリスはミナトに対して少し劣等感があるのでしょうか? そう考えると、壁があるのもそれが原因なように思えますね 毎日更新とはいえ、面白さが途切れず常に面白いので、 次の更新が待ち遠しいです
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