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アリスとマリアの冒険  作者: 赤葉響谷
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第18話 次の試練に向けて

「———ッ!!」


 意識が覚醒すると同時に慌てて飛び起きると、心配そうな表情を浮かべてこちらに視線を向けるコハクさんと目が合った。


「ええと……私、どれくらい気を失ってました?」


「2分くらい、かな。一応状況を伝えておくと、君が意識を失うのとほぼ同時にマリアさんも戦闘続行不可能との判断が下され、試験が終了したところだよ」


 体に異常がないことを確かめながら私が立ち上がると、ほっとした表情を浮かべながらコハクさんはそう告げる。


「納得がいかぬ! 我はまだまだ戦えたのに!!」


 少し離れた位置から聞こえたその声でそちらへ視線を向けると案の定頬を涙目になりながら膨らませ、胡坐を組んで座り込むマリアの姿があった。


「あんた、あの状態で私の炎檻(えんかん)に囚われ続けてたらいくら威力があんたが頑丈で威力が抑えられていると言っても命に関わるわよ」


 マリアは呆れ顔でそう告げるヒスイさんを落涙しないよう必死に堪えながらもキッと睨み返し、「いいや、我が限界を迎える前に際限なく増大する魔剣の熱量に耐えられなくなったキサマの方が先に限界を迎えていただろう」と言い返す。


「……驚いた。あんた、あの短時間で私達の弱点を見破っていたのね」


「当然じゃろ! ……まあ、コハクはまだ余裕がある感じであったし、どちらにせよアリスの補助なしでは我一人での勝利は難しかったかも知れぬが」


 後半の方は微かに聞こえる程度の小声ではあったが、あのマリアがママ以外ですんなり相手の実力を認めるとは思わなかったので思わず「凄い! そこまで冷静に状況を分析できたんだね!」と正直に思ったことを口に出してしまう。


「フッ、強者たる者それぐらいできて当然よ! まあしかし、今の力を封じた我では勝利が厳しいだけであって、本来の力を開放した我には何人たりとも勝てはせぬのだがな!」


 正直、私的に先ほどの言葉は遠回しに『いつものようになんやかんや理由を付けて子供っぽく自分が上だと言い張るかと思ったから、とうとうマリアも大人になったんだね』と告げたようなものだったので、いつも通りのセリフが出てきたことで『ああ、やっぱりマリアはマリアだな』と納得しながら私は先ほどの戦闘についてへ話題を戻すことにする。


「質問なんですが、最初にお二人がわざわざその刀を相応の魔力で封じていたのはあの周囲の魔力を吸い込み続ける特性を押さえるためですか?」


「ええ、そうよ。どうやらマリアだけでなくアリスも薄々感づいているみたいだけど、あたしたちが持つ『煉獄』と『雷切』は周囲の魔力を吸収し続けて刀身に炎と雷を纏う特性があるんだけど、それとは別に魔力を溜め込めば溜め込むだけ持ち主の魔力出力、特にあたしが持つ『煉獄』は筋力強化が増強されて普通の何倍もの力が出せるようになって炎系統の魔術も大幅に強化される特性があるの。ただその代わり、戦闘を行いながら膨れ上がり続ける魔力を制御するのがとても難しくて、今のあたしたちの実力だと数分間で制御できないほど魔力が膨れ上がって、その反動で自身の肉体を傷つけてしまう諸刃の剣なのよ」


「だから最初の攻撃で一気に決める必要があって、相手の特性をある程度把握するまではこの力を封じて戦う必要がある、ということさ」


 ヒスイさんとコハクさんの説明を聞き、大方予想していた通りの回答だったので自分の読みが合っていたことにほっと胸をなでおろすの同時に私は苦笑いを浮かべながら言葉を続ける。


「でも、たとえあの猛攻に耐えたとしてもお二人にはまだ切り札があったんですよね?」


 そう私が訪ねると、2人は少し驚いた表情を浮かべてコハクさんが口を開いた。


「どうしてそう思うんだい?」


「だって最後、私に止めの一撃放った時に初見でこの一撃に耐えるなんて、って感じの事を言ってたということは初見じゃなければあの一撃に耐えた人がいる、ってことですよね? と言うことは、その人たちに勝ったにせよ負けたにせよお二人が初撃に耐えた人に対する次の一手を考えずに放っておくような性格ではないと思って」


 もしかして考え過ぎだったかと不安になりながらそう告げると、2人は少し困ったような笑みを浮かべ、ヒスイさんが「これは、うかうかしているとあっという間に抜かれちゃうかも知れないわね」と肩を竦めながらつぶやく。


「確かに、アリスさんの言うように僕達にはまだ隠している技があるのは事実です。でも、装備によって普段の実力以上の力を発揮していた僕達とあれだけ戦えたのですから、少なくともお二人は僕達と同じ中級でも通用する実力を持つ実力者だと自信をもって良いと思いますよ。……そうですよね、本部長!」


 コハクさんが私の背後に視線を向けながらそう告げたことで、ようやくいつの間にかジークムントさんとママが私の背後まで近づいて来ていたことに気付いた。


「確かに、こいつら相手にあれだけ立ち回れるんなら実力は十分だろ」


「ただ、わたしの厳しい訓練をこれまで乗り越えて来たんだからせめて一撃くらいは入れて欲しかったがな」


「……一応こいつらはコンゴウの爺さんに指導を受けた孫で、若手の中では頭一つ、どころか二つも三つも抜けてるほどの実力者だぞ。推薦者である爺さんの方針で10級からスタートしてもらったが、正直最初から中級スタートでも問題なかった奴らが2年かけてここまで実力を付けたってのに、そいつらに模擬戦とはいえ何の対策も考えてない初戦で一撃を与えるなんて普通に考えて不可能だからな」


「まあ、そうだろうな。だが、わたしは最初の試験で2対1だったとはいえあいつと一緒に上級を初見で倒してるんだが?」


「……お前達みたいな規格外と一緒にするな。俺とアルの試験官は既に中級だったくせに出しゃばって来たお前達2人だったからまともな勝負にすらならずに瞬殺された影響で危うく失格になりそうだっただろ」


 2人のやり取りを呆気にとられながら見守っていると、ママは私とマリアへ交互に視線を向けた後に再度口を開く。


「まあ、あくまでこの試験は次の試練に耐えられる実力があるかを確かめる余興のようなもんだからな。この戦いで得たものもあるだろうし、次の試験では挽回して見せろよ」


 そう告げられた私とマリアは同時に「はい!」「任せるのじゃ!」と返事を返す。


「……さて、それじゃあ次の試験についても説明しておくか。次の試験は初心者用の簡単なダンジョン探索を行ってもらうわけだが、当然ながら試験官としてヒスイとコハクの2人が同行することになる。だが、当然ながら2人は緊急事態以外でお前たちの手伝いは一切しないから、アリスとマリア2人だけの力でそのダンジョンの最下層、そこにいるダンジョンボスを討伐して1日で戻ってくることが合格の条件だ。それとダンジョン探索には相応の準備が必要になるだろうから一応一定の準備金を協会から提供することになるが、必要な物資は自分たちで判断して明日一日で準備を整えるように。そして実際の試験開始は明後日になるから、明後日は午前4時半に北門前間に集合するように」


 一息にジークムントさんがそう説明を終えるとおずおずとヒスイさんが手を挙げて発言の許可を求め、ジークムントさんは目線だけで発言を許可する意思を伝える。


「明日の準備についてですが、2人はまだこの都市に来たばかりで地理について詳しくないのであたしたちも同行して構いませんか? どちらにせよ、あたしたちもそれなりに装備を揃える必要がありますし」


「お前が自主的に手伝いを申し出るなんて……よっぽどこいつらの事を気に入ったようだな」


「なっ!? 別にそんなんじゃ—―」


「良いぞ。ただ、2人にアドバイスをしたりは無しだからな」


 顔を真っ赤にしながら言葉を放たれるヒスイさんの言葉を遮るようにジークムントさんがそう告げると、ヒスイさんは何度か口をパクパクとさせた後に不機嫌そうな表情で視線を逸らし、「ありがとうございます」と短くお礼の言葉を告げた。


「ああ、それと一応言っておくがターニャも余計な手出しは禁止だから」


「はっはっは、いくら可愛い娘のためとはいえわたしがそんなことをする奴に見えるか?」


「……いや、お前の場合は2人にとってより厳しい試練になるように余計な事しそうで怖いんだよ」


「心外な。わたしがそんなことするわけないだろ」


「……俺たちの試験で…………いや、やめておこう」


 ジークムントさんの過去に何があったかは気になるが、普段のママから考えるとあまりにも試験が簡単だと感じたら自身がダンジョンボスの代わりに障害として立ちふさがったりしそうなので一応そういった展開にも注意しておこうと心に誓う。


「さて、それじゃあ今日はこれで解散だ! 一応帰る時、受付でさっき言ってた準備金を渡すから寄って帰るように」


 そうジークムントさんが告げたことでこの日の試験は無事に終了することとなる。

 そして、ヒスイさんたちと明日の待ち合わせ時間と場所を9時半にセントラルステーションと決め、私達は宿を探すために協会本部を後にするのだった。

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