微睡みの中で
たゆたう意識のなかで、ほのかな温かみを感じる。
春の日差しの下で昼寝をしているかのような、あるいは母親に抱かれているかのような、そんな優しい感覚だ。
自分がどこにいるかは分からないはずなのに、不思議と落ち着く。
俺の意識は再び沈んで、まどろみに飲まれていって――
「……ふすうぅぅぅぅ」
「ぬへあぁっ!?」
―一瞬で目が覚める。
耳の中に空気が逆流して、全身がブルッと震える。それは人間の熱を帯びている、熱い息だった。
なんだよ一体、俺の安眠を妨げる不届き者め……!
少々むっとしながら身を捩らせ背面に目をやると、果たしてそこにいたのは。
「あっ、起きちゃいましたか、リスタ様?」
などと言いながら微笑むのは女だった。
俺はしばし、その女の顔に見入ってしまっていた。
なぜなら彼女が、わずか五センチにまで顔を近づけていたからだ。
紛れもない、美少女。形容するとなれば白百合とかツツジが相応しい。
透き通るような青い大きな瞳と真っ白な艶のある髪が、辺りの空気すら巻き込んできらめいている。
――あぁ、俺の理想の子だ……。俺の大好きな要素を、なにからなにまで全部もってる……。
その顔に口を開けたままぽかんとしていると、眼の前の少女は口元を緩め、眩いまでの笑顔で。
「おはようございますっ、リスタさまっ!」
リスタさま……リスタさま…………。
………………誰それ?
見覚えのない少女と聞き覚えのない名前にやはり俺が混乱していると、彼女は何故かむうっと頬を膨らませた。
「まだ起きないんですかー、リスタ様? しょうがないですねー……」
赤子に言い聞かせるような甘い声でそう宣ったと思えば。
その顔をさらに接近させる。もうおでこが触れ合っているのにもかかわらず止まる様子はなく。
美しい朱の唇が艶やかに――いや可愛げに小さく開かれる。
彼女は俺の顔との距離を一センチにまで縮めると、彼女は目をつぶって、これでとどめとでも言うかのように――
「えいっ」
俺の右頬に押し当てた。
「ひうぅっ……」
思わず変な声を出してしまう。
――えっ、俺いまなにされた……? いや……これもしかしてキスってやつじゃ……!?
「ぬぅ、これでも起きませんか……。もう仕方ないですね、リスタ様は本当に甘えんぼうなんですからっ……」
少女はまたしてもひとり呟き、ため息を小さく、どこか嬉しそうに漏らして俺の目を見つめ、そして母親のようなあたたかい笑顔を浮かべた。
かと思えば、今度は顔だけでなく身体までも近づけてきた。
横向きになった俺の脚の上に、彼女の太ももが乗っかる。
――なに、なにこの距離……! 俺、何されるの……!?
困惑のあまり、俺は手足を動かせない。先ほどから氷みたくガチガチに固まってしまっている。
そんな俺を知ってか知らずか、彼女が両手を背中に回してきた。しかもガッチリと。その顔が、もう逃さないと言っている。
これで俺はもう、この少女に捕まってしまったというわけだ。
「これで……目を覚ましてくださいね、リスタさまっ!」
その言葉とともに、彼女は一気に接近した――というか、覆いかぶさってきた。
むにゅ、と柔らかな感触を、俺は感じてしまった。
――そこでついに、俺の自我は崩壊したのだった。
「……ふへぇっ……」
「ん……ってあれリスタさまー!? ちょっと、大丈夫ですかリスタさまっ!」
……いやこれあなたのせいですけど! なに無自覚に人を溺死させてるんですか……!?
だがそんな叫びが言葉になることはなく、俺の視界は徐々に暗くなっていく。
彼女が慌てて身体を起こすのが見えたが、そこから先、俺が何をされたのかは覚えていない。