81 奇人、合流する
ようやく絳が合流いたします
「紫蓮、逢いたかったです、ああ、よかった」
職務を終え、戻ってきた絳は抱きつかんほどのいきおいで紫蓮のもとにかけ寄ってきた。紫蓮は肩を竦めて微苦笑をかえす。
「はいはい、このとおり、なにごともなかったよ」
「ほんとうですね? 襲われたり殺されたり、危険なことはなかったのですね?」
「ほら、脚を確かめてごらん。ちゃんとあるだろう? 霊鬼じゃないよ」
紫蓮は蓮のすそから覗く脚を動かしてみせる。絳は安堵したのか、ほっと息をついた。
絳は待機していた玄 戒韋に声をかけ、護衛役を交替する。戒韋は無言で頭をさげて、ふらつきながら退室していった。
「葬礼は明晩にきまったそうだよ」
皇族が薨去したともなれば、都にいる斉の要人たちが参列することになる。幼帝も親臨するはずだ。
「今晩はここに泊まるよ。納棺するとき、最後の死化粧をしないとね。髪を結わえたり紅を差したり、まだまだやることがあるんだ」
「柴 綜芳は男ですが、紅を差すのですか?」
絳は意外そうにした。
「体温の通わなくなった肌に息を吹きこむためだよ。頬や額、顎の先端あたりに頬紅をはたく。そうすれば、命があったときと変わらない暖かみのある肌がよみがえるんだ」
なお、乾いた頬紅ではなく、脂で練られたものをつかうのが好ましい。紫蓮はさきに馬脂とまぜあわせておいた。
「ちょっとだけ、お時間をいただいても構いませんか。院子に」
絳に誘われて、紫蓮は重要な話があるのだとすぐに察した。
時刻は黄昏の終(午後九時)、すでに女官たちは眠りについたのか、邸内は静まりかえっていた。階段にも廻廊にも燈火はついていないため、提燈をさげて、院子にむかった。
「すみません。房室のなかでは誰が聴いているか、わからなかったので」
紫薇の根かたで絳が振りかえる。
「柴 綜芳の死を事件として捜査するため、許可申請をしたのですが」
「無理だっただろう?」
「ご推察どおりです。ただ、収穫もありました」
絳はさらに声を落とす。
「獄舎に反幼帝派の男が収監されていたらしく、琅邪が聴きだした話によれば、柴 綜芳は幼き皇帝を排してみずからが皇帝になろうと士族をあつめ、動かしていたそうです。このことから、柴 綜芳は宮廷に危険視されて暗殺されたものと考えられます」
紫蓮が眼を見張る。続けて、悲しげに首を振った。
「いいや、柴 綜芳はそんなひとじゃなかったよ」
玄 戒韋から聴くかぎり、柴 綜芳という男は穏健で争いを好まず、権力を欲することのないひとだった。
もっとも、人の眼は真実だけを映すわけではない。欲がないように振る舞いながら、貪欲に他人を陥れようとしているものなど、紫蓮はざらにみてきた。
だが、綜芳については、紫蓮は「そうではない」と言いきれた。
「皇帝になりたいなんてのはね、男が考えることだからだよ」
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紫蓮の言葉の真意とは……?
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