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幕間 その奇人、猫か蛇か

明日からいよいよ三部開幕なので、開幕前に幕間SSを投稿させていただきます!

御楽しみいただければ幸いでございます! 奇人ラブ要素アリです

「猫ちゃん、このあたりではみない顔だけど、何処かから迷いこんだのかな」


 ふわふわの白猫が庭にあらわれ、紫蓮シレン廊子えんがわから降りて思わず声をかける。猫は「にゃお」と鳴いて、紫蓮の側にすり寄ってきた。これには紫蓮も想わず、頬が綻んでしまう。

 だが、なでることはできなかった。

 猫は体温が高い。

 人間よりはマシだが、暖かいものに触れると肌が凍りついて動悸がするからだ。いつからか、こんなふうになってしまったのか。琉璃と一緒にいたころはこんなことはなかったはずなのに。


「あ……」


 猫が誘うように尾を揺らしながら、庭の垣根をすり抜けていった。

 

「どこにいくのかな」


 誰かに飼われていたりするのだろうか。

 庭にすみついていて子猫とかがいたらと想うと気掛かりで、紫蓮は猫のあとをついていった。


 猫は橋を越え、ある妃妾の宮の庭にはいっていった。


「ここは……」


 いつだったか、紫蓮に窓から水をかけた妃妾の宮だったはずだ。だが燈火あかりが絶え、静まりかえっている。すでにほかの宮ではこうこうと燈火がともっている時間帯だというのに、妙だ。


「紫蓮、こんなところにあなたがいるなんてめずらしいですね」


 声を掛けられて振りかえれば、絳がたたずんでいた。あいかわらず、胡散臭いほどにさわやかな微笑を湛えている。


「猫を追いかけていたらこんなところまできてしまってね。ここの宮は燈火がついていないけど」


「ああ、廃宮になりましたよ」


「え」


「こちらの妃妾は宦官と密通していた罪で、後宮から追放されました。……お綺麗に取り繕っている妃妾でも、叩けば埃がでるものですね」


 つまり、わざわざ時間を割いて妃妾を見張っていた、ということだ。


「なんで、そんなことを」

「だってあの妃妾はあなたをずぶ濡れにして、水桶を投げつけた」


 絳がきていなかったら、紫蓮は頭に水桶があたって倒れていたに違いない。死にはしないだろうが――


「僕は別段……」

「そうですね。あなたはそういうひとだ。ですが、あなたは許しても、私は到底許せない」


 微笑んでいるのに、眼だけが笑っていない。微妙に剣呑なものが漂っていた。


「ですが、上級妃妾が下級妃妾を虐げても、罪に問うことはできない。なので、捜しました。報いを与えられるだけの罪を――ちょっとばかり手間取りましたが、この通りです」


 強い執念を感じる。ぞっとするくらいだ。


 紫蓮はため息をついた。

 引き締まった細身といい、誠実なところといい、やまいぬのような男だとおもっていたが、その内側は狗というよりは――

 

「まったく、きみは蛇のような男だね」


「猫のような、といってください」


 繁みから顔を覗かせた白猫を抱きあげ、絳がにっこりと振りかえる。猫は絳から不穏なものを感じたのか、絳を蹴りつけて紫蓮のもとに逃げてきた。紫蓮の後ろからシャーッと毛を逆だてる猫をみて、絳が肩を竦める。


「やっぱり蛇じゃないかな」


「違いますって、あなたにだけなついた猫ですよ。猫、お好きなんでしょう? だったら私は猫のほうがいいです」


 紫蓮はあきれてかぶりを振った。再度ため息をついて歩きだす。ぽつりと絳には聞こえない程度の声で呟いた。


「…………僕は蛇も好きだけれどね」


「なにかいいましたか?」


「いいや、なんでもないよ」


 脚に絡む猫と追いかけてくる蛇――もとい絳を連れて、紫蓮は燈火の落ちた宮の庭をいく。廃宮ならば、猫も宦官に追いかけまわされることもなく暮らせるだろう。

 花を愛でるひとがいなくなっても夏椿は変わらずに咲き誇っていた。 


幕間はいかがだったでしょうか?


明日3日の21時頃にはいよいよ3部が幕をあけます。

ブクマをつけて、読者様の本棚にお迎えいただき、今後ともお楽しみいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「…………僕は蛇も好きだけれどね」は紫蓮さんからの最大級の好意ではないかと受け止めました。 紫蓮さんをいじめた妃妾への復讐、ご本人は人間が出来ているから別段望んではいなかったみたいですが、…
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