表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/137

61 死は葬られるべきだ

恩義を感じている。それは事実だろうとおもった。

 だが、それだけでは、ない。


 彼の先帝にたいする想いはゆがんで、もつれている。紫蓮シレンにむける愛という言葉と一緒だ。


「は、はは……あいかわらず、さといひとだ」


 絳は唇の端をゆがめ、乾いた嗤いをこぼした。


「私はね、終わらせたいのですよ」


 強い風が吹き、花のと血臭が絡まりあいながら、あたりに漂う。せかえりそうな旋風つむじかぜのなかで、コウは呪詛めいた言葉をいた。


「陛下が崩御しても、終わらせることのできなかったものがある。それを怨嗟というならば、そうなのでしょう」


 死は、終わりではない。

 葬ってこそ、終わらせることもできる。


「あなただって、終わっていないくせに」


 コウが嘲笑うように袖を拡げる。彼は紫蓮シレンくびにむかって真っ直ぐに腕を伸ばし、細い喉をつかむぎりぎりまで指を寄せた。

 紫蓮は動かない。

 動けなかった。


「僕、は」


 暗雲を裂き、雷が落ちる。

 凄まじい地響きが押し寄せてきて、コウは我にかえったように腕から力を抜く。

 ひとつ、瞬きを経て、絳がいつもどおりに微笑を投げかけてきた。


「こちらの後始末はまかせてください」


 刺客のことだとすぐにわかった。張りつめていた緊張の糸が、弛められる。紫蓮は刺客のしたいに視線を落として、眉の端をさげた。


くびを、つないであげてもいいかな」


「刺客ですよ。あなたを殺すつもりだった」


「だとしても、だよ」


 誰かに命令されただけだ。刺客に罪があるわけではない。


「ふふ、あなたらしいですね。残念ですが、刑部省けいぶしょうで調査するときに修復のあとがあってはならない。いまはこらえてください」


 絳が背をむける。いま、声を掛けなければ、今度逢ったときには彼はこの晩のことなどなかったように振る舞うだろう。


 終わらせたい、といった絳の言葉が、鼓膜の底で繰りかえされる。


 ああ、そうか。終わっていなかったのだ。


 だから、紫蓮シレンはまだ、ふたりの死に呪縛されている。

 葬らないかぎり、永遠に。


 死は、葬られるべきだ。


 紫蓮はまなじりを決する。


「――先帝の死が暗殺だったと証明する、だったかな。いいよ、きみからの依頼を受けよう」


 コウが眼を見張って振りかえる。


 雷鳴がとどろいて篠突しのつく雨が降りだす。頬を敲かれながら、紫蓮は雨の幕を破るように声を張りあげる。


「先帝の死なんかは、僕にとってはどうでもいいことだよ。でも、ひとつだけ、不可解なことがある」


 皇帝を愛した母親。紫の双眸に皇帝を重ねていたのだとしても、彼女からもらった愛が、紫蓮をこれまで育んでくれた。


 愛していた。愛されていたのだ。


 だが、母親は殺された。


「先代の死化粧妃しげしょうひは皇帝と同じ死にかたをしたんだよ。頬をひきつらせ、唇をねじまげ、眼を剥いて――顔があとかたもなく崩れて、死んだんだ」


 宮廷の裏には底のない闇がある。真実をひつぎの底に隠して、冥昏めいこんのなかで蠢き続けているのは果たして、誰の思惑か。


 紫の眼が、嵐のなかでひらめいた。


「一緒に暴いて、葬ろう―― コウ


 …………

 ……


 弾ける雷雲のかなた、誰にも知られず、明星みょうじょうがあがった。


ここまでお読みくださった皆様に御礼申しあげます。


これにて第二部完結となります。楽しんでいただけましたでしょうか?

第三部の連載再開は11月3日(金)を予定しておりますので、ブクマをつけてお待ちいただければ幸いでございます。

ついでにお星さまにて評価をいただけたら、とっても励みになります!

読めたよ    ★☆☆☆☆

割とおもしろい ★★☆☆☆

結構おもしろい ★★★☆☆

すごく楽しい  ★★★★☆

早く続きを!  ★★★★★


1000pt越えるか、ブクマが200を突破したら、特別書きおろしSSを投稿いたします(*^^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 第二部完結までイッキ読みしました。 紫蓮が自分のことを僕と呼ぶ理由や、感性・視えるものが他人と違っている理由などが明らかになり、絳のパーソナリティも語られて、物語に惹き込まれるようです。 …
[良い点] 相手が誰でもどんな状況であっても、紫蓮の死者に対する姿勢が一貫しているのがやはり良いですね。葬ってこそ終わらせることもできる、死や残された人について考えさせられる言葉だと思います。 絳につ…
[良い点] 絳は首切り役人だったのですね。死を扱うことで不当に差別される職業と言う点では、死化粧師と似たところのある職業ですね。 彼は先帝の死の謎が気になっているのですね。 紫蓮さんも母親の死の真相が…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ