53 骨は語る
いよいよ「復顔」開始です。骨人類学や骨考古学の知識を取りいれつつ、骨鑑定を進めていきます。お楽しみいただければ幸いです。
「預からせてもらうね」
紫蓮が絳から依頼の骨を受け取る。
風呂敷につつまれた骨は重かった。魂の重さは約五銭(21グラム)という。
書物によれば、死後は魂が抜けるため、肉体は軽くなるのだとか。骨になってしまえば、さらに重さはなくなるはずだ。だが紫蓮にとっては死んだものたちはいつだって、重い。
命あるときにつみ重ねてきた経験が、想いが、なくなるわけではないからだ。
「ここにいても、構いませんか? 骨をどんなふうに復元するのか、興味があります。迷惑でなければ、なのですが」
「後ろから抱きついてきたりしないのなら、いいよ」
紫蓮は風呂敷から骨を取りだして、ひとつひとつ、ならべていく。
人間は、二百六個もの骨でできている。
依頼された遺骨は細かい部分はかなり減っていたが、重要な骨は揃っていた。とくに頭蓋骨はきれいだ。
腐敗する危険のある遺体を扱うときは窓の帳をおろして日を避けるが、このたびはそうではない。傾きはじめた午後の日差しに照らされた骨は白かった。藻がむして、緑がかっているところもある。
「ほんとうにここから、身元が特定できるほどに復元することが可能なのですか」
ならんだ骨をみて、絳がわずかに眉を曇らせる。紫蓮の腕を疑っている、というよりは現実にそんな奇跡じみたことができるのかという不安感が漂っていた。
「復元というよりは、復顔かな」
頭蓋骨を持ちあげる。
「顎がかけていたりすると、難しくなるのだけれど、この頭蓋骨はきれいに残っているから、ちゃんとよみがえらせることができるとおもうよ」
頭蓋骨だけではなく、ひとつひとつの骨を細部まで確めていく。かたちはどうか。硬いか、脆いか。骨折した痕はあるか。
「彼女は知命(五十歳)になったばかりだね」
「もうわかったのですか。彼女ということは、女人だったのですね」
絳はそもそも、この骨が男か女かも識別できていなかったらしい。紫蓮は髑髏の眼窩から顎の輪郭までを指でなぞりながら、続ける。
「眼窩はまるみを帯びていて、顎は細く、輪郭がやや角ばっているね。由緒ある家の育ちだったのかな」
「身分によって、骨に違いがあるのですか」
「幼少期から食べている物によっても、骨格には違いがでてくるからね。貧しい民は顎がふとくて頬骨が横に張りだす――これは小麦ではなく、硬い雑穀ばかりを食べているせいだね。地域によって肉を食べることがあっても、野生の雉とか鳩、猪あたりだ」
「確かに地方では男女ともに骨格からして、がっちりとしていますね」
「良家はやわらかい穀物を好み、時間をかけて調理する。小麦を練って包子を蒸したり麺にしたりね。だから顎が発達せず、細くなりやすい。とくに骨格は遺伝するからね。家柄、といったのはそのせいだよ」
「貧しい家に育ったものが身をたてて富を築くというのはきわめて希ですが、先祖が豊かであれば、子孫もまた裕福な暮らしが続けていけるものですからね」
「まあ、貧しすぎると、こんどは粥ばかりを食べだして顎が細るから、一概には言えないのだけれどね。ただ、ちゃんとした食が取れていなければ、栄養失調になって骨が脆くなる。彼女は骨が硬くてしっかりとしているから、豊かで、毎食食べられていたことはあきらかだ」
「やはり、裕福な身分だったと推測できるわけですね。そうなると、妃妾でしょうか」
「いや、妃妾だとはおもえないね。彼女はずいぶんと働きものだったみたいだよ」
「なぜ、そんなことが」
「骨棘があるんだよ。これは日頃から関節部に負荷をかけすぎていることで起こる骨の変形でね、外骨腫ともいう。ほら、このあたり、棘みたいになっているだろう? 彼女には、こうした骨棘が大腿骨、上腕骨、腰椎にある。妃妾がこんなふうになるほど、後宮のなかで働いているとはおもえないな」
妃妾によっては織物などするものもいるが、これはあきらかに重い荷を持ったり掃除洗濯をしていた骨だ。
「女官ということですか」
「続いて、顎のところをみてもらえるかな。食い縛りのくせが残っている。日頃から思いなやむことがあった証だよ。士族の産まれで責任のある重職についていたとなれば、命婦じゃないかな」
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骨の鑑定については江戸時代の人骨を鑑定した専門家の知識を参考にしています。日本の江戸時代でも武家と公家、町民の骨はそれぞれ違うのだとか。とても楽しい専門分野なので御興味があるかたは検索して調べてみてください(*^^*)
明日も引き続き、骨鑑定と復顔の話です。お楽しみいただければ幸いです。





