表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/137

46「躾ですよ」

「ざまぁ」回です!

勇明ユウメイ様、飲みすぎではありませんか」


「構わん、もっとだ」


 豪邸の一室で 勇明ユウメイは飲んだくれていた。

 散々だった葬礼から約一日が経ったが、妻の死に顔が頭から離れない。昨晩は一睡もできず、仕事も欠勤した。


「ほんとうにだいじょうぶ、ですよね」


 酌をしていた妾が怖々(おずおず)と尋ねてきた。


「なにがだ」


「噂になっていて。奥様は旦那様を怨んでいたのではないか。だから、死後、呪いをかけたのではないかと……きゃあっ」


 激怒したたくを蹴りつけた。青磁の酒器が割れて散らばる。黄酒こうしゅを被った妾が悲鳴をあげて、縮みあがった。


「なんだ、そのろくでもない噂は! あれは死化粧師しげしょうしの失態だ! 呪いなどあるものか」


 が妾の髪をつかんだ。


「なにが、旦那様を怨んでいた、だ。俺はでき損ないの妻をしつけてやっていただけだ。こんなふうに、な!」


 牟は妾の頬を殴りつけた。


 その場に倒れこんだ妾はごめんなさいと繰りかえして、泣き喚いたが、牟は勢いづいて背や腹を蹴りつけた。妾は腫れあがった頬をおさえ、這々(ほうほう)てい房室へやから逃げていった。


 は妾を追いかけることはせず、ふんと鼻を鳴らした。


「女は三日殴らんと狐になるというからな! 感謝こそされても、怨まれるような筋あいはないぞ」


 酔いがまわっているのもあって、牟は誰にともなく大声を張りあげる。

 妻は器量だけはいいが、愚鈍な女で、病弱で子も産めぬときた。殴ろうが、怒鳴りつけようが、微笑んで頭をさげるばかりでよけいに癇にさわった。


「離縁せずにいてやっただけでも俺は寛大な亭主だというのに――っおい、酒だ、酒を持ってこい!」


 牟が怒鳴ったが、妾はおろか、女官もやってはこなかった。想いかえせば、朝から女官の姿を見掛けていない。


「つかえんようなら、まとめて解雇してやるからな!」


 苛だって喚いていたとき、背後にある櫺子れんじの戸がひらかれた。


「なんだ、遅いではないか……!」


 女官だろうと振りかえれば、見知らぬ男がたたずんでいた。

 官服に身をつつんだ若い官吏かんりだ。文官か。連絡も取らずに欠勤したので、様子でも見にきたのだろうか。


「すみません、御声はかけたのですが」


 官吏は物腰穏やかに微笑んでから、すっと真剣な眼差しになった。


勇明ユウメイ、貴殿には 琉璃ルリに暴力を振るい、殺害した疑いがかかっています」


「な……」


 思いだした。赤紫の官服は刑部省の制服だ。腰には剣と身分を証明する玉佩ぎょくはいが提げられていた。


「後宮から下賜かしされた妃を害することは、皇帝陛下にたいする侮辱とみなします。取り調べのため、刑部の庁舎まできていただけますか」


「なんだそれは! 言いがかりだ、俺が愛する妻を殺すはずがないだろう!」


「ですが、いまも妾に暴力を振るっておられましたね」


「っ……あれはしつけだ! 男がちゃんと躾けてやらねば、女なんてものはすぐにつけあがる。身の程を教えてやらんと」


「わかりました。それがあなたのお考えなのですね。詳しい話は、刑部庁舎についてから伺いましょう」


 官吏が牟に縄をかけようとする。牟は弾かれたように腕を振りまわし、抵抗した。


「お、俺を誰だとおもっている! 中都督だぞ、こんな不敬が許されるとおもっているのか!」


 窮した牟はあろうことか、剣を抜いた。酩酊しているのもあって、自制がきかなくなっている。官吏はため息をつきながら、でたらめな剣撃を避け、の腹に勢いよく蹴りをいれた。


「ぐあっ……な、なにをす、る」


 細い脚の割にその打撃は重かった。

 腹を押さえて蹲る牟を睥睨して、官吏はにっこりと微笑んだ。


「躾ですよ」


 さらにわき腹にもう一撃。牟は悶絶して倒れる。


「痛みますか? ですが胡琉璃が経験した痛みはこんな程度ではなかったはずです。もっとも、これから軽ければ杖刑にて百敲、重ければ鼻を落とすか、膝蓋骨を取るか――重刑に処されるでしょうね。あなたがいう躾がどのようなものか、その身をもって味わうといい」


 最後だけ、官吏は微笑を落として、酷薄な眼をする。

 酔いのさめたは青ざめて、項垂れるほかになかった。


お読みいただき、ありがとうございます。

ちょっとでも「面白い」「続きが読みたい」とおもっていただけたら、「ブクマ」にて本棚にお迎えいただければ幸いです。ついでに「いいね」「お星さま」もいただければ、とっても励みになります。

続きは14日の朝方に投稿させていただきます。なんと14日は1日2話投稿させていただきますので、どうぞお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 長い道のりでしたが、やっと、絳のおかげで罪人を罪人としてとらえることができますね。 せめて牟には胡琉璃の辛さを味わってほしいですね。もう彼女は帰ってこないけれども。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ